「ハラスメント」には、パワハラ・セクハラ・スメハラといった様々な種類があります。
その中でも、働き方改革法案が施行されてから聞くことの多くなった「ジタハラ」をご存じでしょうか。
時短ハラスメントの略称で、仕事量が変わらないのにもかかわらず早く帰るよう強要するハラスメントを指します。
ジタハラをしてしまうと、会社にとっても社員にとっても悪影響を与えてしまう可能性があるのです。
そこで、今回は「ジタハラ」とは何か、その悪影響について解説していきます。
ジタハラの対策方法についてもご紹介していますので、ぜひご覧ください。
ジタハラとは?
ジタハラとは、「時短ハラスメント」の略称で、業務改善などの具体策もなく、残業しないで帰るよう強要するハラスメントのことです。
働き方改革によるワークライフバランスの実現が叫ばれる昨今、長時間労働是正に向けた取り組みを行う企業も多いのではないでしょうか。
しかし、中には長時間労働を改善する具体的な対策もなく、社員に定時退社を強要しているケースもあります。
具体策がないまま退社を強要すると、現場の社員は持ち帰って仕事をする「サービス残業」のような方法で対応しなくてはなりません。
このように、残業しないよう呼びかけるだけで、業務調整や効率化は現場の社員任せになっている状況をジタハラと呼びます。
ジタハラはなぜ生まれた?
ジタハラは、働き方改革推進の影響によって生まれたと考えられます。
2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されており、「長時間労働の上限規制」もその一つです。
長時間労働の上限規制によって、これまでなかった残業時間の上限が法律で定められたため、企業は長時間労働是正に向けた様々な取り組みを行っています。
しかし、「ワークライフバランスの実現」という本来の目的は置き去りで、「残業時間を減らすこと」自体が目的となっていることも少なくありません。
そのような場合、業務量の調整や効率化といった具体的な対策を提示せず、「残業はするな」「定時で帰れ」とだけ喚起しているケースも多いのです。
そうなると、現場の社員にしわ寄せがいってしまうため、「タイムカードを先に押して残業する」「持ち帰って残業する」など、何らかの対応をせざるを得ません。
結果として、働いている時間は変わりませんが記録上には残っていないため、残業代分の給料が減ってしまうのです。
つまり、ジタハラは長時間労働の取り締まり強化に対し、企業の実態が伴っていないことが原因と言えるでしょう。
ジタハラの何が問題?ジタハラによって起こる企業への悪影響
ジタハラの理解が深まったところで、ジタハラによってどのような影響が発生するのか見ていきましょう。
サービス残業増加による意欲の低下
サービス残業増加による意欲の低下は、ジタハラによる大きな問題です。
業務量やノルマ、求められる質は以前と変わらないのに、上司から帰宅を促されると、社員はどうにか仕事をこなそうとします。
しかし、仕事をこなすために、やむなく仕事を持ち帰って働いても、勤怠管理上の記録には反映されません。
仕事量や質は以前と同じでも、残業代カットによって給料が減ってしまうため、社員の意欲低下を招きます。
また、このような持ち帰りによるサービス残業は、メールの誤送信による情報漏洩のリスクも孕んでいることを理解しておきましょう。
業務クオリティの低下
強制消灯や帰宅の強要によって会社以外の場所で仕事をすると、ネット接続など外部環境の影響を受けて生産性が低下する可能性があります。
生産性向上の施策や業務量を調整せずに作業時間だけ減らすと、本来必要なプロセスや担当者間のコミュニケーションの省略・簡略化に繋がるため、クオリティ低下を招きます。
中間管理職への負担増加
労働基準法において、管理監督者である「管理職」は、残業時間の管理外に置かれることが多いです。
そのため、一般社員を早く帰宅させ、こなしきれなかった仕事を上司である中間管理職がカバーするケースも多く見られます。
事実、リクルートスタッフィングの調査によると、「部下の残業時間削減で自身の仕事量が増えた」と感じる割合は、「やや感じる(24.5%)」「とても感じる(9.7%)」を合わせて約34%に上ります。
このように、具体的な対策がないまま就労時間を減らそうとすると、中間管理職への負担が増加するため、うつや過労死といった心身の健康を損ねる可能性があるのです。
若手社員が成長する機会が減ってしまう
具体策もなく残業時間を制限するジタハラは、若手社員の成長機会を阻害する可能性があります。
もちろん、残業がないに越したことはありませんが、成長するには様々な経験が必要です。
経験は仕事量にも比例しているため、一時的に業務の負担や労働時間が増えることもあるでしょう。
しかし、一律に労働時間を制限してしまうと、残業させないために若手社員の業務を減らすため、若手社員が成長する機会を奪うことになるのです。
ジタハラの事例10個
では、どのようなジタハラがあるのか見ていきましょう。
【事例1】
仕事量が多いため、毎日のように残業をして何とかこなしていた。
しかし、ある日突然上司から残業禁止命令を受けてしまった。
しかし、仕事量はこれまでとは変わらないため、仕方なく毎日持ち帰って仕事をすることにした。
持ち帰り残業のことを上司に報告したものの、残業代は出ないと言われてしまった。
【問題点】
この事例では、業務量の調整もされずに労働時間だけ制限しているため、社員への負担が大きくなっていますね。
【事例2】
営業だったため、顧客の都合で就業時間以降に訪問することもあった。
担当案件も多く残業時間も増えていたが、人事部から「残業しないで帰るように」と通告された。
商談が就業時間を過ぎることも説明したが、理解を得られず、商談の時間を調整することになった。
【問題点】
業務の特性を無視した定時帰宅を指示していますね。労働時間の調整など柔軟な対応が必要と言えるでしょう。
【事例3】
提示帰宅をするようアナウンスされたが、業務量が膨大だったため、就業時間までに終わらせることができなかった。
時間内に終わらせられず上司から文句を言われる日々が長期に渡ったため、うつを発症してしまった。
【問題点】
この事例のように、一律に労働時間を制限したことで、精神的に追い詰められてしまうケースも多くあります。
【事例4】
膨大な仕事量に加え、顧客対応やシステム導入の失敗、優秀な人材の退職が重なり、毎日遅くまでサービス残業していた。
しかし、ある日突然20時までの退社が義務付けられ、時間になると施錠されるようになってしまった。
業務量やノルマを減らすといった対応もないため、仕事を終わらせるために、やむなく休日出勤で対応することになった。
【問題点】
強制的に残業禁止した結果、従業員が休日返上で仕事をせざるを得なくなっています。
【事例5】
売り上げが下がっていることを理由に、「今後は残業を認めない」と経営者から直接言われてしまった。
しかし、業務量を減らしてくれることもないため、定時でタイムカードを押し、作業することになった。
月100時間を超えるサービス残業が続いたが、残業代は一銭も出なかった。
【問題点】
売上低下を理由に経営者が圧力を掛けており、サービス残業が常態化していますね。
【事例6】
仕事量が多く、「残業なしでは終われない」と上司に相談したが「会社の方針だから」と言われてしまった。
【問題点】
具体的な解決方法が提示されておらず、社員任せの状態ですね。
【事例7】
作業できる社員がいないため、資料作成からサンプル作りまで全て一人でこなしていた。
納期の短く残業が必要なものもあったが、上司に定時退社を強要された。
人員増加を要請したが、人件費を理由として断られてしまった。
上司が退社するまで激務が続いた。
【問題点】
現場から人員要請をされているにも関わらず、必要な対応をしていません。
【事例8】
残業時間を減らすため、定時になったらタイムカードを押すよう強要されたが、タイムカードを押した後も業務は続いた。
【問題点】
タイムカードを押させて労務管理上は残業がないように見せかけるのは、明らかな違反行為ですね。
ジタハラへの対策方法
残業時間を減らすことは重要ですが、むやみに定時退社を喚起すると「ジタハラ」になり兼ねません。
ここでは、ジタハラにならないためのポイントをご紹介します。
現状を把握する
業務の調整や効率化を図るには、現場の状況を正しく把握する必要があります。
タスクの整理やタスクごとの作業時間、人員について把握した上で、アウトソースや比較的手の空いている部署への連携を検討しましょう。
部門ごとの業務を明確に仕分ける
社員任せの残業制限は、持ち帰り残業のように個人の負担を増加させる恐れがあるため、組織全体の業務見直しが重要です。
現場の状況を把握したら部門ごとに業務を仕分けましょう。
下記のような観点から業務の優先順位を付けていき、業務を仕分けていきます。
・業務の重要度
・システム導入による自動化可能な業務
・アウトソース可能な業務
・誰でもできる業務
一つの部門だけで完結する仕事ばかりではありません。
連携がうまくいかず、非効率になる可能性があるため、組織全体で業務内容を見直すことが重要です。
業務を効率化する(生産性を向上させる)
業務の仕分けを行ったら、生産性向上に向けた業務効率化の施策を検討しましょう。
業務率化は、
・業務マニュアルや業務フローの作成
・不要なワークフローの省略
・Slackなどのチャットツールでコミュニケーションを円滑にする
・チーム連携で業務を回す
・フレックスタイム制など柔軟な働き方で生産性を向上させる
のように、様々な方法があります。
例えば、出勤時間を柔軟にした企業では、各社員が最も集中できる時間帯に仕事ができるよう整備したことで、業務効率化と残業時間削減に成功しています。
業務効率化に繋がる施策は、企業によって異なるため、どのような施策が適しているのか、試行錯誤を繰り返して取り組むことが大切です。
人員を増やす
人員を増やせば、その分一人当たりの業務量を減らすことができます。
しかし、近年は売り手市場が続いている影響もあり、「新卒」「中途」問わず人材を確保するのは容易ではありません。
フレックスタイムやテレワークのような柔軟な働き方を提供できるよう、労働環境を整えれば、家庭の事情などで働けなかった人材を確保できる機会が増えます。
予算の都合上、正社員を雇うのが難しい企業もあるかと思いますので、アルバイトやパートの雇用も検討してみてはいかがでしょうか。
ジタハラは百害あって一利なし
ジタハラは、働き方改革の目的を見失い、一律に残業時間を制限したことで生まれたハラスメントです。
残業時間を減らすことは重要ですが、「残業時間は減らしても、求める成果は以前と同じ」では、社員の不満や疲弊は増す一方です。
企業は「何のために労働時間を削減するのか」本来の目的を理解し、労働時間削減のための施策を講じましょう。