毎年11月~12月になると、年末調整業務で担当者は多忙を極めることでしょう。
年末調整は、従業員から源泉徴収した所得税の過不足を清算するための重要な手続きですが、実はよく知らないまま業務を行っている方も少なくありません。
この記事では、年末調整の基礎知識やスケジュールと流れ、必要書類について解説いたします。
また、確定申告が必要なケースや年末調整実施時の注意点についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
本記事で取り扱う内容は、法令の変更などで情報が変更されることがあります。
そのため、所管する省庁のホームページ等もあわせてご確認ください。
▼国税庁
年末調整とは
年末調整とは、従業員が納税する1年間の所得税を清算するための手続きです。
通常、企業に雇用されている労働者は、給与から所得税や復興特別所得税が源泉徴収されています。
しかし、源泉徴収額はあくまで概算なので、「給与額の変動」や「控除対象扶養親族の異動」「各種控除(生命保険料や地震保険料など)」といった個別の事由は考慮されていません。
よって、源泉徴収された税の1年間の合計額は、年間の給与総額に対する納税額と完全には一致しないことがほとんどです。
そのため、1年間の給与額が確定する年末に、その年の納税額を計算し、源泉徴収した税額との過不足額を求めて精算(差額の徴収もしくは返金)する「年末調整」が必要となります。
年末調整に関する用語
年末調整を正確に行うには、関連用語を正しく理解する必要があります。
ここでは、所得税や源泉徴収といった年末調整に関する用語について解説いたします。
所得税
所得税とは、個人の所得(収入から経費などを差し引いた「もうけ」)に対してかかる税金のことです。
1年間のすべての所得から一定額(所得控除)を差し引いた、残りの所得(課税所得)に対して税率を適用して税額を計算します。
日本は累進課税制度を採用しているため、所得が大きいほど税率が高くなります。
復興特別所得税
復興特別所得税とは、東日本大震災からの復興財源として用いるためにできた税金です。
2037年12月31日まで通常の所得税に上乗せして徴収されます。復興特別所得税の額は、源泉徴収される所得税の2.1%です。
源泉徴収
源泉徴収とは、給与などの所得を支払う者が所定の方法で所得税額を計算・徴収し、支払を受ける者に代わって国に納付する制度です。
「給与」はもちろん、「利子」「配当」原稿料や講演料、弁護士、税理士などに支払う「報酬」も源泉徴収が必要となります。
確定申告
確定申告とは、1年間に生じたすべての所得金額と、それに対する所得税・復興職税の額を自分で計算・申告し、清算する手続きのことです。
個人事業主やフリーランスだけでなく、副業で一定以上の所得を得た会社員や医療費控除を受ける会社員も確定申告が必要となります。
確定申告の期間は、原則翌年2月16~3月15日までです。
年末調整の対象者と対象外の従業員
ここでは、年末調整の対象になる人・ならない人の条件についてご紹介いたします。
対象者
年末調整の対象者は、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員全員です。
具体的には、
- 1年を通じて勤務している人
- 年の中途で就職し、年末まで勤務している人
- 年の中途で海外転勤などによって、非居住者となった人
- 死亡により年の中途で退職した人
- 心身障害により年の中途で退職し、本年中の再就職が見込めない人
- 12月中に支給されるべき給与を受けた後に退職した人
- パートなどが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与総額が103万円以下の人 (退職後本年中に他の勤務先から給与支払を受ける見込みがある場合を除く)
が対象となります。
対象外の従業員
年末調整の対象とならない従業員は、
- 1年間の給与収入が2,000万円を超える人
- 災害減免法により、本年分の給与に対する所得税や復興特別所得税の源泉徴収について猶予または還付を受けた人
- 2カ所以上から給与の支払を受けており、他の給与支払者に「扶養控除等(異動)申告書」を提出している人
- 年末調整までに「扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人
- 非居住者
- 一定の条件を満たす日雇労働者など
です。
確定申告が必要なケースがある
基本的に年末調整を行えば確定申告は不要ですが、中には確定申告が必要となるケースもあります。
従業員から問い合わせが入ることもあるので、あらかじめアナウンスしておくと良いでしょう。
副業の所得が20万円を超える場合
本業とは別に、20万円を超える所得(給与所得・事業所得・不動産所得など)がある従業員は、確定申告が必要となります。
なお、「扶養控除等(異動)申告書」は、主たる給与の勤務先(本業の勤務先)にのみ提出します。
2カ所以上から給与支払を受けている従業員には、従たる給与の勤務先(副業先)に提出しないよう、呼びかけましょう。
マイホームを取得した場合(住宅ローン控除)
住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高の1%が、10年間にわたって所得税や住民税から控除される制度です。
一定要件を満たした住宅ローンを組んだ場合に限り、適用されます。
初めて住宅ローン控除を受ける年のみ確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整によって控除を受けられます。
医療費が10万円を超えた場合(医療費控除)
年間で実質的に負担した医療費が10万円(総所得200万円未満の場合は5%)を超えた場合、確定申告すると200万円を上限として医療費控除を受けられます。
医療費控除を受けない場合は、セルフメディケーション税制を利用することも可能です。
セルフメディケーション税制は、健康診断や予防接種を受けた人が、年間12,000円を超える特定の医薬品を購入した場合に受けられる控除のことです。
寄付を行った場合(寄付金控除)
国や地方自治体、特定公益増進法人などに対して特定寄附をした場合、確定申告すると寄付金控除を受けられます。
「支出した特定寄附金の合計額」または「総所得金額等の40%相当額」のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額が寄附金控除額となります。
なお、ワンストップ特例制度によってふるさと納税を行った場合、確定申告は不要です。
災害や盗難で損害を受けた場合(雑損控除)
火災や自然災害、盗難、横領などによって損害を受けた場合、確定申告すると雑損控除を受けられます。
ただし、詐欺被害は雑損控除の対象にはなりません。
「実質的な損失額-総所得金額等×10%」もしくは「災害関連支出額-5万円」のいずれか多い金額が控除されます。
年末調整のスケジュールと流れ
ここからは、年末調整のスケジュールと流れについて見ていきましょう。
【10月後半~11月前半】対象者の確認と書類の配布・説明
まずは、年末調整の対象となる役員・従業員を確認し、
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(当年分)
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(来年分)
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
といった必要書類を配布しましょう。
年末調整関係書類は、原則として税務署から送られてきますが、申告書の部数が足りない場合は、税務署の窓口や国税庁のホームページからも入手可能です。
年末調整に詳しくない従業員も多いため、きちんと周知できていないと、質疑応答や修正依頼の対応に膨大な工数がかかる可能性があります。
申告書の配布と同時に、記入方法のマニュアルやよくある質問を共有しておくと、年末調整にかかる工数を削減できます。
申告書の記載例は、国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」をご覧ください。
【11月前半~11月下旬】書類の回収と内容確認
申告書と一緒に「生命保険料の控除証明書」「地震保険料の控除証明書」「領収書」などの添付書類を回収します。
扶養家族の情報や各種控除額などの内容を確認し、漏れや間違いといった不備がないかをチェックしましょう。
不備があった場合は当該従業員に訂正してもらいます。
回収が遅くなるほど後々のスケジュールが詰まってくるため、早めの提出期限を設定した上で、早期提出を呼びかけると良いでしょう。
【11月下旬~12月】年税額と過不足の計算
記載内容と控除額のチェックを終えたら、所得税と復興特別所得税の年税額計算です。
年税額の計算は、
- 年末調整の対象となる給与と源泉徴収した税額を集計
- 給与所得控除後の給与等の金額を計算
- 扶養控除等の合計額を計算
- 「課税給与所得金額」と「算出所得税額」を計算
- 年調年税額の計算
の手順で進めます。
給与計算や年末調整システムを導入している場合は、必要項目を入力していけば自動で年税額や過不足額が算出されます。
工数は削減できますが、入力内容次第で過不足額が変わってしまうため、入力ミスのないようしっかりと確認してください。
年末調整後にミスが発覚すると、年末調整をやり直さなければなりません。
場合によっては、従業員に確定申告をしてもらう必要が出てくる可能性もあります。
効率よく進めるためにも、余裕を持ったスケジュールで取り組み、書類のダブルチェックを行いましょう。
【所得税確定後】所得税の還付もしくは追加徴収
所得税額が確定したら、給与支払時(多くは12月や1月)に従業員へ還付もしくは、徴収して過不足額を清算します。
【12月~翌年1月】源泉徴収票の作成と提出
過不足額の清算後は、各従業員の源泉徴収票作成です。
源泉徴収票は「従業員用」「税務署提出用」「市区町村提出用」があり、従業員には12月~翌年1月の間に渡します。
税務署や従業員の住所地の市区町村には、翌年1月31日までに「支払調書」「法定調書合計表」「給与⽀払報告書」といった必要書類と一緒に提出しましょう。
年末調整で必要となる控除申告書
年末調整で必要となる控除申告書についてご紹介いたします。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
扶養控除等申告書とは、「扶養控除」「障害者控除」「寡婦控除」「ひとり親控除」「勤労学生控除」を受けるために必要な書類です。
年末調整では、今年と翌年の扶養控除等申告書を提出してもらいます。
源泉控除対象となる配偶者や扶養親族がいない場合でも、申告書を提出しなければなりません。
扶養控除等申告書を提出しないと年末調整できないので、必ず提出してもらいましょう。
なお、以下でご紹介している控除額などにつきましては、変更になっている可能性があります。
必ず国税庁、国税局などの情報を確認ください。
▼国税庁
扶養控除
扶養親族(その年の12月31日時点で16歳以上の扶養親族)がいる場合に受けられる控除です。
控除額は38万円~63万円までで、扶養親族の年齢によって異なります。
障害者控除
本人または同一生計配偶者、扶養親族が所得税法上の障がい者に該当する場合に受けられる控除です。
控除額は27万円~75万円までで、障がいの程度などによって異なります。
寡婦控除
夫の離婚や死別後に再婚していない女性で、一定の要件を満たした人が受けられる控除です。所得税の控除額は27万円です。
ひとり親控除
事実上の婚姻関係が認められないひとり親で、一定の要件を満たした人が受けられる控除です。控除額は35万円です。
勤労学生控除
一定の要件を満たした勤労学生(学校へ通いながら働いている人)が受けられる控除です。控除額は27万円です。
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
この申告書は、「基礎控除」「配偶者控除」「配偶者特別控除」「所得金額調整控除」を受けるために必要な書類です。
基礎控除
すべての納税者に適用される基本的な控除です。
納税者本人の合計所得金額が2,500万円以下の場合、所得金額に応じて16万円~48万円の控除を受けられます。
配偶者控除
控除対象配偶者を持つ納税者が受けられる控除です。
納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の所得が48万円以下の場合、控除を受けることができます。
控除額は、納税者本人の合計所得金額によって変わり、13万円~38万円(老人控除対象配偶者の場合は16万円~48万円)です。
配偶者特別控除
合計所得金額48万円超133万円以下の配偶者を持つ納税者が受けられる控除です。
配偶者特別控除を受けるには、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下でなくてはなりません。
控除額は最高38万円で、納税者本人と配偶者の合計所得金額によって変わります。
所得金額調整控除
2020年分以降の所得税から適用となった控除です。
「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」の2種類があります。
「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」は、納税者本人の給与が850万円を超える場合、控除を受けられます。
対象者は、
- 納税者本人が特別障害者
- 23歳未満の扶養親族がいる
- 生計をに一する特別障がい者の配偶者または扶養親族がいる
のいずれかに該当する場合です。
「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」は、給与所得控除後の給与所得の金額と公的年金等にかかわる雑所得の金額いずれも有しており、2つの合計額が10万円超を超える人が控除の対象です。
給与所得者の保険料控除申告書
給与所得者の保険料控除申告書は、「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」を受けるために必要な書類です。
生命保険料控除
生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に受けられる控除です。
これらの所得控除額は最大12万円(旧制度の場合は10万円)です。生命保険料控除証明書を提出してもらう必要があります。
地震保険料控除
地震保険料または旧長期損害保険料を支払った場合に受けられる控除です。
最大5万円を上限として、年間払込保険料の全額が控除されます。地震保険料控除証明書を提出してもらいましょう。
社会保険料控除
納税者本人や生計を一にする親族の社会保険料を納税者が支払った場合、受けられる控除です。
「国民健康保険」「健康保険」「国民年金」「厚生年金」「介護保険」「雇用保険」といった各種保険料や年金や共済組合の掛金も対象となります。
国民年金保険料の場合は、社会保険料(国民年金)保険料控除証明書を、その他の社会保険料については、領収書などを提出してもらいましょう。
小規模企業共済等掛金控除
「個人型確定拠出年金(iDeCo)」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」など、対象となる共済制度の掛金を支払った場合に適用される控除です。
小規模企業共済等掛金控除証明書を提出してもらいましょう。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書※対象者のみ
2年目以降の住宅ローン控除は年末調整で行えるため、対象従業員には「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」を提出してもらう必要があります。
住宅借入金等特別控除申告書は、税務署から直接本人に送られてきます。
「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」も提出してもらいましょう。
年末調整実施時の注意点
ここでは、年末調整実施時の注意点についてご紹介いたします。
やり直しが必要になることもある
年末調整が完了してからその年の12月31日までに、所得税額が変わる事由が発生した場合、年末調整の修正が必要です。
年末調整の修正期限は翌年1月31日までですが、期限内であっても源泉徴収票発行後は企業側で修正できません。
再調整するには、従業員自身で確定申告をしてもらう必要があります。
年末調整後に家族構成が変わった
家族構成が変わるパターンとして、
- 結婚して配偶者を扶養するor配偶者に扶養される
- 扶養している子どもが結婚して扶養控除を外れる
- 離婚して配偶者控除または配偶者特別控除から外れる
などが考えられます。
「配偶者を扶養する」「配偶者に扶養される」いずれも、配偶者控除や配偶者特別控除が適用となった場合、年末調整のやり直しが必要です。
ただし、その年の合計所得で扶養対象となるかどうかが決まるため、社会人同士の結婚ではほとんど発生しません。
「扶養している子どもが結婚した方」や「配偶者控除or配偶者特別控除を受けていた方が離婚した」場合も、年末調整のやり直しをする必要があります。
なお、扶養控除は16歳以上でないと適用されないため、年末調整後に子どもが生まれてもやり直しは必要ありません。
家族の所得に誤りがあった
扶養控除や配偶者控除、配偶者特別控除などの対象となる家族の所得が扶養の範囲を超えてしまった場合、年末調整をやり直さなければなりません。
保険料控除をしていなかった
生命保険や地震保険など、控除の対象となる保険料を支払ったにもかかわらず、申告していなかった場合は、年末調整のやり直しが必要です。
また、何らかの理由で証明書が間に合わなかった場合、翌年1月31日までに証明書の交付を受けられれば、年末調整のやり直しで対応できます。
期日までに間に合わない場合は、本人に確定申告してもらいましょう。
年末調整を怠った場合は罰則を受ける可能性がある
年末調整は所得税法で雇用主の義務と規定されています。
そのため、年末調整を怠ると、
- 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(年末調整を実施せず、従業員から適切な税額を徴収しなかったなど/所得税法第242条)
- 10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金またはその両方(従業員から源泉徴収した所得税を納付しなかったなど/所得税法第240条)
が科される可能性があります。
ただし、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が従業員から提出されなかった場合、企業側に年末調整の義務は発生しません。
小見出し:年末調整の書類は保存しなくてはならない
年末調整に使用された書類は、年末調整の翌年1月10日の翌日から7年間保存しなくてはなりません。
保存が必要な書類は、
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の配偶者控除等申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 所得金額調整控除申告書
- 退職所得の受給に関する申告書
- 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
です。
年末調整は事前準備が重要
年末調整は年に1度しか行われないため、年末調整に詳しくない従業員がほとんどです。
イレギュラーはつきものなので質問をゼロにすることはできませんが、書き方やよくある質問をまとめた資料を共有しておくだけでも、質疑応答や修正依頼は大幅に削減できます。
また、年末調整では各従業員の申告書をすべてチェックすることになるため、漏れや計算間違い、入力ミスなどが発生しないよう注意しましょう。
年末調整後にミスが発覚すると、年末調整のやり直しを行わなければならなかったり、従業員に確定申告をお願いしたりする可能性もあります。
「余裕のあるスケジュールを組む」「ダブルチェックする」「システムを導入する」など、万全の体制を整えて年末調整に臨みましょう。
本記事で取扱った内容は、法令の変更などで情報が変更されることがあります。
そのため、所管する省庁のホームページ等もあわせてご確認ください。
▼国税庁