「てるみくらぶ」をはじめとする企業の経営難による内定取り消しが世間を騒がせていましたが、一般的に内定取り消しを行う理由の多くは求職者側の問題であることがほとんどです。
やむを得ず内定取り消しをしなければならないケースに直面した場合どのように対処すれば良いのか。
今回はその方法とリスクについて解説していきます。
企業から内定を取り消すケース
学校の未卒業が確定した場合
新卒採用の場合、「〇〇年3月卒業見込み」を応募資格に採用活動を行っています。
そのため、この前提を満たしていない場合の内定取り消しは合理的な理由として認められます。
必要書類に虚偽の記載があった場合
中途採用と比べると職歴詐称は少ないと言われていますが、学部を詐称したり、二部(夜間)を一部と誤認させたりする学歴詐称のケースは存在しています。
重要となるのは、“虚偽内容が、従業員として不適格と言えるほど重要なものか”という点です。
虚偽の内容・程度が重大であるか、それにより従業員として不適格かをきちんと判断することが大切です。
内定者の健康状態が悪化した場合
不運にも入社前に健康状態が悪化し、通常勤務が困難になってしまった場合は残念ですが、内定を取り消すべきでしょう。
軽度な病の場合は入社日に間に合うことを条件に内定継続の方策を取ると良いでしょう。
内定者の不祥事が発覚した場合
刑事事件を起こした場合は間違いなく「留保された解約権」を行使する合理的に理由となりますので、即刻内定取り消しを行うべきでしょう。
「内定取り消し」に伴うリスク
内定は法律上では労働契約が結ばれている
採用内定とは「始期付解約権留保付労働契約」であり、労働契約が成立しています。
「始期付」とは、大学卒後に労働契約が始める期日が決まっていることを指します。
「解約権留保付」とは、企業が労働契約の解約権を留保している状態であり、一定の範囲での解約権を行使して労働契約を解約できることを指します。
内定取り消しによる企業名公表
内定取り消しの内容が下記のいずれかに該当した場合は、厚生労働大臣は企業名などについて公表できることとなっています。
内定取り消しによって企業名が公表されることは今後の採用活動において大きな影響を与えるため、特に注意してください。
◎2年度以上連続して行われたもの
◎同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの
◎事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに行われたもの
◎内定取り消しの対象者に対して、内定取り消しの十分な説明が行われなかったとき
◎内定取り消しの対象者の就職先確保に向けた支援を行わなかったとき
やむを得ず内定取り消しを行う際の注意点
速やかに適切な手続きを行う
内定により労働契約が成立すると認められる場合、内定取り消しは解雇とみなされます。
労働基準法による解雇予告の規定が適用される可能性があり、解雇予告は少なくとも30日前までに行うこととされています。
やむを得ない事情により内定を取り消す場合は、できるだけ早い段階で通知を行うようにしましょう。
ハローワークへの届け出
職業安定法施行規則の規定により、所定の様式によりハローワークに通知することが必要となります。
内定取り消し対象者へのフォロー
厚生労働省の方針により企業は内定取り消しを行う対象者に対して、就職先の確保を最大限の努力で行うとともに、内定取り消しを受けた学生・生徒からの補償などの要求に誠意を持って対応することとされています。
内定の取り消しを起こさないために
深刻な経営不振など企業側の都合でやむを得ず内定取り消しを行うこともありますが、大半は卒業ができなくなった、履歴書に虚偽の記載があったなど求職者側の問題である場合が多いです。
虚偽の記載を企業側だけで未然に防ぐことは難しいですが、採用時に履歴書の点検のやり方を見直すことで内定取り消しの回避、予防することは可能です。
また、履歴書に不明な点や疑問点がある場合は面接の場ではっきりさせるように質問することで採用基準そのものの見直しが予防に繋がるでしょう。
解約権発生の事由について予め社内で検討し、文書に残すことも重要です。
内定取り消しの問題を防止するためには、人事担当者一人で悩まず、弁護士や社会保険労務士など専門家に相談することで適切な対応を心がけることが大切です。
まとめ
内定を出すということは労働契約を結ぶことになり、内定取り消しは労働契約法や労働基準法などにより制限があります。
また内定取り消しによって求職者に精神的なダメージや、その家族にも大きな影響を与えるものです。
内定取り消しを行う前に、その理由が客観的に合理的なものかという視点を持って慎重に検討する必要があります。
やむを得ない事情で内定を取り消す場合でも、速やかに適切な対応を行うとともに、対象者へのフォローをしっかりと行いましょう。