春闘とは? 要求内容やスケジュール、昇給事例をご紹介

労使交渉のイベント、春闘をご存じでしょうか。

 

春闘とは、文字通り春に行われる労使交渉で、賃上げや労働環境の改善などが要求内容として挙げられます。

 

「言葉は聞いたことがあっても詳しくは知らない」といった方も多いでしょう。

 

そこで、本記事では春闘とは何か、どんな要求内容なのか、また春闘のスケジュールについて解説します。

 

春闘での昇給事例も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

 

春闘とは

春闘とは、春季生活闘争の略語で、労働組合と経営陣で行われる労使交渉のことです。

 

労働条件の改善を目的としており、例年2月〜3月に行われるため、“春季生活闘争”と呼ばれています。

 

春闘の具体的な内容は、賃上げ交渉や労働時間改善の交渉です。

 

一般的に、自動車や電機メーカーなどの大手製造業が春闘を行い、その後交通機関や電力などの非製造業が続きます。

 

大手企業の春闘で決まった労働条件や賃上げの相場が、中小企業が春闘を行う際の交渉の指標となります。

 

春闘の歴史

春闘は、1995年日本労働組合総評議会の主導によって、産業別の8つの労働組合が賃金アップを目的として、企業と交渉を行ったのが始まりです。

 

その後、多くの労働組合が集まるようになり、今日のように大規模な労使交渉となりました。

 

多くの労働組合が集まる理由は、組合によって力量に差があるからです。

 

1つの組合では力が弱くても、複数の組合が集まることで企業との交渉を優位に進められます。

 

また、春闘はメディアに取り上げられることも多く、注目度が高いです。

 

2023年春闘での賃上げ目標は5%

2023年春闘では、定期昇給と基本給を底上げするベースアップを合わせた賃上げ要求を「5%程度」とする方向で調整しています。

 

ちなみに、2016年以降の春闘での賃上げ要求は「4%程度」を掲げていました。今回の要求水準「5〜6%程度」は1995年以来の高さです。

 

ベースアップ単体を見ると、過去7年連続「2%程度」の要求水準でしたが、2023年春闘では「3%」に引き上げる予定です。

 

労働組合に認められている権利

労働組合に認められている権利は労働三権にもとづいています。

 

なお、労働組合法は労働三権を保障するために制定されています。

 

団結権

団結権は、「労働者が労働組合を結成し、労働組合に加入・活動する権利」です。

 

労働者にのみ認められている権利で、労働組合に加入すると対等な立場で使用者と交渉できます。

 

また、使用者は組合結成や加入に干渉したり、活動する労働者に対して不利益な扱いを行ったりしてはいけません。

 

こうした行為は、不当労働行為に当たり、労働組合法違反となります。

 

団体交渉権

団体交渉権は「労働者が組合などの任意団体を結成し、使用者と交渉する権利」です。

 

使用者は、労働組合からの交渉要請に応じる義務があり、原則拒否できません。

 

正当な理由なく、交渉に応じなかった場合、不当労働行為とみなされ、都道府県の労働委員会から指導が入ります。

 

場合によっては、労働者に対して損害賠償の支払いを命じられる可能性もあるため、注意が必要です。

 

団体行動権(争議権)

団体行動権は「労働者の要求実現のための圧力行動や示威行為を保証する権利」です。

 

労使間の交渉決裂など、交渉の行き詰まりを解消するための有効手段として、争議行動が認められています。

 

争議行動には、ビラ配りや集会の開催、ストライキなどが含まれています。

 

団体行動権にもとづく行為は民事・刑事ともに免責となるため、組合員に対して損害賠償請求や刑事罰を課すことはできません。

 

また、団体行動権の行使を理由とした、不利益な扱いは禁じられています。

 

春闘の要求内容

次に春闘の要求内容を紹介します。

 

定昇

定昇とは定期昇給の略語で、年齢・勤続年数・時間経過による昇給のことです。

 

労働者の能力に関わらず、毎年基本給が増えていく仕組みで、年功序列の体制を敷く企業にとって主軸となる制度です。

 

厚生労働省が実施した「令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によると令和3年中に1人あたりの平均賃金を引き上げた・引き上げると回答した企業は80.7%でした。

 

しかし近年では、成果主義での賃金制度に切り替える企業も多いため、必ずしもすべての企業で取り入れられているわけではありません。

 

ベア

ベアはベースアップの略語で、企業全体の賃金水準を底上げすることです。

 

たとえば労働者の基本給が20万円だった場合、1%のベアが締結されると基本給は202,000円になります。

 

労働者にとっては賃金改善につながりますが、企業にとっては人件費増大に直結するため、春闘ではベアが争点になることが多いです。

 

労働時間の短縮

近年では、労働時間の短縮も春闘の争点になっています。

 

労働基準法では、1日の労働時間を1日8時間・週40時間以内としている一方、未だに多くの企業で長時間労働が問題となっています。

 

働き方改革をはじめとした長時間労働の見直しも行われ始め、「労働時間の短縮」が春闘でのトピックとして取り上げられるようになりました。

 

ワークライフバランス

ワークライフバランスの維持・改善には、労働環境や労働条件の見直しが必要です。

 

ワークライフバランスとは、多様化する働き方を通して積極的に仕事へ取り組む一方、趣味や家族と過ごす時間などを充実させ、仕事と生活の調和を図ることです。

 

こういった好循環を作り出すために、春闘では良好なワークライフバランスを目指して、労働形態や条件などの改善について交渉します。

 

大企業と中小企業の格差是正

日本に存在する99.7%の企業は中小企業で、大企業との賃金や労働環境の格差も問題視されています。

 

中小企業の賃金アップが滞る理由として

  1. 労働組合が存在しない
  2. 不況の波を受けやすく、人件費を上げづらい

などが挙げられます。

 

2017年の春闘では「大企業と中小企業の格差是正」が重視された結果、2017年の賃上げ額は2016年の賃上げ額を上回りました。

 

非正規雇用で働く労働者の権利保全

昨今、「同一条件、同一賃金」が提唱されており、非正規雇用で働く労働者の権利保全も重要な争点となっています。

 

アルバイトやパートタイマー、契約社員、派遣社員といった非正規雇用は、雇用期間や賃金などを限定して雇用されます。

 

 非正規雇用は、正規雇用に比べると賃金が低く、手当や制度、福利厚生が不利な状況で働いている人も多いです。

 

そのため、非正規雇用の処遇見直しも、春闘のテーマとして取り上げられています。

 

春闘の賃上げによる業績悪化の対策

春闘は経営に直結するイベントです。そのため、企業は春闘による業績悪化を防ぐための対策を講じる必要があります。

 

人事評価制度を整える

成果重視の評価制度が普及している近年では、明確な人事評価制度の制定が重要です。

 

しかし、成果を重視する場合、年齢や在籍期間が同じでも労働者の間に賃金差が生じます。

 

このような差が不公平感につながる可能性も高いため、客観的かつ明確な根拠を基準とした人事評価制度の整備が必要不可欠です。

 

ジョブ型制度にシフトする

雇用時に職務内容や必要なスキル・能力を詳しく記した「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を交わすのも春闘対策になります。

 

ジョブディスクリプション(職務記述書)は、従事する職務内容などを記載した書類です。

 

ジョブ型制度にシフトすることで評価基準が明確になるため、不公平感の解消につながります。

 

ジョブディスクリプションについては『ジョブディスクリプションとは?導入が注目されている理由について』で詳しく解説しています。

 

同一賃金を導入する

同一賃金(同一労働同一賃金)の導入で、正規雇用と非正規雇用の不合理な賃金格差を解消する必要もあります。

 

同一労働同一賃金とは、職務内容が同じであれば雇用形態にかかわらず待遇を同一にすることです。

 

2021年4月から大企業だけでなく、中小企業に対しても「パートタイム・有期雇用労働法」が適用されました。

 

そのため、同一労働に対して不合理な差を出すことは禁止されています。

 

同一労働同一賃金については『【同一労働同一賃金】法改正のポイントや取り組み手順について解説』をご覧ください。

 

働き方改革を推進する

働き方改革の推進は労働環境を是正するため、すべての企業が取り組むべき課題です。

 

働き方改革とは、多様かつ柔軟な働き方が選択できるように、労働環境を改革することです。

 

企業は、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進、非正規雇用労働者の処遇改善を通じて春闘に備えましょう。

 

春闘のスケジュール

春闘は、多くの企業が新年度を迎える4月に焦点を合わせて行われます。

12月 さまざまな産業の労働組合が集まって方針を決定する。
1月 産業ごとの方針決定後、経団連が「経労委報告」を公表し、各企業は経労委報告をもとに交渉する労働条件の改善項目を設定する。
2月 労働組合が要望を企業に伝え、交渉を開始する。
3月 大手労働組合の妥結状況をもとに、中小企業の春闘が妥結される。

春闘では、例年3月中旬に大手企業から要求への回答が集まる「集中回答日」があり、交渉の山場を迎えます。

 

集中回答のスケジュール調整は、組合の中央組織である日本労働組合総連合会が行います。

 

春闘による昇給事例

最後に春闘による昇給事例を紹介します。

 

トヨタ自動車株式会社

自動車メーカーのトヨタ自動車は、2014年度の春闘で大幅な賃上げを行いました。

 

月次の平均給与を1万円アップし、賞与にあたる年間の一時金を1人当たり平均244万円に設定しました。

 

しかし、2020年と2021年の春闘では、例年続けてきたベアを見送っています。

 

日本電信電話株式会社(NTT)

通信業界大手のNTTは2021年の春闘で、正規雇用労働者1人当たりの月額給与を平均2,000円ほど昇給させると決定しました。

 

NTTは2014年から、8年連続で昇給を決定しています。

 

また、非正規労働者の給与は月額平均1,350円アップさせ、再雇用労働者の月給を前年同額になるよう調整しました。

 

NTTは労働者のモチベーションアップを目的として、2018年から給与の引き上げを経営計画に含めています。

 

UAゼンセン

UAゼンセンは外食・流通などの産業別労働組合です。

 

外食産業や流通産業は非正規雇用の割合が多いため、パートタイム労働者の労働組合も作られています。

 

2021年の春闘では、パートタイマー1人あたりの賃上げ率2.48%を獲得しています。また、正規雇用労働者の賃金伸び率は2.38%です。

 

春闘に備える観点で労働環境の改善を

春闘は、労働者の賃上げや労働環境の改善を目的とした労使交渉です。

 

「春闘でどんな部分が争点になるだろうか」といった視点は、企業の問題点・改善点を洗い出すのに役立ちます。

 

春闘での争点を予測し、普段からよりよい労働環境を目指しましょう。

ノウハウ記事は毎週【火・木】更新!

無料会員登録をすると、新着記事をまとめたメルマガを受け取ることが可能。
その他、さまざまな会員限定コンテンツをご利用いただけます。

無料会員登録する

最新記事

ログインまたは新規会員登録してからご利用ください。

新規会員登録

無料会員登録をすると、さまざまな会員限定コンテンツをご利用いただけます。

無料会員登録する

人事バンクについて

この企業をフォローしました。
フォローした企業の一覧はマイページからご確認いただけます。

この企業のフォローを解除しました。

このメールアドレスは、現在仮登録状態です。
本会員登録のご案内メールをご確認いただき、本会員登録を行ってください。

本会員登録のご案内は、下記メールをお送りしております。

▼メール件名
【人事バンク】本会員登録のご案内

送信が完了しました。
コメントをお寄せいただき、誠にありがとうございました。
サイト上に反映されるまで少しお時間をいただいております。
今しばらくお待ちいただけますと幸いです。