これまで、企業の人材育成で実施される研修は、対面式で行う集合研修が主流でした。
しかし、働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症拡大などの影響から、インターネットを活用した非接触型の研修「オンライン研修」を導入する企業が増えてきています。
とはいえ、「オンライン研修がどういうもので、e-ラーニングと何が違うのかよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、オンライン研修の種類やe-ラーニングとの違い、メリット・デメリットについて解説いたします。
また、オンライン研修のやり方や注意点についてもご説明いたしますので、ぜひご覧ください。
オンライン研修とは?
オンライン研修とは、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを用い、インターネットを通じて受講する研修のことです。
「Webセミナー」や「オンデマンド研修」とも呼ばれています。
講師のいる会場と受講者のいる各拠点をインターネット回線で接続することにより、対面式の集合研修と同様の状態で研修を受けることができます。
オンライン研修は、パソコンなどのデバイスやネット環境さえ整っていれば、場所の制限を受けません。
わざわざ研修会場へ足を運ぶ必要がないため、地方や海外のように、遠隔地に住んでいる人でも気軽に参加してもらえます。
近年は、テレワークの普及や新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンライン研修を行う企業が増加しています。
オンライン研修の種類
オンライン研修の配信方法や参加方法は、さまざまです。
ここでは、オンライン研修の種類についてご紹介いたします。
録画型、ライブ型
オンライン研修の配信方法は、「録画型」と「ライブ型」の2種類に分けられます。
録画型は、録画された研修動画を視聴する方法です。
講師や受講者同士でコミュニケーションを取り合うことはできませんが、スケジュール調整不要のため、受講者は都合の良いときに研修を受けられます。
ライブ型は、リアルタイムで研修動画が配信される方法です。
通信トラブルのリスクやスケジュール調整が必要といったデメリットはありますが、その場で講師に質問できるため、理解を深めることができます。
個人型、集合型
オンライン研修の参加方法は、「個人型」と「集合型」の2種類があります。
個人型は、自宅や自席など、各参加者が別々の場所で受講する方法です。
ZoomやSkypeのようなWeb会議ツールなどを用いることで、受講者同士でコミュニケーションを取りながら研修を受けられます。
また、個人型は自分のペースで学習できるため、録画型の研修に適しています。
集合型は、複数の参加者が会議室などの拠点ごとに集まり、参加する方法です。
従来の研修と同じように、受講者同士でコミュニケーションを取り合えるため、個人型よりもスムーズにグループワークやディスカッションを行えます。
e-ラーニングとオンライン研修の違い
e-ラーニングとは、あらかじめ録画された講義動画を視聴する教育スタイルです。
リアルタイム配信がメインとはいえ、オンライン研修にも録画型があるため、両者にどういった違いがあるのか混乱される方も多いでしょう。
ここでは、e-ラーニングとオンライン研修の違いについてご紹介いたします。
e-ラーニングは、身につけたい知識やスキルに応じたコンテンツを社員自身が選んで、自分のペースで受講します。
一方、オンライン研修は、あくまで“研修”なので、対象者全員が必ず受けなくてはならないものです。
例えば、「ビジネスマナー」「コンプライアンス」「会社のルール」といった、全社員共通で必要な知識は新入社員研修プログラムの定番になっています。
対して、「各商材の特徴・すすめ方」「プログラミングの知識」「エクセルの操作方法」のような、人によって必要性が変わる知識はe-ラーニングで配信されることが多いです。
オンライン研修の導入状況
オンライン研修の概要が分かったところで、オンライン研修がどの程度普及しているのか企業の導入状況を見ていきましょう。
2020年12月に行った『月刊総務』の調査によると、約7割の企業が新型コロナウイルス感染拡大後に、対面研修のオンライン化に着手していることが明らかになりました。
オンライン化した企業のうち、約8割が「オンライン化に成功した」と回答、成功していないと感じている企業は約2割に留まっています。
オンラインで実施している研修内容は、
階層別研修…3%
コンプライアンス研修…6%
職種別研修…7%
ビジネスマナー研修…5%
となっており、新入社員研修以外にも、様々な研修で実施されていることが分かります。
また、株式会社インソースが2020年3月に行った「オンライン研修に関シュルアンケート調査結果」によると、オンライン研修の導入を検討している企業は約6割です。
以上の結果から、オンライン研修を導入する企業が増加傾向にあることは明らかです。
オンライン研修は、受講者と企業の双方にとってメリットが大きいですし、働き方改革の推進や感染症予防にもなるため、今後はさらに導入する企業が増加していくでしょう。
オンライン研修のメリット・デメリット
ここでは、オンライン研修のメリット・デメリットをご紹介いたします。
メリット
会場代、移動コストなどがかからない
オンライン研修を導入する最大のメリットは、会場代や移動費用がかからない点です。
対面型の集合研修を行う場合、受講者が一堂に会する場所を確保しなくてはなりません。
受講者が少数または、広い会議室が自社にある場合は問題ないでしょうが、会議室がない企業や収容人数を超える受講者がいる場合、研修会場を借りる必要があります。
また、全国の拠点にいる社員を一ヶ所に集めて研修を行うとなれば、交通費はもちろん、宿泊費用も発生するでしょう。
オンライン研修はインターネット環境さえ整っていれば、どこからでも受講することができるため、会場のレンタルや移動にかかるコストを削減できます。
柔軟性のある研修の実施が可能
対面型の集合研修を行うには、講師や受講者のスケジュール調整が必須ですし、会場も確保しなくてはなりません。
そのため、頻繁に研修を開催したり、研修時間を延長して質問に答えたりすることは難しいです。
さらに、集合研修は、会場へ移動する必要があるため、傷病中や産休・育休中など外出が困難な社員の場合、研修に参加することはできないでしょう。
一方、インターネットを活用するオンライン研修は、時間や場所の制限を受けにくいです。
研修時間の延長や外出の難しい社員への教育フォローなど、柔軟性のある研修を実施することができます。
学習の習熟度を高めることができる
オンライン研修では、学習の習熟度を高めることができます。
というのも、対面式の集合研修の場合、その場で質問することができるのは大きなメリットですが、参加人数が多くなるほど、気軽に質問しづらい雰囲気になるからです。
ライブ型のオンライン研修であれば、周りの目を気にせずにその場で講師に質問することができます。
また、研修の様子を録画した動画をネットに上げておけば、研修終了後の振り返りや復習が容易なため、受講者の習熟度向上に役立ちます。
デメリット
実技研修などの実施はできない
個別型のオンライン研修の場合、ロールプレイングや、チームで行うビジネスゲーム、グループワークといった、実技研修には向いていません。
オンライン会議システムを使って、参加者同士のネット回線をつなげれば、ディスカッションは可能でしょう。
とはいえ、通信状態や設備(マイクやカメラなど)の影響を大きく受けるため、実技研修は対面式の方が適しています。
よって、オンライン研修は実技よりも座学向きの研修スタイルと言えます。
ただし、通信環境や設備が整った場所で行う集合型であれば、オンライン研修でも問題ないでしょう。
参加者のITリテラシーによって進行がスムーズにいかない
対面型の研修の場合、講師や受講者が会場に集まれば、すぐにでも研修をスタートすることができます。
しかし、オンライン研修の場合、インターネットを通じて受講するため、各受講者はデバイスを操作して、該当するルームに接続しなくてはなりません。
そのため、受講者のITリテラシーが低い場合、時間までに接続できない可能性もあります。
「音声や動画が途切れる」「マイクが入らない」といったトラブルにより、スムーズに研修が進まないといったケースも珍しくありません。
社員間のコミュニケーションがなく一体感がない
対面型の研修の場合、休憩時間や研修終了直後に受講者同士でコミュニケーションを取ることができますし、講師への質問もしやすいです。
一方、個人型のオンライン研修の場合、各受講者は別々の場所で研修を受けているため、受講者同士でコミュニケーションを取ることはできません。
また、ライブ型であっても、タイムラグの問題などにより、講師へ質問するタイミングが難しいといった側面もあります。
このように、オンライン研修は、社員間でのコミュニケーションが取りにくいため、一体感を醸成しにくいのがデメリットです。
オンライン研修の流れ
では、オンライン研修で学習効果を高めるには、どういった流れで進めていけば良いのでしょうか。
研修の目標(ゴール)を設定する
有意義な研修にするには、研修を実施した結果「参加社員にどうなってほしいのか」ゴールを設定することが重要です。
目標を設定しておけば、実施した研修の振り返りや効果検証を行えるため、次回に活かすことができます。
目標を設定する際は、
- 自社社員に足りないスキルや知識は何か
- どういう能力を持つべきか
- 職種や役職によってどういった課題があるのか
といった点に注目して、課題の抽出・分析を行いましょう。
社員の抱えている課題を洗い出すことで、コンテンツの作成や対象者、目的が見えてくるため、明確な目標を設定することができます。
研修の振り返りや効果検証を行うには、できる限り数値化するのがポイントです。
「SMARTの法則」にしたがって、目標設定しましょう。
【SMARTの法則】
- Specific(具体的である)
- Measurable(測定できる)
- Achievable(達成可能である)
- Related(上位目標と関連している)
- Time-bound(期限が決められている)
研修内容の検討
研修の目的や目標が決まったら、それを達成するには何をするべきかを検討し、詳細を決めていきます。
具体的には、
- 目標を達成するのに必要な研修内容やプログラムの検討
- 内製か外注か検討し、予算案を作成
- 研修スケジュールの作成
などです。
研修を社内で行うか、外部に委託するかは、「目標を実現できるかどうか」で決めましょう。
例えば、ポータブルスキル(成果を出す上で重要となる汎用性の高い能力)の習得や、仕事・課題への姿勢を身につけさせたい場合、内製でクオリティを確保するのは困難です。
その一方、企業理念の浸透や社内ルールの伝達を目的としている場合、外部に委託するよりも社内で行った方が高い効果を得られるでしょう。
研修を外部委託する場合は、講師の選定や予算・日程調整、顔合わせが必要となります。
オンラインorリアルへの振り分け
研修方法は、オンラインと対面式の2種類に大別されますが、それぞれに向き・不向きがあります。
例えば、基本的にオンライン研修は座学・講義向きの研修方法であり、実技を伴うプログラムには向いていません。
反対に、テキストやスライドを使って行う座学・講義型の場合、オンライン研修が適しています。
業界・職種に関する知識や技術の開発、企業理念といった目的の研修は、座学と相性が良いため、オンライン研修向きと言えるでしょう。
一方ディスカッションやグループワーク、ロールプレイングのように、実技を伴う研修は、対面式の集合研修の方が適しています。
このように、オンラインとリアルの特徴を把握しておくと、振り分けやすくなります。
コンテンツ開発
次に、研修で実施するコンテンツを具体的に決めていきます。
課題解決につながるコンテンツを作成することも重要ですが、
- 業務に活かすイメージを持ってもらえるか
- 自発的に参加してもらえるか
といった、受講者の満足度を向上させる工夫も必要です。
【新入社員研修プログラム例】
- 企業理念・ビジョンの説明⇒座学(経営者から説明)
企業理念やビジョンなど、自社の目指す方向性を示すことで、共通認識を持って働くことができます。
- ビジネスマナー研修⇒ロールプレイングで実践
電話対応や名刺交換など、社会人に必要なビジネスマナーを教える必要があります。
- 仕事でのコミュニケーション方法⇒グループワーク
報・連・相の重要性や仕方、立場の違う相手と円滑なコミュニケーションを取るための方法について学ぶ必要があります。
- PCの操作スキル⇒OJT
社会人にとってPCスキルは欠かせません。
業務を通じて学んでいくのが一般的ですが、個人差が大きいため「e-ラーニング」を用いて個別に学んでもらうのも良いでしょう。
実施
コンテンツが決まったら、いよいよ研修の実施です。
研修を行う際は、いきなり講義やワークから始めるのではなく、
- 講師の自己紹介
- 研修の目的
- 受講者同士の自己紹介
など、アイスブレイクを行いましょう。
研修の冒頭にこうした時間を設けることで、研修内容の理解度が促進され、受講者間のコミュニケーションも取りやすくなります。
研修の最後には、アンケートや確認テストを行ってください。
これらを省くと、研修実施の効果を正しく測定できません。
研修内容や資料、講師、研修時間などをアンケート調査すると、受講者の満足度を図ることができます。
また、研修内容をまとめた簡易的なテストを実施すれば、受講者の理解度を測定することが可能です。
検証
研修が一通り終わったら、アンケートやテスト結果をもとに、効果測定を行いましょう。
アンケートの項目や自由記入欄、確認テストの結果を確認すると、改善が必要な個所、盛り込むべき内容などが見えてきます。
アンケートで設定する項目は自由なので、設問次第で有効な情報を得ることが可能です。
研修テーマと関連性のある指標を実施前後で比較すると、研修が業績にどういう影響を与えたのかを測定することもできます。
例えば、
営業・接客・クレームがテーマの研修⇒契約率・顧客満足度・クレーム発生率
ミス防止がテーマの研修⇒ミスの発生数・ヒヤリハット数
商品知識や専門知識がテーマの研修⇒資格取得率
リーダーや管理職向けの研修⇒離職率・従業員満足度・昇格率
などです。
ただし、研修以外の外的要因の影響も受けることは、念頭に置いておきましょう。
オンライン研修の注意点
オンライン研修を実施する際の注意点についてまとめましたので、参考にご覧ください。
使用するツールの使い方をマスターしておく
ツールの操作に手間取ったり、不具合が起きたりして研修がスムーズに進まないと、集中力や理解度の低下を招きます。
オンライン研修を実施する当日までに、何度かリハーサルを行って、ツールの使い方をマスターしておきましょう。
オンライン研修は、受講者側の協力も必要です。
受講者には、安定的なネットワーク環境やマイク・スピーカー(録画型除く)が必要であることを伝えた上で、操作方法を共有しておくと、トラブルを防止できます。
オンライン研修でも見やすい資料を用意する
資料の見やすさは、研修の質に大きな影響を与えます。
オンライン研修では、対面式の集合研修のような大きなスクリーンは使用しません。
受講者は、自分が使用しているデバイスの画面を視聴しているため、文字が小さいと非常に見づらいです。
文字のサイズは28~36くらいに設定し、1つのスライドに情報を詰め込まないよう意識しましょう。
万が一の通信トラブルに備えて、代替案を用意しておく
録画型の場合は問題ありませんが、ライブ型の場合、オンライン会議ツール自体に不調が発生して使えなくなる可能性もあります。
そのため、トラブル発生時に落ち着いて対処できるよう「複数のツールを用意しておく」「万が一の際の連絡手段を確保しておく」ことが大切です。
電話やチャットアプリなどの連絡手段をいくつか用意しておき、トラブル発生時の連絡先を明示しておきましょう。
できるだけ一方通行にならないように工夫する
オンライン研修は、一方通行になりがちです。
一方的な発信は、受講者のモチベーションが下がりやすくなるため、双方向のコミュニケーションができるよう工夫しましょう。
適宜質問タイムを設けたり、「こういうとき、どうしますか?」と話を振ったりすると、受講者の注意を引くことができます。
また、「眠くなってないですか?」「あともう少しだから頑張って」のように、話しかけるのも良いでしょう。
研修内容をあとで振り返れるように録画などの準備をする
オンライン研修の場合、どれほど入念に準備しても、通信トラブルを完全に防ぐは難しいです。
「画像や音声が正常に作動しない」といった異常が受講者に起きても、都度確認できるわけではないので、そのまま進んでいってしまうこともあります。
研修の様子を録画しておき、いつでもアクセスできるようネットに上げておけば、研修後の振り返りができます。
聞き逃した箇所の確認や復習も容易に行えるため、受講者の理解度向上につながるでしょう。
オンライン研修の特徴を把握した上で活用しよう
オンライン研修は、インターネットを活用して行う非接触型の研修です。
通信トラブルやコミュニケーションが取りづらい側面はあるものの、場所の制限を受けないため、遠隔地に住む社員も気軽に参加できます。
会場のレンタル代や移動費用がかからないため、コスト削減につながります。
また、働き方改革の推進にもつながるため、オンライン研修を導入する企業は今後さらに増加していくでしょう。
ただし、オンライン研修に向いていないコンテンツもあります。
研修を実施される際は、オンライン研修の特徴やメリット・デメリットを把握した上で、適切な方法を選択しましょう。
オンライン研修を導入する場合は、ご紹介したオンライン研修の流れや注意点を参考にしてください。