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従業員の多様なライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を実現するために、「遠隔地勤務制度」を導入する企業が増えています。

 

人手不足の打開策や、優秀な人材を確保するために遠隔地勤務制度の導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。

 

そこで本記事では、遠隔地勤務制度とは何かを分かりやすくご説明します。メリット・デメリットや、導入の具体的な手順、取り組み事例についても解説します。

 

遠隔地勤務制度を検討する際に重要なポイントとなりますので、ぜひご覧ください。

 

遠隔地勤務制度とは?

遠隔地勤務制度とは、通勤圏外に居住してテレワークで業務を行う制度です。

従来のテレワークの取り組みでは限界があった、郊外での育児や介護にも柔軟に対応できる多様な働き方の実現を目指して作られました。

 

遠隔地とは具体的にどういう場所を指すのか

遠隔地勤務制度における「遠隔地」の定義は、企業によって変わるため一概に〇㎞以上、〇時間以上とはいえません。

 

例えば、

  1. キリンホールディングス…通勤時間100分超
  2. 三菱電機…通勤圏外に居住
  3. セゾン情報システムズ…公共交通機関の乗車時間が2時間以上、または乗車距離が100Km以上

などと定義されており、さまざまです。

 

遠隔地勤務制度の実態

働き方改革などにより進む遠隔地勤務制度の導入が進んでいますが、その実態はどうなっているのでしょうか。

 

人材紹介会社のロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社では、2023年4月遠隔地勤務制度の実態に関する調査結果を公表しています。

ここからは、遠隔地勤務制度の実態について、同調査をもとにご紹介します。

 

遠隔地勤務制度の導入企業は外資系39%、日系31%!

引用:ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社「通勤圏外に居住し、テレワーク勤務を可能にする『遠隔地勤務制度』について

 

勤務先が遠隔地勤務制度を導入していると回答した会社員は、

  1. 外資系企業で39%
  2. 日系企業では31%

でした。

 

また、遠隔地勤務制度について会社員の回答は、

  1. 無条件で利用できる…39%
  2. 決まった職種のみ…30%
  3. 従業員の事情を会社側が認めた場合…25%
  4. 出社の必須日数が決まっている…24%

となりました。

 

この調査結果からは、外資系企業のほうが遠隔地勤務制度を積極的に導入していることが分かります。

「遠隔地勤務制度を無条件で利用できる」と回答した会社員が約4割いることから、自由度も高いです。

 

約7割の会社員が通勤圏外での居住とテレワークを希望

引用:ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社「通勤圏外に居住し、テレワーク勤務を可能にする『遠隔地勤務制度』について

 

「通勤圏外に居住し、そこからテレワークで勤務したいか」についての会社員の回答は、

  1. 働いてみたい…67%
  2. 働きたくない…18%
  3. 既に利用している…15%

でした。

 

この調査結果からは、約7割の会社員が通勤圏外での居住とテレワークを希望していることがわかります。

 

遠隔地勤務制度導入のメリット

遠隔地勤務制度導入のメリットには、

  1. 人材流出を防げる
  2. 優秀な人材の確保につながる
  3. 生産性が向上する
  4. リスクヘッジができる
  5. コスト削減

といった点が挙げられます。

 

人材流出を防げる

出社を義務付け、柔軟な働き方を認めなければ、出産や介護といったライフステージの変化に対応できません。

実際、育児や介護を理由として退職するケースは、多々あります。

 

自宅でも仕事ができるようになれば、ワークライフバランスを取りやすくなり、育児や介護などのやむを得ない事情による離職を大幅に減らせるでしょう。

 

また、通勤する必要がなくなると社員は好きな土地に住めるので、従業員満足度の向上にもつながります。

 

このように、遠隔地勤務制度の導入は、ライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるため人材流出を防止できるのです。

 

優秀人材の確保につながる

引用:ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社「通勤圏外に居住し、テレワーク勤務を可能にする『遠隔地勤務制度』について

 

「遠隔地勤務制度は転職の決め手になるか」についてはの会社員の回答は、

  1. 決め手になる…59%
  2. 決め手にならない…12%
  3. どちらともいえない…29%

でした。

 

約6割の会社員が「遠隔地勤務制度は転職の決め手になる」と回答したのです。

転職の決め手になる人が6割もいることから、遠隔地勤務制度の導入は、企業にとって人材獲得に大きな影響があると考えられます。

 

少子高齢化が進み、ますます人材獲得が難しくなると予想される中、優秀な人材を確保するためには柔軟な働き方が不可欠です。

今後はさらに、働く場所に縛られない働き方を求める人が増えると予想されるため、遠隔地勤務制度は強力なアピールポイントになるでしょう。

 

同時に、遠隔地勤務制度の導入により遠方に住む人も採用対象となるため、多様性の確保にもつながります。

 

生産性が向上する

引用:総務省「令和3年版 情報通信白書

 

遠隔地勤務のように、テレワークを導入する企業は未導入の企業と比べると、労働生産性が高いです。

 

実際、労働生産性向上を目的としてテレワークを導入した企業のうち、82.1%の企業が「効果を得た」と回答しています。

 

また、遠隔地勤務制度を利用すれば通勤の必要がありません。

日常的に感じていた満員電車でのストレスから解放されるだけでなく、移動時間も短縮されます。

 

自由に使える時間が増えるため、ワークライフバランスも取りやすくなるでしょう。

 

リスクヘッジができる

地震や津波など、インフラに大きな影響を及ぼす災害やパンデミックなどが発生した際は、遠隔地勤務制度が大きな役割を果たします。

 

というのは、交通網が寸断されたり外出が制限されたりしても、通信環境さえ整っていれば自宅で業務ができるからです。

 

自宅で業務できる従業員がいれば、パンデミックや自然災害が起きた時も事業を継続でき、早期復旧も可能です。

 

2011年に発生した東日本大震災を教訓に、事業継続計画(BCP)対策の一環として在宅勤務制度を導入している企業も多くあります。

 

コスト削減も可能

オフィスに勤務する人が減れば、交通費を支払う必要がなくなります。

 

固定席を用意しなくて済みますし、フリーアドレスを導入すれば、従業員数よりも少ない席数で対応可能です。

出社人数が少なくなれば、照明や空調の使用時間も削減できます。

 

また、家賃の安い小さなオフィスに引っ越せば賃料も削減できるため、浮いたコストを他の部門に回すことも可能でしょう。

 

遠隔地勤務制度導入のデメリット

引用:ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社「通勤圏外に居住し、テレワーク勤務を可能にする『遠隔地勤務制度』について

 

遠隔地勤務制度導入のデメリットには、社内コミュニケーションの取りにくさや労働管理の困難さが挙げられます。

 

オフィス勤務がなくなったことで生じる支障を調査した上記のアンケートでも、

  1. コミュニケーション方法…40%
  2. 長時間労働になりやすい…37%
  3. 就業の自己管理の難しさ…15%

と、同様の回答が出ています。

 

遠隔地勤務制度の導入手順

遠隔地勤務制度の導入には多くのメリットがありますが、十分な準備をせず遠隔地勤務制度を導入すると、業務がスムーズに進みません。

継続して実施するためには、確実に手順を踏むことが重要です。

 

ここからは、遠隔地勤務制度を取り入れる際の導入手順についてご説明します。

 

遠隔地勤務制度の導入目的と適用範囲を明確化する

まずは、遠隔地勤務制度の導入目的を明確化しましょう。

導入目的は企業によって異なりますが、「誰のために」「どのような問題を解決するか」を明確にすることが重要です。

 

業種や規模に応じて導入範囲を決定し、明確な目的に基づいて遠隔地勤務制度を導入する業務や担当者を決めましょう。

 

社内ルールを策定する

遠隔地勤務制度の導入は従業員にとって新しい就業形態となるため、就業規程の変更や企業内の規則を定める必要があります。

 

また、従業員の家庭でのICT(情報通信技術)環境整備や光熱費の負担についても検討が不可欠です。

これらの社内ルールの制定と負担の割合を決定した後に、従業員向けの説明会を行います。

 

IT・情報システム環境を整備する

遠隔地勤務制度を導入する際は、業務内容に合わせてITツールの導入やセキュリティ対策といった、情報システム環境を整える必要があります。

 

具体的には、

  1. ネットワーク環境の整備
  2. 電話など音声環境の整備
  3. 業務のオンライン化
  4. 情報セキュリティ対策
  5. 従業員のサポート環境の整備
  6. 物理的な感染対策

などです。

 

ネットワーク環境の整備

自宅のパソコンやスマートフォンから社内システムに接続できる環境にすれば、オフィスにいるのと同じように業務を行えます。

 

同時に、遠隔地勤務制度で使用する従業員の端末の用意も必要です。

会社のパソコンを持ち帰ったり、個人所有の端末から会社のパソコンにアクセスして遠隔操作を行ったりする方法があります。

 

電話など音声環境の整備

クラウドPBX(電話交換機)を利用すれば、遠隔地勤務中に従業員のスマートフォンをオフィスの電話機として使用できます。

社外からの電話応答や取引先への発信、内線の転送もできるため通話料の削減も見込めるでしょう。

 

環境構築にはオフィスで利用している電話設備を有効活用したり、サーバーをクラウド化したりする方法があります。自社の状況に合わせて検討しましょう。

 

業務のオンライン化

ITツールの導入によりオフィスでの勤怠管理、会議や商談、契約処理や帳票管理などのバックオフィス業務が遠隔地勤務制度に対応できます。

 

具体例としては、

  1. オンライン上での会議、商談・研修の実施
  2. オンラインで締結する電子契約
  3. 帳票の電子化による管理効率化

などが挙げられます。

 

情報セキュリティ対策

遠隔地勤務制度における情報セキュリティ対策は、不正アクセス対策やデータ盗聴・改ざん防止、端末管理・情報漏えい対策が必要です。

 

具体的な対策の方法としては、

  1. 不正アクセス対策…ファイヤウォール、IPS(侵入防止システム)、IDS(侵入検知システム)の導入
  2. データ盗聴・改ざん防止…VPN(仮想私設網)の導入
  3. 端末管理・情報漏えい対策…ウイルス対策ソフトやシンクライアント端末(保存機能などを持たない)の導入

が挙げられます。

 

また、情報セキュリティポリシーの策定や研修によるセキュリティ意識向上も重要です。

 

従業員のサポート環境の整備

従業員がIT機器やツールの操作に慣れていない場合も、サポートが必要です。

制度導入後は、自宅でのインターネット接続の問題や新しいWeb会議ツールの使用に関する問い合わせが情報システム部門の担当に集中する可能性があります。

 

情報システム部門の人数が限られている場合は、アウトソーシングを活用しましょう。

手厚いサポートを行うために、サポート体制の整ったITツールを選ぶことも重要です。

 

物理的な感染対策

遠隔地勤務制度の導入後も出社する従業員や来訪者がいるため、オフィスでの感染症対策が必要です。

 

密集や接触の機会を減らすには、

  1. マスクの着用
  2. アクリルパネルの設置
  3. サーマルカメラによる検温
  4. 混雑状況を可視化するカメラシステムの導入

などが挙げられます。

 

着席時のソーシャルディスタンスを保つルールづくりも重要です。

 

導入後にアンケート調査を行う

遠隔地勤務制度の導入後には、アンケート調査を行いましょう。

売上や求職・離職率などの指標を参考にして、導入目的を達成できたかどうかや、導入によるマイナスの影響を把握することが重要です。

 

プラス面やマイナス面を把握することで、中長期的な遠隔地勤務制度の定着につながります。

 

遠隔地勤務制度の取り組み事例

最後に、キリンホールディングス・三菱電機・セゾン情報システムズが導入している遠隔地勤務制度の取り組み事例についてご紹介します。

 

キリンホールディングス

キリンホールディンスでは、キリングループ多様性推進プランの一環として2023年7月から遠隔地勤務制度を開始しています。

 

子育てや介護をしている従業員のキャリア形成が難しく、能力を最大限に発揮しにくい現状にあることを踏まえ、国内グループ従業員を対象に導入されました。

 

15歳以下の子がいる子育て期の共働き家庭と、要介護家族を持つ従業員の優先的な支援が目的です。

 

キリンホールディングスの遠隔地勤務制度は、

  1. 通勤可能範囲外(通勤時間100分超)に居住している
  2. 自己管理のもとで業務を円滑に行えて、通常と同等の成果を出せる

場合に、適用されます。

 

三菱電機

三菱電機では、多様な働き方を実現するために、2021年から遠隔地勤務制度をトライアル導入、2022年に本格導入しました。

 

家族との別居解消や育児・介護への参画などを支援し、従業員一人ひとりのライフスタイルに応じた働き方の実現を目的としています。

 

対象は、

  1. 遠隔地勤務により単身赴任の解消または回避が可能となる人
  2. 育児・介護、配偶者の転任等の事情により事業所の通勤圏外に居住する必要がある人

です。

 

また、2023年度からは、国をまたいで働く「越境リモート勤務」を導入しました。国をまたいで遠隔地勤務ができるため、海外に居住しながら日本の本社などで働けます。

 

これまで三菱電機では、子育てや介護といった事情で有能な人材が国をまたいで転勤できないケースが課題となっていました。

 

新制度により世界規模で人事交流をしやすくし、国際競争力の強化や、優秀な人材の確保を目指しています。

 

セゾン情報システムズ

セゾン情報システムズでは、社員の柔軟な働き方をさらにサポートするため、遠隔地勤務制度を2022年10月から導入しています。

 

活用範囲は親族の介護や看病、帰郷や実家継承、家族の事情、理想の地への転居、趣味やプライベートの充実、地元を離れたくないなどです。

 

対象地域は

  1. 日本国内である
  2. 自宅からオフィスまで公共交通機関の乗車時間が2時間以上、または乗車距離が100Km以上
  3. 前日の終業時間までの上長指示により、当日自宅を出発し午前11時までにオフィスへ出社できる

の条件を満たす場所です。

 

通常の社員と同等の条件で給与を受け取り、出勤が必要な場合は出張として扱われます。また、始業・終業時間やコアタイムを指定しない「スーパーフレックス勤務」も適用されます。

 

まとめ

遠隔地勤務制度とは、通勤圏外に居住してテレワークで業務を行う制度です。

 

遠隔地勤務制度には、人材確保や生産性の向上などさまざまなメリットがあり、導入の有無は今後ますます注目されるでしょう。

ご紹介した企業の導入事例も参考に、遠隔地勤務制度の導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

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