少子高齢化の進む日本では、深刻な労働力不足に陥っています。
その一方で、日本で働く外国人は年々増加しており、至るところで彼らの活躍を目にするようになりました。
日本ではアジア圏の労働者が大半を占めていますが、中でも最も多いのが中国人労働者です。
この記事では、中国人労働者を雇用するメリットや、採用時のポイント注意点についてご紹介していきます。
また、中国人労働者を雇用するまでの流れや雇用時に必要な届出、活用できる助成金についてもまとめていますので、是非ご覧ください。
中国における厳しい就職事情
中国の戸籍制度では氏名や性別などの登録情報に加えて「農村戸籍」「都市戸籍」があり、この戸籍上の区別によって社会保障や教育といった公共サービスが異なります。
具体的には、
- 都市部の大学で農村戸籍者の合格ラインが、地元の都市戸籍者よりも高く設定される
- 都市部の大学に通う場合、都市戸籍者よりも学費が高い
などです。
地域によっては合格点が100点以上違うこともあり、地方出身者が都市部の大学に入学するのは容易ではありません。
超学歴社会である中国は出身大学によってある程度、就職先が決まってしまうため出身地による格差が大きいです。
大卒者でも給与が低い
中国では大学卒業者数が年々増加しており、2019年には過去最高となる834万人を突破しました。
しかし、大学卒業生の急増に企業の増加スピードが追い付いていないため、中国の就職事情は非常に厳しい状況です。
人材紹介サイト「智聯招聘」が、内定を獲得している2019年卒の新卒者を対象にした調査によると、「厳しい就職戦線だった」と回答した学生は全体の8割以上にも上ります。
また、就職を決めた学生の内、雇用契約上の初任給について尋ねたところ6000元(約96,000円)以下と答えた学生が約60%、4000元(約64,000円)以下と答えた学生が約30%であることが明らかになりました。
これは、北京の平均給与の半分にも満たない金額です。
例年、就職戦線が終盤を迎えると、さらに初任給が引き下げられる傾向にあり、3000元(約48,000円)以下になることも珍しくありません。
2017年の農業農村経済報告によると、農村部の出稼ぎ労働者(農民工)の平均月収が約3,460元のため、農民工以下のレベルで働かざるを得ない大卒者も少なくないのです。
人材ニーズの偏り
2018年度大卒者で就職率が高かった専攻は、
- ソフトウェアエンジニアリング
- エネルギー・動力エンジニアリング
- エンジニアリング管理
でした。
中国では就職に有利な「グリーンカード専攻」と就職に不利な「レッドカード専攻」を選出しています。
2019年のグリーンカード専攻は、
- 情報セキュリティ(3年連続)
- ソフトウェアエンジニアリング(3年連続)
- ネットワークエンジニアリング(3年連続)
- IOTエンジニアリング
- デジタルメディア技術
- 通信エンジニアリング
- デジタルメディアアート(3年連続)
です。
グリーンカード専攻に選出されているのはいずれもIT系であることから、中国ではIT人材のニーズが極めて高いことが分かります。
つまり、IT関連以外を専攻した学生の就職はかなり厳しい状況にあるということです。
インターンシップへの取り組み
日本と中国ではインターンシップへの取り組み方に大きな違いがあります。
日本は1dayインターンシップのような短期間のプログラムもありますが、中国のインターンシップは最短でも1ヶ月間、一般的には数ヶ月間企業で働きます。
その理由は、中国はポジション採用が主流のため、新卒でも実務経験やスキルが重要視されるからです。
有利な条件で就職するには、インターンシップへの参加が欠かせないため、中国の学生はインターンシップに積極的に参加しています。
日本における外国人労働者の状況と中国人労働者の割合
引用:厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和元年 10 月末現在)」
上図の「外国人労働者数の推移」を見ても分かる通り、日本で働く外国人は年々増加し続けています。
2019年10月末時点において、日本で就労している外国人労働者は約165.9万人、前年同期比13.6%増加と過去最高を記録しました。
国籍別の外国人労働者
引用:厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和元年 10 月末現在)」
外国人労働者を国籍別で見てみると、
中国(香港等含む):418,327人(2%)
ベトナム:401,326人(2%)
フィリピン:179,685人(8%)
ブラジル:135,455人(2%)
となっており、中国人労働者が最も多いことが分かります。
産業別の外国人労働者
引用:厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和元年 10 月末現在)」
産業別では、
製造業:4%
卸売業、小売業:4%
宿泊業、飲食サービス業:2%
と、外国人労働者の雇用は製造業で活発に行われています。
外国人労働者が増加した理由
日本で外国人労働者が増加していることが分かりました。
では、なぜ外国人労働者が増加したのか、その理由を見ていきましょう。
政府が外国人労働者の受け入れを推進している
少子高齢化の進む日本では、労働を担う生産年齢人口は減少し続けているため、労働力を確保するには外国人労働者の活用が欠かせません。
そのため、日本政府は「外国人留学生の日本企業への就職支援」や「高度人材への出入国の優遇措置」など、外国人労働者の受け入れを積極的に推進しているのです。
永住者や日本人の配偶者等が増加している
引用:法務省「在留外国人数の推移(総数)」
日本では「永住者」や「日本人の配偶者等」といった在留資格者が増加しています。
通常、外国人が日本で働くには、活動の種類に応じた在留資格を取得しなくてはなりません。
しかし、永住権を獲得し在留資格「永住者」、日本人と結婚して在留資格「日本人の配偶者等」を得た外国人には活動の制限がないため、自由に働くことができます。
中国人労働者を雇用するメリットとは?
ここでは、中国人労働者を雇用する企業側のメリットをご紹介いたします。
若い労働力を確保できる
中国の就職事情は厳しいですし、日本でビジネスを学びたいと考えている中国の若者は多いです。
在日中国人の年齢層は20代の若手が最も多いため、中国人労働者を雇い入れることで、企業は若い労働者を確保することができます。
中国の企業や顧客との取引に強い
中国には、世界各国の様々な企業が工場を設けているため、中国の企業や工場と取引する機会もあるでしょう。
中国人材は、中国語を話せるのはもちろんのこと、自国の文化や国の事情をよく理解しています。
両国の言葉や商文化を理解している中国人材を雇用できれば、中国の企業や工場との取引を有利に進めることができます。
また、買い物目的での訪日中国人観光客も多いため、中国人材が接客・通訳を担当すれば、サービス向上や売り上げアップにも繋がるでしょう。
画期的なアイディアが生まれる可能性がある
日本と異なる環境で生まれ育った中国人は、日本人とは違う価値観や考え方を持っているため、画期的な発想やアイディアを生み出す可能性があります。
また、多様な価値観や考えに触れることで既存社員の刺激になるため、モチベーションアップにも繋がります。
中国人労働者を採用するときの選び方のポイント
中国人労働者を雇用すると、様々なメリットを得られることが分かりました。
ここでは、中国人労働者を採用する際のポイントをご紹介していきます。
資格や過去の実績から判断する
日本語を流暢に話す外国人は安心しますし、仕事もできそうに感じますが、日本語が話せるからといって必ずしも仕事ができるとは限りません。
中国人材の選考を行う際は、資格や過去の実績から客観的に判断しましょう。
日本語が不十分な状態であっても、これまでの仕事の実績が職務遂行に必要なレベルを満たしているのであれば、戦力になります。
ただし、実力よりも高いレベルがあるかのように誇張して伝える人もいるため、事実確認は必ず行いましょう。
日本の商習慣に理解のある人を選ぶ
日本に長く住み、日本語を流暢に話している中国人材であっても、日本人的な価値観を有しているわけではありません。
超学歴社会で育った中国人は非常に勤勉ですが、個人主義的な考えを持っている方も多いです。
そのため、他の従業員が残っていても、自分の担当している仕事が片付けば気にせず帰ってしまったり、ストレートな表現を用いて意見したりすることもあります。
職場内でのトラブルに発展することもあるため、日本の商習慣をある程度理解している人を選ぶのがポイントです。
中国人労働者の雇用までの流れ
中国人労働者を雇用する流れは、
- 中国人材を探す
- 在留資格を確認する
- 雇用契約を結ぶ
の3ステップです。
STEP1. 中国人材を探す
中国人材を見つけるには、
- 中国人ユーザーの多い求人サイトへ求人広告を掲載する
- 中国人登録者が多い人材紹介会社を利用する
- 教育機関や語学学校へ求人票を掲出する
- ハローワークを利用する
といった方法があります。
求人サイトや教育機関を活用した採用手法が一般的ですが、質の高い中国人労働者を早期に確保したい場合は、人材紹介会社の利用が適しています。
STEP2.在留資格を確認する
中国人材が日本国内にいる場合は、必ず在留資格の確認を行ってください。
在留資格は、外国人が日本に滞在するために必要となる資格のことで「滞在できる期間」や「活動できる範囲」が決められています。
そのため、既に保有している在留資格と、従事させる予定の仕事内容が一致しない場合「在留資格変更許可申請」を行わなくてはなりません。
また、海外から呼び寄せて雇用する場合は、在留資格の申請が必要となります。
どちらの場合も、申請職種ごとに定められた要件を全て満たしている必要があるため、選考時にしっかりと確認しましょう。
判断に迷った場合は自己判断せず、入国管理局や入国管理業務に詳しい弁護士・行政書士に相談すると確実です。
STEP3.雇用契約を結ぶ
在留資格を確認して中国人材に内定を出したら、業務内容や賃金といった労働条件についてよく話し合い、書面による雇用契約を結びましょう。
法律上では、労働条件通知書が交付されていれば、雇用契約書がなくても問題ありません。
しかし、認識の不一致によるトラブルを回避するには、労使双方が合意した上で雇用契約書を取り交わすことが重要です。
また、当人の理解を深めるためにも「中国語で雇用契約書を作成する」「原文の翻訳を用意する」などの配慮が必要です。
中国人労働者を雇用するときの注意点
中国人は曖昧な状態を嫌い、面子を重視する傾向があるため、雇用する際はこういった特徴を十分理解しておくことが重要です。
具体的な注意点は、
- 平等かつ客観的な評価基準を設ける
- 人前で叱らない
の2点です。
平等かつ客観的な評価基準
中国は実力主義が根付いているため、業績や成果など客観的な根拠による評価基準を好みます。
中国人の仕事観からすると、定性的評価も含まれる日本の人事評価は分かりづらく「正当な評価がされない」という不満から離職に繋がる可能性があります。
よって、成果物による客観的な評価基準を設けることが重要です。
また、中国人には一社で長く勤めるのを善しとする価値観はないため、人材流出を防ぐために同業他社と同等の給与水準を設けることも大切です。
人前で叱らない
中国人の部下を持つ場合もあるでしょうが、日本人と同じ感覚で接していると反感を買うこともあるため、注意が必要です。
先述しているように、中国人はメンツを大切にしているため、人前で注意・指摘されるのを非常に嫌がります。
指導を行う際は2人きりになり「何がいけないのか」「どうして欲しいのか」問題点と改善点を明確に伝えてください。
外国人を雇用するときに必要な届出・活用できる助成金
外国人を雇用する際は、
- 「外国人雇用状況の届出」
- 「所属機関に関する届出」
を必ず行いましょう。
外国人雇用状況の届出
外国人雇用状況の届出は全ての事業主に義務付けられており、これを怠ると30万円の罰金が科せられる可能性があります。
外国人の雇用・離職時は、ハローワークの窓口またはインターネットから届け出てください。
届出様式
民間事業主は「雇用保険の被保険者である外国人」「雇用保険の被保険者ではない外国人」で届出様式が異なります。
雇用保険の被保険者である外国人
雇用保険被保険者資格取得届に「在留資格」「在留期間」「国籍・地域」などを記載した上で届け出ます。
届出期限は、
雇い入れの場合;翌月10日まで
離職の場合:翌日から起算して10日以内
です。
雇用保険の被保険者ではない外国人
届出様式(第3号様式)に「氏名」「在留資格」「在留期間」「生年月日」「性別」「国籍・地域」などを記載した上で届け出ます。
届出期限は、雇い入れ時・離職時ともに翌月末日までです。
外国人雇用状況届出の対象者
日本国籍を持たない人で、在留資格「外交」「公用」「特別永住者」以外の人が対象です。
「日本人の配偶者等」や「留学」の在留資格を保有している人も、外国人雇用状況届出の対象となります。
参考:厚生労働省「外国人雇用状況の届出」
所属機関に関する届出
勤務先が変化した中長期在留者は、14日以内に「出入国在留管理庁」または「外国人在留総合インフォメーションセンター」へ届け出なければなりません。
「所属機関関する届出」を怠ると、次回ビザ更新時の審査でマイナス評価されてしまうため、必ず届け出を行うよう当該労働者に伝えましょう。
なお、代理人による申請も可能です。
活動機関に関する届出
- 教授
- 高度専門職1号ハ
- 高度専門職2号(ハ)
- 経営・管理
- 法律・会計業務
- 医療
- 教育
- 企業内転勤
- 技能実習
- 留学
- 研修
参考:法務省「所属(活動)機関に関する届出」
<契約機関に関する届出>
- 高度専門職1号(イ・ロ)
- 高度専門職2号(イ・ロ)
- 研究
- 技術・人文知識・国際業務
- 介護
- 技能
- 特定技能
- 興行
参考:法務省「所属(契約)機関に関する届出」
外国人を雇用した際に活用できる助成金
外国人雇用の促進を目的としたものではありませんが、外国人を雇用した際に活用できる助成金をご紹介いたします。
※以下の情報は記事を作成した時点での情報です。正しくは、助成金を所轄する機関へお問い合わせ下さい。
雇用調整助成金
景気悪化など経済上の理由で事業を縮小する事業主が、
- 一時的に従業員を休業させる
- 教育訓練を受けさせる
- 出向させる
際に発生する費用の一部を補う助成金です。
条件
- 雇用保険に加入している中小企業事業主および労働者
- 直近3カ月の売上高または、生産量の月平均値が前年同期比で10%以上減少していること
- 労使協定に基づいて雇用調整(休業・職業訓練・出向)が行われていること
※計画届・協定書の提出が必要
ただし、雇用調整を開始する前日までに同事業所での勤続年数が6ヶ月未満の労働者は対象外となります。
助成額
休業・出向の場合
大企業⇒賃金相当額×1/2
中小企業⇒賃金相当額×2/3
日額上限額:8,330円
教育訓練の場合
1人1日当たり1,200円加算
支給限度日数
1年間で100日、3年間で150日
参考:厚生労働省「雇用調整助成金」
キャリアアップ助成金
非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成金が支給されます。
条件
キャリアアップ助成金には全7コースあり、申請するコースによって条件は異なります。
正社員化コースの場合、基本的に永住権を取得した人が対象です。
「技能実習生」「技術・人文知識・国際業務」といった在留資格の人には適用されません。
正社員化コース以外は、各条件を満たせば支給を受けられます。
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」
中国労働者を雇用して人手不足を解消
日本で働く外国人労働者は年々増加しており、中でも中国人は外国人労働者全体の25%程を占めています。
言葉や文化の違いに苦労することもあるでしょうが、中国人の特徴や仕事観を理解した上で労働環境を整えれば、長期就労が期待できます。
中国人は非常に勤勉なため、人手不足にお悩みの企業は中国人労働者の活用を検討されてみてはいかがでしょうか。