能力や職務、役割によって従業員をランクづけする等級制度は、報酬に直結するため、従業員のモチベーションを左右する重要事項です。
リモートワークやグローバル化が広まったことから、等級制度を見直す企業が増えています。
この記事では、等級制度の概要や種類、各制度のメリット・デメリットについて解説いたします。
活用方法や導入事例についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
等級制度とは
等級制度とは、従業員の能力や職務、期待される役割などをもとに、従業員を分類・序列化する制度です。
人材の育成や異動、評価、給与など、人事労務を実行する上でのベースとなるため、等級制度を整備すると会社が求める社員像が明確になります。
従業員自身が、会社が理想とする社員像を理解できるようになれば、モチベーションの向上にもつながります。
等級制度の分類基準
等級制度には、
- 能力(職能資格制度)
- 職務(職務等級制度)
- 役割(役割等級制度)
の3つの分類基準があります。
職能資格制度
職能資格制度は、従業員の持つ能力で等級を定める制度です。
3つの分類基準のうち、唯一「人」を対象としています。
職務等級制度
職務等級制度は、仕事の中身や難易度に応じて等級を定める制度です。
職務等級の分類対象はあくまで「仕事」なので、職務を遂行できたかどうかのみで判断されます。
役割等級制度(ミッショングレード制度)
役割等級制度は、「職能×職務=役割」という考えをもとに、従業員を序列化する等級制度です。
ミッショングレード制度とも言われています。
これら3つの分類基準を単独または組み合わせることで、柔軟性や公平性を担保しながら序列化することができます。
年功序列や終身雇用といった独自の雇用慣行が根づいていた日本では、職能資格制度を取り入れる企業が多いです。
その一方、外資系やベンチャー企業では職務等級制度や役割等級制度が多く導入されています。
職能資格制度とは
職能資格制度とは、業務遂行にあたり、どの程度の能力を有しているかで評価される制度です。
ただし、職能資格制度の能力は特定の職務に関するものではありません。
仕事に関する基本的な知識や技術、意欲、判断力のような習熟によって身につくものなどについて評価されます。
職務を超えた職能を設定する職能資格制度は、勤続年数の長い従業員の方が評価されやすいです。
そのため、年功序列を基盤とした高度成長期の日本では効果的に機能してきましたが、人件費増大などの問題が表面化したことで、職務等級や役割等級制度に変更する企業が増えています。
ジョブローテーションなどで、ゼネラリストを育成する企業に適した制度と言えるでしょう。
なお、職能資格制度での等級と組織内の職位は、必ずしも一致するわけではありません。
職能資格制度のメリット
職能資格制度にも様々なメリットがあります。
ゼネラリストの育成に向いている
職務資格制度は、ゼネラリストの育成に向いています。
というのも、職務等級制度や役割等級制度は職務や役割によって、業務を割り振って等級づけしますが、職能資格制度の等級は職務を超えて設定されるからです。
職務を限定しないことからジョブローテーションや人事異動によって、様々な職種や業務を経験させることができるため、ゼネラリストの育成に向いています。
職務経験の偏りが少なければ、急な欠員による社内調整もしやすくなるでしょう。
長期間の人材育成に向いている
職能資格制度は、「能力は勤続年数に比例して上がる」という考えにもとづいているため、専門性の問われる製造業や管理者のように、長期育成が必要な人材の育成に適しています。
また、ジョブローテーションなどで様々な職種・業務を経験させることで、汎用性の高いスキルを獲得できます。
自社に最適化した人材を育成できるため、長期就業が見込める場合、有効な制度と言えるでしょう。
モチベーション向上につながる
職能資格制度は在籍期間が長くなるほど評価が高まり、給与や職位が上がっていきます。
全従業員に昇給の機会が平等に与えられているため、離職防止やモチベーション向上につながります。
長期育成の環境が整うため、優秀人材の確保にも役立つでしょう。
職能資格制度のデメリット
では、職務資格制度を導入するとどういったデメリットが生まれるのでしょうか。
人件費が高騰する可能性がある
職務資格制度は、経験値と能力が比例すると考えられていることから、年功序列的な運用になりがちです。
そのため、在籍期間の長い従業員が増えると、ポスト不足や人件費の高騰を招く可能性があります。
評価が難しい
職能資格制度は、従業員の職務遂行能力が低下しないことを前提としているため、実際の貢献度と評価に乖離が生じる可能性があります。
また、能力という抽象的な概念によって評価するため、評価基準が曖昧になりやすく、客観的に評価するのが難しいです。
若手社員のモチベーション維持が難しくなることもある
職能資格制度は、在籍期間の長い従業員ほど評価が高くなりがちです。
そのため、社歴の浅い若手社員はベテラン社員との間に待遇差を感じやすくなります。
貢献度の低いベテラン社員がいる場合、成果を評価してもらえない環境に不満を募らせやすくなり、若手社員のモチベーション低下や離職につながる可能性が高まります。
職務等級制度とは
職務等級制度とは、職務を遂行できたかどうかで評価される制度です。
雇用形態や勤続年数に関係なく、仕事の成果に応じて評価されることから「成果主義」とも呼ばれています。
働き方改革で同一労働同一賃金が普及したことによって、「仕事内容が同じなら待遇に格差を設けるべきではない」という考えが広まり、職務等級制度を導入する企業が増えました。
職務等級制度を導入するには「職務記述書(ジョブディスクリプション)」で、職務ごとに担当業務や責任の範囲、必要な知識や資格などを詳細に作成する必要があります。
ただし、ジョブディスクリプションの作成には、各職務への深い理解が必要となる上、非常に手間がかかるため、組織や業務が頻繁に変化する企業には適していません。
職務等級制度のメリット
職務等級制度のメリットについて見ていきましょう。
ミスマッチ採用を防止できる
職能資格制度はジョブディスクリプションの作成が必須です。
ジョブディスクリプションには、職務遂行に必要な能力や経験といった採用要件に加え、担当する業務や権限の範囲まで詳細に記述されます。
求職者は、求める人物像や仕事内容を理解した上で応募してきますし、採用基準も明確になるため、ミスマッチ採用の防止につながります。
スペシャリストの育成に向いている
職務等級制度は、職務に必要な能力がランクごとに明示されているため、どのようなスキルや知識を身につければ待遇アップにつながるのかが明確です。
また、特定のポジションに合う人材を採用するため、原則としてジョブローテーションや異動は発生しません。
特定の仕事に必要なスキルを磨いていけるので、スペシャリストの育成に適しています。
若手社員のモチベーションを保ちやすい
職務等級制度は、ジョブディスクリプションに記載された内容をもとに報酬が決まるため、客観性の高い公正な評価が実現します。
成果を出せば評価されるため、社歴の浅い若手社員のモチベーションを保ちやすいです。
人件費の変動が少ない
年功序列的な運用になりがちな職能資格制度は、勤続年数が長くなるほど人件費が高騰します。
しかし、職務等級制度は業務内容が変わらない限り給与も変わらないため、人件費の変動を抑制することが可能です。
職務等級制度のデメリット
様々なメリットを得られる職務等級制度ですが、デメリットも存在します。
人事業務の負担増大
職務等級制度はジョブディスクリプションをもとに報酬を決定するため、給与や賞与の制度を改定する場合、都度ジョブディスクリプションを見直さなくてはなりません。
また、適性に評価するには、各従業員の仕事内容を詳細に確認する必要があるため、評価にも手間や時間がかかります。
組織の硬直化を招く可能性がある
職務等級制度は特定のポジションに合う人材を採用します。
入社後はジョブローテーションを実施しないため、スペシャリスト育成には適していますが、幅広い仕事に対応できるゼネラリストの育成には向いていません。
職務等級制度の採用に偏ると組織の硬直化を招く可能性があるため、迅速かつ柔軟な人員配置は困難になるでしょう。
役割等級制度とは
役割等級制度とは、仕事の成果と個人の能力を加味して評価する制度です。ミッショングレード制度とも呼ばれています。
職務等級制度と同様、仕事を基準としていますが、ジョブディスクリプションほど明確かつ詳細に定義づけるものではありません。
職務を遂行するために取るべき行動をランクごとに設定し、それに応じて給与テーブルが決まります。
人事業務の負担を減らしつつ、成果主義的な評価を行えるため、職能資格制度と職務等級制度のメリットを合わせた制度と言えるでしょう。
役割等級制度のメリット
職能資格制度と職務等級制度のメリットを合わせた役割等級制度は、導入のしやすさから急速に普及しています。
具体的にどういったメリットが得られるのか見てみましょう。
ポジションに応じた評価を行える
役割等級制度は、求められる役割や難易度、会社が期待している成果などによって、ランクづけします。
一般社員や管理職といった職位に関係なく、ポジションの貢献度に応じた客観的な評価が実現します。
人件費の抑制につながる
役割等級制度は仕事ベースで給与が決定するため、勤続年数や年齢に関係なく成果を出せれば昇格・昇給しますし、成果を出せなければ降格・降給の対象になります。
職能資格制度のように、勤続年数に比例した賃金アップを行う必要はないので、人件費の抑制につながります。
目標管理しやすくなる
職能資格制度は、幅広い職務で求められる能力を評価するため、評価基準が曖昧になりがちです。
一方、職務等級制度はジョブディスクリプションで詳細に評価基準を設定するため、手間や時間がかかります。
両者の間を取る役割等級制度は、人事業務の負担を軽減しつつ、客観的かつ明確な基準を設定できるため、目標管理しやすくなります。
目標が明確になれば、従業員の自発的な行動も促されるでしょう。
役割等級制度のデメリット
つづいて、役割等級制度のデメリットについてご紹介いたします。
不満を抱く社員もいる
役割等級制度は、従業員ごとに役割を設定できます。
役職者のような上位ポジションの場合、難易度や求められる成果が高い役割をいくつも設定されることがあります。
これまで以上に業務負担が増えるによって、モチベーションの維持が難しくなることもあるでしょう。
また、職能資格制度から役割等級制度に変更する場合、報酬決定の評価に社歴は含まれなくなるため、ベテラン社員から不満が生じる可能性があります。
単なる人件費削減の手段として用いられることがある
人件費が増大しやすい職能等級制度を導入している企業の中には、単なる人件費削減の手段として役割等級制度を導入するケースもあります。
降格・降給となった従業員が発生した場合、理由を提示できないと従業員からの反発やトラブルの原因になるため、注意が必要です。
ノウハウがない場合、コンサルタントへの相談などを行った上で、導入を検討するべきでしょう。
職能資格制度を用いた人事労務管理
3つの等級制度では、基準となるものが異なるため、人事労務管理の方法も異なります。
ここでは、職能資格制度を活用した人事管理についてご紹介いたします。
職能等級の設定と要件決め
職能等級のレベルは、企業規模や業務実態などを加味して設定します。
等級数が多いと等級ごとの差が分かりづらくなり、少なすぎると幅が広くなるため、能力差の大きい従業員が同じ等級内に混在することになります。
また、昇格・昇給する機会が減少するとモチベーション維持が難しくなるので、注意が必要です。
等級を設定したら各等級の要件を保つために、必要な能力を洗い出します。
初級・中級・上級の3つ段階に分け、初級と上級を定義づけてから中級に必要な要件を設定すると良いでしょう。
定期的な確認
試験や面接などを定期的に実施し、従業員が設定した等級レベルを満たしているか、確認しましょう。
従業員のレベルを確認したら、等級レベルに応じて昇給・昇進を検討します。
このとき、2年分程度の人事評価を参考にすると良いでしょう。
というのも、「偶然上手くいった」ということもあるので、直近1回分だけで昇格・昇進を決めてしまうと本来のレベルと異なる等級になる可能性があるからです。
また、過去の評価を引きずり過ぎても妥当な評価ができません。
職務等級制度を用いた人事労務管理
職務等級制度は、責任の程度や業務遂行に必要な知識、経験、精神的・肉体的な負担などに応じて、序列化します。
仕事内容によって等級づけすることで、成果主義的な賃金体系になります。
職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成
職務等級制度は、業務内容によって等級が変わるため、ジョブディスクリプションの作成が欠かせません。
業務内容や求められる職務行動、知識・資格、権限・責任などを具体的に記載しましょう。
賃金体系を定める
業務内容ごとに賃金を設定しましょう。
仕事ベースで報酬が決まる職務等級制度の場合、賃金が他企業と大きく乖離すると従業員の間に不満が生じます。
そのため、賃金額は同程度の規模や同業者の賃金水準と比較した上で決定することが重要です。
また、標準生計費や消費者物価指数は変動するため、設定した後も数年単位で見直す必要があります。
従業員のランク分け
従業員のレベルを洗い出し、当てはまる等級に分類していきます。
職務等級制度は業務遂行能力で判断するため、勤続年数や年齢といった要素は考慮しません。
役割等級制度を用いた人事労務管理
役割等級制度は期待される役割によって等級が変わるため、職務や職責を明確にすることが重要です。
役割等級の設定
役割等級レベルを設定します。
等級レベルは、多すぎれば差別化が難しくなり、少なければ同じ等級内でレベルの異なる役割が混在することになるため、注意が必要です。
従業員数によっても異なりますが、管理職層で2~3ランク、一般職で3~6ランク程度が妥当でしょう。
「どの仕事にどんな人が当てはまりそうか」を、具体的にイメージしながら検討するのがポイントです。
等級の要件を決める
次は等級ごとの要件決めです。
等級レベルの設定でイメージした、従業員や仕事を等級要件に当てはめていきます。
例えば、部長職であれば「経営者の方針をもとに部署内の活動方針や目標を立てて、達成に向けて経営資源を最適に配分する」など、役割等級ごとに業務レベルを設定します。
職能資格とリンクさせる
役割等級制度は職務等級制度と同様、仕事ベースでの評価が中心です。
従業員の能力である「職能資格」の要素を加えて、総合的に従業員を評価できるよう整えましょう。
等級制度の導入事例
年功序列的な運用になりがちな職能資格制度から、職務等級制度や役割等級制度に移行する企業が増えています。
ここでは、職務等級制度や役割等級制度の導入事例についてご紹介いたします。
カゴメ株式会社
カゴメでは、2013年から職務等級制度への移行を目指して、グローバル人事制度の仕組みづくりを進めています。
2014年7月には、職務の大きさと市場価値を考慮したグレードの設定とそれに応じた人事施策を行う「グローバル・ジョブ・グレード」を取締役や役員などの一部職位で実施しました。
2015年4月には、グローバル・ジョブ・グレードの課長職施行とともに、「課長職評価・報酬制度」も実施されています。
世界中どこにいてどんな仕事をしても、公平・公正な評価を受けられることを目指しており、今後はカゴメグループ共通の育成・登用などの施策を行う予定です。
小見出し:キヤノン株式会社
キヤノンでは、2001年に職能等級制度から役割等級制度への段階的な移行が行われました。
定期昇給や手当といった属人的要素を除いて、職責や成果などに応じて報酬を支払う仕組みに変更されています。1年間の業績やプロセス、行動を評価して年収が決まります。
現在では、国内グループ企業とアジアの生産会社で導入済みです。
また、年に2回の1on1ミーティングで目標の設定や達成状況、課題、キャリアプランについて話し合うことで、従業員の納得性を高めています。
等級制度を整備してモチベーションを向上させましょう
等級制度には、「能力」「職務」「役割」の3つの分類基準が存在します。
それぞれ評価基準は異なるため、どの等級制度を導入するかでメリット・デメリットも変わってきます。
報酬に直結する等級制度は、従業員のモチベーションに大きな影響を与えるため、企業規模や従業員の構成比、ビジョンなどを踏まえて、検討することが重要です。
ご紹介した内容を参考に、自社に適した等級制度を整備しましょう。