単身赴任や転勤、出向など、従業員のライフスタイルを大きく変える人事異動は、トラブルに発展しやすい場面の一つです。

 

近年では、従業員が異動命令の無効を主張して訴訟を起こす事例が全国的に発生しており、社会的にも見過ごせない問題になりつつあります。

 

そこで今回は、適切な人事異動を行うために注意すべき点をご紹介します。

 

そもそも人事異動の正しい流れとは?

円滑な人事異動を実施するには、社員のモチベーションを考えた伝え方やタイミングで内示を行い、異動に必要な準備の時間をしっかり与えることが大切です。

 

ここでは人事異動命令の正しい流れをご説明します。

 

雇用契約書・就業規則の確認

従業員に対して人事異動を命じるためには、雇用契約書、または就業規則などに異動に関する規則が定められていることが前提となります。

 

正社員の中には、勤務地や職種が限定されている「限定正社員」という働き方をしている場合があるため、異動可能な契約になっていることを確認してください。

 

人事異動の内示

辞令に先立ち、会社が人事異動を予定していることを従業員に伝えましょう。

 

その際に大切なのは、「なぜその社員が抜擢されたのか」を具体的に説明してあげることです。

 

内示を上手く伝えられれば、異動後もモチベーション高く活動し、大きな結果を生み出してくれるに違いありません。

 

また、異動に必要な時間を与えることも重要です。

 

遅くとも1ヶ月前には内示を終わらせ、「心の準備」を行う期間を設けてあげましょう。

 

辞令の交付

内示の承諾後、正式な異動辞令を交付します。

 

会社として正式に命令したことを明確にするため、「異動の日付」と「新しい勤務地」を必ず明記してください。

 

人事異動で起こりうるトラブル例1

栄転であれ、昇進であれ、従業員が納得した上での人事異動でなければ、トラブルへ発展してしまう恐れがあります。

 

この項目では、実際に起こったトラブルをご紹介します。

 

個人的事情の未把握

トラブルの多くは、「従業員の個人事情を把握していなかったために引き起こしている」と言っても過言ではありません。

 

就業規則等で定められている命令を従業員個人が拒否することはできませんが、困難な事情があるときには、裁判所でも例外的に認めている事例が複数あります。

 

実際に起きた事例:NTT東日本事件/平成21年3月26日

概要

高齢の両親を介護しながら住んでいた従業員に、苫小牧から東京への転勤命令が下され、これを拒否した事案。

 

裁判所の判断

従業員の父親には重度の視力障害、母親には左膝関節の障害があり、従業員が同じ苫小牧市内に住んで介護してきたという事情がありました。

 

従業員が単身赴任した場合、従業員の妻らが介護するほかないですが、従業員の妻と両親の関係から実施は困難。

 

従業員が両親を連れて東京に転居することも不可能であるとして、会社の転勤命令が違法であると判断されました。

 

 

上記のように「命令が違法である」と判断されるケースもあります。

 

内示の際には決定事項として異動を伝えるのではなく、従業員の事情も考慮する必要があることを覚えておきましょう。

 

人事異動で起こりうるトラブル例2

訴訟まで発展している事例は少ないですが、些細な問題でもトラブルへ発展してしまう可能性があります。

 

前述したケースと合わせて、その他のトラブル事例も確認してみましょう。

 

生活水準の低下

人事異動によって、転勤・職種変更が行われた場合に、「勤務地手当」や「職務手当」といった手当類が支給されなくなり、給与が減額することによるトラブルが発生しています。

 

裁判に至った事例も存在し、多くの場合、「同意のない減給は無効」という判決が下されています。

 

権利の乱用

近年ではパワハラにあたるとして少なくなりましたが、気に入らない従業員を閑職や慣れない仕事に異動させ、自主退職へ誘導させることは職権の乱用にあたります。

 

訴訟などに移行した場合、大抵は企業側の不利となるため、間違った人事異動は避けるべきでしょう。

 

納得できない異動による退職

人事異動のメリットが大きく、従業員にとって良いものであったとしても、本人が望まない異動であった場合には納得してもらえないことが多いです。

 

最悪のケースでは、異動を理由に従業員が退職してしまい、貴重な人材を失ってしまうということも考えられます。

 

トラブルを防ぐために注意すべきことは?

さまざまなトラブル事例をご紹介してきましたが、これらの多くは事前の対策で防ぐことが可能だと言えます。

 

労使対立で不利にならない就業規則を作成する

人事異動に限ったことではありませんが、厚生労働省が定めている法律に則った就業規則を作成し、万が一トラブルに陥ったとしても、企業が不利にならない対策を施すことが重要です。

 

また従業員を入社させる際にも就業規則の説明を行い、認識にズレがないよう確認しましょう。

 

従業員との信頼関係をしっかりと構築する

人事異動を円滑に進めるために重要なのは、従業員との信頼構築です。

 

どんなに魅力的な人事異動であっても十分な関係を築けていなければ、会社への不信感に繋がることがあります。

 

日頃の行いも含めて、従業員と真摯に向き合う姿勢が重要だと言えます。

 

状況に応じた配慮を検討する

人事異動に伴って従業員の生活が大きく変わる場合には、その状況に応じた配慮も心掛けましょう。

 

例えば従業員が単身赴任をする場合、生活費の負担増を考慮した単身赴任手当の支給や週末帰宅のための交通費を企業が負担することなどが挙げられます。

 

人事異動は従業員の生活を大きく変えることになるので、従業員の立場に立った制度や配慮が必要です。

 

また、一方的に会社の想いを押し付けるのではなく、従業員個人の想いも大切にしてください。

 

まとめ

今回は従業員と企業の間でトラブルが増加している「人事異動」についてご説明してきました。

 

1番重要なのは、『就業規則等で定められている場合、従業員が個人的な理由で命令拒否することはできませんが、育児や介護といった特別な事情が考えられるケースでは、企業側が命令を再考する必要がある』ということです。

 

また、従業員のライフスタイルを大きく変える人事異動は、些細な事柄でもトラブルへ直結してしまいます。

 

従業員が気持ち良く働き続けられるよう、状況に応じた配慮や説明を行い、強固な信頼関係を構築していくことが、トラブルを未然に防ぐポイントとなりそうです。

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