少子高齢化の進む日本では、家族の介護のために離職する「介護離職」が社会問題になっています。

 

優秀な人材が離職してしまうのは企業にとって大きな損失ですが、労働者にとっても喜ばしいことではありません。

 

そこでこの記事では、介護離職の現状や実態について解説いたします。

 

仕事と介護を両立させるための制度や企業ができる離職防止策、取り組み事例についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

介護離職とは

介護離職とは、介護と仕事の両立が困難になった従業員が、家族の介護のために離職することです。

 

要介護者の発生率は加齢とともに高まり、後期高齢者である75歳以上になると要介護認定者が増加します。

 

介護のほとんどが自分もしくは、配偶者の親の介護を行うため、働き盛りの40~50代の中堅社員が介護離職するケースが多いです。

 

介護離職は、安定した収入源の喪失による経済的困窮を招くだけでなく、介護中心の生活になることで精神的に追い詰められることもあります。

 

また、経験豊富な従業員の離職は、企業にとっても大きなダメージです。

 

少子高齢化が進行する今後、介護離職者はさらに増加していくでしょう。

 

働き手の確保が難しい状況の中、介護を行う労働者の離職防止は企業にとって喫緊の課題となっています。

 

介護離職の現状と実態

介護を理由に離職する人はどのくらいいて、離職後はどのように変化するのでしょうか。

 

ここでは、介護離職者の総数や離職後の変化、再就職の状況についてご紹介いたします。

 

介護離職の総数

総務省統計局「平成 29 年就業構造基本調査」によると、介護をしている人は627.6万人です。

 

このうち、過去1年間に介護・看護を理由に前職を離職した人は9.9万人となっています。

 

性別で比較すると男性2.4万人に対して女性7.5万人と、介護離職者の約8割が女性であることが判明しました。

 

ちなみに、前回の調査が行われた2012年において、介護・看護を理由とした離職者は10.1万人です。

 

介護離職者数は5年前よりも若干減少しているものの、年間10万人程度が離職しており、深刻な状況が続いていることが分かります。

 

離職後の変化

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査

 

介護離職をすると安定的な収入源を失うため、経済的な負担が増加します。

 

また、社会とのつながりも激減することから孤立感も高まり、精神的な負担も大きくなります。

 

2012年に行われた仕事と介護の両立に関するアンケート調査によると、「離職後に負担が増した」と回答した人の割合は、

 

精神面…9%(非常に負担が増した:31.6%、負担が増した33.3%)

肉体面…6%(非常に負担が増した:22.3%、負担が増した34.3%)

経済面…9%(非常に負担が増した:35.9%、負担が増した39.0%)

 

です。

 

精神・肉体・経済いずれにおいても5割超の結果が出ているため、介護離職は大きな負担を与えることが分かります。

 

介護離職者の再就職状況

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査

 

介護離職後に施設への入所などで介護の必要がなくなっても、再就職は難しい状況にあります。

 

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の行った同調査では、離職前と同じく正社員で再就職している人は49.8%と半数以下です。

 

再就職していない人も24.5%おり、4人に1人が無職の状態にあります。

 

また、離職後から再就職まで期間は、男女ともに1年以上が最多です。

 

介護による長期間のキャリア分断は、介護者の市場価値や生涯賃金を低下させるため、介護終了後においても介護者の被るダメージは大きいのです。

 

介護離職者が増加している背景や介護離職する理由

介護離職者が増加している主な背景として、少子高齢化が挙げられます。

内閣府「第1節 高齢化の状況」

内閣府「第1節 高齢化の状況

 

日本では、出生率の低下や平均寿命の延伸などで人口に対する高齢化率が年々高まっています。

 

2010年時点で23.0%だった高齢化率は、2020年には28.9%にまで増加しました。2065年には38.4%、約2.6人に1人が65歳以上になると予測されています。

 

このように、介護を必要とする「要介護者」の数に対して、介護を担える「介護者」の数は年々減少している状況です。

 

介護施設への入所や介護サービスの利用ができない場合、自分たちで介護を行わなくてはなりません。

 

少子高齢化が進行する今後、介護サービスを利用できる人は減少すると予測されるため、介護離職者はさらに増加するでしょう。

 

介護離職を選ぶ理由

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査

?

少子高齢化が介護離職増加を招く背景であることは分かりましたが、そもそもなぜ介護離職してしまうのでしょうか。

?

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の行った調査によると、

 

仕事と「手助・介護」の両立が難しい職場だったため(男性1%、女性62.7%)

自分の心身の健康状態が悪化したため(男性3%、女性32.8%)

自身の希望として「手助・介護」に専念したかったため(男性2%、女性22.8%)

 

となっています。

 

要介護者の状態によって介護者の負担は大きく異なりますが、介護に休みはありません。

 

そのため、仕事と介護を両立するには会社のサポートが必要不可欠です。

 

また、身体機能だけでなく認知機能も低下してしまうと、精神状態が不安定になったり、徘徊や不眠・睡眠障害を引き起こしたりすることもあります。

 

介護の難易度は高まり介護者の負担も増大することから、離職を選択する人が多いです。

 

介護離職防止に利用できる国の制度

国では、仕事と介護を両立できるよう様々な制度を用意しています。

 

介護休業制度

介護休業制度とは、要介護状態*の家族1人につき通算で93日間、3回を上限に分割して休業を取得できる制度です。

 

一定の要件を満たせば有期雇用労働者も取得できます。

 

*要介護状態…身体もしくは精神上の病気・障害により、2週間以上常時介護が必要な状態のこと

 

介護休業の対象となる家族

  1. 配偶者
  2. 父母
  3. 配偶者の父母
  4. 祖父母
  5. 兄弟姉妹

 

介護休業の対象となる労働者

日々雇用を除く、要介護状態の家族を介護している労働者が対象です。

 

アルバイト・パートなどの有期雇用労働者の場合、

  1. 入社1年以上であること
  2. 取得予定日から93日後~6カ月の間に契約期間が満了し、更新されないことが明らかではないこと
  3. 各企業が労使協定で定めた労働者に該当していること

の要件を満たしている必要があります。

 

介護休業中の賃金補償

介護休業取得期間中の給料支払い義務はありません。

 

ただし、介護休業を開始した日前の2年間に被保険者期間が12カ月上ある場合は、「介護休業給付」を受給できます。

 

有期雇用労働者の場合は、

  1. 介護休業を開始した日前の2年間に被保険者期間が12カ月上ある
  2. 同一の事業主の下で1年以上雇用が継続している
  3. 介護休業開始予定日から93日~6カ月を経過する日までに労働契約が満了することが明らかでないこと

を満たす必要があります。

 

支給額の計算方法

給付金額の計算方法は「休業開始時賃金日額×支給日数(最大93日)×67%」です。

 

給付金の申請は、事業主が所轄の公共職業安定所へ行います。

 

介護休暇

介護休暇制度は、要介護状態の家族1人につき、1年間に5日まで休暇を取得できる制度です。

 

対象家族が2人以上の場合は最大で年10日まで休暇を取得できます。

 

1日もしくは半日単位で取得可能ですが、「1日の所定労働時間が4時間以下」の場合、半日単位での取得はできません。

 

介護休業の対象となる家族

  1. 配偶者
  2. 父母
  3. 配偶者の父母
  4. 祖父母
  5. 兄弟姉妹

 

介護休暇の対象となる労働者

日々雇用を除く、要介護状態の家族を介護している労働者が対象です。

 

正社員はもちろん、契約社員や派遣社員、アルバイト・パートといった有期雇用労働者も対象となります。

 

ただし、

  1. 入社6か月未満の労働者
  2. 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

については、労使協定がある場合対象外となります。

 

介護休暇中の賃金補償

介護休暇取得期間中の有給・無給は、会社の規定に準じます。

 

短時間勤務制度等の措置

短時間勤務制度等の措置は、要介護状態の家族を介護する労働者が受けられる勤務時間短縮などの措置です。

 

事業主は、

  1. 短時間勤務制度
  2. フレックスタイム制度
  3. 始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ(時差出勤の制度)
  4. 労働者が利用する介護サービス費用の助成、その他これに準ずる制度

のいずれか1つ以上の制度を設けなくてはなりません。

 

よって、対象労働者が受けられる措置は企業によって異なります。

 

短時間勤務制度等の措置の対象となる家族

  1. 配偶者
  2. 父母
  3. 配偶者の父母
  4. 祖父母
  5. 兄弟姉妹

 

短時間勤務制度等の措置の対象となる労働者

日々雇用を除く、要介護状態の家族を介護している労働者が対象です。

 

有期雇用労働者も対象となります。

 

ただし、

  1. 入社1年未満の労働者
  2. 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

については、労使協定がある場合対象となりません。

 

長時間労働や深夜労働の制限

労働者が要介護状態の家族を介護するために申し出た場合、事業主は所定外労働や時間外労働、深夜労働を免除しなくてはなりません。

 

所定外労働と時間外労働については、1回につき1カ月以上12カ月以内の期間、深夜業では1回につき1カ月以上6カ月以内の期間において制限します。

 

いずれも回数の制限はありません。

 

ただし、事業の運営を妨げる場合は、労働者からの請求を拒否することも可能です。

 

長時間労働や深夜労働の対象となる家族

  1. 配偶者
  2. 父母
  3. 配偶者の父母
  4. 祖父母
  5. 兄弟姉妹

 

長時間労働や深夜労働の制限の対象となる労働者

日々雇用を除く、要介護状態の家族を介護している労働者が対象です。

 

ただし、入社1年未満の労働者など、一定の労働者については対象外となります。

 

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)

国では、仕事と介護の両立を支援している企業への助成金も用意しています。

 

両立支援等助成金の「介護離職防止コース」は、従業員が介護休業の取得もしくは、介護両立支援制度を利用している中小企業事業主に支給される助成金です。

 

受給には、

  1. 介護を行う労働者との面談を踏まえた介護支援プラン作成
  2. 労働者へプランに沿った支援を実施する旨の事前周知

などの要件を満たす必要があります。

 

支給額

  支給額
介護休業 休業取得時 28.5万円<36万円>
職場復帰時 28.5万円<36万円>
介護両立支援制度 28.5万円<36万円>
新型コロナウイルス感染症対応特例

5日~10日未満:20万円

10日以上:35万円

※< >内は、生産性要件を満たした場合

 助成金の内容や金額は変更になることもあります。利用する際は、必ず厚生労働省の「事業主の方への給付金のご案内」をご確認ください。

 

参考:厚生労働省「介護休業制度

参考:厚生労働省「2021年度 両立支援等助成金のご案内

 

介護離職の防止策

従業員の介護離職を防ぐには、どうしたら良いのでしょうか。

 

ここでは、企業ができる介護離職の防止策についてご紹介いたします。

 

保険・福祉制度の周知

国は、介護離職防止のために介護保険制度や介護休業制度などを用意していますが、その存在を知らない従業員もいます。

 

家族が介護を要する状態になっても、休暇や休業、勤務時間の調整が可能であることを知っていれば、不安や負担を軽減させることができます。

 

メールや社内報での周知、ケアマネージャーによる勉強会開催などを行い、制度の存在を従業員に知らせて利用を促しましょう。

 

相談窓口の設置

介護や育児といった、私生活に関する悩みは相談しづらいものです。

 

なかなか打ち明けられず、仕事と介護の両立に限界を感じて離職を決意する人も多いため、社内に相談窓口を設置して相談のハードルを下げましょう。

 

早期の段階で相談されれば、従業員の状況に応じた制度や公的機関を案内できるため、離職防止につながります。

 

社内に相談窓口を設置するのが難しい場合、外部に相談窓口を設置するのも有効です。

 

社内・社外問わず相談窓口を設置したら、必ず全従業員にその存在を周知しましょう。

 

メンタルヘルスケア

介護は毎日続きますし、終わりも見えません。

 

また、要介護者の状態は日々変わるため、必然的に生活の中心は介護になります。

 

そのため、介護は心身ともに介護者に大きな負担をかけます。

 

実際、仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査でも「仕事と介護の両立の難しさ」や「心身の健康状態悪化」を理由とした離職者が多いです。

 

人材流出は企業にとっても大きな損失となるため、介護を行う従業員のメンタルヘルスケアに取り組む必要があります。

 

従業員の状態によっては、産業医などとの定期面談が必要になることもあるでしょう。

 

テレワークの推進

自宅で業務を行えるようになれば仕事と介護を両立させやすくなるため、テレワークの推進も離職防止に有効です。

 

積極的にテレワークを推進させることで離職防止だけでなく、「柔軟な働き方ができる企業」として求職者にアピールできるため、人材確保の面でも役立つでしょう。

 

介護離職防止の取り組み事例

従業員の介護に対して理解を示し、様々な取り組みを行っている企業があります。

 

ここでは、介護離職防止に取り組む企業の事例についてご紹介いたします。

 

花王株式会社

大手化粧品メーカーである花王株式会社では、アンケート調査や個別面談といった調査によって判明した介護実態を踏まえて介護離職に対する取り組みを行っています。

 

具体的には、

  1. 相談窓口の設置
  2. 法定以上の介護休業・休暇制度、柔軟な働き方の制度を整備
  3. 共済会による介護サービスに対する補助金などの金銭的支援

です。

 

介護に関心のある従業委員への情報提供がスムーズになり、制度の理解促進が進んできているそうです。

 

「休暇取得時に上司に配慮してもらえた」という声も上がっており、風土醸成にも役立っています。

 

有限会社すこやか

介護事業を行っている有限会社すこやかでは、介護職員の新規採用が難しい現状を受けて、仕事と介護の両立をしやすい環境作りが進められています。

 

具体的には、

  1. 働き方検討委員会の設置で、就業規則の見直しや働きやすい環境の整備
  2. 役員にメール相談できるなど、介護相談しやすい仕組みづくり
  3. ケアマネージャーは担当件数や働く日数、時間を自分で決定できる
  4. 「心のカード」で“お互い様”の精神を周知徹底

といった取り組みを行っています。

 

こうした取り組みによって介護を理由とした退職がなくなり、従業員の定着率が大幅に向上したそうです。

 

株式会社 阿部兄弟建築事務所

建築関係の事業をしている株式会社阿部兄弟建築事務所では、従業員の技術を育てるために、労働条件や制度を改善することで定着率の向上に取り組んでいます。

 

具体的には、

  1. 積極的な声かけによる介護状況の把握
  2. 相談を受ける体制の整備
  3. 介護状況に応じた勤務形態の決定
  4. 在宅勤務制度との導入と業務内容の調整
  5. 社内コミュニケーションの活性化

などの取り組みです。

 

介護と仕事の両立がしやすくなったことで介護での退職がなくなり、優秀人材の就業継続が実現しています。

 

仕事と介護の両立支援で定着率アップ

少子高齢化の影響で、働き手の減少と反比例して要介護者数は増加しています。

 

今後はさらにこの傾向が顕著になることから、介護離職防止策の重要性は高まるでしょう。

 

育児同様、介護も会社の助けがないと成立しないため、ご紹介した内容を参考に介護離職防止に取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

従業員定着率の向上はもちろん、採用面でも有効に作用するため、企業の持続的な発展にもつながります。

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