「希望退職制度」とは、従業員に向けて退職希望を募り、退職を希望した従業員に対して、自主退職するよりも有利な条件を提示する制度のことです。
よく利用される条件として「割増退職金」があげられますが、きちんと運用しなければトラブルに発展する恐れがあります。
今回は、適切な運用方法について解説します。
希望退職制度の目的
人員削減のため
経営状況が悪化した場合に、総額人件費を削減することを目的に「希望退職制度」を利用する場合があります。
労働者保護のため、会社側から一方的に解雇することは非常に厳しく制限されており、どれだけ会社の経営状況が苦しくても、むやみに解雇を行うことは「不当解雇」としてトラブルに繋がるでしょう。
そのため整理解雇をするのではなく「希望退職制度」を利用して、人員削減を行うケースがよくあります。
世代間のバランス調整のため
日本の雇用慣行では、終身雇用・年功序列といった安定した雇用が約束されていました。
しかし近年では、少子高齢化の影響により、高齢社員の割合が多くなり、反対に若手社員が少ない傾向にあります。
そのため世代間のバランスが崩れ、高齢化した状態となり、これまで通りの待遇を保証することが難しくなっているのです。
さらに役職のポストも少なくなってしまいます。
そこで会社内のバランスを調整するため「希望退職制度」を利用し、高齢社員に新たな道へ進む選択を与えています。
メリットとデメリット
メリット
年齢が高く、高額の給与を支払う必要のあった従業員が自主的に退職してくれることから人件費の削減が見込めます。
長期雇用慣行により賃金の上昇カーブは、成果と見合わない高額な給与になりがちなのです。
定年するよりも先に退職をしてもらうことで、人件費削減の効果はかなり大きなものとなるでしょう。
退職する従業員にとっても、定年後は隠居生活を送るケースが多かったのに対し、希望退職の場合は、第二の人生として新たなキャリアプランを設計できるというメリットがあります。
デメリット
一番に考えられるのは「割増退職金の負担」です。
「希望退職制度」を利用してもらうためには、会社に残るよりもより良い条件を従業員へ提示し自発的に退職してもらわなければいけません。
最も利用されている条件が「割増退職金」ですが、定年退職するよりも早期に退職金規定よりも高額な退職金を用意することは、企業にとって大きな負担となります。
また、早期退職の条件が良すぎる場合は、会社に残って欲しい人材が一斉退職する危険もあります。
実施手順
対象者の検討
企業側は、制度の対象・目標削減数・募集時期を設定することができます。
対象については役職・年齢・勤続年数などの基準を設け対象を絞ったり、条件に差異をつけたりすることが可能です。
有利条件の検討
有利条件は、通常下記のような項目で設定されています。
◆退職金の支払い
◆割増退職金の支払い
◆未消化有給休暇の買い上げ
◆退職日前の有給によっての就業不要期間の付与
◆希望がある場合の再就職の支援
法律では有利条件の規定はありませんが、有利条件は対象者の自主的な応募を促す必要があるため、自己都合や整理解雇より魅力的な条件を設定する必要があります。
従業員への説明
従業員への説明会を開くのが一般的です。
希望退職制度導入の必要性、対象者、募集期間、有利条件について誤解がないように伝えることが重要です。
希望退職の申請があっても承認しない従業員に対しては、事前に承認しないことを伝えておきましょう。
応募受付、承認、合意書の作成
希望退職制度の導入は、会社法362条4項「重要な業務執行」に該当するため、取締役会決議が必要となります。
応募後、企業承認を経て、合意書作成をもって法的拘束力が生じます。
注意点
「希望退職制度」に応募し、合意書が作成されたとき、退職が確定します。
その後、別の方法を使って退職をすることはできません。
例えば、「希望退職制度」が複数ある場合や、希望退職を段階的に行うことで有利条件が異なっている場合に注意が必要です。
他にもっと有利な条件があるにもかかわらず周知せずに早期退職した場合、労働トラブルに繋がるリスクが非常に高くなります。
従業員がなるべく不利にならないように、他の退職制度がある場合や継続して「希望退職」を行う場合は、周知しておく必要があるでしょう。
周知を行うことによって希望退職への応募をやめることのないよう、「希望退職」を段階的に行う場合は段階によっての差異は慎重に決定する必要があります。
まとめ
適切な「希望退職制度」の運用方法について、解説してきました。
「希望退職」を募集する場合は、経営が悪化していないケースでも行うこともありますが、多くは経営状況が悪くなり、状況を改善するための苦肉の策として、うことと思われます。
法律的に適切な運用方法を徹底し希望退職制度の目標を達成できるよう、予想外のリスクを避け、企業にとっても従業員にとっても双方に利益のあるwin-winの関係を築けるように、周到に準備をしておくことが大切になります。