「介護休暇」と「介護休業」の違いをご存知でしょうか?
どちらも言葉は似ていますが、制度としては異なります。家族の介護が必要になった時、これらの制度はどのように役立ち、どのような条件で利用できるのでしょうか。
本記事では、混同されがちな介護休暇と介護休業について、違いや給与の有無、取得条件や給付金制度などについて詳しく解説します。
介護休暇や介護休業については、法改正などにより情報が変わる可能性がございます。
厚生労働省などの公的機関の情報も併せてご確認ください。
▼厚生労働省
介護休暇とは?
介護休暇とは、育児・介護休業法において企業に導入が義務付けられている制度です。
家族の病気やケガ、精神上の障害、高齢などの理由で介護が必要な場合に、労働者が仕事を休んで介護を行えます。
介護休暇は時間単位で取得でき、排せつや食事介助といった直接的な介護だけでなく、必要な買い物や書類の手続きを行う際にも利用できます。
法律によって守られた権利
仕事と介護を両立できるように規定された「育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」によって守られた制度です。
しかし、実際は介護休暇を申請した際に企業側から拒否されることがあり、やむを得ず退職する“介護離職”が散見されています。
介護による離職者数は年間で約10万人です。
そのうち半数以上が「仕事を続けたかった」と回答していたことが、平成24年の総務省統計局・厚生労働省の委託調査で分かっています。
介護休暇は法律によって「事業主は介護休暇申請を拒否できない」「介護休暇を取得しても解雇される理由にはならない」と定められており、解雇はもちろん、減給・降格、賞与削減なども禁止されています。法律によって守られている権利なので、しっかりと活用していきましょう。
介護休暇中の給与は企業の判断次第
介護休暇中の賃金に関する法律上の定めはないため、各企業の判断に委ねられています。
給与の何割かを支給する企業もありますが、中小企業では無給のところが多いです。
介護休暇中の賃金が無給の場合、介護休暇ではなく有給休暇を使うと経済的な負担を軽減できます。介護休暇を申請する際は、給与が支給されるかどうかを確認したうえで、有給休暇とどちらを取得するべきかを検討しましょう。
介護休暇取得の条件
介護休暇は、以下の条件を満たした労働者が取得できます。
介護休暇取得の対象条件 | 雇用期間が6カ月以上かつ、要介護状態の対象家族を介護している労働者 |
---|---|
対象家族 |
2週間以上にわたり、常時介護を必要とする状態の以下の家族
※対象家族と同居していなくても、介護休暇の取得が可能 |
介護の範囲 |
2週間以上にわたり、常時介護を必要とする状態の以下の家族
※対象家族と同居していなくても、介護休暇の取得が可能 |
取得可能な休暇の日数
介護休暇は、対象家族1人につき年間5日まで、2人以上の場合は年間10日まで取得できます。
2021年以降は時間単位での取得も可能ですが、対象家族が3人以上になっても、10日超の休暇は取得できません。
なお、介護休暇に充てられる日は本来であれば出勤日のため、もともとの休日を介護休暇に充てることはできません。取得できる日数に限りがあるため、本当に必要な日に活用しましょう。
対象労働者(介護者)
介護休暇を取得できるのは、以下の条件に該当する労働者です。
- 雇用期間が6カ月以上
- 要介護状態の家族を介護している
これらの条件をクリアしていれば、正社員だけでなくパート・アルバイトや契約社員なども対象となります。ただし、日雇い労働者は対象外です。
また、要介護状態とは、病気やケガなどにより2週間以上にわたって常時介護を必要とする状態です。
要介護認定の有無は問われませんが、要介護状態にあるかどうかについては、判断基準が設けられています。
参考:厚生労働省「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」
介護休暇を取得できない人
日雇いで働いている人は、介護休暇を取得できません。
また、会社と労働者との間で労使協定を締結している場合、次のいずれかに該当すると介護休暇を取得できないケースがあります。
- 雇用期間が6カ月未満
- 1週間の所定労働日数が2日以下
- 介護休暇を半日単位で取得できない労働者
日雇いや短期・短時間で働いている人は、対象外となる可能性があるため、注意が必要です。
対象家族(被介護者)
対象家族は、以下の通りです。
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母(養父母を含む)
- 子(養子を含む)
- 配偶者の父母
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 孫
介護休暇は、労働者が対象家族と同居していなくても取得できます。
ただし、叔父や叔母、いとこなどは対象外です。
介護の範囲
食事介助などの直接的な介護だけでなく、通院の付き添いといった間接的な介護や介護保険に関する手続きも含まれます。
要介護者のケガや体調不良などで、急に休みが必要になった場合にも利用できます。
また、時間単位での取得も可能なため、「ケアマネジャーとの打ち合わせで〇時間だけ介護休暇を取得する」など、短期間の用事にも利用できます。
介護休暇の申請方法
介護休暇の申請は、通常の有給休暇と同様に書面または口頭で事業主に伝えます。
事前申請だけでなく、当日の申請も可能です。
休暇の手続きは、会社の就業規則に従います。
口頭での申請も認められているとはいえ、企業側は取得条件を確認する必要があるため、申請書の提出を求められる可能性が高いです。
介護休暇を申請したい場合は、まずは担当部署に相談してみましょう。
介護休暇申請での注意点
介護休暇を申請する際に気をつけたいことは、以下の2点です。
- 介護休業給付金は対象外
- 法令では中抜けが定められていない
介護休暇は介護休業給付金の対象ではありません。
企業が介護休暇中の賃金を無給としている場合、休んでいる間の収入は減ってしまうため、注意が必要です。収入を確保したい人は、介護休暇ではなく有給休暇の取得を検討しましょう。
また、法令では介護休暇の中抜けについて定められていません。
中抜けとは、就業時間の途中に抜けてまた戻ってくることです。
法改正によって時間単位で介護休暇を取得できるようになりましたが、「中抜けを認める」とは定められていません。
中抜けが可能かどうかは会社によって異なるため、勤務先に確認してみましょう。
介護休業とは?
介護休業とは、要介護状態の家族を介護するために、従業員が長期間にわたり休暇を取得できる制度です。期間は、数週間~数カ月を想定しています。
介護休暇と同様に「育児・介護休業法」で定められた制度とはいえ、介護休業を取得すると長期間仕事から離れることになります。
無理なく職場復帰するためにも、できるだけ周囲の理解を得るようにすべきです。
早めに上司に相談し、介護休業の予定を伝えておきましょう。
介護休業中の給与も企業の判断次第
介護休業中の賃金に関しても、法律で定められていません。
有給か無給かどうかは企業の判断次第となるため、事前に確認しておきましょう。
ただし、介護休業は条件を満たせば、雇用保険の「介護休業給付金」を利用できます。この場合、賃金の67%相当の給付金を受けられます。
介護休業給付金を利用するには、会社を通じてハローワークに申請する必要があるため、担当部署に伝えておきましょう。
介護休暇と介護休業の違い
介護休暇と介護休業の違いは、下表の通りです。
項目 | 介護休暇 | 介護休業 |
---|---|---|
取得できる日数 |
対象家族1人につき、年5日間まで ※対象家族が2人以上の場合は10日まで |
対象家族1人につき、通算して93日まで ※3回を上限として分割取得可能 |
申請方法 |
|
※介護休業給付金制度を使用する場合、事業主が所轄するハローワークに申請 |
賃金・給付金の有無 |
|
賃金…会社による 給付金…介護休業給付金 |
介護休暇と介護休業の主な違いには、
- 取得できる日数
- 申請方法
- 給付金の有無
の3つが挙げられます。
介護休業は、要介護状態の家族1人あたりに通算93日まで取得可能で、介護休暇よりも長期間取得できます。
また、介護休業の取得を希望する場合、休業開始予定日と終了予定日を明確にし、開始日の2週間前までに申請しなければなりません。
一方、介護休暇は口頭かつ当日の取得も認められています。
ちなみに、介護休業給付金を受け取るには、雇用保険に加入している必要があります。給付金を希望する場合、介護休業を開始した日から10日以内に「休業開始時賃金証明書」を提出しましょう。
介護休業取得の条件
介護休業期間中は、基本的に給料は支払われません。
介護休業を得るためには、複数の条件をクリアする必要があり、一定の条件を満たせば介護休業の終了後に介護休業給付金を受けられます。
日数や対象者、対象家族や申請方法は下表の通りです。
取得できる日数 | 最大で93日間 |
---|---|
対象労働者(介護者) |
|
対象家族(被介護者) |
|
申請方法 | 事前に申し出、事業主が申請 |
取得可能な休暇の日数
介護休業を取得できる日数は、介護対象者1人につき、通算で最大93日間までです。
必要に応じて3回まで分割して取得できるので、全部一度に取る必要はありません。介護の必要がある時に少しずつ取得しましょう。
ただし、介護休業は本来働くはずであった所定の労働日にだけ使えます。もともと休日だった日に介護休業を申請することはできません。
対象労働者(介護者)
介護休業は誰でも取れるわけではありません。
介護休業制度を利用するには、次の2つの条件を満たす必要があります。
- 1年以上雇用され、要介護状態にある家族を介護している場合
- 介護休業開始予定日から93日経過後、6ヶ月以内に労働契約期間が満了することが明らかでない場合
上記の条件を満たせば、正社員はもちろんパート・アルバイト、派遣社員、契約社員など、雇用形態に関係なく介護休業制度を利用できます。
休業を取得できない人
介護休業を取得できない労働者は、以下の通りです。
- 入社後1年未満
- 申し出の日から93日以内に雇用が終了する
- 週の所定労働日数が2日以下
また、介護休業は介護離職を防ぐ目的もあるため、雇用が終了する予定の人や、入社して間もない人には適用されません。
対象家族(被介護者)
介護休業は介護休暇と同様に、従業員が家族の介護のために休暇を取得できる制度です。
ただし、介護している人が下記のいずれにも該当しない場合は、介護休業を取得できません。
- 配偶者(内縁を含む)
- 父母(養父母を含む)
- 子(養子を含む)
- 同居し扶養している祖父母、兄弟姉妹、孫
- 配偶者の父母
介護休暇の申請方法
介護休業は事業主に申請しますが、多くの場合は総務課や庶務課などが窓口です。
開始日と終了日を決め、開始日の2週間前までに会社に書類を提出する必要があるため、事前に申請します。
事前申請が必要な点は、介護休暇の申請方法との大きな違いです。
介護休業は、会社の就業規則に基づいて行われますので、就業規則を確認し、会社の担当者に相談しましょう。
介護休業申請での注意点
介護休業給付金は介護のために休業する人を経済的に支援する制度です。そのため、介護休業期間中に働いた場合、給付を止められる可能性があります。
具体的には、介護休業期間中に働いた日数が10日を超えると「休業していない」とみなされ、その期間分が支給されなくなります。
さらに、介護休業期間が1カ月に満たない場合、次の条件が設けられています。
- 勤務日数が10日以下
- 全日休業が1日以上
確実に給付金を受け取るためにも、休業中は就労しないようにしましょう。
介護休業給付金制度とは?
介護休業給付金制度の対象者や支給額の差出方法、提出先や提出書類は下表の通りです。
対象者 |
|
---|---|
支給額 | 原則として、休業開始時賃金日額×支給日数×67% |
提出者 | 事業主 |
提出書類 | 介護休業給付金支給申請書 |
添付書類 | 住民票記載事項証明書・出勤簿・タイムカード・賃金台帳など |
提出先 |
所轄するハローワーク(公共職業安定所) |
対象者
介護休業給付金制度は、介護休業を取得した労働者に対して、経済的な支援を提供する制度です。
給付金を受ける資格を持つ対象者は、以下の通りです。
- 家族を介護するために休業した被保険者
介護休業を取得し、家族の介護に専念するために休業した労働者が、この給付金の対象者となります。
- 介護休業開始日前2年間において、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月、または賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上ある完全月が12カ月以上ある労働者
労働者が介護休業給付金を受けるために必要な労働歴条件です。2年間の中で特定の期間、賃金支払基礎日数や労働時間が一定の水準以上あることが条件となります。
支給額
介護休業給付金制度の支給額は、休業開始時の賃金日額に、支給日数と67%を掛けた金額の支給を原則としています。
休業開始時の賃金日額とは、休業を開始した時点での1日あたりの賃金額が支給額の基礎となります。
支給日数は、介護休業を受けた期間の日数です。
介護休業給付金の申請方法
介護休業給付金を申請する際は以下の書類を添付し、事業主がハローワーク(公共職業安定所)に提出します。申請は、給付を受ける予定の日から2週間前までに行います。
- 住民票記載事項証明書
- 出勤簿
- タイムカード
- 賃金台帳 など
なお、会社内で用意している申請書式もあるため、事前に申請方法を確認することが必要です。
介護休業給付金取得時の注意点
申請した当日に取得できる介護休暇とは異なり、介護休業は原則として2週間前までに書面での申請が必要です。
休業の開始日と終了日を決め、会社の規定に従って期日までに申請します。
また、介護休業給付制度を利用するには、事業主がハローワークに申請する必要があります。
介護休暇と介護休業、取得するならどちらがおすすめ?
介護休暇も介護休業は、どちらも介護が必要な家族をケアするためのものです。しかし、介護が必要になった時、どちらを取得したほうが良いかはケースによります。
ここからは、目安となる具体例をご紹介します。
こんなケースなら介護休暇がおすすめ!
介護休暇は時間単位で取得できるため、急な用事ができた時や短時間の休みがほしい場合に取得すると良いでしょう。具体的には、以下のようなケースです。
- 要介護者の急な体調不良
- 病院までの送迎
- 通院や買い物の付き添い
- 役所での手続き
- ケアマネジャーとの面談
- 身体介護 など
介護休暇は、会社が特に定めていない限り口頭で申請できます。
ただし、介護休暇の場合は賃金が支払われないケースも多いため、有給休暇の取得を検討するのもおすすめです。
有給休暇を使い切っていたり、なるべく使いたくなかったりする場合は、介護休暇を利用しましょう。
こんなケースなら介護休業がおすすめ!
介護休業は、介護で長期休みが必要な場合だけでなく、仕事と介護のを両立に向けた準備をする場合にもおすすめです。
具体的には、次のようなケースが挙げられます。
- 遠距離介護をやめ、同居して在宅介護をするための準備
- 施設入居の準備
- みとりが近づいていると感じた時
遠距離介護をやめて同居して介護する場合、引っ越しだけでなく在宅介護に向けた環境づくりなど、さまざまな準備に追われます。
施設に入居する場合でも、施設選びから入居まで多くの手続きや準備が必要なため、まとまった休みが必要になると考えられます。
状況に合わせて介護休暇・介護休業を取得しましょう!
介護休暇や介護休業は、いずれも家族を介護するために欠かせない制度です。
ライフスタイルが変化しても仕事を辞めずに済むよう、介護する期間や賃金支払いの有無など、状況に応じて適した制度を取得しましょう。