企業における人材、組織全体のマネジメントに欠かせない施策として「人事異動」がありますが、なぜ必要なのか深く考えたことはありますか。
ここでは人事異動を行う意味を改めて考え、配置・異動がもたらす効果を充分に得るためのノウハウをお届けいたします。
そもそも人材の配置・異動とは何か
おそらくご存知かと思いますが、「人事異動」とは一般的に、企業の命令によって従業員の配置・地位・勤務状態などが変更されること全般を指します。
単純に勤務地が変わる「転勤」とは異なり、異動は配置転換による担当業務や職務内容、職種の変更、さらには昇格、降格、役職任用や解任といった職位の変化も含みます。
出向・転籍といった企業の外への異動も含まれますが、基本的にグループ企業間の異動がメインです。
どのような目的で行われる場合でも、一人ひとりの人材が志向やスキルに即したポジションで活躍できるようにするという目的はほぼ共通しています。
ただ、実を言うと、人事異動という言葉自体に労働基準法などの法律や学術研究などに基づく公的な定義は存在していません。
言葉の意味合いは企業ごとに少しずつ異なるため、自社で人事異動がどのような意味で捉えられているのかを把握した上で実行する必要があります。
人材の配置・異動の目的
上の項目でも述べた通り、人事異動の一番の目的は配置転換や昇格・昇進によって、個々の志向・スキルに応じたポジションをあてがう「適材適所」を実現させることです。
しかし通常、最初の配属の時点でも適材適所が図られるのが自然でしょう。
にもかかわらず、担当業務や職種の変更が人事異動という名目で度々行われるのは何故でしょうか。
それには、日本社会がこれまで継続してきた「経営効果雇用慣行」によるところが大きいです。
日本では今も多くの企業で正社員の長期雇用(終身雇用)が前提となっており、経営上の都合による雇用調整、特に解雇が難しく、業績の好不調などによって人員の調整を柔軟に行えないため、止む無く人事異動という形で調整を行うことがあるのです。
もちろん、上記のようなネガティブな理由だけでなく、人材育成や組織の活性化を図るためというポジティブな人事異動もあります。
とりわけ新卒社員の教育において、人事異動は新しい活躍の場を提供し、幅広いスキルを持った人材への成長を促すものとして欠かせない施策となっています。
以下の項目では、ポジティブな人事異動の効果が大きく発揮されるためにとるべき方法を考えていきましょう。
配置・異動に関する業務の流れ
適材適所を意図した配置換え、優秀な人材の昇格、人材育成を目的とした人事異動は、自社が属する業界内の競争力を高めるのに不可欠なものです。
ただし人事異動を実行して、すぐにその狙いが実現するわけではありません。
人事異動を成功に導くためには、異動が計画された段階で、配置換えを行う理由となった経営上のニーズや個々の人材の評価に関する情報を公開し、従業員とのコミュニケーションを重ねることで異動への理解を求めることが重要です。
配置換えの対象となった従業員のニーズと企業の方針にギャップがあった場合は、話し合いをより重視しなければなりません。
最終的な異動の決定権はもちろん経営側が握っており、従業員の希望をどこまで考慮するかは経営側の判断に委ねられています。
だからこそ常に誠実な対応を心がけ、人事異動の内容や意義を非公式に事前通知する「内示」を徹底し、起こり得るリスクを回避する対策が欠かせません。
配置・異動を行う上での注意点
先に述べた「内示」が行われず、企業の独断で人事異動が実行された場合、様々なトラブルが起こります。
人事権を持つのが企業であるとはいえ、一方的な異動の強制は従業員の退職、さらにひどい場合は訴訟に発展する恐れがあるのです。
そうした状況に至らなかった場合でも、従業員にとって不本意な人事異動は多かれ少なかれ、仕事へのモチベーションや企業への信頼を低下させます。
組織の活性化や従業員のモチベーション向上も見込める人事異動に、このようなデメリットが生じるのは絶対に避けなければなりません。
さらに、「幅広い経験・スキルを身につけてもらう」というメリットをはき違え、深い理由を伴わない人事異動を行ってしまうと、職務の専門性が薄れる危険もあります。
配置・異動を計画する際には、対象となる従業員のスキルやキャリアパスに目を向け、その従業員にどのような役割を果たしてほしいのか明確にした上で内示を行うようにしましょう。
まとめ
人事異動によって期待される経営上の効果をまとめると、以下のようになります。
(1)経営戦略の実行
(2)従業員のモチベーション管理
(3)人材育成
(4)過度の専門化の抑制
(5)組織の活性化
上記のような効果を最大限得るためには、企業・従業員双方の合意の下で人事異動を行う必要があります。
企業は従業員に対して誠意を示し、丁寧な説明によって理解を求めるようにしましょう。
これまでお話ししてきたノウハウをもとに人材の適切な配置・異動が行われ、御社の経営がより発展していくことを願ってやみません。