
労働条件通知書は、企業が従業員を採用する際に労働条件を明示するための重要な書類です。
労働基準法によって交付が義務づけられており、不備や交付漏れがある場合には罰則の対象となるリスクもあります。
実務においては、雇用契約書との違いや兼用する場合のルール、また法改正に伴う最新の明示事項など、人事担当者が正確に把握しておくべき点が数多く存在します。
本記事では、労働条件通知書の基礎知識から、具体的な記載事項、実務でおこなうべき運用の注意点まで詳しく解説します。
なお、本記事で紹介している内容については、法令の変更などで情報が変更されることがあります。
厚生労働省のホームページ等もあわせてご確認ください。
▼厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/index.html
【1】労働条件通知書の基礎知識
労働条件通知書は、企業が従業員を雇い入れる際に労働条件を明示するための重要な書類です。
入社後における認識の齟齬や労使トラブルを防ぎ、健全な労使関係を構築するための基盤となります。
ここでは、人事担当者として確実に押さえておくべき基本的な知識を解説します。
1-1. 労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、労働基準法第15条に基づき、使用者が労働者に対して労働条件を明示することを義務付けられた書類です。
給与額や勤務時間、休日などの契約内容を書面で明確に伝えることで、従業員が自身の権利と義務を正確に理解できるようにします。
単に法律を遵守するだけでなく、企業側の一方的な条件変更を防ぎ、従業員が安心して仕事に取り組める環境を保証する役割を持っています。
1-2. 雇用契約書との違い
労働条件通知書と雇用契約書は、どちらも労働条件に関する重要な書類ですが、その法的な性質には明確な違いがあります。
- ・労働条件通知書: 会社から従業員へ一方的に労働条件を通知するものであり、労働基準法によって交付が義務付けられています。
- ・雇用契約書: 会社と従業員が労働条件に対して合意したことを証明する契約書であり、民法に基づきます。法律上の作成義務はなく、双方の署名や捺印によって効力が発生します。
実務においては、別々に作成・管理する手間を省くため、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として一体的に運用することが一般的です。
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比較項目 |
労働条件通知書 |
雇用契約書 |
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主な法的根拠 |
労働基準法 |
民法 |
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交付の義務 |
義務 |
任意 |
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合意の必要性 |
なし(一方的に通知) |
双方の合意が必要(署名・捺印が必要) |
1-3. 交付対象者
労働条件通知書は、労働基準法が適用されるすべての労働者が交付の対象となります。正社員に限らず、あらゆる雇用形態の従業員に対して交付義務があります。
- ・正社員
- ・契約社員(契約期間の定めがある労働者)
- ・パートタイマー・アルバイト(短時間労働者)
- ・派遣労働者(派遣元企業から交付)
多様な働き方をする従業員が増えている現代において、人事担当者は雇用形態を問わず、入社するすべての従業員に対して交付漏れがないように細心の注意を払う必要があります。
1-4. 発行するタイミング
労働条件通知書の発行時期に関しては、労働基準法で「労働契約の締結時」と定められているため、就業する前に発行する必要があります。
交付するタイミングは企業によって異なりますが、
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新卒の場合…正式な内定まで 中途の場合…入社当日まで |
です。
内定は「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれ、労働契約が成立していることから、採用内定時に交付するのが望ましいでしょう。
なお、労働契約の締結はあくまで入社当日のため、中途採用の場合は入社当日に労働条件を発行する企業が多いです。
もちろん、入社日以前に発行することも可能ですし、労働者の立場からすれば事前に交付してくれた方がありがたいでしょう。
【2】労働条件通知書に記載すべき明示事項
労働条件通知書に記載する事項は、法律によって必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と、社内にその制度がある場合に限り記載が必要な「相対的明示事項」の2種類に分かれています。
2-1. 必ず記載する絶対的明示事項
すべての労働条件通知書に必ず記載しなければならない項目であり、記載漏れがある場合は法令違反となる可能性があります。
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項目 |
具体的な記載内容 |
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労働契約の期間 |
有期雇用の場合は開始日と終了日を明記。 |
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就業場所と業務内容 |
雇入れ直後の就業場所と従事する業務を具体的に記載。 |
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労働時間・休憩・休日 |
始業・終業時刻、休憩時間、休日、年次有給休暇の付与日数や取得方法を記載。 |
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賃金の決定・計算・支払方法 |
基本給や各種手当の金額、計算方法、締め日、支払日、支払方法(銀行振込など)を詳細に記載。 |
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昇給に関する事項 |
昇給の有無、昇給の時期や基準などに関するルールを明記。 |
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退職に関する事項 |
定年制の有無やその年齢、自己都合退職の手続き、解雇の事由などを記載。 |
2-2. 定めがある場合に記載する相対的明示事項
会社として制度を設けている場合に限り、労働条件通知書に記載する必要がある項目です。
制度自体がなければ記載する必要はありません。
- ・退職手当: 支給対象者の範囲、退職金の計算方法、支払時期など
- ・臨時の賃金・賞与: 賞与の有無、支給条件、計算方法、支払時期など
- ・食費・作業用品等の負担: 業務に必要な費用や食事代、作業着代などの自己負担に関する事項
- ・安全衛生: 健康診断や安全教育など、労働者の安全と健康を確保するための措置
- ・職業訓練: 業務上必要となる職業訓練の有無や内容
- ・災害補償・表彰・制裁: 業務災害に対する補償、表彰制度、服務規律違反に対する制裁の内容
- ・休職: 傷病休職や育児休職、介護休職などの適用条件
2-3. 電子的方法による交付の要件
労働条件通知書の交付は書面が原則ですが、労働者本人が希望(同意)している場合に限り、電子的方法での交付が可能となっています。
会社が一方的に電子交付を押し付けることはできません。
事前に同意を得た上で、その記録をメールや書面で残しておくことが推奨されます。
また、電子交付をおこなう際は、労働者が内容を容易に確認でき、かつ印刷や保存が可能な形式(PDF形式など)で送信する必要があります。
電子交付を活用することで、郵送費の削減や手続きの迅速化、書類のデータ一元管理による紛失リスクの低減といった実務上のメリットが得られます。
【3】2024年4月施行の労働条件明示ルールの変更点
2024年4月1日の労働基準法施行規則改正により、労働条件の明示ルールに変更が加えられました。
人事担当者が実務で確実に対応しなければならない主要な3つの変更点を解説します。
3-1. 就業場所と業務の変更の範囲
すべての労働者を対象に、雇入れ直後の情報だけでなく、将来的に配置転換などで変更されうる「就業場所および業務の変更の範囲」を明示することが義務づけられました。
- ・記載例: 就業場所(変更の範囲)会社の定める事業所
- ・記載例: 業務内容(変更の範囲)会社の定める業務
この明示により、入社後に予期せぬ異動が生じた際における労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。
3-2. 有期労働契約における更新上限
有期労働契約を締結または更新する際、「契約更新の上限(通算契約期間または更新回数)」の有無と、その具体的な内容を明示することが義務化されました。
- ・記載例: 契約期間は通算5年を上限とする / 契約更新は3回まで
また、契約締結後に当初取り決めた更新上限を新たに設けたり、短縮したりする場合には、その理由を事前に有期契約労働者へ説明する必要があります。
3-3. 無期転換申込機会と転換後の労働条件
通算契約期間が5年を超え、無期転換申込権が発生する有期契約労働者に対しては、権利が発生する契約更新のたびに「無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)」を明示することが義務づけられました。
あわせて、無期転換後の労働条件(賃金や業務内容など)の明示も必要です。
その際、他の正社員などとの均衡を考慮した事項(処遇のバランスなど)について説明する努力義務も課されています。
【4】実務における労働条件通知書の作成と運用の注意点
日々の労務実務において、ミスなく円滑に労働条件通知書を運用するための実践的なポイントを解説します。
4-1. 労働条件通知書と雇用契約書の兼用
実務においては、労働条件通知書と雇用契約書を一本化した「労働条件通知書 兼 雇用契約書」という形式を採用することで、業務を効率化できます。
労働条件の明示義務を果たしつつ、その内容に従業員が同意した証拠(署名・捺印)を同時に得られるため、入社後の認識の齟齬を防ぐ上で非常に有効な解決策となります。
書面のタイトルは「労働条件通知書 兼 雇用契約書」とするのが一般的です。
4-2. 労働条件の変更が発生した場合の対応
入社後、昇給や異動、組織改編などに伴い労働条件が変更される場合、軽微な変更であれば労働条件通知書を再交付する義務は必ずしもありません。
しかし、賃金、役職、勤務地、業務内容など、労働者の働き方に大きく影響する重要な条件が変わる際には、トラブル防止の観点から変更内容を記載した「変更通知書」や「覚書」を書面で取り交わすことが重要です。
変更となる条件と適用開始日を明記し、双方の合意を示す署名欄を設けて記録を残すようにしてください。
4-3. 交付漏れや不備における罰則リスク
労働条件通知書の交付を怠ったり、必要な記載事項に不備があったりした場合は労働基準法第15条違反となり、企業に対して「30万円以下の罰金」が科されるリスクがあります。
罰則だけでなく、労働条件の不備は未払い賃金トラブルや企業の社会的信用を損なう原因となるため、正確な記載を徹底しなければなりません。
なお、労働条件通知書は、労働条件を明示した日(雇入れの日など)から起算して5年間(当面の間は3年間)の保管義務があります。退職日からではない点に注意し、適切な管理をおこなってください。
【5】まとめ
労働条件通知書は、単なる手続き上の書類ではなく、企業と従業員の間でトラブルを未然に防ぎ、信頼関係を築くための重要なコミュニケーションツールです。
特に2024年4月に施行された法改正にともない、「変更の範囲」や「更新上限」「無期転換申込機会」など、人事担当者が対応すべき明示事項が増加しています。
雇用形態に応じた正確な記載をおこなうことは、企業のコンプライアンス強化に直結します。
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」による書類の一本化や、電子交付の活用を進め、ミスや漏れのない適切な労務管理体制を構築してください。


