
部下を指導するとき、
「厳しく注意するとパワハラと思われないだろうか」
「どこまで注意してよいのか分からない」
「強く伝えた結果、部下との関係が悪くなるのではないか」
と悩む管理職は少なくありません。
一方で、必要な場面で適切な指導がおこなわれなければ、同じミスが繰り返されたり、職場のルールが守られなくなったりするおそれがあります。
結果として、チーム全体の生産性や信頼関係にも影響を及ぼしかねません。
部下を叱ることは、相手を責めたり感情をぶつけたりすることではありません。
問題となる行動を改善し、部下の成長を支援するためのマネジメントの一つです。
この記事では、部下を叱る目的や怒ることとの違い、避けたい叱り方、信頼関係を損なわずに改善を促す伝え方まで、管理職が押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。
【1】なぜ部下を叱ることが難しくなっているのか
部下を育成することは、管理職に求められる重要な役割です。
しかし近年は、「叱ること」に難しさを感じる管理職が増えています。
その背景には、働き方や価値観の変化があります。
以前は、「厳しく育てること」が当然と考えられる職場も少なくありませんでした。
しかし現在は、多様な人材が同じ組織で働くようになり、一人ひとりに合わせたコミュニケーションが求められています。
さらに、パワーハラスメント防止への意識が高まったこともあり、「指導したいが、強くいうことに不安を感じる」という管理職も珍しくありません。
一方で、必要な指導まで避けてしまうことも問題です。
部下が改善すべき点を理解できなければ、同じミスを繰り返す可能性があります。
また、周囲の社員が「ルールを守らなくても注意されない」と感じれば、職場全体の規律にも影響します。
適切に叱ることは、部下だけではなく組織を守ることにもつながります。
1-1.部下を叱らないことで起こるリスク
必要な場面で注意しない状態が続くと、さまざまな問題が生じます。
たとえば、次のようなケースです。
・同じミスが繰り返される
・部下が自分の課題に気付けない
・周囲の社員に不公平感が生まれる
・チーム全体の規律が乱れる
・管理職への信頼が低下する
部下を叱ることは、決して「嫌われ役になること」ではありません。
改善が必要な点を適切に伝え、成長を支援することも管理職の役割です。
1-2.「叱れない上司」が増えている理由
管理職が部下を叱れなくなる理由は、一つではありません。
特に多いのは、次のような理由です。
|
理由 |
内容 |
|
パワハラへの不安 |
指導がハラスメントと受け取られることを恐れている |
|
関係悪化への不安 |
部下との信頼関係を壊したくない |
|
指導経験の不足 |
叱り方を学ぶ機会が少ない |
|
世代間ギャップ |
若手社員との価値観の違いに戸惑っている |
これらの不安を抱える管理職は少なくありません。
しかし、「叱らないこと」が正解ではありません。
重要なのは、感情的に怒ることではなく、部下が改善できる伝え方を身に付けることです。
【2】「叱る」と「怒る」の違い
「叱る」と「怒る」は似た言葉ですが、目的は大きく異なります。
|
項目 |
叱る |
怒る |
|
目的 |
行動改善・成長を促す |
感情を発散する |
|
起点 |
部下や組織のため |
自分の感情 |
|
指摘する対象 |
問題となる行動 |
人や感情 |
|
ゴール |
次の行動を変える |
怒りをぶつける |
部下を叱る目的は、「相手を反省させること」ではありません。
問題となった行動を振り返り、同じ失敗を防ぐことです。
一方、怒ることは、自分の怒りや不満を相手へぶつける行為です。
感情に任せて大声を出したり人格を否定したりしても、部下は萎縮するだけで、本当の意味での改善にはつながりません。
2-1.「行動」と「人格」を分けて考える
部下を叱る際に意識したいのが、「行動」と「人格」を切り分けることです。
たとえば、資料提出が遅れた場合でも、「君は責任感がない」という伝え方では、人格を否定してしまいます。
一方で、「資料提出が予定より1日遅れたことで、取引先への連絡も遅れてしまった。次回は提出前日に進捗を共有してほしい」という伝え方であれば、
・何が問題だったのか
・なぜ改善が必要なのか
・次にどうすればよいのか
が明確になります。
部下も納得しやすく、改善へつながりやすくなるでしょう。
2-2.感情ではなく「事実」を伝えることが重要
叱るときは、憶測や決めつけではなく、事実をもとに話すことが大切です。
たとえば、「いつもやる気がないよね」という表現は、事実ではなく上司の印象です。
一方で、「提出期限を2回連続で過ぎていた」という伝え方であれば、客観的な事実を共有できます。
事実をもとに話すことで、部下も冷静に受け止めやすくなり、建設的な話し合いにつながります。
【3】部下の成長を妨げるNGな叱り方7選
部下を叱ること自体は必要です。
しかし、伝え方を誤ると、改善どころか信頼関係を損ねたり、部下のモチベーションを下げたりする原因になります。
まずは、避けたい叱り方を一覧で確認しましょう。
|
NGな叱り方 |
起こりやすい問題 |
|
人前で叱る |
心理的安全性が低下する |
|
人格を否定する |
信頼関係が崩れる |
|
他の社員と比較する |
劣等感や反発を招く |
|
感情的に問い詰める |
本音を話しにくくなる |
|
改善策を示さない |
同じミスを繰り返す |
|
過去の失敗まで責める |
自信や意欲を失う |
|
長時間説教する |
内容が伝わりにくくなる |
ここからは、それぞれの内容を詳しく見ていきます。
3-1.人前で叱る
他の社員がいる前で叱ることは避けましょう。
本人は強い羞恥心を抱くだけでなく、周囲の社員も「次は自分かもしれない」と不安を感じます。
その結果、発言や相談がしづらい職場になり、心理的安全性が低下するおそれがあります。
指導が必要な場合は、会議室など周囲に聞こえない場所で、1対1で話すことが基本です。
3-2.人格を否定する
「だから君はダメなんだ」
「社会人として常識がない」
このような言葉は、指導ではありません。
改善すべきなのは部下本人ではなく、問題となった行動です。
たとえば、
・報告が遅れた
・確認不足だった
・納期を守れなかった
など、事実に基づいて伝えることで、部下も改善点を理解しやすくなります。
3-3.他の社員と比較する
「○○さんはできているのに」
このような比較は、部下の成長につながりません。
他人と比べられることで劣等感や反発心が生まれ、同僚との関係が悪化することもあります。
比較するのであれば、他人ではなく過去の本人です。
たとえば、
「前回より報告は早くなったね。今回は確認漏れだけ改善できれば、さらに良くなるよ。」
このように伝える方が、前向きに受け止めてもらいやすくなります。
3-4.感情的に問い詰める
「なんでできなかったの?」
「どうして毎回ミスするんだ?」
このように感情的に問い詰めると、部下は自分を守ろうとして言い訳をしたり、本音を話せなくなったりします。
原因を把握したい場合は、責めるのではなく、事実を確認する姿勢が大切です。
たとえば、次のような聞き方であれば、部下も状況を整理しながら話しやすくなります。
・どの段階で認識がずれていたと思う?
・今回の原因は何だったと思う?
・次回はどのように進めれば防げそう?
改善策を一緒に考える姿勢を示すことで、建設的な対話につながります。
3-5.改善策を示さない
「もっと気を付けて」
「しっかり確認して」
このような抽象的な指摘だけでは、部下は何を改善すればよいのか分かりません。
たとえば資料の確認漏れが続いている場合は、
・提出前にチェックリストを使う
・完成後に5分間見直す時間を確保する
・上司へ提出する前にセルフチェックをおこなう
など、具体的な行動まで伝えることが大切です。
部下が次に取るべき行動を明確にすることで、同じミスを防ぎやすくなります。
3-6.過去の失敗まで持ち出す
今回の指導中に、
「前も同じことがあったよね」
「去年も注意したよね」
と、過去の失敗まで持ち出すことは避けましょう。
もちろん、同じ問題が繰り返されている事実を伝えることは必要です。
しかし、そのたびに昔の失敗まで責めてしまうと、部下は
「どうせ自分は評価されない」
「何をしても変わらない」
と感じやすくなります。
指導するときは、あくまでも「今回起きた問題」を中心に話を進めましょう。
繰り返し発生している場合は、本人だけではなく業務フローにも原因がないかを確認する視点も大切です。
3-7.長時間説教する
長時間話せば、部下に伝わるとは限りません。
むしろ話が長くなるほど、本当に伝えたい内容が分かりにくくなります。
叱る際は、次の3点を意識すると話が整理しやすくなります。
・問題となった事実
・なぜ改善が必要なのか
・次回どう行動すればよいのか
この流れで伝えることで、部下も内容を理解しやすくなります。
【4】信頼される上司が実践している叱り方5ステップ
部下を叱るときは、「何をいうか」だけではなく、「どのような順番で伝えるか」も重要です。
感情のまま注意すると、改善につながるはずの指導が、単なる叱責になってしまうことがあります。
一方で、相手への配慮を持ちながら順序立てて話すことで、部下も内容を受け入れやすくなります。
基本となる流れは次の5ステップです。
|
ステップ |
内容 |
|
STEP1 |
場所とタイミングを選ぶ |
|
STEP2 |
客観的な事実を伝える |
|
STEP3 |
問題点と影響を説明する |
|
STEP4 |
改善策を一緒に考える |
|
STEP5 |
今後への期待を伝える |
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1.場所とタイミングを選ぶ
部下を叱る際は、人目につかない場所を選びましょう。
オフィスで周囲の社員がいる中で注意すると、本人は必要以上に恥ずかしさを感じてしまいます。
また、周囲の社員も緊張し、職場全体の雰囲気が悪くなる可能性があります。
会議室や応接室など、落ち着いて話せる環境を用意し、1対1で話すことが基本です。
タイミングも重要です。
問題が起きてから時間が経ちすぎると、本人の記憶も曖昧になります。
できるだけ当日、遅くても翌日までには話すようにしましょう。
4-2.客観的な事実だけを伝える
話し始めるときは、まず事実を共有します。
たとえば、「今日提出された見積書で、金額の記載に2か所誤りがありました。」
という伝え方であれば、事実だけを伝えています。
一方で、
「最近やる気がないよね。」
「いつも確認不足だよね。」
という表現は、上司の印象や推測が含まれています。
事実と評価を混同すると、部下は指摘そのものに納得しにくくなります。
まずは事実だけを伝えることを心掛けましょう。
4-3.なぜ問題なのかを説明する
事実を伝えた後は、その行動がどのような影響を与えたのかを説明します。
たとえば、
・顧客へ誤った情報が伝わる可能性がある
・他部署の作業が止まってしまう
・会社の信用に関わる
など、背景まで共有することで、部下も改善の必要性を理解しやすくなります。
「ミスをしたから叱る」のではなく、「なぜ改善しなければならないのか」を伝えることが重要です。
4-4.改善策を一緒に考える
改善策を上司が一方的に決めてしまうと、部下は受け身になりがちです。
まずは本人に考えてもらいましょう。
たとえば、
・今回の原因は何だったと思う?
・同じミスを防ぐにはどんな方法が考えられる?
・次回から何を変えられそう?
このような問いかけをすると、部下自身が課題を整理しやすくなります。
もちろん、部下だけでは改善策が思い浮かばないこともあります。
その場合は、
「一緒に考えよう」
という姿勢でサポートすることが大切です。
改善策を押し付けるのではなく、一緒に作り上げることで、実践につながりやすくなります。
【5】ケース別 部下への伝え方
部下の性格や状況によって、適した伝え方は異なります。
同じ叱り方でも、相手によって受け止め方は大きく変わります。相手の立場や状況に合わせて伝え方を工夫することで、納得感が生まれ、改善にもつながりやすくなります。
ここでは、職場でよく見られる4つのケースについて、それぞれの対応方法を紹介します。
|
ケース |
伝え方のポイント |
|
同じミスを繰り返す |
原因を特定し、仕組みから見直す |
|
言い訳が多い |
事実を整理し、改善策へ話を進める |
|
年上の部下 |
敬意を示しながら対話する |
|
若手社員 |
安心感を与えながら改善を促す |
5-1.同じミスを繰り返す部下
何度注意しても同じミスが続く場合、「やる気が足りない」と決めつけるのは避けましょう。
同じミスを繰り返す背景には、本人の意識だけではなく、業務フローや確認方法に課題があるケースも少なくありません。
たとえば、次のような改善策があります。
・チェックリストを作成する
・ダブルチェックの仕組みを導入する
・作業手順を見直す
・報告・確認のタイミングを決める
本人へ注意を繰り返すだけでは改善しない場合は、「ミスが起きにくい仕組み」を一緒に考えることが重要です。
5-2.言い訳が多い部下
指摘するたびに、
「忙しかったので……」
「システムの不具合があって……」
と説明が続く部下もいます。
このような場合は、最初から否定するのではなく、一度事情を聞きましょう。
そのうえで、
「状況は理解しました。それでは、次回同じことを防ぐには、どのような方法が考えられますか。」
と、改善へ話題を切り替えることが大切です。
言い訳の真偽を追及するよりも、「これからどう改善するか」に焦点を当てた方が、建設的な話し合いになります。
5-3.年上の部下
年上の部下に対しては、命令口調や高圧的な態度は逆効果になりやすい傾向があります。
これまでの経験や知識に敬意を示しながら、相談する姿勢で話を進めましょう。
たとえば、
「○○さんの経験を踏まえて相談したいのですが、今回の件はどのように改善すると良いと思われますか。」
と伝えることで、自尊心を傷つけずに改善へ向けた対話ができます。
5-4.若手社員
入社間もない社員や若手社員は、仕事の経験が少ない分、注意されたことで「自分にはこの仕事が向いていないのでは」と必要以上に落ち込んでしまうことがあります。
そのため、注意するときは本人を否定するのではなく、「今回の行動のどこに問題があったのか」を具体的に伝えることが大切です。
たとえば、確認漏れがあった場合は、
「今回の確認漏れは改善する必要があります。ただ、仕事の経験が浅いなかでは、最初からすべて完璧にできるわけではありません。次からどうすれば防げるか、一緒に考えてみましょう」
と伝える方法があります。
何が悪かったのかを明確にしたうえで、改善方法まで一緒に考えることで、必要以上に萎縮させず、次の行動につなげやすくなります。
また、改善が見られたときには、「前回より確認が丁寧になったね」のように、具体的に良くなった点を伝えることも大切です。
注意するだけで終わらず、成長した部分もしっかり伝えることで、部下が前向きに仕事へ取り組みやすくなります。
【6】部下を叱るときに知っておきたいパワハラとの違い
「厳しく注意したらパワハラになるのではないか」と不安を感じる管理職は少なくありません。
しかし、業務上必要な範囲でおこなう適切な指導は、パワーハラスメントには該当しません。
重要なのは、「叱ること」ではなく、「どのような目的で、どのように伝えたか」です。
まずは、適切な指導とパワーハラスメントの違いを確認しましょう。
|
項目 |
適切な指導 |
パワーハラスメント |
|
目的 |
業務改善・部下の成長 |
相手を傷つける・感情をぶつける |
|
指摘する内容 |
行動や業務上の課題 |
人格や能力そのもの |
|
話し方 |
冷静かつ客観的 |
威圧的・感情的 |
|
改善策 |
一緒に考える |
一方的に責める |
|
指導後 |
改善へ向けた支援をおこなう |
放置・繰り返し責める |
厚生労働省では、パワーハラスメントを「優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害する言動」としています。
つまり、業務改善を目的とした冷静な指導まで禁止されているわけではありません。
6-1.パワハラと判断されやすい言動
業務上の指導であっても、次のような言動はパワーハラスメントと判断される可能性があります。
・人格を否定する
・大声で威圧する
・長時間にわたって叱責する
・人前で必要以上に叱る
・私生活へ過度に干渉する
・業務と関係のない内容で責め続ける
一方で、
・問題となった行動を伝える
・改善方法を一緒に考える
・必要な範囲で注意する
といった対応は、管理職として必要な指導です。
「叱らない」のではなく、「適切に叱る」ことが重要だといえるでしょう。
6-2.感情的になりそうなときの対処法
部下のミスが続くと、つい感情的になってしまうこともあります。
そのようなときは、すぐに注意するのではなく、一度気持ちを落ち着かせる時間を作りましょう。
たとえば、次のような方法があります。
・深呼吸をする
・数秒間間を置く
・事実だけを書き出す
・面談の時間を改めて設定する
感情が高ぶったまま話すと、必要以上に強い言葉を使ってしまう可能性があります。
また、「どうしてできなかったんだ」ではなく、「次回はどうすれば改善できそうですか」と未来に目を向けた質問へ切り替えることで、建設的な話し合いになりやすくなります。
【7】まとめ
部下を叱ることは、相手を責めることではありません。
問題となった行動を改善し、部下の成長を支援するために必要なコミュニケーションです。
最後に、本記事のポイントを振り返ります。
部下を叱るときのポイント
・叱る目的は、部下の成長や行動改善にある
・人格ではなく、行動や事実を伝える
・感情ではなく、客観的に話す
・改善策を一緒に考える
・最後は期待や信頼を伝えて終える
避けたい叱り方
・人前で叱る
・人格を否定する
・他の社員と比較する
・感情的に問い詰める
・改善方法を示さない
・過去の失敗まで責める
・長時間説教を続ける
信頼関係を築くために大切なこと
・部下の話にも耳を傾ける
・日頃からコミュニケーションをおこなう
・指導後も継続的にフォローする
・成長した点は積極的に評価する
部下を叱ることは、管理職にとって避けて通れない役割の一つです。
しかし、伝え方を工夫することで、部下との信頼関係を損なうことなく、行動改善や成長につなげられます。
大切なのは、「叱ること」そのものではなく、「部下が次にどう行動できるか」を意識して対話することです。
日頃からコミュニケーションを重ね、安心して相談や挑戦ができる環境をつくることが、組織全体の成長にもつながります。


