従業員を採用する際には労働契約を結ぶのが基本ですが、書類への記載が欠かせない項目や、「雇用契約書」と「労働条件通知書」との違いをご存知でしょうか。
労働契約におけるトラブルを避けるためにも、ここで一度労働契約の基本をおさらいしておきましょう。
雇用契約書とは
読んで字の如く、労働契約を結ぶ際に従業員と雇用主間で取り交わされる契約書類で、労働契約法6条に定められている下記の項目を立証するものとして作成されます。
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労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
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実を言うと、ここで言う「合意」に決まった様式はなく、口頭での合意でも問題ありません。
しかし給与や実働時間を口頭で約束し、実際に働いてみたら条件と違っていたというケースが発生したとき、「言った、言わない」の争いが発生するリスクはあります。
そうしたトラブルを未然に防ぐために、雇用期間や残業代の支給に関する情報を記した雇用契約書が必要になるのです。
雇用契約書には、作成する際に必ず明示しなければならない項目があります(詳細は後述の「明示すべきポイント」をご覧ください)。
それ以外は口頭でも問題ありませんが、こちらもトラブル回避のために書面に加えるといいでしょう。
就業規則に詳細を明記しているという企業は、就業規則の交付によって労働条件の交付を肩代わりすることも可能です。
労働条件通知書との違い
雇用契約書とよく似た書類に「労働条件通知書」がありますが、両者の違いをご存知でしょうか?
書かれている内容はほぼ同じですが、雇用契約書は「労使双方が署名・押印を取り交わすもの」。
労働条件通知書は「会社が社員に一方的に交付するもの」という大きな違いがあります。
雇用契約書または労働条件通知書のどちらかを作成すれば、労働基準法などが定める法的要請をクリアすることができます。
一見すると労働条件通知書の方が署名・押印の手間を省けるため楽に見えますが、その分、労務上のトラブルが発生したときの証拠として弱く、「そんな通知書はもらっていない」と従業員に否認されてしまう可能性があります。
雇用契約書は仮に従業員から待遇面の違いを言及されても、契約書の内容に則るものであれば「あなたは入社時に、書類の内容に同意した上で署名・押印をしている」と、自社の正当性を主張できます。
少し手間でも、労務上のリスク管理として雇用契約書を交わしておくのがベストでしょう。
明示すべきポイント
雇用契約書、労働条件通知書に明示しなければならない項目は以下の通りです。
これらは、労働基準法15条1項、同施行規則5条1項で定められています。
下記は東京労働局HP「労働基準法のあらまし」(平成27年3月版)4頁からの抜粋です。
1)労働契約の帰還
2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
3)就業の場所・従事すべき業務
4)始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
5)賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期
6)退職に関する事項
7)昇給に関する事項
下記は社内で制度を設けている際に明示しなければならない事項です。
? 8)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに支払の時期に関する事項
? 9)臨時に支払われる賃金、賞与等及び最低賃金額に関する事項
10)労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
11)安全・衛生
12)職業訓練
13)災害補償、業務外の傷病扶助
14)表彰、制裁
15)休職
求人広告と異なる条件で雇用するときの注意点
求人広告に明記された待遇と実際の待遇が違った場合、労働契約を結ぶことは違法なのでしょうか。
当事者間での合意がないまま虚偽の労働条件で雇用することがあれば、それは「職業安定法第65条」に抵触する法律違反であり、企業に6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課せられます。
しかし、求人広告に書かれた労働条件は企業側が求職者に対し、「この労働条件で働きませんか?」と問いかける「申し込みの誘引」に相当するものと解釈されます。
つまり、広告に実際と異なる待遇を書くだけなら法律に触れることはありません。
その後の面接で実際の労働条件を提示し、求職者から合意を得られれば、労働契約の締結は可能なのです。
ただし、求人広告の待遇と実際の待遇が著しく異なる場合は、たとえ労働者本人が同意しても、労働契約法3条4項に定められた「信義誠実の原則」に違反するとして、法的な問題に繋がる可能性はあります。
どの程度の差異が「信義誠実の原則」に抵触するかはケースバイケースですが、誇大広告を打つのは避けた方がいいでしょう。
まとめ
雇用時に明示された労働条件が実際と異なったとき、労働者は即時に契約を解除する権利を持つことになります(労働基準法15条2項)。
雇用条件に関する認識の違いで従業員が退職したということになれば、企業のイメージにも大きな傷がついてしまうでしょう。
労働者が安心して働ける環境づくりはもちろん、企業側が余計な時間的・経済的負担を負わないようにするためにも、雇用契約書の作成はしっかり行う必要があります。
正しい形での労働契約を守り、コンプライアンスへの意識を高く持った社風を維持していけば、企業の魅力もより高まっていくことでしょう。