研修というと、新人研修を想像する人が多いですが、実は、管理職にこそ研修が必要です。
管理職の能力不足や人材育成について課題を抱えている企業が多く、これらを解決するためにマネジメント研修を実施する企業が増えています。
本記事では、マネジメント研修の効果や目的、内容や実施ポイントなどについてご紹介しますので、ぜひご覧ください。
マネジメント研修とは
マネジメント研修とは、管理職に必要な知識やスキルを学ぶ研修です。
管理職は、経営課題や事業計画を現場へ落とし込み、課題やミッションをクリアするために、チーム全体を管理していく必要があります。
そのため、管理職には部下の育成や評価、実績、メンタルの管理といったマネジメントを行いながら、生産性を向上させることが求められています。
では、実際に管理職の役割とはどのようなものが挙げられるのでしょう。
経団連の「ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応」では、管理職に求められる基本的な役割として下記が挙げられています。
情報関係
・社内外の情報収集および周辺状況の分析
・必要な情報の経営トップへの伝達
・経営トップのメッセージを咀嚼し現場に浸透
・自らのチームが目指すべき方向性の明示
・海外も含めたグループ企業や関係部署との折衝および情報共有
・社内外(他部署や取引先、顧客など)からの要請や問い合わせへの対応
業務遂行関係
・日常業務の処理や課題解決
(課題解決に向けたPDCAを回す)
(自らもプレーヤーとなり仕事の成果をあげる)
・新規事業やプロジェクトの推進、イノベーションの創出
(経営環境の変化を的確に捉えた状況判断)
(新しいビジネスモデルや商品・サービスの企画立案)
・経営のグローバル化への対応
(海外におけるマーケティング、現地の消費者にとって魅力のある製品・サービスの提供、海外のパートナー企業との綿密な連携 等)
対人関係
・部下一人ひとりの性格や長所・短所を踏まえた指導・育成
・仕事に対する動機づけ
・部下が協働し合うような職場づくり
・人間関係上のトラブルの早期発見と早期解決
・社外の関係者との連携強化や人脈づくり
コンプライアンス関係
・個人情報の適切な管理
・内部統制や機密情報の漏えい対策
・適切な労働時間管理
・労働関連法規の遵守
・業務に関わる法律や実務上の留意点の理解促進、および法制度改正を見据えた事前準備
このように、管理職には非常に多くの役割が与えられていることがわかります。
なぜ、管理職にマネジメント研修が必要なのか
少子高齢化による深刻な人手不足や、グローバル化の影響など、日本経済を取り巻く環境は目まぐるしく変わっています。
また、働き方改革の推進によって、リモートワーク社員、外国人社員、時短勤務社員、労働時間の規制など、労働の多様化が進んでいるため、より細やかなマネジメントが必要とされています。
そんな中、自身もプレーヤーとして業績を上げなくてはならないプレイングマネージャーが増加しており、「部下の育成やチーム全体の管理を十分にできていない」というケースが多いため、人材が育たたずに競争力が低下するのではないかと懸念されています。
管理職に求められるマネジメント能力は以前よりも高くなっております。
このような、複雑化した環境に対応するため、管理職のマネジメント研修が必要とされているのです。
マネジメント研修の目的
マネジメント研修の目的とは、優秀な管理職を育成することです。
優秀な管理職は、部下をうまく指導し育成して組織を強化するだけでなく、売上を伸ばし会社を成長させる人材を指します。
そのため、マネジメント研修ではマネジメントスキルだけでなく、経営に関する知識なども学ぶ必要があります。
マネジメント研修で得られる効果
管理職としての意識が強くなる
管理職の役割は、経営戦略や事業計画を把握し、チーム予算達成など与えられたミッションに対して、『成果を上げ続けること』です。
そのため、経営方針や事業計画を現場レベルに落とし込み、社員の意識に浸透させることや、部下の育成といったマネジメント業務が重要となります。
研修を受けることによって、管理職の仕事を十分に理解し、企業と部下それぞれから求められている役割を認識することで、管理職としての意識がより一層強くなります。
マネジメント能力が身につく
管理職は、自身の仕事もこなしながら、部下やチームの目標を達成するために管理しなくてはなりません。
プレイングマネージャーの多い日本では、限られた時間の中でマネジメントを行う必要がありますが、自力でそのスキルを身につけるのは難しいでしょう。
管理職研修では、知識や能力、スキルの習得をプロから学べるため、マネジメント能力を身につけることができます。
組織力の強化
管理職に必要なマネジメント能力を適切に身につけることで、企業の資源の一つである人材を育成することができます。
社員の質が上がることで組織力の強化につながります。
マネジメント研修の受講対象者
マネジメント研修の受講対象者は、大きく以下の3つに分けられます。
- 新任の管理職
- 既存の管理職
- 上級管理職
対象者の役割や責任に応じて、研修の特徴や目的が異なる場合があります。
新任の管理職
新任の管理職とは、新たに課長代理や係長などの役職に昇進した人です。
主に現場での運営責任者として上司を補佐し、部下を指導するプレイングマネジャーとしての役割を務めます。
新任の管理職は、管理職が果たすべき役割を理解するだけでなく、プレイヤーとマネジャーの両方の視点で業務を進める必要があります。
心構えや行動を切り替えるのは容易ではないため、切り替えを促すための研修を行うことが重要です。
既存の管理職
既存の管理職は、新任管理職と上級管理職の中間の役割を担っており、一般的に課長職が該当します。
現場の運営責任者でもある新任管理職のサポートを行いつつ、経営陣に近い上級管理職のパートナーとしての活躍も求められます。
既存の管理職を対象とした場合、研修の主な目的は、リーダーシップとマネジメントのスキルの向上です。
上級管理職
上級管理職は、担当部門の経営者のようなポジションで、一般的には部長が該当します。
経営陣に近い立場にあるため、経営を共に推進していく役割が求められます。
したがって上級管理職には、
- 経営の視点や思考
- 経営情報や経営データを活用した戦略立案の能力
- 組織全体を効果的にマネジメントするためのスキル
が必要です。
上級管理職の研修では、これらの戦略能力やマネジメントスキルを身につけることが目的となります。
マネジメント研修の内容
マネジメント研修の内容について、以下の7つをご紹介します。
- 管理職の役割理解
- マネジメントスキル
- コンプライアンス
- リスクマネジメント
- 部下の育成
- 組織形成・強化
- 戦略立案
管理職の役割理解
マネジメント研修では、最初に管理職の役割を適切に理解することが必要です。役割を理解していない状態だと、管理職の業務に適応するのが難しくなるでしょう。
一般的に、管理職に任命される人は現場で実績を積み上げたプレイヤーが多いです。
職務に関する知識やノウハウが豊富なため、成果を重視したマネジメントになりがちです。
しかし、部下の成長やキャリア支援などの意識が低い場合、長期的にはチームの業績が低下する可能性があります。
そのため、管理職としての役割行動フレームに基づいたマネジメントが重要です。
マネジメントスキル
業務プロセスも重要ですが、マネジメントを機能させるためには、基本的なプロセスの理解も欠かせません。
具体的なプロセスには、
- 組織の運営方針や計画を策定
- 個々のメンバーの仕事を設計
- アサインしてその進捗を管理する
といったマネジメントサイクルがあります。
それぞれのフェーズで何に留意し、どのように実行していくかを抑えることが必要です。
コンプライアンス
役職や立場が変わると、自然と権限の範囲も広がります。
そのため、しっかりとした判断軸を持っていないと、コンプライアンスに反する行動を取ってしまう可能性があります。
コンプライアンスに違反する行動は、企業経営に大きな損失をもたらすため、管理職はコンプライアンスへの理解を深めることが重要です。
リスクマネジメント
コンプライアンス違反やハラスメントといった事象は、企業イメージの悪化や業績不振の原因となります。
リスクマネジメントは、このような経営リスクを把握し、回避または軽減するための対策を講じる管理プロセスです。
特に、中間管理職以上ではリスクマネジメントが欠かせません。
担当する事業に起こり得る潜在的なリスクを考察し、管理するための手法を身につけることが重要です。
部下の育成
部下の育成や指導方法は、時代と共に変化しています。
現代では働き方や価値観が多様化しているため、根性論や背中を見せて学ばせるような、古いスタイルは機能しにくくなっています。
今日では、部下一人ひとりの個性や置かれている状況、課題をに合わせて目標を設定し、行動や結果を一緒に振り返る必要があるでしょう。
そのためには、さまざまなコミュニケーションの手法を学ぶことが重要です。
組織形成・強化
経営層と現場をつなぐ役割を自覚させ、組織改革を現場に落とし込むメニューも欠かせません。
自社のビジョンや中期経営計画などを深く理解した上で、部下のマインドを変えるノウハウを提示するのも有効です。
また、周囲と協力しながら円滑に事業を成長させるためにも、関係構築力や交渉力、調整力を磨き、強化された組織を形成していくことが重要です。
戦略立案
戦略立案とは、企業や事業の成長に必要な目標と現状の差異を把握し、その差を埋めるための具体的な施策やロードマップを策定することです。
自社の外部環境や内部環境を考慮した上で将来像を描き、目標達成に向けた戦略を立案する必要があります。
企業の成長に欠かせない戦略立案は、経営陣との距離感が近い上級管理職に特に求められる能力です。
マネジメント研修の実施方法
マネジメント研修には、
- 社内研修
- 社外研修
- オンライン研修
の3種類があります。
マネジメント研修の実施方法や、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
社内研修
社内のメンバーが1カ所に集って研修を実施する方法で、3種類の中では一般的な方法です。
研修場所や講師を用意する必要があるかどうかの検討、研修資料の作成が必要になります。
メリット
- 同僚と交流しやすい
- 自社のニーズに合わせた研修が実施できる
- 同じ組織のメンバーなので、ディスカッションやグループワークに取り組みやすい
デメリット
- 研修期間中、受講者は業務から離れる必要がある
- 現場に負荷がかからないように受講者を選定しなければならない
- 遠方からの参加者は、スケジュールの調整が難しい
オンライン研修
ZoomやGoogle Meetなどのインターネット上のサービスを利用して、リアルタイムで実施する研修です。社内で実施される場合や、研修会社が行う場合があります。
メリット
- 研修場所に移動する必要がないため、どこからでも参加できる
- 遠方の社員でも参加しやすい
- 録画すれば、後から必要な部分を何度でも確認できる
デメリット
- 受講生の集中状態を確認しにくい
- 講師が一方的に話すケースが多い
- 時間の経過とともに、受講生の集中力が低下する可能性がある
社外研修
研修会社などが主催する、社外で行われる研修に社員を参加させる方法です。
自社以外の社員も参加します。
メリット
- さまざまな企業の社員と交流できる
- 自社にないスキルやノウハウ、考え方を学べる
- 外部の人から客観的な助言を得られる
デメリット
- 自社が求める研修内容が実施されるとは限らない
- 自社の理念や業務内容と異なる内容の場合がある
- 日程が決まっているため、自社の状況に応じて変えられない
マネジメント研修の注意点・ポイント
マネジメント研修で、最も重要なのはスキルの定着です。
しかし、方法や目的を誤るとスキルの定着が図れず、研修の効果が薄れてしまいます。
ここでは、マネジメント研修を実施する際の注意点やポイントを説明します。
目的を明確にする
研修の目的を明確にすることが重要です。
目的があいまいな状態で行うと、研修自体が目的となってしまい、肝心のスキルや心構えなどが身に付かない可能性が高まります。
こうした事態を避けるためにも、管理職へのヒアリングを実施しましょう。
管理職が抱えている悩みや組織の課題などが分かれば、どういった内容の研修を行うべきか、何を身に付けるべきかが明確になります。
ニーズに合った研修になるので、受講者もより真剣に取り組めるでしょう。
研修目標を立てる
研修の計画を立てる段階で、明確な目標を設定することが重要です。
例えば、コミュニケーションスキルの向上やリーダーシップの強化など、具体的な目標を設定する必要があります。
また、研修自体が目的になったり途中で中断したりすると、研修の効果は薄れてしまいます。
そのため、研修を計画する際には具体的な目標を立て、受講者がどれだけ目標達成できたかを振り返ることが不可欠です。
自社の状態に応じた研修プログラムを組む
社会環境が目まぐるしく変わる現代では、経営戦略や組織の状況も変化しやすいです。
経営戦略や組織の状況が変われば、担うべき管理職の役割も変化するため、長年同じプログラムを行っていても意味がありません。
よって、自社の状況や時代に合わせた研修プログラムを編成することが重要です。
また、 働き方が多様化している現代では、マネジメント手法も異なります。
研修プログラムは一度策定したら終わりではなく、自社に合った実践的な内容を継続的に改善することが必要です。
マインドも育成する
マネジメント研修の効果を上げるには、スキルだけでなく、マインドも育成できる内容にすることが重要です。
例えば、コーチングの研修なら、コーチングの重要性や意味を講義形式で伝えた後、ワークショップを開催して参加者同士で組織課題を共有するなどです。
管理職は多忙なため、研修参加に消極的な人もいるかもしれません。学んだことを現場で実践できるプログラムにすれば、研修への参加意欲も高まるでしょう。
まとめ
管理職研修についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
複雑化した労働環境やグローバル化による競争力の強化により、管理職に求められるマネジメント能力は高くなっています。
知識やスキルの定着には、役職に合わせた適切な研修の実施が必要です。
企業全体に良い影響を与えるためにも、ご紹介した内容を参考にマネジメント研修を行っていきましょう。