メディアなどで、耳にする機会の多い「懲戒処分」ですが、具体的な意味や種類などはご存じでしょうか。

 

懲戒処分とは、問題行動をとる従業員や職員に対して、何らかの処分を行い組織の秩序を維持するために利用される処分のことです。

 

しかし、処分内容が重過ぎる場合や適正な手続きで行わなかった場合、訴訟されるリスクもあることから二の足を踏む企業も多いと思います。

 

そこで、今回は懲戒処分の意味と種類、選ぶ基準について解説していきます。

 

懲戒処分の事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

懲戒処分とは?

懲戒処分とは、企業秩序違反行為に対して企業が科す制裁のことです。

 

平たく言うと「従業員の行った問題行動に対して、罰を与える」ということですね。

 

具体的には、問題行動を取った従業員へ対して、始末書の提出を求めたり、減給や出勤停止にしたり、最悪の場合、解雇するようなこともあります。

 

懲戒処分を科す意味

組織が、懲戒処分を科す意味は、

「職務上果たすべき義務や服務規律に違反した行動に対する制裁や懲罰」

「従業員に制裁を加えることで、全従業員に違反行動を周知し、企業の秩序を維持する」

 

という2つが大きな理由です。

 

その他には、本人の行った違反行為を反省させ、改めさせるという意味もあります。

 

公務員と民間企業で違う懲戒処分

懲戒処分の規定は、公務員と民間企業で異なります。

 

ここでは、公務員と民間企業の違いについて紹介します。

 

公務員における懲戒処分

公務員における懲戒処分は、国家公務員法、自衛隊法、外務公務員法、国家職員法、地方公務員法、裁判所職員臨時措置法などの法律で規定されています。

 

公務員に非違行為(非行・違法行為)があったときには、該当する法律に従って「免職」「停職」「減給」「戒告(かいこく)」の処分ができると規定されています。

 

また、処分内容決定の参考として、人事院が代表的な事例と処分内容をまとめた「懲戒処分の指針について」を公表しています。

 

民間企業における懲戒処分

民間企業における懲戒処分は、公務員のように法律によって規定されているのではなく、各企業が策定する就業規則に基づいて懲戒処分が行われます

 

「法律に懲戒処分の対象となる項目が規定されていない」ということは、労働契約上対等な立場であるはずの企業と労働者間において、「何を根拠として懲戒処分が認められるのか」が問題となりますね。

 

では、どのような場合に懲戒処分が認められるのか、労働契約法第15条の規定から有効性を見ていきましょう。

 

労働契約法第15条------------------

(懲戒)

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

--------------------------

出典:e-Gov「労働契約法第15条

 

労働契約法第15条の内容を要約すると、常識的な観点でみて「懲戒処分に該当すると考えられる理由があり、処分の内容が合理的だと判断できれば」懲戒処分は認められるということになります。

 

しかし、この法律だけでは、個別のケースについて合理的かどうかを判断することはできません。そのため、懲戒処分の合理性を客観的に判断するために、懲戒委員会(懲罰委員会、賞罰委員会など)の設置・開催をする企業もあります。

 

懲罰委員会とは、各企業が任意で設置することができる、懲罰内容の妥当性を審議するための組織のことです。

 

懲罰委員会は、懲戒処分を科すことになった場合、その妥当性を審議することができるため、非常に有用な機能ではありますが、懲戒委員会を設置しているにもかかわらず、開催せずに懲戒処分を行った場合は手続き違反となり、懲戒処分が無効となる可能性があるため注意が必要です。

 

※懲戒委員会設置の法的義務はなく、委員の構成についても規定はないため、企業毎に設置を検討します。

 

いずれにしても、民間企業で懲戒処分を行う場合は、訴訟などのトラブルを避けるためにも、弁護士や社労士などの専門家に相談の上で進めることをおすすめします。

 

意外と知らない懲戒処分の種類

一般的な懲戒処分は6種類あり、軽い順から「戒告・譴責・訓戒」「減給」「出勤停止」「降格」「論旨解雇(諭旨退職)」「懲戒解雇」となります。

 

それぞれの処分内容を見ていきましょう。

 

戒告(かいこく)・譴責(けんせき)・訓戒(くんかい)

問題行動を起こした従業員に対して「口頭または文書にて注意を行うこと」で、最も軽い処分とされています。

 

企業によって使われる名称は異なりますが、いずれも同じ意味合いです。

 

減給などの経済制裁はありませんが、始末書の提出を就業規則に定めている企業もあります。

 

減給

減給処分は、問題行動への制裁として給料を一定額減らすことです。

ただし、減給できる範囲は労働基準法91条によって制限されています。

 

労働基準法91条------------------

(制裁規定の制限)

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。(法令及び労働協約との関係)

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出典:e-Gov「労働基準法91条

 

・問題行動1回につき減給できるのは、平均賃金*1日の半額まで

・複数の問題行為があった場合、減給できるのはひと月の賃金総額の10%以内

 

また、1回の問題行動に対する減給処分で、減給できるのは1度だけです。半年間、1年間など期間を指定した減給はできません。

 

*平均賃金…算定すべき事由の発生した日の前日から遡って3ヶ月間で、当該従業員に支払われた賃金総額を、その期間の総日数で除した金額のこと

 

出勤停止

一定期間出勤を禁じる処罰のことです。

 

出勤停止の期間に関する法的な制限はなく、企業は一般的にみて妥当な範囲内で期間を設定することが可能です。

 

一般的に出勤停止期間中は無給のため、30日間の出勤停止を言い渡された場合、30日分の給与が支払われないことになります。

 

そのため、減給よりも経済的損失が大きくなりがちです。

 

降格

従業員の役職や職位などを引き下げることです。

 

一般的には、降格すると役職給なども下がるため、大幅な給与の低下が考えられます。

 

また、降格によって役職給が下がった場合、元の役職に戻らない限り、下がったままの給与が支給されることになります。

 

論旨解雇(諭旨退職)

諭旨解雇(諭旨退職)とは、一般的には、“懲戒解雇相当の事由であるが情状酌量の余地がある”といった場合に用いられる処分で、「指定の期日内に自主的に退職届けを提出した場合、退職金の支給や退職期日に関して懲戒解雇時よりも軽い処置にする」というものです。

 

また、企業によっては指定の期日内に退職届けを提出した場合、懲戒解雇ではなく、自主退職扱いにするといった規定にしている場合もあります。

 

いずれにしても、諭旨解雇(諭旨退職)は法的な用語ではないため、企業によって処遇や内容が異なる場合があります。

 

懲戒解雇

懲戒解雇は、懲戒処分の中で最も重い処分であり、退職金や解雇予告手当の支給をせずに即日解雇が可能です。

 

ただし、企業側が即日解雇を希望する場合、労働基準監督署へ「解雇予告除外認定申請」を行い、認定を受ける必要があります。

 

認定を受けていない場合は、即日解雇はできず、30日分の解雇予告手当の支給もしくは、30日前の解雇予告を行わなくてはなりません。

参考:e-Gov「解雇予告除外認定申請

 

懲戒処分に必要な手続きについて

懲戒処分を実施するためには、就業規則に懲戒事由を明記したり、その内容を従業員に周知したり、懲戒処分を運用するための手続きを行っている必要があります。

 

もし、一般的に懲戒処分に該当するような事案が起こっても、あらかじめ必要な手続きが行われていなければ懲戒処分を実施することはできないため、以下の内容を確認し手続きを行いましょう。

 

就業規則への規定の明示

懲戒処分を行うには、就業規則上の根拠となる規定が必要です。

 

厚生労働省公表のモデル就業規則などを参考にしている企業も多いと思いますが、トラブル回避のためにも、できる限り弁護士などの専門家を交えて整備しましょう。

 

懲戒の種類

就業規則へ「懲戒の種類」と「内容」を明示する必要があります。

 

(懲戒の種類)------------------

第63条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の?区分により懲戒を行う。

 

①けん責

?始末書を提出させて将来を戒める。

 

②減給

?始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5

割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超え

ることはない。

 

③出勤停止

?始末書を提出させるほか、_日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は

支給しない。

 

④懲戒解雇

予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監

督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

------------------

出典:厚生労働省「モデル就業規則

 

上記は、厚生労働省の公表しているモデル就業規則から引用したものですが、この他にも、降格や諭旨解雇(諭旨退職)などの処分もあります。

 

それぞれの明記すべき点を見ていきましょう。

 

降格について規定する場合

・どの程度の等級を降格の限度にするか

・降格後の等級に準じて給与が引き下げられる

 

諭旨解雇(諭旨退職)について規定する場合

厚生労働省の公表している就業規則作成・ポイントに下記の記述があります。

 

「懲戒解雇に相当する事由がある場合で、本人に深く反省が認められるときは、退職届の提出を勧告する。ただし、●日以内に提出しない場合には懲戒解雇とする」

 

このことから、諭旨解雇(諭旨退職)の場合は、下記2点を明記するべきと言えます。

 

・本来であれば懲戒解雇事由であることを明示する

・退職届の提出期限を定める

 

懲戒の事由

就業規則で定めていない事由は、原則、懲戒処分を行えないため、懲戒処分に当たる行動とその処分内容を規定する必要があります。

 

厚生労働省のモデル就業規則の記載例から、懲戒事由を見ていきましょう。

 

(懲戒の事由)------------------

第64条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

 

① 正当な理由なく無断欠勤が_日以上に及ぶとき。

② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。

③ 過失により会社に損害を与えたとき。

④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。

⑤ 第○条、第○条、第○条に違反したとき。

⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

 

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

①重要な経歴を詐称して雇用されたとき。

② 正当な理由なく無断欠勤が_日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。

③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、_回にわたって注意を受けても改めなかったとき。

④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。

⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。

⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。

⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。

⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。

⑨ 第○条、第○条、第○条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。

⑩ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。

⑪ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。

⑫ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。

⑬ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。

⑭ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

------------------

 

上記に記載されている「懲戒解雇の②無断欠勤日数」については、14日以上と規定している企業が多い傾向にあります。

 

これは、解雇予告除外認定基準の一つに「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」と規定されているためです。

 

よって、「譴責、減給、出勤停止の①無断欠勤日数」を7日以上と規定することが多いと考えられます。

 

また、予想の難しい事由に対しても懲戒処分できるよう、⑭のような包括的な記載をすることが重要です。

 

就業規則の周知

懲戒処分の種類と事由を就業規則に明示したら、全従業員へ周知させてください。

 

労働基準法第106条によって「法令等の周知義務」が規定されているため、所定の方法で全従業員に就業規則を周知させる必要があります

 

周知方法(労働基準法施行規則第52条1項)------------------

① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。

② 書面を労働者に交付すること。

③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

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出典:e-Gov「労働基準法施行規則

 

懲戒処分を行う前に知っておきたい6つの原則

懲戒処分を行うには、就業規則の根拠規定が大前提ですが、下記のような原則も関係してくるため、慎重に検討しなくてはなりません。

 

ここでは、懲戒処分を行う前に知っておきたい6つの原則をご紹介します。

 

罪刑法定主義の原則

罪刑法定主義とは、「刑を科すには犯罪となる行為と、それに対する刑罰を予め法律によって定めていなくてはならない」という刑法の原則です。

 

企業から問題行動を起こした従業員に対して科せられる処罰も同一と考えられるため、懲戒処分に該当する根拠が必要となります。

 

労働基準法第89条によって、制裁の定めをする場合は、その種類と程度に関する事項(懲戒の種類と事由)を就業規則に記載することが明記されています

 

不遡及(ふそきゅう)・一事不再理の原則

不遡及(ふそきゅう)・一事不再理の原則とは、日本国憲法における法の扱いに関する考え方のことで、「法律はその法律の施工以前にさかのぼって適用することはできず、さらに、一度確定した判決を再審理することはできない」という意味があります。

 

これは、日本国憲法第39条の条文、

 

“「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」“

 

によって、規定されています。

 

懲戒処分も同様に捉えられおり、就業規則を設ける前の事案に遡って適用することも、一度処分された事案に対して再度罰することもできません

 

合理性・相当性の原則

労働契約法第15条によって「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして当該懲戒は無効とする。」と定められています。

 

事案と懲戒処分の内容が釣り合っていなくてはならないため、背景や情状を酌量せずに重い処分を科すと、懲戒権の濫用と判断されてしまいます

 

適正手続きの原則

懲戒処分は十分な調査による事実確認と、就業規則に規定された手続きによって適正に行う必要があります。

 

懲戒委員会の開催など、企業で決めた手続きの規定がある場合は、これを遵守しなくてはなりません。

 

また、就業規則に定めがなくても、諭旨解雇(諭旨退職)や懲戒解雇などの重い処分をする場合、本人に弁明の機会を与えることが必要となります。

 

このような、適正な手続きを経ずに処分すると、懲戒権の濫用と判断されてしまいます。

 

平等取扱いの原則

特別な理由なく、人によって処分の重さを変えてはなりません。

 

過去に同様の事案があった場合は、当時の懲戒処分と同程度の処分を検討する必要があります。

 

いつでも照会できるよう、過去に行った懲戒処分の記録は残しておきましょう。

 

個人責任の原則

懲戒処分の対象となるのは、問題・違反行為を行った個人のみです。

 

関与不明の従業員まで処分することは許されません。

 

懲戒処分の実施手順

適正手続きの原則で述べたように、懲戒処分の実施は正しい手続きで行われなくてはなりません。

 

懲戒処分の実施は下記の順で行います。

 

処分対象の事実確認

違反行為や問題行動が発生した際は、本人および関係者からの聞き取り調査と物的証拠を集めましょう。

 

客観的な証拠もなく懲戒処分を行うと、無効と判断される可能性があります。

 

また、処分決定まで自宅謹慎を命じる場合、「その旨を就業規則に記載されている」もしくは、「証拠隠滅や不正行為再発の恐れがある」など、緊急かつ合理的な理由が必要です。

 

これに該当しない場合は、自宅謹慎中の賃金支払い義務が生じる可能性があります。(日通名古屋製鉄作業所事件より 名古屋地裁H3.7.22)

 

処分理由の告知・弁明機会の付与

事実確認後、処分事由の告知や本人へ弁明の機会を与えましょう。

 

一方的に処分を決定すると、訴訟などのトラブルに発展しかねません。

 

ただし、就業規則に処分理由の告知を明示していない場合、「事実を告げなかったからといって、直ちに懲戒処分の手続きに反し、無効ということはできない」とした判例もあります。(総友会事件より 東京地裁H29.12.22)

 

懲戒処分の種類の検討

懲戒処分の種類を決定する際は、下記のような点を考慮した上で総合的に判断する必要があります。

 

・対象事案と懲戒処分の相当性

・故意の有無や不注意の程度

・動機

・日頃の勤務態度

・社内外への影響や損害の程度

・就業規則上の懲戒事由

・過去に起きた類似事案との対比など

 

「厳重注意で済む事案に対して、明らかに重い処分を下す」など、相当性が認められないと判断された場合、懲戒権の濫用として処分無効となります。

 

懲戒処分は従業員への影響が大きいため、処分の種類に関わらず、より軽い処分を適用できないか慎重に判断してください。

 

就業規則の定めに従い手続きを行う

懲戒処分は就業規則に基づいて実施する必要があります。

 

「懲戒委員会の開催」や「本人への弁明機会の付与」、「処分理由の明示」、「労働組合との協議」など、懲戒処分を行う際の手続きを定めている場合は、遵守しなくてはなりません。

 

本人への通知

処分が決定したら、懲戒処分通知書などを作成して本人に通知してください。

 

懲戒処分を行った証拠を残すため、下記のような内容を記載しましょう。

 

懲戒処分事由

「いつ、何をしたか」など、できる限り具体的に記載

 

懲戒処分の根拠

懲戒処分の根拠となる就業規則の条項を記載

 

懲戒処分の内容

出勤停止の場合は、期間と出勤停止期間中の賃金についても記載

 

ちなみに、懲戒処分通知書はインターネット上で無料のフォーマットが多数公開されています。

 

懲戒処分に関する具体的な事例4選

先述の通り、懲戒処分が有効となる要件は「就業規則に懲戒処分の事由が書いてあること」と「対象事案に対する処分が重すぎないこと」の2点です。

 

これだけでは具体的な基準が分からないため、過去の判例からどのような時に懲戒処分が無効・有効と判断されたのか見ていきましょう。

 

私生活上の非行例

東京メトロ事件(諭旨解雇:無効)

 

【概要】

地下鉄の駅員として勤務していた従業員が、通勤時の電車内で痴漢行為を働いた。

この罪に対して、東京都迷惑防止条例違反として罰金20万円の略式命令が下された。

 

痴漢行為による逮捕・略式命令を受けたことは、「就業規則に定める懲戒処分の条項に該当する」として、諭旨解雇を通告。当該従業員はこれを無効として争った。

 

【判決】

当該従業員の行った痴漢行為は悪質性が高いとまでは言えず、軽微な罰金の略式命令処分にとどまっている。

 

企業の痴漢行為に関する処分例に則った運用(起訴された場合は諭旨解雇)は認められるが、被害女性との示談交渉や当該従業員の前科、懲戒処分歴、勤務態度を考慮した形跡がなかった。

 

これらを考慮すれば、緩やかな処分を選択することも十分可能であったとして、諭旨解雇は無効と判断された。(東京地裁H26.8.12)

 

 

業務に関する横領・背任例

ジェーティービー事件(懲戒解雇:有効)

 

【概要】

営業所長として在任中、出向先の関連会社で出張旅費の不正受給を繰り返して23万8500円を流用・着服した。

企業は、就業規則に定める懲戒処分条項に該当するとして、当該従業員を懲戒解雇。

 

当該従業員は、「経費節減のためにやむなく行ったことであり、懲戒解雇処分は解雇権の濫用である」として、提訴した。

 

【判決】

経理責任者という立場にありながら、少なくとも15回、合計22万6500円の出張旅費を不正に受給したことは、懲戒解雇事由に該当する。

また、この懲戒解雇は、処分の相当性や平等処遇の原則、手続きの適正に違反し、解雇権の濫用に当たるとは言えないとして、訴えを退けた。(札幌地裁H17.2.9)

 

就業規則違反

ゲラバス事件(懲戒解雇:有効)

 

【概要】

システム開発に従事するJAVA上級技術者を募集。

応募してきたXが開発に必要な能力を有するという前提で採用したものの、作業過程でその能力がないと判明した。

 

重要な経歴を偽ったことは、就業規則に定める懲戒処分の条項に該当するとして、当該従業員を懲戒解雇。

当該従業員は、懲戒解雇の無効と解雇予告手当の支払いを求めて提訴した。

 

【判決】

労働基準監督署長の除外認定は受けていないが、労働者の責めに帰すべき事由に該当すると判断。

「懲戒解雇は有効であり、予告手当の支払い義務はない」と訴えを退けた。(東京地裁H16.12.17)

 

職場の風紀を乱す行為

 

日本経済新聞社(記者HP)事件(出勤停止:有効)

 

【概要】

日本経済新聞社の記者が自らの身分を明らかにして、業務上知り得た事実や体験を題材に同社の批判記事を個人開設HPへ記載。

 

上司からHP閉鎖命令を受けていたものの、当該記者がこれを無視したため、14日間の出勤停止処分とした。

当該記者は、出勤停止処分を違法・無効であると主張し、提訴。

 

【判決】

企業にHP閉鎖を命ずる権限はないため、従わなかったからといって懲戒事由には該当しないと判断。

しかし、不特定多数の閲覧するHPに自らの身分を明かした上で、業務上知りえた事実や体験を題材として掲載する行為や会社批判文書の掲載行為は、「就業規則に違反し、懲戒処分事由に該当する」として訴えを退けた。(東京地判H14.3.25)

 

懲戒処分は慎重に検討する必要がある

民間企業の懲戒処分は企業秩序を維持する目的で科されますが、「どのような行動が懲戒処分にあたるのか」という法的根拠はありません。

 

そのため、就業規則上に懲戒処分の根拠が記載されている必要があります。

 

企業のルールである就業規則に従って、手続きを行わないと訴訟などのトラブルや処分無効と判断される可能性が高くなります。

 

ご紹介した内容を参考に、より軽い処分ができないか慎重に検討しましょう。

 

トラブルを防止するためにも、複雑な事案や重い処分を実施する際は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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