少子高齢化などの影響で採用難易度が高まっている近年、「採用広報」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
しかし、「聞いたことはあるけどよく分からない」「どういうふうに導入したらいいのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
今回は、採用広報について詳しく解説していきます。
採用広報の定義や重要視されている理由、実施方法、導入事例についてもご紹介しますので、是非ご覧ください。
採用広報とは?
採用広報とは、企業が求める人材からの応募を促すために行う、広報活動のことです。
経団連の「採用選考に関する指針」の手引きによると、広報活動は下記のように定義されています。
広報活動とは、採用を目的として、業界情報、企業情報などを学生に対して広く発信していく活動を指す。
広報活動の開始日より前に行うことができる活動は、ホームページにおける文字や写真、動画などを活用した情報発信、文書や冊子等の文字情報によるPRなど、不特定多数に向けたものにとどめる。
「採用選考に関する指針」の手引き
このことから、
- 求人広告への掲載
- 説明会の開催
- 自社採用ホームページでの情報提供
- SNSでの情報発信
など、採用につなげることを目的として行う広報活動は、すべて採用広報と考えて良いでしょう。
また、採用広報は「求める人材を採用すること」が目的であるため、企業のミッションや、それを達成するためにどのような人材が必要であるかを、的確に伝える必要があります。
そのため、採用広報では、
-
求める人物像の明確化
-
そのターゲットが求める等身大の企業情報を発信すること
が重要となります。
採用広報が重要視されている背景
先ほどご紹介したように、採用広報には、以前から行われていた取り組みが少なくありません。
では、なぜ採用広報として重要視されるようになったのか、その背景をみていきましょう。
売り手市場が続いている
近年日本では、少子高齢化などの影響で、求職者よりも求人募集数の方が多い「売り手市場」が続いています。
事実、リクルートワーク研究所の「第36回 ワークス大卒求人倍率調査(2020年卒)」によると、2020年新規大卒者の求人倍率は1.83倍と高い水準であり、採用競争が激化していることは明らかです。
また、学生は大手企業に誘引されやすい傾向にあるため、大手企業よりも認知度の低い中小企業では、学生の獲得に苦戦しています。
さらに、中途採用においても長らく売り手市場が続いているため、「求人広告を掲載して応募を待つ」従来の手法だけでは、応募者を十分に確保できなくなってきています。
このような状況下で人材を確保するには、積極的に求職活動を行っている顕在層だけでなく、求職活動を行う可能性のある潜在層にも、自社の存在を知ってもらわなくてはなりません。
つまり、より多くの人にアピールする必要性が増したため、採用広報が重要視されるようになったのです。
求職者の価値観や採用手法が多様化した
終身雇用制度を含む日本独自の雇用が慣例化していた時代では、一つの会社で勤め上げることが一般的だったため、昇給や昇進に重きを置く人がほとんどでした。
しかし、雇用慣行の変化や働き方改革などの影響により、転職が珍しいものではなくなった近年、働き手の価値観が多様化しています。
待遇面よりも自分の価値観に合う企業を探す人が多くなったため、求人情報だけでは伝えきれない企業理念やミッション、社風といった企業理解を深める情報発信がより一層重要になってきました。
また、採用手法が多様化したことも、採用広報が重要視されている要因の一つです。
「求人媒体へ広告を掲載し、応募を待つ」従来の方法だけでなく、ソーシャルリクルーティング(SNSを活用した採用)やリファラル採用(紹介)など、様々な採用手法が登場しています。
価値観の合う求職者から興味を持ってもらうには、情報を広く発信し続けなくてはならないため、採用広報が注目されているのです。
透明性・信頼性のある情報が求められている
SNSが普及したことで、誰もが簡単に様々な情報を入手できるようになりました。
就職・転職活動時には、企業ホームページの他に、退職者や転職者の口コミを参考にする求職者も多く、多方面から企業情報を収集しています。
しかし、リアルな情報を求める反面、個人が気軽に情報発信できるようになったことで、「誰が情報を発信しているのか」「信頼できる情報か」が重要視されています。
そのため、企業自らが裏表のない透明性のある情報発信をすることが求められるようになったのです。
採用広報で重要視されている「PESOモデル」とは何か?
採用広報では、
-
Paid Media(ペイドメディア)
-
Earned Media(アーンドメディア)
-
Owned Media(オウンドメディア)
を「トリプルメディア」と呼んでいました。
しかし、近年ではアーンドメディアの分類を見直し、新たに「Shared Media(シェアドメディア)」を加えた「PESOモデル」が有力視されるようになってきました。
ここでは、各メディアの特徴をご紹介します。
【PESOモデルの種類と特徴】
種類 | 主要メディア | 特徴 |
---|---|---|
ペイドメディア | 求人広告 |
費用を払って広告を掲載するメディア 短期間で効果が見込める |
アーンドメディア | ブログ・口コミサイト |
消費者やユーザーが情報発信の起点となるメディア ユーザーとの関係を構築できる |
オウンドメディア | 自社ホームページ |
自社が運営するWebメディア 将来的な採用候補者づくりにつながる |
シェアドメディア | SNS |
情報共有を目的としたメディア 情報発信だけでなく、ユーザーとのコミュニケーションも可能 |
Paid Media(ペイドメディア)
ペイドメディアとは、求人広告など、載費料を支払って情報発信や広告を掲載するメディアのことです。
求人広告では「エンジニア採用に強みがある」「女性ユーザーが多い」など、メディアによって特徴が異なるため、特徴に合わせて選定することができます。
転職顕在層へ向けたアプローチを行うため、即時採用も可能です。
ただし、広告掲載には費用が発生しますし、掲載期限が決まっていることも多いため、計画的に利用する必要があります。
Earned Media(アーンドメディア)
アーンドメディアとは、ブログやSNS、口コミサイトなど、消費者やユーザーが情報発信の起点となるメディアのことです。
働いている社員がリアルタイムで企業の情報を発信できるため、求職者に親近感を与えやすいです。
そのため、やり取りをしたユーザーとのつながりを強める目的で、使用されることが多い傾向にあります。
アーンドメディアで採用を行うケースは少ないですが、求職者から興味を持ってもらえれば、採用につなげることも可能です。
Owned Media(オウンドメディア)
オウンドメディアとは、自社ホームページや採用ホームページといった、自社が運営するWebメディアのことです。
商品・サービスに興味を持った消費者が見ることもあるため、自社の魅力やミッションを掲載しておくと採用につながることもあります。
オウンドメディアへの流入は会社名の検索がメインです。
そのため、ペイドメディアやアーンドメディアへリンクを貼って、流入を促すことが重要となります。
また、オウンドメディアは情報をコントロールしやすいですが、一方的な情報発信にならないよう、採用ターゲットが求める情報を提供することが大切です。
Shared Media(シェアドメディア)
シェアドメディアとは、TwitterやInstagramなど、SNSの情報共有を目的としたメディアのことです。
生活の一部になっているSNSは、情報発信ができるだけでなく、ユーザーとのコミュニケーションも気軽に行えます。
また、投稿した内容が拡散されると、より一層多くのユーザーにアピールすることができるため、ブランディングや採用広報、PR活動を行う上で重要性が増しています。
PESOモデルは組み合わせることが重要
先述のとおり、オウンドメディアは検索やURLの入力による流入が多いため、単体で十分な効果を得ることは難しいでしょう。
そのため、多くの企業では、
-
自社ホームページに、Twitterのリンクを埋め込む
-
Facebookと自社採用サイトを連動させる
-
自社ホームページに求人サイトへのリンクを貼る
ように、各メディアを組み合わせて採用広報を行っています。
複数のメディアを組み合わせることで、相乗効果を見込めます。
採用広報を実施する方法
採用広報について理解が深まったところで、実施方法をご紹介します。
採用計画を立てる
経営戦略や募集する背景によって、「いつまでに、どの部署に、何人必要か」、採用の緊急度や予算が変わるため、採用活動の指標となる計画を立てることから始めます。
例えば、急な欠員による採用ニーズが発生した場合、運用を開始したばかりのSNSや自社採用ホームページで求職者に呼びかけるだけでは、早急な人員確保は困難でしょう。
このように、採用計画によって採用広報の進め方やメディア選定が変わるため、採用計画を立てることが重要なのです。
採用ターゲットの明確化
採用活動において、採用ターゲットの明確化は重要な工程です。
採用ターゲットが曖昧なままでは、ターゲットの求めている情報や有効な接触手段が分かりません。
そのため、ターゲットを決めずに採用広報を行うと、応募者を確保できないばかりか、ミスマッチ採用の原因になることもあります。
経営戦略や募集職種から
- 年齢
-
性別
-
スキル
-
経験
-
志向
などを設定し、採用ターゲットを明確にさせましょう。
採用ターゲットの明確化が難しければ、活躍している既存社員を参考にするのも一つの手です。
採用ターゲットの設定方法は、「採用活動に必須の「ペルソナ」とは?設定方法やその効果をご紹介」をご参照ください。
自社の強みを整理
企業側が伝えたい情報と求職者側が求めている情報は、必ずしも一致するとは限りません。
マッチ度の高い人材を採用するには、採用ターゲットが求めている情報を発信する必要があります。
採用ターゲットが明確になったら、「そのターゲットが魅力を感じそうな情報は何か」という視点で、自社の強みを整理してください。
ターゲット像に近い人が社内にいる場合は、その人が入社を決めた理由や、応募しようと思ったきっかけ、仕事のやりがいをヒアリングすると、広報の参考になります。
また、求める人材を獲得するには、自社について正しく認識してもらう必要があるため、
-
企業理念やミッション
-
募集要項などの基本情報
-
詳しい仕事内容
-
働き方
-
社員インタビュー
といった、情報を発信していくと良いでしょう。
手法やメディアの選定
自社の強みを整理したら、採用計画や採用ターゲットの志向などを考慮して、採用手法やメディアを検討します。
例えば、新卒に向けて自社の雰囲気・社員の人柄を伝えたいのであれば、「TwitterなどのSNSで、日常の様子や投稿者の個性を活かしたツイートを行う」など、目的やターゲットに応じて広報するメディアを選択します。
また、広報開始後は効果測定を定期的に行い、情報発信の内容やメディアの見直しを検討しましょう。
社内へ周知徹底する
採用活動を成功させるには、社内全体の協力が不可欠です。
社外に発信する情報と社内の実情にズレがあると、企業イメージの悪化やミスマッチ採用につながる可能性があります。
採用活動をスムーズに行うには、発信内容や公開できる範囲のすり合わせなど、情報に齟齬が出ないよう、しっかりと社内に周知することが重要です。
採用広報の導入が効果的な例
ここでは、採用広報に注力すべきケースについてご紹介します。
ミスマッチが多い
入社後のミスマッチによって早期離職する人が多い企業の場合、提供する情報が不足していたり、ポジティブな内容ばかり発信していたりすることが原因と考えられます。
例えば、エンジニアの求人募集を行う際「自社アプリの企画・開発」だけでは、内勤をイメージした人が応募してくるでしょう。
しかし、企画・開発だけでなくクライアントへの提案も行う仕事となれば、営業的要素も加わるため、「思っていたのと違った」と入社後にギャップを感じることになります。
ミスマッチを防ぐためには、
-
1日の仕事の流れ
-
社員インタビュー
-
職種紹介欄に詳しい仕事内容を記載する
など、業務内容の理解を促すことが重要です。
また、仕事を行う上で難しい点や具体的な残業時間など、ネガティブな情報も隠さず伝えましょう。
ネガティブな情報も発信しておくと、それを理解した上で応募してくるため、結果的に早期離職防止につながります。
BtoBの企業
BtoBとは、消費者向けのビジネスではなく、法人向けにビジネスを行っている企業のことです。
BtoBの企業は「業界では非常に有名だが、一般消費者にはあまり知られていない」ことも多いため、応募者集めに苦戦するケースがあります。
自社ならではの技術や取り組みなど、優位性のある情報をSNSや自社ホームページ、動画サイトで積極的に発信していきましょう。
採用コストを抑えたい
求人広告や人材紹介サービスは、利用後すぐの成果が見込める一方、数十万円~数百万円程度の費用が発生します。
こういったサービスを利用できない場合、採用ホームページやSNSを活用すると、求職活動を行う可能性のある潜在層にもアプローチすることができます。
ただし、運用してすぐに成果が出るわけではありません。
ターゲットや採用目的に合わせて発信する情報を決めるなど、しっかりと戦略を練った上で、長期的に運用していく必要があります。
全国各地で採用を行っている
全国各地で採用を行っている企業の中には、地域によってイメージや認知度に違いがあるケースも少なくありません。
採用広報によってブランディングを行い、企業イメージの統一を図りましょう。
採用広報の導入事例
ここでは、採用広報を導入している事例を5つご紹介します。
株式会社Gunosy
情報キュレーションアプリの開発・運営を行っている株式会社Gunosyでは、等身大のGunosyを伝える場として、オウンドメディア「Gunosiru」を運営しています。
Gunosiruは、課題であった社内外のギャップを埋められるよう、社員インタビューを中心とした作りになっており、年間の配信スケジュールに沿って継続的に自社情報を発信し続けています。
また、WantedlyにGunosiruへの動線を設けることで、オウンドメディアの認知度をアップさせつつ、ミスマッチ採用の軽減に成功しました。
Gunosiruは、インタビュー記事を参考に具体的な話ができるため、リファラル採用の情報源や採用エージェントと認識を統一させる際にも役立っています。
freee株式会社
事務管理効率化クラウドサービスの開発・運営を行っているfreee株式会社では、「もっと自社の魅力を打ち出すべきだ」という社員の声をきっかけに、採用広報をスタートさせました。
freee株式会社では、
・Wantedlyブログ…自社を知ってもらう目的(社内イベントなどカジュアルな投稿)
・採用ブログ…理解促進・動機付けの目的(メンバーの思いを掘り下げるインタビュー)
・エンジニアブログ…転職時にエンジニアが重要視している情報を発信
と、ターゲットや目的に応じて3つのブログを運営しています。
その結果、入社後にギャップを感じる社員が減少し、ブログがきっかけで応募してくる求職者も増加しています。
株式会社スペースマーケット
レンタルスペースの貸し借りができるサービスを提供している株式会社スペースマーケットでは、エンジニアとデザイナーによる開発ブログ「SPACEMARKET BLOG」を運営しています。
マッチ度の高い人材を採用する目的で、週に1度実際に働いているメンバー自らがブログを更新しています。
採用広報に取り組んだ結果、応募者は約3倍に増加し、エンジニア・デザイナーの定着率も飛躍的に向上しました。
また、会社やカルチャーを理解した応募者が多いため、選考通過率も向上しています。
ナイル株式会社
デジタルマーケティング事業などを行っているナイル株式会社では、オウンドメディア「ナイルのかだん」を運営しています。
当初ナイルのかだんは、認知度アップを目的として、採用ターゲット向けの配信を行っていましたが、「応募者の多くが自社について理解できていない」ことが判明しました。
そのため、採用候補者の企業理解を促進させるコンテンツに変更したところ、入社3ヶ月以内の離職率が大幅に減少し、中途採用の内定受諾率も向上しました。
ベルフェイス株式会社
オンライン商談システムの開発・販売を行っているベルフェイス株式会社では、TwitterとWantedlyのブログを運営しています。
「地味で堅い」印象を払拭し、採用候補者に親近感を持ってもらうために、担当者の個性を活かしたカジュアルな投稿を行っています。
その結果、DM経由で月8名程度が応募してくるようになり、採用単価を3割減らすことに成功しました。
また、Wantedlyのブログでは、入社が決まっている社員にインタビューし、当人の入社月に合わせて記事を公開しています。
SNS上で転職の報告をする人も多いため、近況報告を見た転職者の知り合いが情報をたどっていくと、インタビュー記事が出てくる仕組みです。
本人の意欲や周囲からの注目度が高まっている転職時にフォーカスすることで、リファラル採用につなげることを目的に運営されており、インタビュー記事がきっかけで知人を採用した実績もあります。
採用広報を計画的に実施して、採用効率の向上を目指しましょう!
採用難易度が高まっている近年、採用広報の重要性は増しています。
採用広報を実施する際は、自社の採用ターゲットを明確にし、そのターゲットの志向や目的に応じて、最適な手法・メディアを選ぶことが重要です。
また、メッセージを打ち出す際は、ターゲットの求めている「等身大の企業情報」を届けましょう。
採用は全社で取り組むものと考え、社内周知を徹底していけば、より円滑に採用活動を進めることも可能です。
自社の求めている人材を獲得するためにも、採用広報の重要性をしっかりと認識しましょう。