過重労働と聞くと、痛ましいニュースを思い起こす人も多いと思います。
「従業員の残業時間が多い」「過重労働への対策が知りたい」など、お困りではありませんか。
長時間労働による過重労働は、心臓疾患やうつ病などのさまざまな健康障害を引き起こすリスクが高くなります。
過重労働の主な原因である長時間労働を是正して、労働者の健康を守りましょう。
今回は、過重労働の定義や時間、対策方法についてご紹介いたします。
過重労働撲滅特別対策班(かとく)についても解説していきますので、ご覧ください。
過重労働とは
過重労働とは、過度な出張や長時間労働、不規則な勤務などによって、労働者の肉体や精神に大きな負荷を負わせる労働のことです。
過重労働は、法定の労働時間・休憩・休日を超えた「時間外労働(残業)」の部分が対象となります。
【法定の労働時間・休憩・休日】----------
・使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。
・使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけません。
・使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
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引用:厚生労働省「労働時間・休日」
ただし、「時間外労働協定(36協定)」という労使協定を結んでいれば、法定を超過した時間外・休日労働が認められます。
そのため、法定労働時間を超過したからといって、必ずしも過重労働になるわけではありません。
過重労働は深刻な健康障害を引き起こす
長時間労働による過重労働は、深刻な被害を引き起こす可能性があります。
ここでは、過重労働が引き起こす健康被害について見ていきましょう。
下記は、長時間労働と関連する健康問題を表した図です。
引用:独立行政法人労働安全衛生総合研究所「長時間労働者の健康ガイド」
ここで示されている通り、長時間労働は労働の負荷が増え、休養や余暇の時間が減ります。
精神的ストレスも高くなることで、心身ともにリラックスできる時間が減少して疲労が溜まりやすくなり、過労死や精神障害といったリスクを高めるのです。
労働安全衛生総合研究所では、過重労働による労働災害で認定された脳・心疾患の件数は、2010年度で285件と発表しています。
労災認定されているだけでも年間約300人が、脳・心臓疾患を発症していることを考えると、長時間労働による過重労働は深刻な問題であることが分かりますね。
健康障害のリスクが高まる時間の基準
時間外労働時間が長くなるほど健康障害のリスクは高まります。
ここでは、労災認定基準となる労働時間の目安から、健康障害リスクが高まる基準を見ていきましょう。
45時間を超える時間外労働
発症前1ヶ月~6ヶ月にわたり、時間外労働が45時間を超えると、徐々に業務と発症の関連性が強まるとされています。
100時間または80時間を超える時間外労働(過労死ライン)
発症前1ヶ月間におおむね100時間または、発症前2ヶ月~6ヶ月の間に、1ヶ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関連性が強いとされます。
つまり、過労死ラインである月80時間(月20日出勤としたとき、1日4時間以上の残業・12時間労働)超の残業は労災認定される可能性が高く、健康障害のリスクが一気に高まるということですね。
※過労死ライン未満であっても、長時間労働は健康障害を引き起こす原因になるため、注意が必要です。
参考:厚生労働省「脳・心臓疾患労災認定-「過労死」と労災保険-」
長時間労働の違法性について
労災認定の目安となる基準が設定されていることからも明らかな通り、長時間労働と健康障害には密接な関係があることが分かりました。
ここでは、時間外労働時間(残業)について違法性の有無を見ていきましょう。
時間外労働協定(36協定)の上限規制
法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働を行うには、36協定の締結が必須です。
ただし、36協定を結んでも時間外労働が無制限に認められるわけではありません。
36協定の時間外労働の上限規制と特別条項は下記の通りです。
罰則付きの条件が法律に規定されているため、違反した場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
【36協定の時間外労働の上限規制】--------------
上限規制の適用:大企業は2019年4月~、中小企業は2020年4月~
1ヶ月:45時間
(対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制の労働者は42時間)
1年間:360時間
(対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制の労働者は320時間)
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参考:「時間外労働の上限規制 分かりやすい解説」
36協定の上限規制を超えた労働(特別条項)
上限規制の例外として、臨時的な特別の事情がある場合は「特別条項」を付けることで、上限規制を超えた労働ができるようになります。
【特別条項】------------------------
・時間外労働が年720時間以内
・時間外・休日労働の合計が月100時間未満
・2~6ヶ月の時間外・休日労働の合計が1ヶ月当たり平均80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
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参考:「時間外労働の上限規制 分かりやすい解説」
2018年に施行された働き方改革法案前は特別条項付きの36協定を締結すれば、上限なく時間外労働を行わせることが可能であり、法的拘束力もありませんでした。
しかし、今回の改正によって罰則付きの法律が規定されたため、長時間労働の大きな抑止力となるでしょう。
法定労働時間を超える労働は、「36協定」や「特別条項」を締結することで一定の時間外・休日労働が認められます。
上限を超えない限り違法ではありませんが、労働者の健康を守るためにも時間外・休日労働は最小限にとどめる必要があります。
過重労働で問題になったケース
過重労働は、過労死や精神疾患、自殺などを引き起こす原因になります。
実際に過重労働が原因で問題になったケースがありますので、ご紹介します。
建設会社の死亡事例
「1ヶ月にわたる過重労働により心筋梗塞を発症し、死亡」
経緯
某マンション建築現場の施工管理者として勤務していたが、工期遅れが発生。
なんとか遅れを巻き返すべく、頻繁に担当者と打ち合わせを行っていたため、1ヶ月当たり約70時間の時間外労働が続いた。
また、心筋梗塞発症前1ヶ月間においては、時間外労働時間が110時間にも及んでいる。
結果
心筋梗塞発症1ヶ月間に100時間を超える時間外労働が認められたことから、過重労働が原因であるとして労災認定されています。
参考:厚生労働省「長時間労働の削減に向けて」
広告代理店の死亡裁判事例
「恒常的な長時間労働によりうつ病を発病し、自死(新入社員20代男性)」
経緯
日ごとに増えていく業務によって心身ともに疲労困ぱい状態となり、4月に入社してから4ヶ月後の8月にうつ病を発病。
入社1年5ヶ月後の下旬、自死に至った。
結果
自死に至った責任は会社側にあるとして、遺族が損害賠償請求。
下記の点から「民法715条(使用者等の責任)に基づき、会社側は当該労働者死亡による損害賠償責任を負う」との判決が出た。
・長時間労働によるうつ病の発病が認められ、業務遂行とうつ病による自死には因果関係がある。
・恒常的な長時間労働に従事し、健康状態が悪化していることを知りながら、負担軽減の措置を取らなかったことは過失がある。
判決を受け、会社が遺族に対して多額の賠償金を支払うことで和解しています。
参考:厚生労働省「長時間労働の削減に向けて」
過重労働の4つの対策方法
長時間労働による過重労働は深刻な事態を招き、使用者責任として重いペナルティを受ける可能性もあります。
ここでは、過重労働対策方法についてご紹介します。
時間外・休日労働時間の削減
長時間労働は過重労働の大きな問題であるため、時間外・休日労働時間の削減が重要です。
時間外・休日労働時間を削減するには、従業員ごとに始業・就業時刻を正確に把握し、記録する必要があります。
タイムカードのように一月分の勤怠をまとめて手入力する方法は、タイムラグがあるため、労働者の異常な残業に気づくのが遅れる可能性があります。
また、入力ミスのリスクもあることから、自動で管理できる「勤怠管理システム」が適正でしょう。
従業員ごとの勤怠状況を正確に把握でき、残業超過アラート機能付きの勤怠管理システムを利用すれば、過重労働防止効果が期待できます。
時間外労働時間の削減方法
時間外労働時間の削減に向けた方法をご紹介します。
・ノー残業デーの導入
週に1~2日残業しない曜日を決めることで、計画的に業務を遂行するようになり、プライベートの時間を確保できます。
・業務ローテーション
さまざまな業務を経験することにより、従業員同士でフォローし合えるようになるため、長時間労働の削減に期待できます。
・残業の事前承認制度
残業を行う際は管理職へ事前に申請し、管理職が残業の適正を判断します。
業務量や内容、時間が管理されるため業務の効率化が見込めて、無駄な残業を防げます。
年次有給休暇の取得推進
働き方改革法案の施行により、年5日の有給休暇取得が義務化されています。
「10日以上の有給休暇が付与される全ての労働者は、年5日間有給休暇を取得させなければならない」という制度です。
有給休暇の取得推進には、業務に支障が出ないよう環境を整えることが重要です。
具体的には、下記のような方法が挙げられます。
・一人しかできない仕事を減らし、フォロー体制を整える
・早めの休暇計画を労働者に呼び掛ける
?有給休暇についての詳細は「働き方改革で、有給休暇の年5日取得が義務化!ルール・罰則は?」をご覧ください。
健康管理体制を整備する
過重労働の原因となる長時間労働の防止と併せて、衛生委員会の設置や健康診断の実施で従業員の健康を守りましょう。
産業医の選任
事業者は事業場の規模に応じて産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせることが義務付けられています。
【産業医の選任義務】------------------
・50人以上3,000人以下の規模の事業場…1名以上の選任
・3,001人以上の規模の事業場…2名以上の選任
・50人未満の事業場…選任義務なし
ただし、労健康管理等を行うのに必要な知識を持つ医師等に、労働者の健康管理等の全部または一部を行わせることとされています。
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参考:厚生労働省「産業医について~その役割を知ってもらうために~」
安全委員会・衛生委員会の設置
労働者の健康や安全について労使一体で取り組むことを目的としており、下記の基準に該当する事業場は、衛生委員会・安全衛生委員会を設置しなくてはなりません。
引用:厚生労働省「安全衛生委員会を設置しましょう」
上記以外の事業者は、衛生委員会を設置する義務はありませんが、安全または衛生に関して労働者の意見を聴くための機会を設けなければなりません。(労働安全衛生規則第23条の2 )
健康診断の実施
事業者は、労働者に対して医師による健康診断を実施し、労働者はそれを受けなくてはなりません。
事業者に実施が義務付けられている健康診断は下記の通りです。
引用:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」
また、健康診断で異常所見が認められた労働者がいた場合、「健康保持のために必要な措置について医師の意見を聞き、必要な措置を講じること」とされています。
長時間労働者への医師による面接指導制度
長時間労働などにより健康リスクが高まっている労働者に対して、事業者は医師による面接指導を実施しなくてはなりません。
【面接指導対象者】-------------------
・月100時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者(申出)
・時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者(申出)
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※80時間超の労働者は努力義務でしたが、安全衛生法改正により2019年4月~面接指導対象者になっています。
参考:厚生労働省「過重労働による健康障害を防ぐために」
過重労働撲滅特別対策班(かとく)とは
有名企業送検のニュースで「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」を耳にした人も多いのではないでしょうか。
ここでは、「かとく」について解説していきます。
「かとく」とは、悪質な長時間労働を取り締まるための機関で、「企業の違法な長時間労働を是正すること」を目的としています。
引用:厚生労働省「過重労働撲滅特別対策班」
上記は「かとく」の組織体制表です。
厚生労働省にある「本省かとく」が司令塔のような役割を持ち、各労働局に設置されている「過重労働特別監督管理官(かとく管理官)」の下で「労働基準監督署」が実際に捜査を行います。
「かとく」の調査対象と調査内容
月80時間(過労死ライン)を超える残業が疑われる事業所は、立ち入り調査の対象です。
「かとく」は長時間労働などの過重労働問題専門で取り組んでいるため、下記のような内容を念入りに調査します。
主な調査内容
・36協定が適正に運用されているか
・適正な残業代を支払っているか
・月80時間(過労死ライン)を超える時間外労働がないか
また、「かとく」には労働法違反をしている企業や使用者を逮捕、送検する権限を与えられています。
違法性があると認められた場合、書類送検や刑事罰を受ける可能性もあるため、過労死ラインを超えないよう時間外・休日労働の削減に取り組みましょう。
過重労働を防止して従業員の健康を守りましょう
長時間労働による過重労働は、過労死や精神障害などの深刻な健康障害を引き起こします。
また、過重労働が問題になると企業のイメージダウンは免れません。
若手の人材は、ワークライフバランスを重視する傾向があるため、過重労働問題のあった企業は避けられてしまうでしょう。
採用市場の厳しい近年において、致命的なマイナスポイントになりかねないので、長時間労働削減の工夫をする必要があります。
ご紹介したような方法で対策を講じ、労働者の健康管理を徹底してくださいね。