労働災害の分野でよく使われる「ハインリッヒの法則」をご存じでしょうか。

 

この法則名自体を知っている人はもしかしたら少ないかもしれません。

 

この法則は、今後働いていく中で大きなミスや事故を起こさないために知っておくべきものです。

 

ヒヤリハットという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、仕事中にミスや事故を起こしそうになって「ヒヤッ」とした経験はありませんか。

 

ハインリッヒの法則は、こうしたヒヤリハットの積み重ねが大きな事故を引き起こすとした経験則のことをいいます。

 

ハインリッヒの法則とは?

ハインリッヒの法則とは、アメリカの損害保険会社で安全技術者として勤務していたハーバード・ウィリアム・ハインリッヒが5,000件以上もの事故事例に基づいて導き出した労働災害の経験則です。

 

ある工場で発生した数千件の労働災害を調査分析し、「1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件の異常(ヒヤリハット*)が起きている」という調査結果に基づいて提唱されており、その結果から別名1:29:300の法則とも呼ばれます。

 

*ヒヤリハット・・・危険なことは起こったが、幸いにも被害には至らなかった事象。ミスなどでヒヤリとしたり、ハッとしたりするものを指す。

 

つまり、ハインリッヒの法則では、「大きな事故は小さなミスや異常が積み重なって引き起こされるものだ」ということをいっているのですね。

 

ハインリッヒはこの経験則から、「重大事故を防ぐには、小さなミスやヒヤリハットの情報を把握し、的確な対策を講じることが重要である」と主張しています。

 

特に事故の発生が人の生死に直結する介護や医療、交通の分野では、危機管理対策としてこのハインリッヒの主張が取り入れられています。

 

近年では、サービス業やオフィスワークの分野でも、クレーム対応やコンプライアンス強化などの社員教育としてハインリッヒの法則が幅広く活用されているようです。

 

なぜハインリッヒの法則が注目されているのか

ハインリッヒの法則が注目されている理由としては、メディアやインターネットの発達によって企業の事件や不祥事が一般消費者に伝わりやすくなったことが挙げられます。

 

以前は、テレビや新聞といったマスコミの報道が情報発信の主となっていたため、発信される情報にも限りがありましたが、現在はネット上でより多くの情報が速やかに伝わるようになりました。

 

また、ブログやSNSのような拡散力のあるツールを利用して、誰でも気軽に情報発信できるようになったことで、今までは知り得なかった情報にも触れる機会ができたのです。

 

企業の事件や不祥事として話題になった一例では、

  1. 違法残業によって従業員が自殺してしまった

  2. 従業員が職場で不適切な行為をした動画をアップした

  3. セキュリティ管理の甘さから個人情報を流出させてしまった

などが挙げられます。

 

このような重大な事態が起こってしまうと、それがネット上に広まることで信用を失い、ついには企業存続まで脅かす事態に発展する可能性もあります。

 

だからこそ、ハインリッヒの法則に沿ったリスクマネジメントによって、重大な事故をそもそも起こらないようにする必要性が高まったのです。

 

ハインリッヒの法則?ドミノ理論?何が違うのか

ハインリッヒの法則と類似した理論として「ドミノ理論」というものがあります。

 

このドミノ理論もハインリッヒが提唱しており、労働災害は下記5段階の事象がドミノのように連鎖した結果に生じるものであるとされています。

  1. 環境的欠陥

  2. 管理的欠陥

  3. 不安全状態・不安全行動

  4. 事故

  5. 災害

ハインリッヒはこの連鎖した事象の中で「不安全状態・不安全行動」を除去することができれば労働災害の98%は予防できると主張しました。

 

なぜなら、前述したハインリッヒの法則における300の異常の背後には、さらに何千何万といった不安全状態や不安全行動が存在するとしていると考えたためです。

 

つまり、ドミノ理論では日常的な行動をしっかりと管理することが災害や事故の防止につながるとしているのです。

 

ハインリッヒの法則は実際の労働災害から得られた統計的な経験則であり、ドミノ理論はその経験則から労働災害を防ぐための方法を導くための理論と言えるでしょう。

 

ハインリッヒの法則と結びつきの強い分野と事例

ハインリッヒの法則は、特に介護や医療、交通といった重大事故が人の生死にかかわる分野で活用されることの多い法則です。

 

各分野で活用されている事例をみて、ハインリッヒの法則について理解を深めましょう。

 

介護分野

体力の衰えた高齢者や障碍者をサポートする介護分野は、ただの転倒でも人命に関わる重大事故に発展する可能性の高い分野のため、ハインリッヒの法則で危機管理の意識付けが行われています。

 

【事例】

誤って他の利用者の薬を服用させてしまった

 

【内容】

とある介護施設で複数の利用者を一人で対応していたところ、ある利用者の薬を誤って他の利用者へ服用させてしまい、容体が急変。緊急処置を行った。

 

【原因】

職員の確認不足で起こった事故ですが、薬の管理方法やそもそも人手不足であったことなども原因として考えられます。

 

【考察】

ハインリッヒの法則にもある通り、この重大事故が発生する前には危うく間違えそうになったことや、人手不足であわてて作業をしてしまっているといったヒヤリハットや軽微な事故が数多く起こっているはずです。

 

その時点で薬を名前付きのケースに入れて管理したり、人員補充を行ったりするなどの解決策を講じていれば防げた事故ですね。

 

医療分野

病気やケガの処置、リハビリなどを行う医療分野では、ほとんどの処置が人の手によって行われています。

 

手術などでは一つのミスが生死にかかわるため、特にハインリッヒの法則が多いに活用されている分野です。

 

【事例】

患者の取り違え手術

 

【内容】

心臓手術を予定していた男性と、肺の手術を予定した男性が取り違えられてしまい、本来行うべき手術を相互に誤って行ってしまった。

 

【原因】

医師や看護士の不注意・確認不足で起こった事故ですが、主治医が手術前に患者に立ち会っていなかったり、手術前の検査と麻酔前の検査で結果が異なっていたのにもかかわらず確認を行っていなかったりなど、確認に対する意識の低さが引き起こした事故だといえます。

 

【考察】

この事故が起こる前から、患者の視点に立った教育の必要性が叫ばれていたそうです。

 

そうした異常の段階で対策を行っていれば今回の事故は起きなかったかもしれません。

 

今後は確認の意識に対する教育をするのはもちろんですが、そもそも確認不足が起こらないよう、手術までの確認の流れやマニュアルを見直し、院内で徹底させることなどが必要になるでしょう。

 

交通分野

電車の運転士やトラックドライバーなど、交通分野はでの事故は多くの人を巻き込む可能性があるため、ハインリッヒの法則がよく活用できます。

 

【事例】

福知山線脱線事故

 

【内容】

2005年4月に発生した福知山線脱線事故により、死者は107名にのぼり、562名が重軽傷を負った。

 

【原因】

事故調査委員会の調査によると、運転士のブレーキ操作ミスが原因であるとしながらも、教育体制や過密ダイヤなどJR西日本の体質が事故の背景にあると言及しました。

 

【考察】

この事件以外にも、短距離のオーバーランなどの重大事故に繋がり得る軽微な事故が300件以上報告されているとのことです。

 

こういった軽微な事故の段階でしっかりと対策を立てておけば、今回の重大な事故は防げたかもしれません。

 

今回の事故より、急カーブにはATS(自動列車停止装置)が設置されるなど、安全性を測る取り組みが実施されています。

 

こうした取り組みはもちろんですが、しっかりと危機管理意識を持っていれば小さな事故からも重大な事故を想像することは出来たはずです。

 

運転する本人が危機管理意識を強く持てるようしっかりと教育することが重要と言えるでしょう。

 

ハインリッヒの法則によって得られる効果

危機管理意識を高めるハインリッヒの法則は、ビジネスシーンでも大いに役立ちます。

 

ここでは、ハインリッヒの法則で得られるビジネス上の効果についてご紹介します。

 

従業員の意識改革と組織強化

ハインリッヒの法則では、重大な事故は突然起こるのではなく、小さな異常や事故が積み重なることで引き起こされるものとされています。

 

不祥事や事故などの問題が明るみに出やすくなった現在では、小さなミスが企業の存続を脅かす事態になり兼ねません。

 

今後は重大な事故を起こさないためにも、そういった小さな異常を見逃さないよう普段から気にかける必要があります。

 

普段の仕事から些細な異常を気にかけることで、従業員の危機管理への意識を高めることができ、また、社内全体でハインリッヒの法則の考え方が徹底されれば、組織そのものの強化にもつながるでしょう。

 

優良顧客の獲得

ハインリッヒの法則をクレーム構造に当てはめると、「大きなクレームが1件発生したら、29件の軽微なクレーム、300件の不満がある」となります。

 

企業はクレームの大小に関わらず、誠意ある対応を取ることが重要ですが、軽微なクレームから真摯に受け止めしっかりと対応することで、後々の重大なクレームを防ぐことができると同時に企業のイメージアップにもなり、優良顧客の獲得につながります。

 

また、そういった軽微なクレームの背後には見えない多くの不満が潜んでいると考えられます。

 

この不満を予測し、改善策を講じることで潜在的な不満も解消できるため、結果として優良顧客の獲得につながるのです。

 

ビジネスチャンスの獲得

ハインリッヒの法則は企業のリスクマネジメントにおいて活用されますが、問題に対する改善策を考える際、新しいアイデアのヒントが得られることもあります。

 

小さな意見や不満に対しても真摯に向き合うことが、目に見えない顧客のニーズを見つけることにつながるのですね。

 

ハインリッヒの法則を意識することが、結果として顧客の不満や要望に耳を傾けることにつながり、それが不満の解消のみならず先のビジネスチャンスを獲得するきっかけにもなるのです。

 

ハインリッヒの法則の活用方法

ハインリッヒの法則が危機管理対策だけでなく、ビジネス上でも様々な効果を得られることが分かりました。ここでは、具体的な活用方法についてご紹介します。

 

インターネット戦略と合わせた活用

先述したように、顧客のクレームや要望は企業の成長にも繋がる貴重な意見です。

 

より多くの意見を集めるには、時間や地域に限定されずに利用できるインターネットが適しています。

 

自社ホームページへの意見窓口設置や、チャットのようなリアルタイムで対応できるツールを用意することで、顧客の不満や要望をより多く集めることができます。

 

前述したように、この集めた不満や要望に対して真摯に向き合うことで優良顧客の獲得やビジネスチャンスの獲得につなげられるのです。

 

インターネットを使ってハインリッヒの法則を活用することは、より多くの顧客の声を聞くことができる点で非常に有効だといえるでしょう。

 

クレームへの対応マニュアル作成に活用

クレームへの対応マニュアルを作成する際にハインリッヒの法則を活用できます。

 

不満を感じていてもクレームをする人はごく少数であるため、実際に起きたクレームだけでマニュアルを作っていては不十分になる可能性が高いです。

 

そのため、ハインリッヒの法則に基づいて、クレームの背後にはどのような不満があるのかを予測し、予め対応マニュアルに含めておくとより効果的なマニュアルが作成できますよ。

 

OJT時の教育指導への活用

重大事故の発生は、慣れによるプロセス省略や確認不足のようなちょっとした不注意に起因することが多いです。

 

このような行動は普段の業務に対する危機意識の低さが要因となるため、教育や指導による根本的な意識改善が必要になります。

 

従業員の危機意識を改善させるには、OJT(実務を通してその仕事に必要なことを指導する教育法)での教育指導が最適です。

 

実際に仕事をする中で、どのような行動がミスに繋がるのか身をもって知ることができ、対策方法についても学ぶことができます。

 

OJTの中でハインリッヒの法則についても説明し、従業員全員が小さな異常から危機意識を持つようになることで、重大な事故を防ぎながら組織としての成長にもつながりますよ。

 

ハインリッヒの法則を活用して事故を回避しながら企業の成長につなげよう

ハインリッヒの法則は労働災害における経験則であり、事故が人命に直結する医療や介護、交通分野に関わりが強いです。

 

しかし、どの分野においても「どういった行動が重大な事故を引き起こすのか」という危機意識を持つことは非常に重要となります。

 

普段から危機意識を持って仕事をすることで、個々のみならず企業の成長にもつながりますので、ぜひ様々なシーンでハインリッヒの法則を活用してみてくださいね。

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