人時生産性とは?業種別の平均データと4つの改善方法について

会社全体で高い生産性を維持していくためには、「人時生産性」がどれくらいなのかを把握しておく必要があります。

業務効率化の推進はもちろん、労働人口減少の対策としても、人時生産性を考える機会は多いでしょう。

 

この記事では、人時生産性の概要から改善方法について分かりやすく解説します。

業種別に平均データもご紹介するので、ぜひ自社と比較してみてください。

 

人時生産性とは?

「人時生産性(にんじせいさんせい)」とは、従業員1人が、1時間働いてどれだけの粗利益を生み出しているかを表す指標です。

 

「人時」とは、1人の従業員が1時間でこなせる作業量を指す単位です。

2人の従業員が30分かけて終わる作業なら「1人時」、2人の従業員が1時間かけて終わる作業なら「2人時」となります。

 

「生産性」とは、投入したリソースに対してどれだけの成果が得られたかを表す言葉です。

生産性は高いほど効率的であると判断され、人時生産性も数値が高いほど効率的に粗利益を出せていることになります。

 

人時売上高や労働生産性との違い

人時生産性と混同されやすい言葉に、「人時売上高」と「労働生産性」があります。

それぞれとの違いについて、ここで確認しておきましょう。

 

人時売上高との違い

人時売上高とは、従業員1人が1時間あたりに出す売り上げを数値化したものです。

人時生産性では1時間あたりの「粗利益」に着目しますが、人時売上高は実際の「売上高」を算出します。

 

また、人時生産性では投入したリソースに対する成果が反映される一方で、人時売上高は売上だけに着目する点も異なります。

 

人時売上高は同業種の生産性を比較する際に役立ちますが、人時生産性も加味して分析すると、より効果的なビジネス戦略を立てることが可能です。

 

労働生産性との違い

労働生産性は、投入した労働資源に対する産出量です。

従業員数や総労働時間を「投入した労働資源」として計算し、従業員1人あたりの生産量を算出します。

 

計算式は、

労働生産性 = 産出量(生産量や付加価値) ÷ 投入した労働資源(従業員数や総労働時間)

です。

 

産出量も、投入した労働資源も広い意味で使われることが多いため、労働生産性は労働効率を知るための指標として用いられる傾向にあります。

 

一方、人時生産性は従業員1人が1時間働いて得る粗利益を表すため、労働生産性よりも具体的です。

ただし、会社全体の生産性を高めるためには、人時生産性だけでなく、労働生産性や人時売上高など、さまざまな視点から分析することが大切です。

 

人時生産性の計算方法と具体例

人時生産性は、

人時生産性 = 粗利益高 ÷ 総労働時間

で求められます。

 

算出される数値が高いほど、効率的に粗利益が出せていると判断できます。

上記の式を使って、実際に計算してみましょう。

 

  A部署 B部署
粗利益 200万円 400万円
総労働時間 400時間 1,000時間
計算式 200万÷400 400万÷1,000
人時生産性 5,000円 4,000円

 

粗利益だけ見るとB部署が高いですが、人時生産性を見るとA部署の方が効率的に生産できていることが分かります。

粗利益額や労働時間を正確に把握することで、具体的かつ有効な結果が得られます。

 

なぜ人時生産性が注目されているのか

人時生産性が注目されている背景には、「労働人口の減少」と「働き方改革の推進」があります。

 

労働人口の減少

15歳以上で就業している人と完全失業者を合わせた人の数が、労働人口です。

 

日本では少子高齢化が加速していて、労働人口は減少する一方となっています。

令和3年 情報通信白書」によると、1995年頃がピークだった労働人口は年々減少し、2020年には7,406万人(日本の総人口に対して59.1%)、2040年には5,978万人(日本の総人口に対して53.9%)まで少なくなると予想されています。 

 

その後もさらに減少すると考えられているため、より効率的な働き方を実現しなければ、現状を維持できません。

AIやロボット技術により人の手から離れる業務も増えていますが、それでも人時生産性を上げなければ大幅に生産性が下がる可能性もあるでしょう。

 

働き方改革の推進

2019年に施行された「働き方改革関連法」により、長時間労働の改善が求められるようになりました。

日本は世界的に見ても労働生産性が低いとされていることもあり、このままでは国際競争で大きな遅れを取るリスクもあります。

 

働き方改革を進めるためには、短時間で成果を上げるための業務効率化が必要となり、人時生産性が注目されているのです。

 

【業種別】人時生産性の平均データ

 経済産業省では、業種別に人時生産性の平均を発表しています。

 

  1. 製造業:2,837円
  2. 宿泊業:2,805円
  3. 小売業:2,444円
  4. 飲食店:1,902円

 

上記は、2021年に「経営産業省 中小企業・サービス業の生産性分析」で発表されたデータです。

 

数値から分かるように、製造業に比べると飲食店の人時生産性が1,000円近くも低くなっています。

業種によって平均が大きく異なるため、自社の業種に合わせて、平均値と自社の人時生産性を比較分析すると効果的です。

 

人時生産性を低下させるロス5つ

人時生産性が低い理由には、以下5つのロスがあるからと考えられます。

 

  1. 管理ロス
  2. 生産ロス
  3. 編成ロス
  4. 動作ロス
  5. 自動化置換ロス

 

人時生産性を上げるためには、自社でどのようなロスが生じているのかを知る必要があります。

ロスを減らすことが人時生産性アップの第一歩となるため、ここで自社の状況について検証してみてください。

 

管理ロス

管理業務では、さまざまな待ち時間が発生します。

 

たとえば、

  1. 指示待ち
  2. 資材待ち
  3. リペア待ち

などは、管理業務でよく発生するのではないでしょうか。

 

待ち時間が発生すると人時生産性は低下し、時には業務全体の計画が狂ってしまうこともあります。

 

これ以外に、

  1. 突発的なトラブルによる業務ストップ
  2. 調整不足や不手際による待ち時間の発生

などの要因でも、人時生産性は低下します。

 

万全な計画を立てていても、予期せぬ待ち時間の発生でロスが出ることもあるでしょう。

管理業務では、こうしたあらゆるケースを想定してしっかりプランを立てなければなりません。

 

生産ロス

製造現場では、主に下記の原因でロスが発生します。

 

  1. 不良品を直す
  2. 運搬など、製造以外の業務に時間がかかる

 

製造現場でのメイン業務は、「生産」です。

不良品をゼロにすることはできませんが、不良品が発生する原因を突き止めて解決できれば、ロスを大幅に解消できるでしょう。

 

また、運搬など製造以外の業務を効率化したり適切に配分し直すことができれば、生産におけるロスは大幅に軽減できます。

 

生産ロスは、「ロスが出ている」ことに気付かない企業も多いです。

まずは自社の生産状況を可視化し、ロスがどれくらい発生しているのかをチェックしてみましょう。

 

編成ロス

工程数が多い場面では、多くの従業員が流れ作業で仕事をこなしていきます。

この時、1つの工程に時間がかかりすぎてしまうと、それ以降の人には「編成ロス(待ち時間)」が発生します。

 

編成ロスを減らすためには、各工程の業務内容や要する時間をしっかりと把握し、適切な業務の割り振りと人員配置が欠かせません。

待ち時間がなるべく発生せず、効率的に作業できるライン作りを考えてみましょう。

 

動作ロス

従業員の動きにより発生するロスも、人時生産性を下げる一因です。

 

  1. 従業員の動き方
  2. 従業員それぞれのスキル
  3. 仕事のやり方
  4. 職場のレイアウト

 

上記が原因で、ロスが発生します。

 

従業員ごとにスキルが違うため、ロス削減のためには適切な人員配置をすることが必須です。

一方で、動きや仕事のやり方は、効率的な方法を指示することでロスが削減できます。

 

また、1つの作業を終えて次へ進む際に大幅に職場内を移動しなければならないレイアウトの会社では、動作ロスが大きくなります。

 

職場のレイアウトや人員配置をはじめ、仕事をどのようにこなしているのかを確認することで、どれくらいのロスが発生しているのかが確認しやすくなるでしょう。

 

自動化置換ロス

IT技術の進化が著しい近年では、IT任せにできる作業が増えています。

ITツールを導入しないと作業時間が長くなり、自動化置換ロスが発生します。

 

導入時には初期費用がかかり運用にもランニングコストがかかりますが、それと比較しても削減できるコストは大きいでしょう。

 

また、業務効率化できることやロスをなくして人時生産性をアップできるのなら、自動化ツールの導入はメリットが大きいのではないでしょうか。

 

人時生産性を上げるにはどうしたらいい?

人時生産性を上げるには、

  1. 適切な人員配置
  2. 業務効率化
  3. RPAの導入
  4. 従業員のモチベーション管理

の4つがポイントです。

 

ロスの削減はもちろん、これら4つのポイントを押さえることができれば、人時生産性の大幅アップも期待できます。

 

適切な人員配置

従業員それぞれが得意なことを活かせる人員配置になっていれば、人時生産性はアップします。

不得意な分野は誰しもあり、時間がかかるだけでなく、仕上がりが良くないこともあるでしょう。

 

また、なるべく効率的に仕事をこなそうと努力する従業員の傍ら、効率を無視して無駄な時間を費やす従業員がいることもあります。

 

これでは人時生産性を下げてしまうだけでなく、従業員のモチベーションも下げてしまうため、対策が必要です。

 

適材適所の配置にするためには、業務を全体的に洗い直して細分化し、その上で従業員それぞれの得意なことや不得意なことを把握しなければなりません。

あわせて、業務の進め方に無駄がないか、もっと効率的な方法がないかを検証してみるのも良いでしょう。

 

目標とする人時生産性を周知し、会社全体でパフォーマンスアップを目指すことも有効です。

 

業務効率化

人時生産性アップを考える上で、業務効率化は欠かせません。

現在の業務の進み方を細かく把握し、改善できる箇所を見つけましょう。人時生産性が低い場合、業務のどこかが停滞していることも多くあります。

 

  1. 業務時間内では到底終わらない作業量になっていないか
  2. 業務が一部の人に集中していないか
  3. 無駄な業務が多くなっていないか
  4. 一部の工程にだけ時間がかかっていないか
  5. 仕事の配分にムラはないか

 

上記をしっかりチェックすることで、業務効率化を図るためのポイントが見えてきます。

人員配置も含め、業務内容や進め方を改善すると、業務効率を大幅にアップできる可能性があります。

 

RPAの導入

自動化置換ロスの削減には、ツールの導入が欠かせません。

RPAとは「Robotic Process Automation」の略称で、AIなどの技術を活かした自動化システムのことです。

 

ITツールやRPAを導入することで作業時間は大幅に削減でき、人的ミスもなくせます。

人間にしか作業できない部分に人員を増やすなどすれば、さらに人時生産性をアップできるでしょう。

 

従業員のモチベーション管理

見逃しがちですが、従業員のモチベーション管理は、人時生産性アップにおいて重要なポイントとなります。

 

人時生産性アップの取り組みは、上手に活用すれば効果的ですが、場合によっては従業員に大きな負担を強いることがあるためです。

 

従業員のモチベーションを高い状態で維持するためには、社内でしっかりコミュニケーションを取り、個々の現状を把握していく必要があります。

 

モチベーションの上下はどうしても出てくるものなので、低下してしまった際にフォローし合えるような社内環境を整えましょう。

1on1制度やメンター制度を導入するのも良いですし、モチベーションアップにつながる人事評価制度に見直すのも効果的です。

 

人時生産性の改善事例

実際に人時生産性を改善した事例として、「株式会社さえき」をご紹介します。

株式会社さえきは、スーパーマーケットを展開している会社です。十数店舗を運営していて、人時生産性の改善に乗り出しました。

 

  1. 倉庫の品物がわかりやすいよう、サイズ別で分類した
  2. 店舗で在庫不足が発生しないよう、売り場に補填用の棚を追加した
  3. 倉庫内で使用している台車には、使用ルールを定めた

 

これらを実行したことで、実に年間150時間もの無駄をカットできました。

 

改善点それぞれは、特に大きな改革をしているわけではありません。

しかし、その小さな改善の幅を広げていくことで無駄を大幅に削減し、人時生産性アップを実現できたと言えます。

 

まとめ

現代の日本では、人時生産性のアップに焦点を当てるべき理由がいくつもあります。

今後の企業のため、従業員のためにも、できるところから取り組む必要があるでしょう。

 

人時生産性アップをめざすなら、まずは自社のどこでロスが発生しているのかを把握しなければなりません。

その上で、適切な人員配置や業務効率化、RPAの導入などを行う必要があります。

まずは自社の現状を細かく分析し、取り組みやすい改善点から手を付けてみてはいかがでしょうか。

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