試用期間中に解雇や期間の延長はできるのか。
解雇する際の正当な理由もご紹介します。
採用した労働者の仕事ぶりを見て、「本採用を躊躇してしまう」ということもありますよね。
そんな時、解雇や期間延長を考える人も多いと思いますが、「試用期間中の解雇や期間延長は企業の都合で行える」と軽く考えていませんか。
実は、正当な理由なく解雇や期間延長をしてしまうと、訴訟を起こされるなどのトラブルに発展する可能性があります。
今回は、試用期間中の解雇・期間延長が認められるケースや、実施する際の注意点などについて詳しく解説していきます。
試用期間の意味や目的とは?
試用期間とは、長期雇用を前提として採用した人の適性を実際の勤務状態から判断し、本採用するか否かを判断するための期間です。
書類や採用面接だけでは、その人の能力や勤務態度を判断するのは難しいですよね。
特に、最近は応募から採用までの選考スピードが上がっており、面接回数が少ない企業も増加しています。
そのため、試用期間を設けて実際の勤務状況から本採用を判断する企業が多いのです。
試用期間は6ヶ月程度が妥当
試用期間を取り入れる目的が分かったところで、どのくらいの期間を設定しているのか気になりますよね。
平成16年度の厚生労働省の発表によると、試用期間を定めている企業の86.5%が3ヶ月以内、6ヶ月以内で設定している企業は99.1%と大部分を占めています。(参考:試用期間について)
また、過去には1年超の試用期間を設定した企業が、「労働者の勤務態度や労働能力の判断に必要な範囲を超えている」として公序良俗違反となった判例もあります(ブラザー工業事件)。
このことからも、長期にわたる試用期間の設定は法律違反となるリスクがあるため、長くても6ヶ月程度が妥当と言えるでしょう。
試用期間中の解雇や期間延長はできるの?
試用期間中に「雇いたくない」「延長してもう少し様子を見たい」など、本採用決定を躊躇するケースもありますよね。
「試用期間中だから解雇や期間延長はできるだろう」と考えている人もいますが、安易な決定はトラブルの原因となるので注意が必要です。
試用期間中の解雇は正当な理由が必要
労働契約が結ばれていない採用前の段階であれば、「雇用する・しない」の判断は自由にできます。
しかし、試用期間は長期雇用を前提とした労働契約が成立しているため、本採用の拒否や解雇には正当な理由が必要なのです。
また、試用期間に関する法律は制定されていませんが、過去の判例から試用期間は『解約権留保付雇用契約』と解されています。
これは、入社前に知ることのできなかった事実を、試用期間中の勤務状態などから知った場合に解約権を行使できるという契約です。
ただし、解雇は客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合のみ(労働契約法第16条)となるため、「うちの会社には合わない」などの漠然とした理由では解雇できません。
試用期間の延長は本人の同意が必要
「能力が発揮されずミスも多いが、別の業務をさせてみたい」「病気がちだが、回復する可能性がある」などの場合、試用期間延長を検討するケースが多いと思います。
結論から言うと、試用期間の延長は「本人の同意があれば可能」です。
しかし、本人の同意があれば何でもOKというわけではありません。
試用期間は労働契約が成立している状態なので、期間延長は「労働契約の変更」に当たります。
したがって、試用期間の延長には下記の条件をクリアする必要があるのです。
・試用期間延長の明確な理由がある
・就業規則に試用期間延長の可能性がある旨を記載している
・試用期間を延長する場合は、本人の同意を得ている
・延長も含め、試用期間が正当な長さになっている
延長を含めた試用期間が1年超になる場合、公序良俗違反と判断される可能性が高くなるので注意しましょう。
試用期間中に解雇や期間延長をする際の注意点
試用期間中でも労働契約が成立しているため、正当な理由のない解雇や期間延長はトラブルの原因となります。
解雇や期間延長を行う際は、下記の点に注意しましょう。
試用期間を適正な長さに設定する
試用期間に関する法律はありませんが、先述の通り試用期間を1年超とした企業が公序良俗違反となった判例があります。
試用期間中の労働者は不安定な地位にあるため、あまりにも長い期間に設定すると、違法と判断される可能性が高くなります。
そもそも6ヶ月超の試用期間を設定している企業はほとんどないため、長くても6ヶ月程度に留めておくのが、妥当と言えるでしょう。
解雇予告は30日以上前に行う
試用の開始から14日を超えた解雇の場合、労働基準法第20条の手続きが必要となります。
労働基準法第20条の解雇手続きでは、下記のように定められています。
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・少なくとも30日前に解雇予告をする
予告日数が30日未満の場合は、その不足日数分の平均賃金を支払う必要がある
・解雇予告を行わない場合は、解雇と同時に30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う
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参考:厚生労働省「リーフレットシリーズ労基法第20条」
試用の開始から14日以内に解雇する場合、労働基準法第21条により解雇予告を行う必要はありません。
※解雇には、期間に関係なく客観的・合理的な理由が必要です。14日以内だからと言って自由に解雇できるわけではないので、注意しましょう。
客観的な証明
解雇は客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合しか認められません。
明確な理由がなければ不当解雇で訴訟されるリスクもあるため、会社側が正当な解雇であったことを客観的に証明する必要があります。
・勤怠状況のような具体的で客観的な記録を残す
・本人に不足している能力・適性が改善するよう、努力したことが分かる客観的な記録
など
また、就業規則には解雇事由を記載することが義務付けられているため、就業規則と照らし合わせて判断しましょう。
試用期間中に解雇や期間延長をする際に使える理由
本採用の見送りや解雇が認められるのは、具体的にどういったケースが当てはまるのか、見ていきましょう。
経歴詐称や隠蔽をしたケース
履歴書や職務経歴書に虚偽があった場合や、履歴を意図的に記載していなかったことが発覚した場合に解雇を認められることが多いです。
勤務態度が悪いケース
少し勤務態度が悪い程度での解雇は難しいですが、企業が再三にわたり注意しているのに改善しないなど、著しく勤務態度が悪いケースは解雇を認められることがあります。
遅刻や欠席が多いケース
正当な理由なく、遅刻や欠勤を繰り返し行い、改善されない場合は解雇を認められることがあります。
大幅に能力が不足しているケース
誰でも入社直後は、思ったように仕事ができるわけではありません。
しかし、「しっかりと教育を行っているが、重大なミスを何度も繰り返す」「配置換えを行っても成績が向上しない」など企業側の努力不足が原因でない場合は、解雇を認められることがあります。
これらはあくまで一例です。
解雇や試用期間の延長は、安易に行うと訴訟トラブルのリスクがありますので、労務士などの専門家へ相談してから実行することをおすすめします。
就業規則に「正当な理由なく、○回以上遅刻したら解雇」のような解雇となる条件を明記しておきましょう。
また、客観的な証明ができるように記録を残しておくことが重要です。
試用期間中の解雇や期間延長は可能だが注意が必要です!
試用期間は本採用に比べると解雇のハードルは高くありませんが、労働契約が成立していることに変わりありません。
解雇や試用期間の延長は、労働者が不利な立場になることを十分に理解し、「うちの会社に合わないから」などの漠然とした理由で行わないようにしましょう。
また、正当な理由があっても正式な手続きを取らずに解雇や期間延長をしてしまうと、訴訟される可能性があります。
「試用期間だから」と軽く考えず、事前に労務士などの専門家へ相談し、リスクを回避しましょう。