2015年12月から「ストレスチェック制度」が義務化され、多くの企業で実施されています。
仕事や職場が原因でメンタル不調に陥る労働者を防ぐためにも、今一度ストレスチェック制度への理解を深めることが大切です。
この記事では、ストレスチェック制度の概要や制度化された背景、目的について詳しく解説します。
ストレスチェック制度の実施手順と注意点についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
ストレスチェックとは
ストレスチェックとは、労働者に自分のストレスがどのような状態にあるのかを把握してもらうために行う検査のことです。
ストレスに関する質問が書かれた調査票に労働者が回答し、それを集計・分析した上で、本人に結果を通知します。
労働安全衛生法の改正により、2015年 12月から常時使用する労働者が 50 人以上いる事業場では、年1回の検査が義務づけられました。
ストレスチェック制度の背景
ストレスチェックが制度化された背景には、「精神障がいの労災認定増加」や「ストレス社会」が挙げられます。
精神障がいの労災認定増加
引用:厚生労働省「令和元年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」
厚生労働省の調査によると、2019年度の精神障がいの請求件数は2,060件で、前年度から240件も増加しており、過去最多を記録しました。
精神障がいの支給決定件数のうち、
- 上司とのトラブルがあった(294件)
- 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(207件)
- (ひどい)嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた(174件)
が上位を占めています。
ストレス社会
引用:厚生労働省「平成30年 労働安全衛生調査」
労働安全衛生調査によると、現在の仕事や職業生活において、強いストレスを感じている労働者は毎年5割程度で推移しています。
強くストレスを感じている事柄としては、
- 仕事の質・量
- 仕事の失敗、責任の発生等
- 対人関係(パワハラ・セクハラを含む)
が挙がっています。
こうしたストレス社会によって、メンタルヘルス不調を予防する重要性が高まったため、ストレスチェック制度が創設されました。
ストレスチェック制度の目的
ストレスチェック制度の主な目的は、メンタルヘルス不調が起きる前に、ストレスに気づく「一次予防」です。
メンタルヘルス不調が起こる前であれば、ストレスをためすぎないようセルフケアしたり、職場の環境改善につなげたりすることで、メンタルヘルス不調を未然に防げます。
また、一般的にメンタルヘルス不調は発見が遅くなるほど悪化するため、早期発見と適切な措置(医師との面談や医療機関への受診など)が不可欠です。
そのため、高ストレス者を早期発見して適切に措置する「2次予防」や、メンタルヘルス不調を理由とした休職者の職場復帰を支援する「3次予防」の目的もあります。
ストレスチェックの義務化
常時使用する労働者数が50人以上いる事業場では、年1回ストレスチェックを実施しなくてはなりません。
次の①②両方の要件を満たしている場合、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員も常時使用する労働者に含まれます。
- 無期労働契約により使用される者もしくは、以下a~cいずれかの要件を満たす有期労働契約により使用される者
a)1年以上の契約期間がある者 b)契約更新で1年以上の使用が予定されている者 c)1年以上引き続き使用されている者を含む。)
- 1週間の労働時間数が、当該事業場で同種の業務に従事するフルタイム労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上である者
なお、50人未満の事業場については、当面の間努力義務とされていますが、「ストレスチェック実施促進のための助成金」も設けられています。
義務化の内容
従業員数50人以上の事業場に義務づけられている内容は、
- ストレス状況に関する3領域の調査
- 従業員への結果通知
- 高ストレス者への対応
- 労働基準監督署への実施報
です。
ストレス状況に関する3領域の調査
ストレスチェックで用いる調査票は、自由に決められます。
ただし、労働安全衛生法により、
- 仕事のストレス要因(仕事の量・質、労働時間など)
- 心身のストレス反応(不安、集中できない、眠れないなど)
- 周囲のサポート(同僚や上司、家族からの支援など)
の3項目を含んでいなければなりません。
ちなみに、厚生労働省では上記3領域を含んだ「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」「職業性ストレス簡易調査票(簡略版23項目)」を用意しています。
57項目の調査票を推奨していますが、簡略版を使用しても問題ありません。
従業員への結果通知
ストレスチェック実施後は、検査を受けた労働者に対して、直接結果を通知しなくてはなりません。
なお、プライバシー保護の観点から、ストレスチェックの調査結果共有には、必ず本人の同意が必要です。
高ストレス者への対応
ストレスチェックの結果で「医師による面接指導が必要」と選定された従業員から面接の申し出があった場合、申し出から1カ月以内に実施する必要があります。
労働基準監督署への実施報告
ストレスチェック実施後は、必ず「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を所轄の労働基準監督署に提出しましょう。
総務省運営の「e-Gov電子申請」を利用すれば、報告書の作成から提出までオンライン上で完結できます。
ストレスチェックの実施者
ストレスチェックの実施者は労働安全衛生法により、
- 医師
- 保健師
- 厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師や精神保健福祉士
などの有資格者のみが可能です。
ストレスチェックの実施者は、調査票の選定やストレスチェック結果の通知、面接指導の要否判断といった幅広い業務を担当します。
また、実施者の指示のもと、調査票の回収やデータ入力など事務作業を行う「実施事務従事者」になれるのは、人事・評価に関する直接の権限を持たない方のみです。
ただし、ストレスチェックの実施計画や実施日時の通知、調査票の配布など、労働者の健康情報とは無関係の作業であれば、人事権を持っていても可能です。
ストレスチェックを実施しなかった場合の罰則
ストレスチェックの実施は、労働安全衛生法で特定の事業場に義務づけられているものの、未実施自体への罰則はありません。
しかし、報告義務違反や安全配慮義務違反に該当する恐れがあるため、注意が必要です。
報告義務違反
労働安全衛生法第120条では、労働基準監督署への報告義務違反に対する罰則が設けています。
そのため、ストレスチェックの報告をしなかった場合や、虚偽報告した場合、最大50万円の罰金に処される可能性があります。
ストレスチェックを実施しなくても報告義務は発生するため、注意が必要です。
もちろん、従業員数50人未満企業はストレスチェック制度義務化の対象外なので、報告義務はありません。
安全配慮義務違反
すべての雇用者は、労働者が安全で健康に働けるよう配慮する義務を負っています。
したがって、ストレスチェックの未実施は、安全配慮義務違反にも該当する可能性があるため、注意が必要です。
安全配慮義務違反の罰則規定はありませんが、従業員に健康上の問題が出た場合、民法上の規定により損害賠償請求が発生することがあります。
ストレスチェック制度の実施手順
引用;厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」
では、ストレスチェックの実施手順について見ていきましょう。
導入前の準備
ストレスチェックの導入にあたって、まずは会社として「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」方針を表明しましょう。
その上で、事業場の衛生委員会で
- ストレスチェック制度の目的と周知方法
- ストレスチェックの実施者、実施事務従事者、面接指導の担当医、制度の担当者
- 実施体制
- 実施時期
- 実施方法
- 集団分析の方法
- 結果の保存方法
- ストレスチェックに関する苦情処理窓口
- 注意事項(プライバシーや不利益な取り扱いの禁止行為など)
などについて話し合い、社内規定として明文化します。
明文化した内容は、実施前に必ず従業員に周知してください。
社内掲示板やメールによる周知でも構いませんが、説明会で個人情報が適切に取り扱われることや法令に則って実施することを説明すると、従業員に安心感を与えられます。
ストレスチェックの実施
対象となる従業員に質問票を配って記入してもらいましょう。
オンラインで実施する場合は、無料で利用できる「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」がおすすめです。
ストレスチェックの受検を強要することはできませんが、未受検者への受検勧奨は可能です。制度の目的を理解してもらい、受験率を高めましょう。
結果の通知
ストレスチェック実施後は、医師などの実施者が高ストレスで医師の面接指導が必要な従業員を選定し、面接勧奨を案内します。
結果を通知する際は、セルフケアに関する助言・指導、相談窓口に関する情報もあわせて提供するのが望ましいです。
面接指導の実施と就業上の措置
高ストレスで医師の面接指導が必要な従業員から申し出があった場合、1カ月以内に面接指導を実施しなくてはなりません。
面接指導の担当医師から、労働時間や異動といった就業上の措置の必要性について、意見を聞き、必要な措置を実施しましょう。
職場分析と職場環境の改善(努力義務)
実施者に、ストレスチェック結果を部門やチームなど集団ごとに集計・分析してもらい、結果を提供してもらいましょう。
質問票の項目ごとに各集団の平均値を比較すると、職場のストレス状況を把握できるため、職場環境の改善に役立てられます。
ただし、集団規模が10人未満の場合、個人特定されるリスクがあるため、結果の提供には全員の同意が必要です。
ストレスチェック制度での注意点
最後に、ストレスチェック制度の注意点についてご紹介します。
プライバシー保護
ストレスチェックの結果や面接指導の内容には個人情報が含まれているため、個人情報保護法にもとづいて適切に取り扱う必要があります。
ストレスチェックの実施者や実施事務従事者には守秘義務が課されるため、本人の同意なしに情報を提供することはできません。
違反した場合は「守秘義務違反」として、最大6カ月の懲役または50万円の罰金に処される可能性があります。
不利益取扱いの防止
ストレスチェックに関することを理由とした解雇や雇い止め、不当な動機による配置転換・職位の変更といった不利益な措置は禁止されています。
例えば、「ストレスチェックを受けない」「結果の提供拒否」「医師との面談申し出」などが挙げられます。
不利益取扱いは法律違反ですが、罰則規定はありません。
5年間の保存義務
ストレスチェックの結果は、本人の同意がない限り、受検した本人と実施者、実施事務従事者しか知ることができません。
そのため、従業員本人からの同意の有無によって、以下のように保存者が変わります。
本人の同意 | 保存者 | 保存期間 |
---|---|---|
あり | 実施者or事業者指名の「実施事務従事者」 | 5年間 |
なし | 事業場 |
なお、面接指導の結果は、
① 実施年月日
② 労働者の氏名
③ 面接指導を行った医師の氏名
④ 労働者の勤務状況、ストレスの状況、その他の心身の状況
⑤ 就業上の措置に関する医師の意見
について記載されていれば、医師からの報告をそのまま保存して構いません。
しっかりとセキュリティ対策した上で、適切に保存しましょう。
ストレスチェックでメンタルヘルス不調の予防と環境改善
社員の健康やメンタルの不調を未然に防ぐために、ストレスチェックの実施は非常に重要です。
ストレスチェック制度を活用すれば、従業員は自分自身のストレス状態を把握でき、セルフケアができます。
企業にとっては、従業員のメンタル不調を早期発見できるのはもちろん、労働環境の改善にも役立てられます。
従業員が心身ともに健康で安心して仕事を続けていける職場づくりに向けて、積極的にストレスチェックを実施しましょう。