ポータブルスキルとは?構成要素や必要とされる理由、活用のメリット、向上させる方法について解説!

人材の流動化やグローバル化が進む近年、持ち運び可能な能力「ポータブルスキル」の重要性が増しています。

 

ポータブルスキルは、業種や職種にかかわらず仕事をする上で役立つ能力であり、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力です。

 

ポータブルスキルは、労働者自身の価値向上だけでなく、採用や育成、人員配置などにも有効活用できるため、企業にとっても大きなメリットを得られます。

 

そこでこの記事では、ポータブルスキルの概要や構成要素、必要とされる理由について詳しく解説いたします。

 

活用のメリットや向上させる方法についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

ポータブルスキルとは

ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても持ち運びできる能力です。

 

「専門知識・専門技術」「仕事の仕方」「人との関わり方」に分類されており、実務経験や資格のような明確な基準はありません。

 

ポータブルスキルは、特定の職種や時代背景に捉われない汎用性の高いスキルを指すことから、「ビジネス基礎力」とも言われています。

 

労働市場の流動化を受け、多くのビジネスパーソンから注目されているスキルです。

 

ポータブルスキルの構成要素

厚生労働省では、ポータブルスキルは「専門技術・専門知識」「仕事の仕方」「人との関わり方」の3つから構成されていると定義づけています。

 

ここでは、各要素について見ていきましょう。

 

厚生労働省「“ポータブルスキル”活用研修 講義者用テキスト」

参考:厚生労働省「“ポータブルスキル”活用研修 講義者用テキスト

 

専門知識・専門技術

専門知識・専門技術は、業務遂行のために必要となる技術や知識のことです。

 

特定の業界・業種で求められる能力で「テクニカルスキル」とも言われています。

 

語学力のように、持ち運び可能なスキルも存在しますが、その大部分は特定の分野での活動に必要なスキルのため、活用の範囲は限定的です。

 

従来の労働市場で特に重要視されていました。実務を行う上で欠かせないため、今現在でも重要なスキルと言えるでしょう。

 

特に専門性の高いスキルは、組織に付加価値を与えるため高いニーズがあります。

 

仕事の仕方

仕事の仕方は、

  1. 課題を明らかにする
  2. 計画を立てる
  3. 実行する

の3つの要素に分類されます。

 

これらは、課題解決に必要な能力であることから、「課題解決力」とも言い換えられます。

 

業界・職種に関係なく、仕事で成果を上げるには欠かせない能力です。

 

課題を明らかにする

仕事の効率化を図るには、課題を明らかにする必要があります。

 

そして、課題を明らかにするには、

 

現状把握力…課題や目標を正しく設定するための準備段階として、現状の把握や情報分析を適切に行う能力

課題設定力…情報やデータをもとに、注力するべき課題を見定める能力

 

の2つの能力が欠かせません。

 

計画を立てる

課題を設定したら、当然それを達成するための計画を立てる必要があります。

 

計画を立てる力は、目標達成に向けた計画期間の設定や、関係者のスケジュール調整、タスクの優先順位づけと、その納期設定などを適切に行う能力です。

 

実行する

課題を解決するには、実行力も必要です。自分の役割を果たす遂行力はもちろん、状況に応じて柔軟に対応する力も欠かせません。

 

よって、実行する力には、

 

課題遂行力…課題や目標をクリアするために遂行する能力

対応力…先を予測したり、トラブル発生時にも臨機応変に対応したりする能力

 

の2つの能力が求められます。

 

人との関わり方

人との関わり方は、

  1. 社内対応
  2. 社外対応
  3. 部下マネジメント

の3つに分類されます。

 

社内外の人たちと円滑なコミュニケーションを取ったり、部下を教育したりする能力のことです。

 

他者と関わらずに完結する仕事はほぼないので、対人関係のスキルはあらゆる業種・職種に求められます。

 

対人関係のスキルが高いと、相手と良好な関係を築けるため、業務効率化やパフォーマンスを向上させる効果があります。

 

業務のオンライン化が進む昨今、特に重要なスキルと言えるでしょう。

 

社内対応力

社内対応力は、立場の違う人たちとも適切にコミュニケーションを取って、協働する能力です。

 

仕事は一人では完結しません。

 

経営層や上司、関係部署からの指示に対応したり、周囲に協力を要請したりすることもあるため、ビジネスパーソンには社内対応能力が求められます。

 

社外対応力

社外対応力は、顧客や取引先と信頼関係性を高める能力です。

 

コミュニケーションを通じて、相手が何を求めているのかをいち早く察知し、行動することで信頼関係を築いていきます。

 

部下マネジメント力

部下マネジメント力は、指導・育成・評価を通じて部下の成長を促す能力です。

 

適切なマネジメントを行うには、部下の人数や評価、指導・育成が必要なポイントなどを見極めるスキルが必要です。

 

ポータブルスキルの関連用語

人物評価の基準は、ポータブルスキルの他にも様々なスキルがあります。

 

ここでは、人物評価の基準として重要視されているスキルについてご紹介します。

 

スタンス

スタンスは、物事に対峙する際に取る立場や姿勢のことです。

 

ビジネススキルにおいては、「キャリア構築時に抱く感覚や意識」といった意味で用いられています。

 

仕事の基礎的な能力を図る「ビジネスポテンシャル」や、仕事の原動力となる「モチベーション」を指すこともあります。

 

テクニカルスキル

テクニカルスキルは、特定の業界・職種で求められる能力です。

 

専門性の高い仕事に従事するにあたって、必要となる知識や資格のことを言い、即戦力採用で重視されています。

 

トランスファラブルスキル

トランスファブルスキルは、「対課題スキル」「対人スキル」「対自己スキル」の3つから構成されている能力です。

 

持ち運び可能な能力という点では、ポータブルスキルと同じです。

 

しかし、ポータブルスキルがビジネスパーソン向けであるのに対し、トランスファブルスキルは主に社会人未経験者に対して用いられる点が大きく異なります。

 

社会人基礎力

社会人基礎力は、職場や地域社会で多様な人たちと働くために必要な基礎力です。

 

「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つとそれを構成する12の能力要素から成ります。

 

ポータブルスキルスキルよりも「社会人として働くための個人の能力」に焦点を当てているのが特徴です。

 

共通する要素もありますが、社会人基礎力は協調性や実行力が重視される傾向にあります。

 

 

 

なぜポータブルスキルが必要なのか

ではなぜ、ポータブルスキルの重要性が増しているのか、その理由を見ていきましょう。

 

終身雇用制度の崩壊

かつての日本企業では、終身雇用や年功序列といった独自の雇用慣行が浸透していました。

 

こうした雇用慣行が機能していた時代では、「入社したら定年まで同じ会社に勤める」のが一般的でした。

そのため、勤務先の企業や業界特有のスキルを磨くことが、昇格・昇給といった労働者のメリットにつながりやすかったのです。

 

しかし、終身雇用制度が崩壊して転職が一般化した現在、業界や企業独自のスキルのみを高めても汎用性が低いため、ビジネスパーソンとしての市場価値は高まりません。

 

よって、テクニカルスキルよりも、あらゆる業種・職種で役立つポータブルスキルが重要視されるようになったのです。

 

IT技術の発展やグローバル化

IT技術の発展やグローバル化等の影響を受け、ビジネスを取り巻く環境は大きく変わりました。

 

消費者のニーズは多様化・複雑化し、プロダクトのライフサイクルは短期化していますし、国外の企業と競い合う力も求められています。

 

また、それに伴ってスキルが陳腐化するスピードも速まっています。

 

つまり、採用時のテクニカルスキルを重視しても、数年後にはその価値が半減してしまう可能性があるのです。

 

さらに言うと、テクニカルスキルが高いからといって、必ずしも自社で活躍できるとは限りません。

 

テクニカルスキルを最大限発揮するには、課題解決力や対人関係スキルが必要です。

 

したがって、厳しい状況の中で企業が生き残るには、特定のスキルだけでなく、あらゆる場で役立つポータブルスキルが重要となるため、必要性が高まりました。

 

ポータブルスキル活用のメリット

ポータブルスキルの活用で、どのようなメリットを得られるのか、企業・労働者それぞれに分けてご紹介いたします。

 

企業

ポータブルスキルを活用すると、企業は「採用力向上」「人材育成・能力開発」「適材適所の人員配置」といったメリットを得られます。

 

採用力向上

かつての労働市場では、専門知識・技術を特に重視した採用が行われていました。

 

しかし、いくら専門知識・技術が高く、高い実績を挙げた人材でも、必ずしも自社で活躍するとは限りません。

 

「意欲が低い」「企業の価値観とズレている」などの場合、入社後の成長度や貢献度は低くなりがちです。

 

一方、多少専門知識・技術が不足していても、課題解決力や対人関係スキルがある志望意欲の高い人材は、自社での早期活躍を期待できます。

 

以上のことから、コミュニケーション力や考え方などのポータブルスキルを採用条件に組み込むと、質の高い人材を採用することができます。

 

人材育成・能力開発

従業員の保有しているポータブルスキルと、そのレベルを把握することができれば、従業員一人ひとりに合わせた育成計画を立てやすくなります。

 

また、従業員が正しく自己を認識できるようになれば、ポータブルスキルの向上を意識した行動を取るようになるため、能力開発や業務効率化にもつながるでしょう。

 

適材適所の人員配置

ポータブルスキルと評価基準を連携させると、業績や経験だけでは分からない従業員の能力や人柄を把握することができます。

 

もちろん専門知識・技術も重要ですが、人柄や考え方など評価基準が多彩になることで、仕事やメンバーとの相性を測れるため、適材適所の人員配置が実現しやすくなります。

 

労働者

つづいて、ポータブルスキルを高めると労働者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

転職で有利になる

先述のように、終身雇用や年功序列といった日本独自の雇用慣行は崩壊しているため、この先も同じ会社に勤め続けるとは限りません。

 

ライフスタイルに合わせて自由に働き方を選べるようにするためにも、ポータブルスキルを磨いて労者自身の市場価値を高める必要があります。

 

能力向上

「仕事の仕方」や「人との関わり方」で構成されているポータブルスキルを磨くと、課題解決力やコミュニケーション力が向上します。

 

スケジュール管理や調整、部下の育成といったマネジメント層に必須の能力も高まるため、ビジネスパーソンとしてもランクアップできるでしょう。

 

ポータブルスキルを向上させるには

従業員のポータブルスキルを磨くと、従業員一人ひとりの能力が向上します。

 

結果的には企業の生産性につながるため、近年ポータブルスキル向上に注力する企業が増えています。

 

ここでは、ポータブルスキルを向上させる方法についてご紹介いたします。

 

目標管理と評価制度の整備          

従業員のポータブルスキル向上には、目標管理と評価制度の整備が必要です。

 

「どうすればポータブルスキルを磨けるか」「業務上どんな考え方が求められるのか」「どのような行動を評価するのか」などを明確にしていきます。

 

これらを明確化すると、ポータブルスキル向上のためにどういった行動や考え方をすれば良いのかが明らかになるため、従業員は目的意識をもって取り組めるようになります。

 

定期的に目標達成の進捗状況や目標内容、管理者を見直しましょう。

 

目標管理の手法としては、目標と主要成果によって目標達成を目指す「OKR」が有効です。

 

厚生労働省の研修システム

厚生労働省では、2014年から「“ポータブルスキル”活用研修」を実施しています。

 

ポータブルスキル活用研修では、仕事における問題提起や社内外のコミュニケーション術、部下の指導ノウハウなどについて触れられています。

 

厚生労働省のホームページでは、ポータブルスキル活用研修の「参加者用テキスト」と「講義者用テキスト」を公開しているため、社内研修や従業員の学習に活用できるでしょう。

 

スライドや解説資料、ワークシート、ロールプレイング資料、動画などをダウンロードできます。

 

厚生労働省「ミドル層のキャリアチェンジにおける支援技法

 

ポータブルスキル向け外部研修

ポータブルスキルを高めるには、民間企業が行う外部研修サービスを活用するのも一つの手です。

 

新入社員向けのビジネスマナーやリーダーシップ、コミュニケーションなど、様々な研修を用意している企業もあるため、従業員の役職やスキルレベルに合わせた育成を行えます。

 

ポータブルスキルは人材活用を有用にさせる

ポータブルスキルは、持ち出し可能な能力で「専門技術・知識」「仕事の仕方」「人との関わり方」の3つから構成されています。

 

業種・職種、役職に関係なく、あらゆる場で役立つ汎用性の高さから、すべてのビジネスパーソンが身につけるべきスキルと言えるでしょう。

 

ポータブルスキルを活用すると、採用力の向上や従業員の能力育成、適材適所の人員配置といった効果も期待できます。

 

組織力の強化にもつながることから、従業員のポータブルスキル向上に注力する企業が増加しています。

 

人材管理・評価制度の整備や研修の実施によって、ポータブルスキル向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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