少子化が進む日本では、2016年に大学入学者が減少傾向に転じました。
それに伴って、今後は新規学卒者も減少していく見通しとなっており、新卒採用を行う多くの企業が頭を抱えています。
そこで、費用を抑えて新卒採用を行う方法として大学訪問が注目を集めています。
この記事では、大学訪問の進め方や成功のポイント、メリット・デメリットについて詳しくご紹介いたします。
大学訪問の目的とは?
企業が大学訪問を行う主な目的は、
- 学内企業説明会を開催するため
- 安定的な母集団を形成するため
です。
学内企業説明会を開催するため
企業が大学訪問を行う目的の一つは、学内企業説明会の開催です。
学内企業説明会とは、大学内で行う企業の採用説明会のことです。
学校内で行う説明会なので学生が参加しやすくなり、これまで自社に興味関心がなかった学生を振り向かせるチャンスになります。
また、採用したい学校で学内企業説明会の開催ができれば、ターゲットとなる大学の学生に直接アプローチできるため、効率よく採用活動を行うことができます。
安定的な母集団を形成するため
大学訪問は、ターゲット大学の学生に効率よくアピールする絶好の機会です。
また、大学側としても自校の学生を積極的に受け入れてくれる会社とパイプを持つことは、就職率を上げる観点で重要です。
こういった背景があり、一度大学側と信頼関係を築くことができれば、毎年、定期的に説明会の機会を獲得できるため安定的に母集団を形成することができます。
大学訪問の進め方①準備
では、大学訪問を行うには、どのような準備や進め方をしたら良いのでしょうか。
採用ターゲットの選定
まずは採用ターゲット像(ペルソナ)を具体的に設定することが重要です。
ターゲット像の設定には、
- 出身大学
- 学部・学科
- 専攻・得意分野
- 価値観・性格・志向
- サークルや部活動での立ち位置
などを設定しましょう。
訪問する大学の選定
採用ターゲットが明確になったら、訪問する大学を選定します。
大学訪問の経験がない場合は、
「社員の出身大学」
「事業所に近い地元大学」
「事業分野と親和性の高い専攻がある大学」
を2~3校選定しましょう。
大学は訪問したからと言って必ず取り合ってくれるわけではありません。
基本的には、何度か通い就職課の職員と仲良くなったり、教授と関係を作り推薦してもらったりといった地道な行動が必要になります。
そのため、最初から様々な学校に接触すると、連絡の遅れや抜け漏れが発生し、関係を構築するまでに逆に時間がかかる可能性があります。
業務量を考えて無理なく対応できる範囲に収め、訪問の質を高めましょう。
大学にアポを取る
訪問校が決まったら、必ず訪問日のアポイントを取りましょう。
ターゲットが文系の場合は「キャリアセンター」もしくは「就職支援課」へ、理系の場合は事業分野と関連性のある「研究室の教授」にアポイントを取ります。
ほとんどの大学では、ホームページの「企業向け情報」に訪問や求人掲載に関する案内が書かれているため、これを参考に申し込んでください。
アポイントメール例
「どういう要件のメールなのか」が一目で分かるよう、件名には挨拶や訪問希望であることと社名を記載しましょう。
署名欄に採用サイトのURLを記載しておくと、親切です。
件名:【キャリアセンターご挨拶のお願い】株式会社○○ 採用担当
○○大学
キャリアセンター △△様(担当者名が不明の場合は「ご担当者様」)
突然のメール失礼いたします。
株式会社○○ 採用担当の△△と申します。
この度、貴学の学生様に向けて当社求人のご案内をさせていただきたく、ご連絡いたしました。
当社では、貴学出身の入社5年目の社員がチームリーダーとして活躍しております。
今年もぜひ、貴学の学生様を採用させていただければと考えておりますので、ご挨拶も兼ねて直接ご説明したく存じます。
つきましては、日程のご都合をお伺いできますでしょうか?
【訪問可能日時】
○月○日(月)〇時~〇時
○月○日(火)終日対応可能
○月○日(水)終日対応可能
上記以外でも調整可能でございますので、候補日をご提示いただけますと幸いです。
なお、お時間は20分程度いただければと存じます。
ご多用のところ大変恐縮ではございますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
(署名)
アポイント電話のトークスクリプト例
大学の職員は多忙なため、できる限り簡潔に用件を伝えるのがポイントです。
お世話になっております。
株式会社○○採用担当の△△と申します。
この度、貴学の○○学部の学生様を採用させていただきたく、ご連絡いたしました。
一度、就職担当の○○様にご挨拶させていただきたいのですが、ご都合いかがでしょうか?
訪問OKの場合
⇒ありがとうございます。
それでは、○月○日〇時にお伺いいたしますので、当日はどうぞよろしくお願いいたします。
都合が合わない場合
⇒かしこまりました。
それでは、弊社の資料をメールでお送りいたしますので、お手すきの際にご覧いただけますと幸いです。
後日、改めてご訪問の相談をさせていただければと思います。
大学訪問の進め方②訪問
大学訪問前の準備と訪問時にやるべきことを見ていきましょう。
訪問準備
すでに公開されている情報を相手に聞くのは時間の無駄ですし、失礼です。そのため、訪問前はその学校について徹底的に調べましょう。
例えば、訪問先の学生数や学内就活イベントの時期などを事前に把握しておくと、話がスムーズに進みます。
大学訪問当日は、主に自社紹介を行うことになるため、自社PRのトーク内容や採用情報、求める人物像、OB・OGの活躍状況など、話す内容をまとめておきましょう。
また、「なぜその大学の学生を採用したいのか」を明確に説明できるようにしておくと、好印象を与えられます。
持ち物
大学訪問時は、
- 名刺
- 会社案内・採用パンフレット
- 求人票
- ノベルティ(企業名入りのボールペンなど)
といった、自社や採用情報の説明に必要なものを持っていきましょう。
訪問時の手土産は必要ありません。
学校によっては、規定で受け取ってもらえないこともあるので、採用ツール以外の手土産は控えた方が無難です。
なお、訪問の際OB・OGを同行させると話を聞いてもらいやすくなります。
求人票作成のポイント
求職者は、曖昧な情報や不明点が多い求人への応募を避ける傾向にあります。
求人票を作成する際は、事業内容や具体的な仕事内容、対象校からの採用人数、求める人物像の特徴などを具体的に記載するのがポイントです。
理系大学の場合「全学部・全学科対象」のような記載は、学生から避けられる傾向にあるため、対象領域を絞って記載すると良いでしょう。
訪問時
数多くの企業が大学を訪問するため、キャリアセンターの職員は多忙です。
一回の顔合わせで長時間様々な話題を話し合うことは難しいため、
初回訪問⇒挨拶・求人票設置
二回目の訪問⇒学内就活イベントの申し込み
三回目の訪問⇒学内就活イベント前後の打ち合わせ
のように、目的を決めておきましょう。
なお、求人票の申し込みをWeb上で受け付けている大学の場合「求人票の提出だけ進めておく」など、先にできることを済ませておくと、限られた時間を有効に使えます。
大学訪問の進め方③お礼
訪問後すぐにお礼メールを送るのは当然ですが、先方から自社への要望や質問を頂いた際も、直ちに対応してください。
対応が遅れると、他社に後れを取るばかりか印象悪化につながる可能性があります。
また、その年の採用活動が終了した際は、採用者の有無にかかわらず、報告も兼ねて必ずお礼の挨拶に伺って次年度のお願いをしましょう。
翌年以降の採用活動につなげられるよう、地道にコミュニケーションを取ることが重要です。
大学訪問を成功させるためのポイント
大学訪問の進め方が分かりました。
では、大学訪問を成功させるためには、どのようなポイントを押さえておいたら良いのでしょうか。
大学訪問は年3~4回行う
採用手法の多様化や通年採用実施企業の増加などの影響で、「○月がベスト」というのはありません。
しかし、現就活ルールに則って考えると、
求人票・会社案内パンフレットの持参⇒1月~2月頃
状況伺い(内定未取得学生の状況など)⇒7月~8月頃
結果報告・お礼⇒10月頃
と、年に3~4回程度訪問するのが良いでしょう。
ただし、学内就活イベントを実施する時期は分散しているため「いつ、どういった行事が開かれるのか」を事前に調査した上で、訪問する時期を決めてください。
同じ採用担当者が訪問し続ける
大学側と良好な関係を築くには、同じ採用担当者が継続して訪問することが重要です。
就職担当者に自分の顔を覚えてもらうところからスタートし、回数を重ねていけば徐々に色々な話ができるようになります。
長期的に根気強くコミュニケーションを取り続けて、大学と良好な関係を構築しましょう。
企業の顔として訪問する
訪問される側にとって、訪問者はその企業の代表です。
訪問者の言動や対応、立ち居振る舞いがそのまま企業イメージに直結するため、スーツやジャケットなど清潔感のある服装で訪問し、誠実に対応してください。
印象が悪い場合、求人票は掲載してもらえるでしょうが、学内就活イベントの参加対象から外されてしまう可能性が高いです。
大学訪問のメリット・デメリット
ここでは、大学訪問のメリット・デメリットについてご紹介いたします。
メリット
コストを抑えて採用活動ができる
求人票やパンフレットの設置は無料ですし、大学経由で採用が決定しても大学側に報酬を支払う必要はありません。
学内就活イベントの場合、無料もしくは民間の就活イベントより格段に安い料金で参加することができます。
特定のターゲットに絞った母集団形成ができる
自社の採用ターゲットとなる大学に所属している学生に向けて、直接採用情報を提供できるため、効率よく母集団を形成できます。
また、キャリアセンターの利用者は真面目な学生が多いため、採用対象者としても期待を持てるでしょう。
企業を宣伝してくれることもある
大学側と良好な関係を築いておくと、「この会社はどう?」と学生に紹介してくれたり、反対に学生を紹介してもらえたりします。
その他にも、キャリアセンターの権限で学部・学科を絞った単独説明会を開催させてもらえることもあります。
デメリット
信頼関係の構築に時間が掛かる
求人票の掲載のみが目的であれば、初回訪問もしくはWeb申し込みで完結します。
しかし、安定的に母集団を形成するには、学内就活イベントへの参加や学生への紹介といった、大学側の協力が欠かせません。
協力を得られるくらい大学側と信頼関係を構築するには、定期的に訪問し続ける必要があるため、数年単位の時間がかかります。
地方大学の訪問は移動コストが掛かる
大学訪問には、訪問する社員の人件費や移動費用が発生し、遠距離になるほどコストがかかります。
都市部と比べると、地方は移動手段が限られており、キャンパスの数も少ないため、1日で複数の大学を回ることが難しいです。
このように、地方は移動時間や交通費、人的コストが高くなりやすいことは念頭に置いておきましょう。
時間・人的コストがかけられない場合は?
大学訪問は非常に手間のかかる採用手法ですが、時間や人的コストに余裕のない企業はどうすれば良いのでしょうか。
人材紹介
人材紹介は、就活生と新卒採用を行う企業をマッチングするサービスです。
登録学生の条件も考慮した上で、採用要件に合致する人物を紹介してもらえるため、ミスマッチ採用を低減することができます。
母集団形成やスクリーニングを行う必要がないため、採用担当者の負担を大幅に減らしながら、短期間の採用が実現します。
採用が決定した段階で報酬が発生する「成功報酬型」なので、何度面接しても費用は発生しません。
新卒紹介の費用相場は、文系学生が80万円~100万円程度、理系学生は100万円超が一般的です。
採用人数が少ない場合は、こういったサービスを利用するのもよいでしょう。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングは、企業自らが理想的な候補者を探し出して、アプローチする「攻め」の手法です。
一般的には、求職者データベースやSNSなどを活用して求める人材を探し出し、そのターゲットにスカウトメールを送ります。
求める人材に直接アピールできますが、ターゲットを絞り込みすぎると、採用候補となる人材まで取りこぼしてしまう可能性があります。
大学訪問で安定的な母集団を形成
大学側との信頼関係構築は、一朝一夕にはいきません。
何度も大学へ足を運んでコミュニケーションを取り合い、徐々に関係を築いていくため、時間や人的なコストがかかります。
しかし、一度関係性を構築できれば、学内就活イベントへの参加など、学生に自社を就職先として認識してもらえる機会を創出できます。
大学訪問は、ターゲット大学の学生に効率よくアピールできるため、少子高齢化が進む今後、採用の成果を大きく左右するかもしれません。
新卒採用に行き詰まりを感じている企業は、一度検討してみてはいかがでしょうか。