人材ポートフォリオは、経営戦略や事業計画と連動した中長期的な人事マネジメントに役立ちます。
そのため、働き方が多様化し、ビジネス環境が目まぐるしく変化する昨今、人材ポートフォリオを作成する企業が増えています。
そこでこの記事では、人材ポートフォリオの概要やメリット、具体的な作成方法についてご紹介します。
作成時のポイントについても触れていますので、ぜひご覧ください。
人材ポートフォリオとは?
人材ポートフォリオとは、戦略的に配置された人的資本の構成内容のことです。
具体的には、経営目標や事業内容と照らし合わせて、
- 社内のどこに(部門、役職、ポジション)
- どのような人材が(職種、能力・スキル、適性)
- どのくらい(人数、在籍年数)
を組み合わせることで、成果の最大化を目指します。
簡単に言うと、人材ポートフォリオは適材適所を実現するための考え方・ツールです。
人材ポートフォリオを考えることで、「社内にどういう人材がどれくらいいるのか」「成果を上げるにはどれくらい人材が必要か」などが明確になります。
そのため、人材ポートフォリオは採用計画や人材育成、人員配置、評価といった中長期的な人事マネジメントに欠かせない考えと言えます。
ちなみに、元来ポートフォリオは「書類入れ」「紙ばさみ」という意味です。
金融業界で有価証券一覧を指す言葉として使われるようになり、現代では自分の実績が分かるものや作品集をポートフォリオと呼ぶなど、さまざまな意味で用いられています。
人材ポートフォリオが必要とされる背景
人材ポートフォリオの必要性が高まった背景として、働き方の多様化やVUCAの影響が挙げられます。
従前の日本企業は、男性の総合職を中心に回っており、働き方も画一的でした。
しかし、現在は女性の社会進出や派遣社員の増加、ダイバーシティ浸透などの影響から、雇用の多様化が進んでいます。
加えて、終身雇用制度の崩壊もあり、労働者の価値観が大きく変わったため、企業には柔軟な働き方の提供が求められるようになりました。
また、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に突入したことで、ビジネス環境の変化スピードは格段に速まっています。
そのため、人材の同質化が進むとイノベーションが起こりにくくなり、変化から取り残される可能性が高くなります。
変化の激しい時代で企業が生き残るには、多様な人材が最大限パフォーマンスを発揮できるよう、適切な人事マネジメントを行うことが重要です。
したがって、適材適所を実現させるためのマネジメントツールとして、人材ポートフォリオの必要性が高まりました。
人材ポートフォリオを作成するメリット
ここでは、人材ポートフォリオを作成するメリットについてご紹介します。
最適な人材配置ができる
人材ポートフォリオを作成する最大のメリットは、適材適所の配置です。
人材ポートフォリオを作ると、従業員の強みや弱み、キャリア観だけでなく「目標を達成するのに、どういう人材がどれくらい足りないか」についても把握できます。
現状と理想とのギャップが明確になれば、最適な人材を配置できるため、業務効率化や生産性向上につながります。
また、社員は強みを活かした業務や希望のキャリアに沿った業務に携われるため、モチベーション向上や離職率低下が期待できるでしょう。
社員のキャリアアップにつながる
労働者の価値観や働き方が多様化する近年、社員のキャリアパスは管理職だけではなくなりました。
「専門職としてスキルを磨く」「育児や介護との両立のために時短で働く」など、個人の置かれている状況やキャリア観によってさまざまです。
そのため、本人の意向を確認せずに配置転換を行うと、従業員エンゲージメントが低下する恐れがあります。
人材ポートフォリオを作成すると、強みや弱み、キャリア観を把握できるため、個人の志向・適性を考慮した配置やキャリアパスの提示ができます。
人材や人件費の過不足を把握できる
人材ポートフォリオを作成すると、人材や人件費の過不足を把握できます。
社内に多いタイプや足りないタイプを把握すれば、過不足が発生している部署に対して、採用・人員配置・育成といった適切な対応が取れるでしょう。
また、無期雇用と有期雇用の社員の割合を保ち、役割を明確にすることで、現在の人的資源を最大限活用できます。
計画的に採用や人事異動を行えるため、人材流出にもスムーズに対応できるでしょう。
人材ポートフォリオの作成方法
人材ポートフォリオを詳細に設計する場合、専門のコンサルタントに依頼することも多いでしょう。
ここでは、自社で簡易的に人材ポートフォリオを分析・設計できるよう、大まかな作成方法についてご紹介します。
1.活用目的の明確化
まずは、人材ポートフォリオの活用目的を明確にしましょう。
何の目的もなく人材ポートフォリオを作成しても、思うような効果を得られないようばかりか、ミスマッチが生じる恐れがあります。
そのため、自社の経営戦略や事業計画にもとづいて、「人材ポートフォリオの活用で実現したいこと」を設定することが重要です。
2.基準の軸を決める
目的を明確化したら、人材タイプを分類するための基準となる軸を決めます。
軸の設定は、人材ポートフォリオを有効活用できるよう設定する必要があるため、目的や事業内容などによって変わります。
一般的には、
- 個人(個人単位で行う仕事)/組織(チーム単位で行う仕事)
- クリエイティブ(新しいことを生み出す仕事)/ルーチン(既存の仕組みを運用する仕事)
の2軸・4象限で表現することが多いです。
この軸に人材タイプを当てはめると、「オペレーション」「クリエイティブ」「エキスパート」「マネジメント」に分類できます。
他にも、
- 総合職(ジェネラリスト)/専門職(スペシャリスト)
- 常時雇用/臨時雇用
など、多様な定義ができます。
「今ある仕事」「今いる社員」だけで考えず、今後の方向性を見据えて定めましょう。
3.社員の人材タイプを分類
基本の軸が決まったら、社員の人材タイプを分類します。
このとき、人事担当や分類する人の主観が入らないよう、客観的な評価をもとに分類するのがポイントです。
能力や性格といった定性的な項目を分類する際は、「SPI3」や、測定項目数が豊富な「eF-1G」などの適性検査を活用すると良いでしょう。
科学的かつ客観的根拠にもとづいて分類できるため、従業員の納得感も高まります。
4. 社員のタイプに偏りがないか確認
人材タイプを分類したら、分布している人材の数や質が、本来あるべき理想とどの程度ギャップがあるかを確認しましょう。
社員タイプの偏りを確認すると、
- オペレーション人材が余剰気味なのに対して、エキスパート人材が少なすぎる
- 若手のマネジメント人材が少なく、将来不足が予想される
といった状況が見えてきます。
また、必ずしも理想とする人材ポートフォリオを作成する必要はありませんが、作成すると理想と現実のギャップを一目で把握できます。
5. 過不足を解消する打ち手を考える
人材ポートフォリオの作成で課題が明らかになったら、過不足を解消する打ち手を検討しましょう。
具体的には、
採用…新卒採用、中途採用、アルバイト・パート採用、派遣雇用など
育成…研修、OJT、人事評価など
配置転換…部署異動、転勤、出向など
退出・解雇…早期退職制度、役職定年制度など
です。
こうした施策を講じて、本来あるべき構成比に近づけていくことになりますが、日本の法律は労働者保護の観点から簡単に解雇できない仕組みになっています。
場合によっては訴訟などのトラブルにつながるため、「成果を上げない人材を減らす」ではなく「適材適所でない人材を減らす」という発想で考えることが大切です。
適材適所に配置すれば、ローパフォーマーも本来のパフォーマンスを発揮できるでしょう。
また「採用」は実施しやすく効果が出やすいことから、最も重視されています。ただし、採用選考で評価基準となる人材要件の定義を誤ると意味がありません。
理想的な人材構成比を保つためにも、採用の段階から人材要件の定義を明確に設定しましょう。
人材ポートフォリオ作成のポイント
人材ポートフォリオを有効活用するために押さえておきたい、作成時のポイントについてご紹介します。
雇用形態に関係なく、全社員を対象とする
人材ポートフォリオを作成する際は、雇用形態に関係なく全社員を対象にするのがポイントです。
というのも、「正社員だけ」のように特定の人材を対象にした場合、アルバイト・パートや派遣社員が多く占める人材タイプが不足しているように見えます。
このように、雇用形態にかかわらず、全社員を対象に作成する必要があります。
人材タイプに優劣をつけない
人材タイプに優劣をつけてはいけません。
そもそも、人材ポートフォリオは企業の目標を達成するために、人材の構成比を客観的に把握するものです。
そのため、社員の順位づけや優遇のために活用したことが知られると、社員に不信感・不満感を与えます。
モチベーションを低下させるばかりか、離職につながる可能性もあるため、取り扱いに注意してください。
経営戦略を反映させる
基準の軸や理想とする構成比を決める際は、必ず経営戦略や事業計画を反映させましょう。
他企業の軸を参考にするのは構いませんが、基準の軸や理想的な構成は事業内容・目標などによって変わります。
そのため、経営戦略や事業計画を無視して作成しても、適切な対応が取れません。
作成に時間がかかることを理解しておく
人材ポートフォリオの作成には時間がかかります。
というのも、作成した人材ポートフォリオをもとに、中長期的な人事マネジメントが行われるため、今後の事業運営に大きな影響を与えるからです。
経営陣や管理職も含めて今後の方向性を決定する必要がある上に、人材の分類・分析は慎重に行う必要があります。
また客観的なデータがなく適性検査を実施する場合、さらに時間がかかるでしょう。
社員の意向を尊重する
人材ポートフォリオの分析結果をもとに人材配置する際は、必ず社員の意向も確認しましょう。
データだけで配属を決めると、本人の希望とずれる可能性があります。
本人の望まない配置は、モチベーションの低下や離職につながる可能性があるため、ヒアリングの機会を設けてキャリアの方向性をすり合わせましょう。
人材ポートフォリオの作成で人事マネジメント
人材ポートフォリオを作成すると、現時点における人材の構成比が把握できます。
理想の構成比と比較すると課題が見えてくるため、過不足に応じて適切な施策を講じられます。
人材ポートフォリオを詳細に分析・設計するには、専門的な知識を持つプロに依頼しアドバイスをもらうのが確実ですが、予算の関係で利用できない企業もあるでしょう。
大まかな人材ポートフォリオを作成するだけでも、現状や課題は見えてくるので人事マネジメントの参考になるはずです。
ご紹介した内容を参考に、人材ポートフォリオを作成してみてはいかがでしょうか。