女性活躍やダイバーシティが推進されている近年、他の社員のお手本となるロールモデルを設定する企業が増えています。
とはいえ、「どういう人物がロールモデルにふさわしいのか分からない」「具体的にどういう効果を得られるのか分からない」という方も多いでしょう。
そこでこの記事では、ロールモデルの意味や例、得られる効果について解説します。
社員別の人物要件やロールモデルの設定方法などについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
ロールモデル(の意味)とは?
ロールモデルとは、「役割(role)」×「見本・お手本(model)」を意味する言葉で、考え方や行動、キャリアが模範になる人物のことです。
企業においては、他の社員の手本となる人材を指すことが多く、
- 子育て中の社員
- 女性管理職
- 社内でキャリアチェンジした社員
- 最年少の責任者
など、キャリアの多様化に合わせて、複数人のロールモデルを設定します。
また、ロールモデルは社員自らが設定することもあれば、企業が設定することもあります。
ロールモデルの例
自分がお手本にしたいと思う人物が、ロールモデルになります。
例えば、自分が理想とするキャリアを築いている人や、理想的な行動・言動をしている人など、「この人のようになりたい」と思うような人物です。
身近な人物ほど参考にしやすいため、尊敬できる上司や先輩社員といった組織内の人物を設定するのが望ましいですが、有名人でも構いません。
ロールモデルが注目されている背景
ロールモデルが注目されている背景として挙げられるのが、働き方や価値観の多様化です。
少子高齢化や終身雇用の崩壊により、育児・介護との両立を目指す労働者や障がい者、外国人材など、さまざまな背景を持つ労働者が増えました。
多様な価値観にもとづいた働き方をするようになったことで、将来のキャリアパスが見えづらくなったため、見本となるロールモデルが注目されるようになったのです。
特に、時短勤務中の子育て社員や女性管理職といった女性のロールモデルは、女性活躍推進に役立ちます。
ロールモデルを設定する効果
では、ロールモデルを設定すると、具体的にどういう効果を得られるのでしょうか。
キャリアを描きやすくなる
上司や先輩社員など、身近な人物がロールモデルになると、キャリアを描きやすくなります。
例えば、社内に子育て中の女性管理職がいれば、女性社員は出産後にその企業で実現可能なキャリアをイメージできますし、仕事と家庭を両立する方法も学べるでしょう。
成長スピードが高まり、効果的にスキルアップできる
上司や先輩社員をロールモデルに設定すると、社員の成長スピードが高まります。
というのも、ロールモデルができると「今の自分に何が足りないのか」「どうすればその人に近づけるか」が見えてくるため、身につけるべきスキルが明確になります。
また、ロールモデルの考え方や仕事の進め方、コミュニケーションの取り方など、キャリア形成に役立つ要素を学べるため、効率よく成長できるのです。
成長スピードの促進は、社員本人にとってはもちろん、早期戦力化につながるため、企業にとっても大きなメリットと言えるでしょう。
社内コミュニケーションが活性化する
ロールモデルに近づくには、その人がこれまでに経てきた過程や価値観、考え方を知らなくてはなりません。
理想とするロールモデルへの理解を深めようとする気持ちや行動は、他者と接点を持つきっかけとなります。
ロールモデルを設定すると、密接なコミュニケーションを取ろうとする社員が増えるため、社内コミュニケーションの活性化につながります。
組織全体が活性化する
ロールモデルとなる人物が身近にいる場合、社員はその人に近づこうと積極的にコミュニケーションを取って学ぼうとするでしょう。
良好なコミュニケーションは社内の雰囲気を明るくしますし、仕事上の目標が明確になれば、社員は自主的に業務に取り組むようになるため、組織全体の活性化に役立ちます。
ダイバーシティが促進する
ロールモデルの設定はダイバーシティの促進に役立ちます。
例えば、育児・介護と仕事を両立している社員や、治療を受けながら働く社員などにロールモデルになってもらえれば、社員や求職者に多様なキャリアを提示できます。
同じような境遇の人も集まりやすくなるため、ダイバーシティの促進を見込めるでしょう。
離職者の減少につながる
ロールモデルの設定で、キャリアプランをイメージしやすくなれば、若手社員に多い「将来のキャリアを想像できない」「成長が望めない」といった離職を抑止できます。
また、ダイバーシティの促進によって労働環境や評価制度が整えば、必然的に従業員満足度が向上するため、定着率アップはもちろん採用力の強化にも効果を発揮するでしょう。
ロールモデルにふさわしい人物は?
ロールモデルに設定する人物は、身近な人ほど効果があると言われていますが、社内に適した人物がいなければ社外の人でも構いません。
また、ロールモデルは1人に限らず、「書類作成はAさん」「顧客対応はBさん」のように、分野や業務ごとに複数人設定することもあります。
身近な上司・先輩
上司や先輩社員は、ロールモデルに最適な人物です。
ロールモデルとなる人物の働く姿を見ることで、その人の仕事に対する姿勢や仕事の進め方、スキルなどを学べます。
所属する部署やチームにロールモデルにふさわしい人物がいない場合は、他部署の人でも構いません。
接点がある外部の人物
社内にロールモデルにふさわしい人がいない場合、取引先や同業他社など、接点のある社外の人物を設定することもあります。
外部の人だからこそ、客観的な視点でお手本にしたい部分を見つけられるでしょう。
有名人や歴史上の人物
周囲にロールモデルにふさわしい人物がいない場合、著名人や有名人、歴史上の人物を設定しても構いません。
ただし、「徳川家康のような偉業を成し遂げたい」などの抽象的すぎる目標や壮大な目標を設定しても、実業務に落とし込めないでしょう。
有名人や歴史上の人物をロールモデルに設定する際は、「渋沢栄一の経営に対する考え方」のように、その人の手本としたい部分を具体化することが重要です。
【社員別】ロールモデルに求められる人物要件
社員の属性によって、企業が社員に対して期待するものは異なります。
そのため、ロールモデルは「新入社員」「中堅社員」「ベテラン社員」の属性ごとに設定するのが望ましいです。
新入社員
新入社員には、上司や先輩社員の指示にもとづいた業務遂行を求められます。
そのため、新入社員のロールモデルには、
- 指示を正確に理解できる
- 聞かれたことに対して、的確な回答ができる
- 分からない業務はそのままにせず、タイミングを計って質問できる
- 積極的に業務に取り組んでいる
- 自主的に知識習得に務めている
などができている若手社員を設定すると良いでしょう。
中堅社員
中堅社員は、新人の教育や指示出し、場合によっては他部署と協力して仕事を進めることもあるでしょう。
したがって、中堅社員のロールモデルは、
- 相手の意図を正確に把握できる
- 相手の理解度に応じて説明できる
- 優先順位をつけて効率よく業務を進められる
- 調整能力がある
- スケジュール管理ができる
- 会話の中から課題やリスクが見つけられる
- 改善案とその理由を簡潔に説明できる
などの人物が適していると言えます。
ベテラン社員
リーダーなどの責任あるポジションにつく機会が増えるベテラン社員には、部下を指揮・管理して成果を上げることを求められます。
このことから、ベテラン社員のロールモデルは、
- 相手がどのような立場でも、真摯に意見を聞く
- 部下や後輩社員と適切なコミュニケーションを取り、モチベーションを引き出させる
- 現状や課題、改善案などを簡潔に説明して理解を促せる
- 調整力や交渉力がある
- 権限譲渡を促進している
- 業務効率の向上により、チームの生産性を上げている
といった人物が適切と言えるでしょう。
ロールモデルの設定方法
つづいて、ロールモデルの設定方法についてご紹介します。
目的を明確化する
ロールモデルに限った話ではありませんが、目的のない施策は失敗につながるため、まずは何のために行うのかを明確にしましょう。
「出産を機に女性社員が辞めてしまう」「若手社員の離職率が高い」など、解決したい課題が明確になれば、どういったロールモデルを設定する必要があるのかが見えてきます。
ロールモデルの設定
社員の年代や部門ごとに求める人物像を明確にし、ロールモデルを設定しましょう。
具体的には、
- スキルやそのレベル
- 働き方
- キャリアパス
などです。
このとき、社内にロールモデルとなる人物がいるかどうかを確認しましょう。
また、ロールモデルは他の社員の手本となる必要があるため、その人物のモラルや素行面も把握しておくのが望ましいです。
ロールモデルとなる人物の選定・育成
ロールモデルを設定したら、社内からロールモデルにふさわしい人物を選定します。
社内にふさわしい人物がいない場合は、誰にロールモデルになって欲しいかを決めた上で、個別に計画を立てて集合研修や個別研修で育成します。
集合研修
キャリア別研修や座談会といった場を活用して、
- モチベーションアップ
- 部署内におけるコミュニケーションの取り方
- 部署を超えたネットワークの構築
などを行います。
集合研修は立場の近い人たちと接点を持てるため、課題の共有や解決のヒントを得ることが可能です。
個別研修
個別研修では、個人の習熟度に合わせて、
- 知識・スキルの取得
- レベル別の外部研修
- メンターとの対話
といった施策を行います。
個別研修だけでなく、実業務を通した教育(OJT)も実施することで、ロールモデルに育成していきます。
ロールモデル人材の行動・考え方の一般化
ロールモデルとなる人物の選定・育成と合わせて、
- ロールモデル人材に仕事に対する考え方
- キャリア実現で意識していたこと
- どういう行動を取っているか
などについてヒアリングしましょう。
ロールモデル人材の行動や考え方が具体的になれば、他の社員にも広めやすくなり、今後の人材育成に役立ちます。
ロールモデル人材の周知
最後は、ロールモデル人材の社内周知です。
ロールモデルを設定しても、その存在が知られていなければ意味がありません。
具体的には、
- 社内報やイントラネットで紹介記事を掲載する
- 社内研修で紹介する
- 採用活動時に社員インタビューなどで紹介する
- 人事異動が発生したタイミングで紹介する
といった周知方法が挙げられます。
周知の際は、より多くの社員が興味を持てるよう、スキルアップや仕事と家庭の両立など、関心の高いテーマを紹介するのがおすすめです。
女性のロールモデルの活用方法
女性は、結婚・出産といったライフイベントを機に、キャリアが中断する傾向にあるため、将来に対して不安を感じている女性も多いです。
そのため、女性のロールモデルを活用すれば、女性活躍を推進できます。
ロールモデルとなる女性社員がいるのが望ましいですが、ロールモデルは年代やキャリアによって変わるため、適切な人物がいないこともあるでしょう。
その場合、
- 女性管理職との交流会や座談会の実施
- 女性社員を対象とした研修(育休復帰後のフォローアップ研修など)
- 女性の次世代リーダー育成を目的とした選抜研修
を行い、女性のロールモデルを育成します。
また、特定の女性社員を育成したい場合は、個別の育成計画を立てた上で、OJTやOff-JT、計画的な異動・配置、自己啓発支援などを行うと良いでしょう。
特に、女性はロールモデルとなる対象が少ないため、計画的に行うことが重要です。
参考:厚生労働省『メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル』
ロールモデルの設定で組織力強化
キャリアや属性に合わせたロールモデルを設定すれば、同じような立場の人が将来のイメージを持ちやすくなります。
離職抑止やダイバーシティが促進されれば、結果的に組織力の強化につながるため、ロールモデルの設定を行ってみてはいかがでしょうか。