カルチャーフィットは、従業員の定着や生産性の向上に大きな影響を及ぼすものとして、近年人事担当者の間で重要視されるようになりました。
新規採用の際には、できる限り「自社との相性」の良い人材を採用したいものです。カルチャーフィットは、この「自社との相性」を判断する材料のひとつで、採用のミスマッチ防止を期待できます。
この記事では、人材がカルチャーフィットしているかどうかの見極め方や、成功事例についてご紹介します。
カルチャーフィットとは
カルチャーフィットとは、従業員が自社の社風や企業文化に馴染めている状態のことです。
企業文化や社風は、会社によって様々です。
例えば、グループで協力しながら業務を進める社風や、個々の能力を競い合う個人主義的な社風など、企業ごとに大きく異なります。
自社にカルチャーフィットする人材は、企業理念を共有しやすく職場環境にも馴染みやすいです。離職率の低下や組織全体の生産性向上を期待できるため、採用基準にカルチャーフィットを取り入れる企業が多くなりました。
スキルフィットとの違い
「スキルフィット」という言葉も人事担当者の間で頻繁に使用されます。
カルチャーフィットは、「求職者の性格や価値観と社風の一致度」を指しますが、スキルフィットは「求職者のスキルと業務で求められるスキルの一致度」を示すものです。
具体的には、「経理事務3年以上」といった経験や、「簿記検定2級」といったスキルが、スキルフィットに当たります。
カルチャーフィットとスキルフィットは、どちらかが欠けても採用のミスマッチが発生する可能性が高まります。
能力ばかりに気を取られず、カルチャーフィットと組み合わせた採用基準を設定することが大切です。
カルチャーフィット切りとは
「カルチャーフィット切り」とは、自社の社風や企業文化にマッチしそうにない求職者を、不採用にすることです。
カルチャーフィットを重視した採用は、離職率の低下や生産性向上につながります。
しかし、カルチャーフィットに偏りすぎると、デメリットが顕在化する恐れがありますので、バランスの取れた基準の設定が望まれます。
カルチャーフィットが注目されている背景
注目を集めているカルチャーフィットですが、これにはいくつかの背景があります。
高い早期離職率
カルチャーフィットが注目される背景として、まず挙げられるのが早期離職率の高さです。
日本では、早期離職率(就職後3年以内の離職)が30%を超えており、10人中3人が3年以内に離職している状況です。
早期離職は、採用コストに大きな無駄が生じるばかりか、人材不足の原因にもなります。
従業員が社風や企業文化に馴染めないことが、早期離職の原因のひとつであるため、その改善策としてカルチャーフィットが注目されています。
中途採用の増加
企業の採用活動において、中途採用が増加してきたことも、カルチャーフィットが注目される背景として挙げられます。
近年は、労働者の転職に対する抵抗感が減少し、企業側も積極的に中途採用を実施するようになりました。
中途採用ではスキルフィットが重視される傾向にありますが、転職者はカルチャーフィットできなかったことで退社しているケースが多いです。
そのため、早期離職を防止する目的で、中途採用でもカルチャーフィットを重視するケースが増えています。
労働人口の減少
日本では労働人口の減少が急速に進行しています。その結果、多くの企業が人手不足に悩まされ、労働者側の視点から見れば「売り手市場」の状態になっています。
しかし、企業側が求める人材の要件は、高度化しているため、必要な人材の確保が容易ではなくなりました。
このような背景から、採用時のミスマッチを減らし、早期離職者を減らす必要性が高まっているため、カルチャーフィットが注目されています。
転職の一般化
近年は、転職に対する労働者の意識が大きく変化し、転職が一般化しました。転職理由として多く挙げられているのが、人間関係や社風とのミスマッチです。
では、リクナビネクストが実施した「転職理由と退職理由の本音ランキングBest10」を見てみましょう。
1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
2位:労働時間・環境が不満だった(14%)
3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)
4位:給与が低かった(12%)
5位:仕事内容が面白くなかった(9%)
6位:社長がワンマンだった(7%)
7位:社風が合わなかった(6%)
7位:会社の経営方針・経営状況が変化した(6%)
7位:キャリアアップしたかった(6%)
10位:昇進・評価が不満だった(4%)
アンケート調査では、退職理由として「社風や企業文化に馴染めない」ことを挙げている人が多いです。離職リスクの低い人材を採用するためにも、カルチャーフィットは欠かせません。
働き方の変化
働き方の多様性や新型コロナの感染拡大などにより、リモートワークが急速に普及しました。
出社の減少に伴い社内コミュニケーションが少なくなった結果、従業員が企業文化に馴染むことが難しくなっています。
出社をして同僚と顔を合わせていれば、徐々に社風に慣れていくこともできますが、リモートワークが増えた今、それも難しくなっています。
そのため、採用段階から求職者が社風にフィットするかを判断する、カルチャーフィットを重視する企業が増えているのです。
カルチャーフィットを採用に取り入れるメリット・デメリット
採用にカルチャーフィットを取り入れることには、メリットとデメリットがあります。
メリット1.早期離職の防止
採用にカルチャーフィットを取り入れるメリットは、早期離職を減らして定着率を向上できる点です。
せっかく採用できた人材も、カルチャーフィットしなければ、離職する可能性が高くなります。
一方、カルチャーフィットしている人材は、価値観や仕事観を共有しやすく、既存従業員との相互理解もできるため、離職する可能性が低いです。
早期離職の増加は、採用コストを引き上げ、人材不足を招くこともあるため、企業の成長に悪影響を与えます。
カルチャーフィットで人材の定着率が高まれば、企業の成長も促進されるでしょう。
メリット2.コミュニケーションの円滑化
社内コミュニケーションの円滑化も、採用にカルチャーフィットを取り入れるメリットのひとつです。
カルチャーフィットした人材は、他の従業員と近い仕事観や価値観を持っています。従業員同士の人間関係を良好に保ちやすく、スムーズな社内コミュニケーションが行われるため、業務効率を高めます。
逆にカルチャーフィットしていない人材は、価値観のズレから、円滑なコミュニケーションが難しくなり、モチベーション低下やストレスにつながる場合があります。
メリット3.生産性の向上
生産性の向上も、採用にカルチャーフィットを取り入れるメリットです。
カルチャーフィットしている人材は、チーム内で価値観や目的意識を共有して業務に取り組めます。さらに、企業理念や戦略をしっかり理解でき、高いモチベーションで職務に当たれるでしょう。
こうしたことから、カルチャーフィットしている人材は、生産性を高め、企業の成長を後押しします。
デメリット1.多様性の喪失
カルチャーフィットを導入すると、多様性の喪失を招く可能性があります。
行き過ぎたカルチャーフィットは、同じタイプの人材ばかりを集めてしまい、斬新な発想や活発な議論が生まれない状態になる場合があります。
経営環境が目まぐるしく変わる現代社会において、多様性の喪失は企業の成長を妨げる要因となるため、注意が必要です。
カルチャーフィットしない場合どうなる?
従業員がカルチャーフィットしない場合、企業にとって多くの弊害が生じる恐れがあります。
考えられる弊害をいくつかご紹介しましょう。
採用コストの負担増加
従業員の採用活動には、求人広告費や研修費をはじめ、多くのコストがかかります。
お金をかけて採用した人材が早期離職してしまえば、そのコストは無駄になりますし、新たな採用コストも発生します。
このように、カルチャーフィットしない従業員の採用は、無駄なコストの悪循環を招きやすいのです。
生産性の低下
カルチャーフィットしない従業員が多い部署や事業所では、生産性が低下する恐れがあります。
カルチャーフィットする従業員が多ければ、企業理念や成果目標を理解しやすく、意思疎通もスムーズに行えるため、チーム間や部門間の連携も円滑に進むでしょう。
しかし、カルチャーフィットしない従業員は、仕事観や価値観が他の従業員と異なるため、意思疎通に問題が生じる可能性が高くなります。
従業員同士のコミュニケーションがうまくとれないと、連携にも支障が出やすくなるため、生産性の低下につながります。
採用にカルチャーフィットを活用する方法
採用にカルチャーフィットを活用する方法について、具体的に解説しましょう。
自社のカルチャーを明確化させておく
まず必要なのは、自社のカルチャーを明確にすることです。採用担当者が自社のカルチャーを十分に理解していなければ、求職者のカルチャーフィットは判断できません。
自社のカルチャーを言語化して定義しておくことが大事です。
この際、「クレド」を作成しておくと、判断基準を明確にしやすくなります。クレドとは、企業理念を実践するための行動規範や信条を整理したものです。
求人の際にもクレドを発信することで、価値観や理念に共感した求職者からの応募を得られます。
採用ペルソナを設定する
次に「採用ペルソナ」を作成します。
採用ペルソナとは、自社が求める「理想の従業員像」を明確にしたものです。あらかじめ明確化してある自社カルチャーにマッチしたペルソナをつくります。
採用ペルソナは次のような手順で作成します。
- 複数名の優秀な従業員の持つ価値観や行動特性などを個別に分析・データ化する
- 収集したデータについて共通する価値観や行動特性を抽出する
- 予定する配置先に必要な人材像やスキルを整理する
採用ペルソナを作成する際は、必ず募集職種の既存従業員からの意見も取り入れましょう。
現場従業員とすり合わせをしないで作成した場合「期待していたのと違った」など、ミスマッチが発生しやすくなります。
カルチャーを発信する
求人広告、自社ウェブサイト、自社SNSなどの各種媒体を通じて、自社のカルチャーを発信することも大事です。
自社のカルチャーを積極的に発信することで、カルチャーフィットした求職者からの応募増加が期待できます。機会があれば転職したいと考えている「転職潜在層」からの応募を獲得できる可能性もあります。
採用候補者の価値観・志向を深堀りする
採用候補者に対しては、価値観や志向を深堀して確認することが大事です。
あらかじめカルチャーフィットを判断できる質問を用意しておき、自社の社風に馴染める人材かどうかを判断します。
求職者のこれまでの経験や意思決定までの思考・行動プロセスを中心にヒアリングすると良いでしょう。
さらに、配置予定先の社員との面談も設けることで、より現実味をもったヒアリングができます。
適性検査やリファレンスチェックを行う
採用候補の求職者に対する適性検査やリファレンスチェックの実施も、カルチャーフィット判断の精度を高めます。
リファレンスチェック(経歴照会)とは、求職者の人物像や仕事ぶりなどを前職の関係者に問い合わせることです。求職者の仕事ぶりをヒアリングすれば、カルチャーフィットの判断するうえでの客観的な手掛かりを得られます。
採用候補者に自社のイベントに参加してもらう
社内イベントやワークショップなどに参加してもらうことも、カルチャーフィットを判断するうえで有効です。
従業員との交流を通して、求職者が自社に馴染めそうかを確認できます。フリートークの場では、リラックスした雰囲気の中で求職者の自然体の様子を確認できるでしょう。
面接でカルチャーフィットを見極める質問
採用面接の際に求職者と自社のカルチャーフィットを見極めるための質問例をご紹介します。
自社のカルチャーについて質問する
自社のカルチャーについて、求職者の考えを質問してみましょう。
自社カルチャーへの共感度を図れるほか、求職者が自社についてどの程度調べてきたかを知ることができるので、情報収集力も判断できます。
具体的には、
- 自社のカルチャーについてご存じですか?
- 自社のカルチャーについてどのようなお考えをお持ちですか?
- 自社のカルチャーについて、どのような方法で調べましたか?
といった質問を投げかけると良いでしょう。
STAR型で自社カルチャーに沿った質問をする
STAR型の面接とは、行動面接の一種です。
自社のカルチャーに沿ってSTAR型で質問すると、求職者の価値観や行動特性を把握できるため、カルチャーフィットの見極めに有効です。
STAR型では、求職者の過去の体験から価値観や行動特性を探り出します。
【自社のカルチャーに沿った質問例】
・積極的に挑戦するカルチャーの場合の質問例
「これまで一番挑戦したと思う取り組みを教えてください。」
・変化が早いカルチャーの場合の質問例
「これまでに経験した業務改善の内容を教えてください」
・責任感を大事にするカルチャーの場合の質問例
「リーダー的な役割で業務をした経験はありますか?」
また、質問する際は「STAR」の順に進めていくのが良いでしょう。
- S(状況:Situation)
質問例:これまで一番挑戦したと思う取り組みを教えてください。また、なぜ取り組もうと思ったのかも、お聞かせください。
- T(課題:Task)
質問例:取り組みを達成するうえで、出てきた課題を教えてください。
- A(行動:Action)
質問例:課題を解決するためにした行動を教えてください。
- R(成果:Result)
質問例:取り組んだ結果、得られた成果を教えてください。
逆質問から分析する
求職者に対して「何かご質問はありますか?」と逆質問をすることも、カルチャーフィット見極めに有効な方法です。
自由に質問をしてもらうことで、求職者の本音が垣間見える場合があります。求職者から自社のカルチャーにマッチしない質問が出た場合は、カルチャーフィットが難しいと判断できます。
カルチャーフィット重視の採用に成功した企業事例
カルチャーフィットを重視した採用活動に成功した事例は数多くあります。ここでは、3社の事例をご紹介します。
株式会社ココナラ
株式会社ココナラは、「知識・スキル・経験」を売り買いできるスキルマーケット「ココナラ」を運営する企業です。
カルチャーフィットを最重視した採用活動が行われていて、会社のバリューに共感する人材の採用に成功しています。バリューは、「カルチャーブック」によって言語化されています。
採用は3次選考まで行い、1次選考で必須スキルのチェック、2次、3次選考でカルチャーフィットを確認するための面接を行うそうです。
面接では求職者の「人生のターニングポイントでの選択基準は何だったか」を探り、そこでカルチャーフィットを判断するそうです。
Zappos.com
Zappos.com(ザッポス)は、米国・ラスベガスが本拠の靴を中心とした通販企業です。
こちらもカルチャーフィットを最重視した採用活動をしています。
ザッポスでは、10個のコアバリュー(会社のコアとなる価値観)をもとに、カルチャーフィットする人材を採用しているそうです。
コアバリューごとに複数のSTAR型の質問が用意されており、カルチャーフィットの判断に用いられています。
株式会社Wiz
株式会社Wizは、IoTやICTを中心としたIT事業を展開している企業です。
従来は、大手求人媒体を利用した採用活動が中心でしたが、応募者の多くは条件面で検索するため、企業理念やカルチャーに共感する応募者は少なかったそうです。
そこで、自社カルチャーの発信に力を入れ、条件面に依存しない求人記事を増やしたところ、カルチャーに共感して応募する求職者が増加したそうです。
カルチャーフィットも取り入れて採用の精度を向上
早期離職や生産性の問題は、多くの企業が抱える課題です。採用活動にカルチャーフィットを取り入れることで、採用のミスマッチを減らし、現状の改善が期待できます。
この機会に、カルチャーフィットを用いた採用活動を検討してみてはいかがでしょうか。