採用情報のオープン化が進む中、採用ピッチ資料への注目度が高まっています。
ベンチャー企業を中心に、採用ピッチ資料を作成する企業が増えていますが、「採用ピッチ資料とは何か」「どうやって作成するのか分からない」という方も多いでしょう。
そこでこの記事では、採用ピッチ資料の概要やメリット、作成方法について解説いたします。
採用ピッチ資料作成時のポイントや活用方法、事例もご紹介しますので採用にお悩みの方はぜひご覧ください。
採用ピッチ資料とは
採用ピッチ資料の「ピッチ」は、簡略化したプレゼンテーションを指すビジネス用語を表します。
つまり採用ピッチ資料とは、求職者に自社をプレゼンするための資料「会社説明資料」です。
自社の魅力や課題といった情報が簡潔にまとまっているため、カジュアル面談で用いる企業も多いです。
会社説明資料との違い
会社説明資料との大きな違いは、公開の範囲です。
通常、会社説明資料は企業説明会などの限られた場で用いられますが、採用ピッチ資料は誰でも見られるよう、オープンにしています。
また、会社説明資料では企業の魅力が重点的に紹介されます。
一方、採用ピッチ資料は企業の抱える課題など、ネガティブな情報も含めたありのままの情報を公開する点も大きな特徴です。
近年の求職者は、よりリアルな情報を求める傾向にあるため、課題も含めてオープンな情報を提供する採用ピッチ資料が多くの企業から注目されています。
採用ピッチ資料を作成するメリット
では、採用ピッチ資料を作成すると具体的にどういったメリットを得られるのか見ていきましょう。
認知度アップによる応募数の増加
採用ピッチ資料をWeb上で公開すると、企業のリアルな情報をいつでも確認できます。
作成した資料がSNSで拡散されれば、就職・転職活動を積極的に行っている「顕在層」はもちろん、将来就職・転職活動を行う可能性のある「潜在層」の認知度アップも狙えます。
実際、採用ピッチ資料の先駆けである株式会社SmartHRでは、応募数が5.3倍にまで増加したそうです。
面接や面談を効率よく進めて相互理解が深まる
面接で会社説明の時間を設ける企業は多いですが、そうなると必然的に応募者への質問や応募者からの質疑応答の時間が減ります。
また、企業理解度が低い状態で面接や面談に臨んでも、深い質問はできませんし、十分に惹きつけることも難しいでしょう。
採用ピッチ資料をオープンにすれば、企業理解度の高い状態で臨めるため、相互理解の促進に注力できます。
カジュアル面談でもスライドを使って説明できるので、担当者によって内容が変わったり、伝え漏れたりすることもありません。
スクリーニング効果がある
採用ピッチ資料には、魅力だけでなく課題や実情などのリアルな情報が掲載されています。
採用ピッチ資料の公開や事前送付を行うことで、求職者は企業のネガティブな情報も目にするため、応募を辞める人や選考辞退者が出ることもあります。
デメリットに感じるかもしれませんが、こうした人材はそもそもマッチ度が低いため、入社したところで早期離職する可能性が高いです。
面接前にマッチ度の低い人材をある程度スクリーニングできるため、面接官や採用担当者の負担を軽減して、採用活動を効率的に進められます。
自社理解の標準化を図れる
採用ピッチ資料を公開すると、求職者はもちろん従業員の目にも触れるため、自社理解の標準化が図れます。
採用担当者の自社理解が深まれば「担当者によって言っていることが違う」といったブレを防ぐことができます。
基本的に、担当者は採用ピッチ資料にもとづいて説明することになるので、応募者の期待値を上げ過ぎることもないでしょう。
採用ピッチ資料に盛り込む内容
採用ピッチ資料の構成は、大きく「会社紹介」「組織図・企業文化」「求人情報」「その他」の4つに分けられます。
それぞれどういった項目が含まれるのか見ていきましょう。
会社紹介
会社紹介には会社概要や事業内容、ミッション・ビジョン・バリューなどを記載します。
新規事業や中長期的な展開といった今後の展開も盛り込むと、企業理解を促進できます。
組織図・企業文化
組織構成や経営者・従業員の紹介、企業文化、魅力、課題、福利厚生、社内の風景などを盛り込みます。
求職者が働くイメージを持てるよう、具体的な情報をありのままに記載しましょう。グラフやイラスト、写真などでビジュアル化すると分かりやすいです。
自社の文化や魅力で求職者にアピールするだけでなく、解決するべき課題についても記載してください。
課題を把握した上で応募してくる、意欲やマッチ度の高い求職者に出会える可能性が高まりますし、オープンな企業は誠実な印象を与えやすいです。
中には、撤退した事業や敗因分析まで記載している企業もあります。
求人情報
募集職種や業務内容、選考フロー、求める人物像について記載します。
職務経歴やスキルといった条件だけでなく、「自ら考えて行動できる」「デジタルマーケティングに興味・関心がある」のように、具体的な人物像を書くのもポイントです。
求める人物像は、職務によって変わるため“全従業員共通の要素”と“職務ごとの要素”に分けて考えると良いでしょう。
その他
入社後の給与テーブルや昇給実績、評価制度などについて記載します。
求職者から質問されることの多い情報や疑問を抱きやすい情報、聞きづらい情報についてまとめておくと良いでしょう。
給与テーブルや昇給実績、評価制度を公表すると公平性をアピールできます。
求職者に実態を理解してもらうには、給与テーブルごとの人数分布を職種別に公開するのも効果的です。
採用ピッチ資料の作成方法
ここでは、採用ピッチ資料の作成方法についてご紹介します。
メンバーの選定
採用ピッチ資料には企業のリアルな情報を掲載するため、エンゲージメントの高いメンバーを様々な職種からバランスよく選定しましょう。
このとき、経営陣や役職者だけでなく、現場社員も選出するとより実態に即した情報を収集できます。
企業規模によっても変わってきますが、6~10名程度のメンバーを選定することが多いです。
自社の魅力と課題の抽出
採用ピッチ資料には、企業の魅力や課題も掲載されているため、あらゆる角度からどういった魅力・課題があるのかを洗い出す必要があります。
選出したメンバーでグループワークを行うと良いでしょう。
ホワイトボードやポストイットを用意しておくと、ブレストで出てきた内容のグルーピングがしやすくなります。
では、魅力と課題のグループワークの流れを見ていきましょう。
自社の魅力の洗い出し
小さなことでも構わないので、ふせんに魅力的だと思うポイントを1つずつに書き出してもらいます。
ある程度出そろってきたら、似たような魅力をグルーピングしましょう。
採用の4P「Philosophy(理念・目的)」「Profession(仕事・事業)」「People(人材・風土)」「Privilege(特権・待遇)」を参考にすると分類しやすいです。
グルーピングしたらカテゴリーごとに題名を決めて「何を伝えたいのか」を言語化しましょう。
課題の洗い出しと解決策
課題は言いづらいものもあるでしょう。
スムーズに進行するためにも、誰が書いたか分からないようにしたり、一旦経営陣に席を外してもらったりするなどの配慮が必要です。
課題が出そろったら、「短期的な課題」「長期的な課題」「受け入れてほしいもの(月に数回土曜出勤があるなど)」の3つにグルーピングします。
課題が明確になったら、経営陣も含めたメンバーで解決策を検討しましょう。
採用コンセプトに沿った資料制作
「求める人物像にどのようなイメージを持ってもらいたいのか」方向性を明確にすることで、内容やメッセージに一貫性が出るため、企業カラーが伝わりやすくなります。
自社の採用コンセプトに沿って、資料の内容や項目、文言、言い回し、デザインを決めましょう。
定期的なアップデート
求職者が求めるリアルな情報が公開できても、古い情報のままではかえってイメージダウンを招きます。
組織構成や事業の成長、福利厚生の変更など、掲載している情報が変化したタイミングで更新し、常に最新の情報を保つことが重要です。
また、求職者から採用ピッチ資料への要望が上がった際は、できる限り反映させましょう。
作って終わりではなく、ブラッシュアップしていくと質の高い資料になります。
採用ピッチ資料作成のポイント
採用ピッチ資料のメリットを最大限引き出すためのポイントについてご紹介します。
求職者が知りたい情報を載せる
ポジティブな情報ばかり載せる企業も多いですが、求職者はリアルな情報を求めているため、ポジティブな内容に偏ると警戒されます。
そもそも採用ピッチ資料は、求職者向けの資料なので、求職者の求める情報を載せることが重要です。
「どんな環境でどういう人たちが働いているのか」「どういった文化や社風なのか」「抱えている課題は何か」などの実情を伝えましょう。
求職者から質問されることの多い内容や、休日・休暇、給与といった質問しづらい情報を載せておくのも効果的です。
イメージが浮かぶ内容に仕上げる
採用ピッチ資料を作成する際は、採用ターゲットが「柔軟そうな会社」「チャレンジ精神旺盛な会社」のように、イメージが浮かぶ内容に仕上げることが重要です。
採用コンセプトで「何をイメージしてもらいたいのか」を明確にした上で、情報や表現、順序まで考えて作成しましょう。
画像やイラストでビジュアル化する
採用ピッチ資料は、画像やイラストを積極的に用いてビジュアル化しましょう。
というのも、テキストがずらりと並んだ資料より、画像やイラストを用いた資料の方が分かりやすいですし、飽きずに最後まで読んでもらえる可能性が高いからです。
業績や沿革といった会社情報も、グラフなどでビジュアル化すれば、一目で理解できます。
特に、風土や職場の雰囲気のような文章では説明しづらい情報は、ビジュアル化するのが効果的です。
採用ピッチ資料の活用方法
採用ピッチ資料を最大限活用するには、採用課題や状況に合わせた方法で運用することが大切です。
Web上で公開
Web上での採用ピッチ資料公開は、採用市場である程度認知されている企業や、SNSでの発信力が強い企業に特におすすめの方法です。
Web上で公開した採用ピッチ資料がSNSで拡散されることもあるため、認知度の向上や自社ブランディングの効果を期待できます。
面接前に送付する
面接を予定している応募者に対して、採用ピッチ資料を送付する方法です。
事前に採用ピッチ資料を送付すると、企業理解度が高まった状態で面接をスタートできるため、面接時に行う会社説明を省略できます。
面接に注力できるのはもちろん、求職者も採用ピッチ資料にもとづいた質問ができるので有意義に進められます。
相互理解が深まると興味づけもしやすくなるため、面接実施後の選考・内定辞退率も低下するでしょう。
スカウトメールで送付する
就職・転職サイトなどのメディアを活用している求職者には、日々多様な企業からスカウトメールが届くため、他企業に埋もれないような工夫が必要です。
多くの求職者は「なぜ自分なのか」「この会社は魅力的かどうか」に重きを置いて確認します。
とはいえ、知らない企業から急に届いたスカウトメールに、企業の魅力が長々と書かれていても、最後まで読む人は少ないでしょう。
スカウトメールに採用ピッチ資料のURLを記載することで、企業の特徴や魅力をより分かりやすく伝えられますし、スクリーニング効果も期待できます。
リファラル採用や人材紹介
採用ピッチ資料は、自社従業員が知人や友人を紹介する「リファラル採用」や、エージェントに候補者を紹介してもらう「人材紹介」にも活用できます。
採用ピッチ資料を公開すれば、従業員の企業理解や知識量を標準化できますし、紹介する人への説明も簡単に行えるため、よりミスマッチが起こりづらくなります。
従業員側の負担が減ればリファラル採用のハードルが下がるため、リクルーティングの活性化にもつながるでしょう。
また、エージェントに採用ピッチ資料を渡しておけば、自社情報や求める人物像を余すことなく伝えられるため、採用の確度が高まります。
採用ピッチ資料の事例
他企業の採用ピッチ資料を確認して、良い採用ピッチ資料を作成しましょう。
株式会社SmartHR
URL:https://speakerdeck.com/miyasho88/we-are-hiring
人事労務ソフトの開発などを行う株式会社SmartHRでは、企業文化である「オープン」「フラット」「遊び心」の要素を盛り込んでいるのが特徴です。
あらゆる情報がビジュアル化されていて非常に見やすく、給与テーブルや等級ごとの人数分布なども公開されています。
採用ピッチ資料の公開後は、応募数が5.3倍に増加し、閲覧数はわずか半年で24万回にまで達しました。
また、ミスマッチ応募の減少や面談・面接の時間も有意義になったなどの効果を実感しているそうです。
サイボウズ株式会社
URL: https://www.slideshare.net/Cybozu_Recruit/ver20198
サイボウズ株式会社では、「チームワーク」をキーワードに資料が構成されており、前半はチームワークあふれる社会づくりの活動として、提供サービスの紹介がメインです。
後半はチームワークあふれる会社づくりとして、価値観や風土、働き方に関する情報が盛り込まれています。
給与に関する情報や選考での評価ポイントについても記載されています。
株式会社ミラティブ
URL:https://speakerdeck.com/hr_team/mirrativ-letter
株式会社ミラティブの採用ピッチ資料は、「採用候補者さまへの手紙」と題したキャッチーなネーミングが話題となりました。
ミッションや業界での立ち位置、ビジネスモデルといった情報から、文化、働き方などが総合的にまとめられています。
写真を活用して従業員紹介や企業文化が紹介されているため、雰囲気を掴みやすいです。
採用ピッチ資料の作成で採用力を向上
近年の求職者はネガティブな面も含めたリアルな情報を求めているため、課題も含めたありのままの情報を開示しましょう。
企業理解が深まるため、面談・面接では基本的な質問を省いて相互理解の促進に充てられますし、ミスマッチの防止にもつながります。
他企業の公開している採用ピッチ資料を参考に、作成されてみてはいかがでしょうか。