「残業削減」「ノー残業デイ」「フレックス勤務」など、働く時間にまつわる様々な取り組みを行う会社は多いのではないでしょうか。
こういった言葉自体も、長時間労働によるうつ病、過労自殺などの事件が取沙汰された近年になって普及し始めました。
今回は、この長時間労働について、そのリスク、原因と対策をご紹介します。
働き方改革により注目される長時間労働
2016年に安倍内閣により立案された働き方改革ですが、その中でも長時間労働への対策がとられていますが、そもそもどのくらい労働したら、長時間労働とされるのでしょうか。
長時間労働の明確な定義はありませんが、厚生労働省では時間外労働や休日労働が月45時間を超えた場合、時間が延びるにつれ健康障害のリスクが増えるとして、注意喚起を行っています。
この45時間が一つの目安となるのではないでしょうか。
時間外労働の上限規則
時間外労働は限度時間が定められていますが、36協定に「特別条項」を付記することで解除することができるものでした。
しかしこれが長時間労働を助長していたため、平成30年6月に働き方改革関連法を成立。
平成31年4月1日から、下記のように制度の見直しを行うことになりました。
《原則》(従来通り)
週40時間を超えて労働ができる時間外労働の上限は、月45時間かつ、年360時間とする。
《法改正された特例》
特別条項を付記した36協定を締結した場合でも、時間外労働は年720時間(月平均60時間)までとし、その枠内でも次の時間数、回数を限度とする。
- 2~6か月の平均で、休日労働を含んで80時間以内
- 1か月に、休日労働を含んで100時間未満
- 原則の月45時間を超え、特例が適用できる上限は年6回
上限規制は、適用が猶予されたり、適用されない業務もあるので注意が必要です。
細かい適用範囲については、厚生労働省のHPより確認してください。
長時間労働が企業に与える影響
長時間労働は、企業にとって様々な影響を与える事がわかっています。
人材の流出・休職に伴うコスト
長時間労働による働きづらさから、せっかくスキルを身につけた優秀な社員が退職してしまったり、求職してしまうのは、会社にとって大きな損失となります。
それと同時に、新人採用にコストや時間がかかってしまい、事業が一時的に低迷してしまう恐れもあります。
労災請求・損害賠償
長時間労働で最も話題を呼んだのは、従業員のうつ病による過労死や過労自殺です。
従業員の精神疾患において、会社の生産性の低下に繋がるだけではなく、労災請求、損害賠償などで、大きな損害に繋がってしまいます。
実際に、平成29年の精神障害の労災認定件数は506件、電通過労自殺事件の損害賠償額は1億6,800万円となっています。
企業イメージの低下
過労死や過労自殺などの事件が起きてしまうと、企業にマイナスイメージを植え付けてしまいます。
ビジネスパートナーからのイメージ低下が、株主の損失に繋がってしまったりと経営面でダメージを受けてしまうのに加え、消費者からの不信感という点では、商品の不買運動や、採用を行う際に大きく影響してしまいます。
このように、長時間労働は、会社内外問わずに様々なリスクが伴います。1度失った信用を取り戻すことは非常に難しいため、徹底した労務管理が重要となります。
長時間労働の原因
日本社会の習慣・文化
高度経済成長期以来、働けば働くほど待遇があがったり、睡眠時間が短いことを自慢し、超多忙なことが偉い、という価値観が根付き、1970年代には会社にすべてを捧げプライベートを犠牲にする“モーレツ社員”なる言葉も生まれました。
その価値観は近年まで定着し続け、もはや日本人の文化・習慣と化してしまっています。
リーダー、マネージャーなど上司の人柄
また、上司の人柄によって残業時間が左右されることがわかっています。
労働政策研究・研修機構が行った調査で、上司の人柄が以下であると10時間以上も労働時間が長いことが明らかとなっています。
- 残業をする人ほど高く評価する
- 必要以上に会議を行う
- 社員間の仕事の平準化を図っていない
- 残業することを前提に仕事の指示をする
- 仕事の指示に計画性がない
- つきあい残業をさせる
いずれも、上で取り上げた社会全体として根付いている習慣や文化とリンクする部分もあり、その縮図としてわかりやすい結果となっています。
生産年齢人口の減少
また、長時間労働を加速させている背景には、労働力の主力となる15~64歳の生産年齢人口の減少が大きく関わっています。
日本経済がバブルによる低迷から抜け出しはじめ、好景気の一途をたどりはじめた1990年代から、逆にこの生産年齢人口は政府の予想を上回るペースで減少しています。
企業の再建や成長に伴った業務の増加に対して人手不足が足りないという状況下で、従業員一人あたりの業務も増加。
結果とし長時間労働を余儀なくされるという状況に、社会全体が陥ってしまっているのです。
長時間労働の対策
では、長時間労働を抑制するためにはどうすれば良いのでしょうか。
この項では、会社、従業員として取り組める方法をご紹介します。
業務効率・生産性の向上
同じ従業員数でこれまで通りの業務量に対応するためには、従業員一人ひとりが、それぞれに決められた時間内で業務を終わらせる必要があります。
まずは現状の生産量を見える化し、業務量の平均化や、時間がかかってしまっている業務については特別に研修を実施するなど、従業員個々のスキルアップを図ってみてはいかがでしょうか。
また、活躍している従業員が辞めてしまえば、業務の穴を埋めるために他の従業員の労働時間に影響が出ます。
従業員の定着率向上に向けて、定期的に面談を行ったり、福利厚生や手当面で働きやすさを整えることも大切です。
従業員の増加
15~64歳の生産年齢人口は減少を続けていますが、少子高齢化が進む日本において、実は高齢者の約6割が「65歳を超えても働きたい」と考えていることが判明しています。
しかし、現状で就労できている高齢者はその内2割に留まっており、高齢者の希望が叶えられていない現状があります。
業務が追い付いていないという会社では、今いる従業員の負担を軽減するためにも、採用対象年齢の視野を広げることも一つの手だと言えます。
「ノー残業デイ」や「勤務間インターバル制度」の導入
会社として制度を導入してしまうのが最も手っ取り早い方法です。
勤務時間内に結果を出すために集中するなど、従業員にっとてもメリハリをつけた働き方が実現できます。
しかし、中にはノー残業デイなのに業務が終わっていなくて結局いつも通り残業するなど、カタチや意識だけで終わってしまっている場合もあるようです。
まずは残業分の業務をどうするか、しっかりと調整した上で制度を導入しましょう。
人事評価制度などの見直し
長時間労働を評価するような企業風土では、従業員間同士で残業時間の競り合いが起きてしまい、さらなる悪循環を呼んでしまいます。
そういった企業では効率的な働き方ができたり、人柄を重視した人事評価制度へと切り替えていく必要があります。
まとめ
時間外労働は、もちろん業務量的にすぐに削減できるものではありません。
しかし中長期的には定着率の向上や、従業員のモチベーションUP、新人採用のしやすさ、残業代、光熱費の削減など、長時間労働の削減で得られるメリットは数えきれません。
業務のデータを細かにとり、1つ1つにかかっている時間を見える化して徐々に対策したり、不必要な古いしきたりや風土を取っ払う思い切った決断も必要です。
職場の風土や上司の人柄次第でどうしても長時間労働が強いられているケースもあるため、まずは経営陣が率先して、長時間労働への対策を進めてみてはいかがでしょうか。