近年、介護業界での人手不足は深刻な状況に陥っています。

 

多くの介護サービス事業所では「求人募集を出しても集まらない」「すぐに辞めてしまう」など、人材の確保に課題を感じている状況です。

 

人手不足はサービスの質や事業運営にも悪影響を与えるため、早急に課題解決に取り組む必要があります。

 

この記事では、介護業界の人手不足の原因と人手不足解消の施策についてご紹介します。

 

人手不足解消の施策ごとに事例もご紹介しておりますので、是非ご覧ください。

 

介護業界の人手不足の社会的背景

様々な業界で人手不足が発生していますが、中でも介護業界は深刻な状況です。

 

まずは、介護業界を取り巻く現状から見ていきましょう。

 

第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について

 

引用:厚生労働省「第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について

 

厚生労働省の推計によると2020年度末には約216万人、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年度末には約245万人の介護人材を確保する必要があるとしています。

 

そして、2016年度末時点の介護人材推計は約190万人です。

 

つまり2020年までに約26万人、2025年までには約55万人、年間で約6万人程度の介護人材を確保し続けなくはなりません。

 

しかし、介護業界では深刻な人手不足に陥っているのが実情です。

 

平成29年度 「介護労働実態調査」の結果

引用:公益財団法人介護労働安定センター「平成29年度 「介護労働実態調査」の結果

 

介護労働安定センターが調査した「介護サービスに従事する従業員の過不足状況」によると、66.6%の介護サービス事業所で人手不足を感じているとの結果が出ています。

 

特に訪問介護員は82.4%の事業所が不足感を訴えている状況です。

 

なぜ介護業界で人手不足が起きているのか、社会的背景を見ていきましょう。

 

少子高齢化

介護人材不足の大きな要因として挙げられるのが「少子高齢化」です。

少子高齢化の進行と人口減少社会の到来

引用:総務省「少子高齢化の進行と人口減少社会の到来

 

人口推移を見ても分かる通り高齢者(65歳以上)数の増加に反比例して、主に労働を担う世代である生産年齢人口(15~64歳)は減少の一途を辿っています。

 

また団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年には、高齢化率が36%、2060年には40%に達すると予想されているため、今後さらに人手不足が深刻化するでしょう。

 

介護環境の変化

従来は「子どもが親を介護する」という考えが主流だったため、高齢者の介護は家庭で行うのが一般的でした。

 

しかし、少子高齢化や女性の社会進出、価値観の変化などによって核家族化が進んだため、これまでのように家庭内で介護ができない人が増えました。

 

その結果、民間の介護サービスが急速に普及し介護保険制度が導入されるようになり、介護サービスの利用が一般化したのです。

 

介護業界の人手不足の原因とは?

介護業界で人手不足が起こっているのは前述した社会的背景の他、介護現場で起きている問題もあります。

 

採用が難しい

介護労働安定センター「平成29年度 「介護労働実態調査」の結果」によると、88.5%の介護施設が「採用が困難」と回答しています。

 

採用が困難な理由として上がったのは、

 

同業他社との人材獲得競争が激しい:56.9%

他産業に比べて労働条件等が良くない:55.9%

景気が良いため、介護業界へ人材が集まらない:44.5%

 

です。

 

多くの事業所で、同業他社間での採用競争が厳しいと感じていることが分かります。

 

介護職へのネガティブイメージ

食事・入浴・排泄介助が発生する介護業界は、3K(きつい・汚い・危険)のイメージが付きまといます。

 

介護の仕事のイメージについてのアンケート結果

引用:長崎県福祉保健部福祉保健課「介護の仕事のイメージについてのアンケート結果

 

介護職のイメージ調査でも明らかな通り、

 

給与など雇用面での待遇が悪い:40.2%

体力的、精神的にきつい:41.4%

 

と、約8割の人が介護の仕事にネガティブなイメージを持っています。

 

事実、介護職員は高齢者や障害者など介助を必要とする人のサポートを行うため、体力的にも精神的にも負担の大きな仕事です。

 

また、利用者の介助だけでなく、レクリエーションの企画や事務作業といった業務も行うため、人手の足りない職場では、職員一人に掛かる負担が大きくなりがちです。

 

介護業界の人手不足を解消するには、ネガティブなイメージを払しょくし、労働環境を改善する必要があるでしょう。

 

給与面

介護職は専門的な知識や体力を要求されますが、仕事に見合った報酬を得にくいことも原因の一つです。

 

国税庁の民間給与実態調査によると、2018年の日本人の平均年収は約441万円です。

 

一方、同年の介護職の平均年収は約340万円で平均を大きく下回っています。

 

また、介護サービス事業所の規模や地域によっては年収300万円に満たないケースもあり、介護職は他業界と比較すると低賃金と言えるでしょう。

 

介護職が低賃金の理由

社会的に重要な役割を担う職種であるにもかかわらず、なぜ待遇が悪いのでしょうか。

 

そもそも、介護職の賃金は介護報酬から支払われていますが、この介護報酬額は国が決めています。

 

決められた上限金額の中から、運用に必要な費用を差し引いて介護職員に分配される仕組みである以上、職員に支払える給与は限られてしまいます。

 

そのため、キャリアを積んでも昇給しづらく離職率も高い傾向にあるのです。

 

人間関係

介護の仕事は細心の注意を払って利用者と接する必要がある上に、利用者の家族や医療スタッフなど様々な人達と関わらなくてはなりません。

 

そのため、

  1. 利用者との意思疎通が上手くいかない
  2. 利用者の家族から無茶な要望をされる
  3. 他のスタッフと意見が対立する

といった悩みを抱えることも多く、他業界よりも人間関係にストレスを感じやすい傾向にあります。

 

介護労働安定センター「平成29年度 「介護労働実態調査」の結果」では、1年間の離職率が16.2%となっており、毎年5~6人に1人の割合で退職していることが分かります。

 

また、同調査によると退職理由として「人間関係(20.0%)」を上げる人も最く、人間関係上の問題も人手不足の要因の一つと言えるでしょう。

 

介護業界の人手不足を解決する対策

介護業界の人手不足が深刻であることが分かったところで、人手不足を解決する対策についてご紹介していきます。

 

介護職のイメージアップに向けた国策

先述の通り、介護職は3Kや低賃金といったイメージが定着していますが、国では介護職のイメージアップに向けた施策を講じています。

 

政府は介護業界の人手不足解消を目的として、勤続10年以上の介護福祉士に月額8万円の手当を支給する「特定処遇改善加算」を2019年10月から実施しています。

 

ただし、介護福祉士の平均勤続年数は6年程度で、勤続10年以上の人材はあまり多くありません。

 

また、特定処遇改善加算は事業所に渡されますが、誰にいくら支給するか、支給方法はどうするかなど、介護事業所の判断に任されています。

 

そのため、支給対象であっても「確実に給与がアップする」とは言えないのです。

 

人手不足を解消するには、対象となる職員とその他の職員への配分をバランスよく行い、公平感のある賃金に設定することが重要です。

 

労働環境を整える

介護業界の人手不足を解消するには、働きやすい環境を整えることが重要です。

 

ITツール・システムの導入

介護職員の業務は利用者の介助の他、事務作業やレクリエーションの企画・実施など多岐に渡るため、業務効率化によって職員の負担を軽減することが重要です。

 

例えば、タブレットなどのITツールを活用すれば、利用者のケアをしながら介護記録を付けることができますし、入力したデータをケアプランと連携させることも可能です。

 

また、シフト管理や勤怠管理、給与支払いのシステムを導入すれば事務作業を大幅に削減しつつ、人為的ミスを防止することも可能です。

 

このように、ITツールやシステムを導入すれば業務効率化が実現するため、残業時間の削減にも繋がります。

 

ユニットケアの導入

介護職員の定着率を上げるには、主な退職理由である人間関係の問題を解消する必要があります。

 

ユニットケアとは、介護施設の入居者10人程度を1つのユニットとして、決まった介護職員がケアする介護方法です。

 

1部屋に複数人が生活する従来の集団ケアと違い入居者は個室で生活するため、入居者の個性や生活リズムを尊重したサポートが実現します。

 

また、介護職員はユニットごとに権限を持っているため、固定のメンバーで話し合った考えを実践しやすいです。

 

入居者や同僚とコミュニケーションをしっかりと取り合いながら働けるため、良好な人間関係の構築に繋がります。

 

柔軟な働き方の導入

 

介護業界では圧倒的に女性が多いため、ライフステージの変化に合わせた働き方ができるよう制度を整えることも重要です。

 

利用者のケアを行う介護職は重労働かつ人材不足が常態化しているため、休暇の取得や時短勤務が難しく結婚や出産を機に退職する女性が多い傾向にあります。

 

そのため、産前・産後休暇や育児休暇、時短勤務といった制度の導入は必要不可欠でしょう。

 

また、子どもの体調不良による「子の看護休暇」など、柔軟な働き方が実現する制度を導入すると、新たな人材の確保や定着率向上に繋がります。

 

介護福祉士資格取得補助の制度を整える

介護福祉系唯一の国家資格である「介護福祉士」は、高度な専門知識と技術を保有している証明です。

 

就職・転職時に有効に働くのはもちろんのこと、仕事の幅や待遇にも差が出るため、資格取得を目指す人が多いです。

 

介護福祉士は実務を積みながら目指すことも可能なため「資格取得の費用を一部負担する」など、補助制度を整えれば新たな人材の獲得にも繋がるでしょう。

 

外国人材の活用

日本では少子高齢化が進んでいるため、日本人だけで労働力を賄うことは難しく、政府も外国人の積極的な活用を推奨しています。

 

これまで介護業界では、

  1. 在留資格「介護」を持っている外国人
  2. EPA(経済連携協定)に基づく外国人福祉士候補者
  3. 技能実習制度を活用した「技能実習生」

によって外国人を活用してきました。

 

2020年時点でEPA職員は677ヶ所の施設において3,165人が雇用されており、介護福祉士養成学校への留学者も年々増加しています。

 

また、介護職種の技能自習計画申請者のうち946人が認定され「技能実習生」として、順次入国しています。

 

さらに、2019年4月には入管法の改正によって「特定技能」という新たな在留資格が創設されたため、外国人材の受け入れが拡大しました。

 

新たな在留資格の創設により、介護業界では5年間で6万人の外国人材の受け入れを見込んでいます。

 

外国人材の受け入れや定着を目指すには、

  1. 日本語教育の体制を整える
  2. 生活面の支援(住まい・交通手段の確保など)
  3. 職員へ事前に説明して、理解を得る
  4. 在留管理(在留期間の把握・更新など)

といった点に留意することが重要です。

 

 

人材サービスの活用

求人広告を掲載しても思ったように応募者が集まらない場合は、人材派遣会社や人材紹介会社の利用がおすすめです。

 

求人広告を活用する場合、母集団(自社求人に興味を持つ求職者)の形成が欠かせません。

 

しかし、人材派遣や人材紹介サービスは登録者の中から経験や資格など採用要件に合う人材を紹介してもらえるため、母集団形成を行う必要がないのです。

 

人材派遣

人材派遣とは、人材派遣会社が雇用しているスタッフを一定期間企業に派遣するサービスです。

 

料金は「派遣スタッフの時間単価×実働労働時間」で計算され、派遣スタッフが働いている期間は継続的に派遣会社へ費用を支払う必要があります。

 

ちなみに、時間単価は就業場所や技術レベル、業務内容などによって異なります。

 

人材紹介

人材紹介とは、企業の採用要件にマッチした転職希望者を紹介するサービスです。

 

人材派遣と違い、企業は転職希望者と直接雇用契約を結びます。

 

また、人材紹介サービスは成功報酬型のため、採用が決定するまで費用は発生しません。

 

紹介報酬の相場は、採用決定者の年収の30~35%程度です。

 

介護業界の人手不足の対策事例を紹介

ここでは、人手不足の解消に成功した事例をご紹介していきます。

 

労働環境の整備

まずは、労働環境の整備で人手不足解消に繋がった事例から見ていきましょう。

 

特別養護老人ホーム A

取り組み内容

特別養護老人ホームAでは、

  1. 生理休暇
  2. 産前・産後休暇(8週間)
  3. 育児休暇
  4. つわり休暇
  5. 子の看護休暇

といった女性が働きやすい環境を整備している他、分野別や技術別の研修など、様々な研修制度を定期的に実施しています。

 

また、同施設では男性の育児休暇取得も推奨しています。

 

結果

3年以内の離職率が4.8%(新卒)と低い水準に収まっており、職員の技術レベル向上やモチベーション維持に繋がっていることが分かります。

 

産休・育休からの復帰率は100%に近く、30年以上勤務している職員もいるそうです。

 

社会福祉法人 B

取り組み内容

様々な介護施設を運営している社会福祉法人Bでは、「ケアマイスター制度」や「サービスマイスター制度」を導入しています。

 

ケアマイスター制度を段階的に合格していくと、運営管理や外部講師として研修に派遣されるなど、活躍の場を広げることが可能です。

 

サービスマイスター制度では、接遇に関する知識やスキルを身に付けることができるため、質の向上に繋がります。

 

その他にも、介護職員のレベルに合わせた研修や「次世代リーダー研修」など、階層ごとに研修を用意しており、定期的に行っています。

 

結果

取り組みを行う前後で離職率を比較すると、

社員:18%⇒4%

パートタイム:24%⇒14%

となっており、離職率の大幅な減少に成功しています。

 

介護サービス事業運営 C社

取り組み内容

介護サービス全般を運営しているC社では、請求業務や介護記録など業務効率向上を図ることが課題になっていたため、クラウド型の介護業務支援システムを導入しました。

 

結果

システム導入後は、月次請求業務が約16時間短縮しました。

 

また、介護記録が手書きからタブレット入力に変更されたため、作業効率の向上やペーパーレスによるコスト削減にも成功しています。

 

システム導入で残業がほとんど発生しなくなったため、離職率も低下しているそうです。

 

外国人材の活用

つづいて、外国人材の活用で人手不足が解消した事例をご紹介いたします。

 

特別養護老人ホーム D

取り組み内容

増設に伴い人員確保の必要性が出たため、外国人材の活用を決意しました。

 

テレビ電話にて面接で受け入れる介護研修生を4人選定し、施設での研修をスタートさせました。

 

結果

現場からは「仕事を覚えるのが早い」「意外と抵抗感がなかった」など好意的な意見が多く、スムーズに受け入れることができました。

 

また、利用者からの評判も良く「日本語を教えたい」といった、意欲向上の効果も見られたそうです。

 

介護施設運営 E社

取り組み内容

介護福祉施設を複数運営しているD社では、特定技能ビザの創設がきっかけとなり、外国人採用をスタートさせました。

 

面接や特定技能介護の試験対策のためにミャンマーを訪問し、入職希望者と接したところ、熱意の高さを感じたそうです。

 

結果

ミャンマーでの内定者は特定技能と留学生合わせて30名、国内ではミャンマー人留学生2名を採用しました。

 

当初は心配する声もありましたが、利用者からの評判も良く、スムーズに受け入れることができたそうです。

 

人材サービスの活用

最後に、人材サービスを活用して人手不足が解消した事例をご紹介いたします。

 

介護老人保健施設 F

取り組み内容

介護老人保健施設Eでは、10人の利用者を1人で対応しなければならない程、介護職員が不足していました。

 

利用者の安全確保やスタッフの負担軽減を軽減するために、早急に人員が必要だったことから人材派遣サービスを利用しました。

 

結果

過疎化の進む地方であったことも影響し、対象者自体多くなかったそうですが、担当者のサポートによって介護士2名を採用することに成功しています。

 

特別養護老人ホーム G

取り組み内容

特別養護老人ホームFでは、求人サイトへの広告掲載で募集活動を行っていました。

 

しかし、長期間掲載しても効果を得られなかったことに加え、新たな退職者も出たため、人材紹介サービスを利用することになりました。

 

結果

介護業界特化型の人材紹介会社へ依頼したところ、2週間で介護士1名の採用が決定、1ヶ月後には介護福祉士1名の採用に成功しました。

 

介護業界の人手不足を解消するには待遇改善と人材確保が重要

ネガティブなイメージが付きまとう介護の仕事は、人手不足が深刻な状況です。

 

人手が足りないことで一人の職員に掛かる負担が大きくなり、さらに人手不足を招くという悪循環に陥っている事業所も少なくありません。

 

少子高齢化は進行していくため、今後はますます介護の需要は増加していきます。

 

そのため、介護業界の人手不足を解消するには労働環境の整備や業務効率化といった待遇改善で、職員を働きやすくすることが肝心です。

 

また、外国人の積極的な受け入れも重要となるでしょう。

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