裁量労働制は、労働者が仕事の進め方や労働時間を自由に決められるため、ワークライフバランスを実現しやすくなります。
導入する企業は増えていますが、適用できる業務は限られていますし、デメリットや注意点も存在するため、これらを把握した上で導入を検討することが重要です。
この記事では、裁量労働制の概要や対象業務、メリット・デメリットについて解説いたします。導入フローや注意点についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
本記事で取り扱う「裁量労働制」については所管する省庁である厚生労働省の情報も併せてご確認ください。
▼厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/index.html
裁量労働制とは
裁量労働制とは、みなし労働時間制の一つで、仕事の進め方や労働時間が労働者にゆだねられている労働契約のことです。
実働時間にかかわらず、「あらかじめ規定した時間分働いた」とみなされます。
例えば、みなし労働時間を8時間に設定した場合、実働時間が3時間でも10時間でも、8時間働いたとみなされるため、労働時間が短くても給与が減ることはありません。
労働時間の管理が労働者にゆだねられている裁量労働制は、始業・終業時刻が決められていないため、非常に自由度の高い働き方が実現します。
ただし、労働時間が長くても規定時間分の労働とみなされるため、基本的に裁量労働制に“時間外労働”という概念はありません。
つまり、どれだけ長く働いても基本的に残業代は発生しないということです。
そのため、労働者保護の観点から労働時間に関する取り決めや、適用可能な職種が限られています。
裁量労働制の対象業務・対象職種
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、それぞれ対象となる業務が異なります。
導入を検討する際は、よく確認しましょう。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、労働基準法第38条の3にもとづいた制度で、19の業務に限定されています。
厚生労働省では、
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度
厚生労働省「専門業務型裁量労働制」
と定義しています。
【対象業務】
- 新商品や新技術の研究開発または、人文科学・自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システムの分析や設計の業務
- 新聞・出版事業における記事の取材や編集業務、ラジオ含む放送番組制作のための取材や編集業務
- 衣服や室内装飾、工業製品、広告などの新たなデザインの考案業務
- 放送番組や映画などの制作事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
- コピーライターの業務
- システムコンサルタントの業務
- インテリアコーディネーターの業務
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 証券アナリストの業務
- 金融工学などの知識を用いる金融商品の開発の業務
- 大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士(一級・二級建築士および木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、労働基準法第38条の4にもとづいた制度です。
事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、企画や立案、調査、分析を行う労働者が対象となります。
【対象業務】
以下4つの条件にすべて該当する業務が対象です。
- 事業の運営に関する事項(対象事業場の属する企業・対象事業場にかかわる事業の運営に影響を及ぼす事項) についての業務であること
- 企画・立案・調査・分析の業務であること
- 業務の性質に照らし合わせて、遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること
- 当該業務の遂行の手段や時間配分の決定などに関して、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
経営企画や営業企画、人事・労務、財務・経理などが挙げられます。
ただし、対象となるのは企画・立案・調査・分析に関する業務なので、データ入力や給与計算処理のような業務は対象になりません。
戦略立案や企画立案のような高度な業務が対象です。
また、企画業務型裁量労働制を適用するには、事業場や労働者の条件も満たす必要があります。
【対象事業場】
対象業務の存在する以下の事業場で導入できます。
- 本社や本店である事業場
- 当該事業場の属する企業などにかかわる事業運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場
- 本社や本店である事業場の具体的な指示を受けることなく、独自に当該事業場にかかわる事業運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社や支店などがある事業場
【対象労働者】
以下すべてに該当している労働者が対象です。
- 対象業務を適切に遂行するための知識や経験などを有する労働者
- 対象業務に常態として従事している労働者
参考:東京労働局・労働基準監督署「「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために」
:比較表
2種類の裁量労働制を表にまとめましたので、参考としてご活用ください。
専門業務型裁量労働制度 | 企画業務型裁量労働制 | |
---|---|---|
概要 | 業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務 | 事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、企画や立案、調査、分析を行う業務 |
対象業務・職種 |
1.新商品・新技術の研究開発人文科学・自然科学に関する研究 2.情報処理システムの分析や設計 3.新聞・出版事業における記事の取材や編集業務、ラジオ含む放送番組制作のための取材や編集 4.衣服や室内装飾、工業製品、広告などの新たなデザインの考案 5.放送番組や映画などの制作事業におけるプロデューサーまたはディレクター 6.コピーライター 7.システムコンサルタント 8.インテリアコーディネーター 9.ゲーム用ソフトウェアの創作 10.証券アナリスト 11.金融商品の開発 12.大学における教授研究の業務 13.公認会計士 14.弁護士 15.建築士(一級・二級建築士および木造建築士) 16.不動産鑑定士 17.弁理士 18.税理士 19.中小企業診断士 |
以下すべてに該当する業務
1.事業の運営に関する業務 2.企画・立案・調査・分析の業務 3.遂行方法を大幅に労働者にゆだねる必要がある業務 4.業務遂行の手段や時間配分の決定などに関して、使用者が具体的な指示をしないこととする業務 【対象職種例】 経営企画 営業企画 人事・労務 財務・経理など (企画・立案・調査・分析を行う業務のみ対象) |
対象事業場 | 対象業務のある事業場 | 事業運営上の重要な決定が行われる事業場(本社・本店など) |
対象労働者 | 対象業務に従事する労働者 | 対象業務に従事する労働者であり、当該制度に同意したもの |
フレックスや高プロなど他の制度とは何が違う?
裁量労働制と似た制度があるため、それぞれの違いについてご紹介いたします。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は変形労働時間制の一つで、あらかじめ決められた総労働時間(所定労働時間)の範囲内で労働者が始業・終業時刻や1日の労働時間を決められる制度です。
会社が規定しているコアタイム中は就業する必要があるため、みなし労働時間の設定はありません。
そのため、所定労働時間を超えた部分に関しては残業代が発生します。
裁量労働制との違いは、
- 必ず労働していなければならない「コアタイム」が存在する
- 所定労働時間が決められている
点です。
コアタイムや所定労働時間のない裁量労働制の方が自由度は高いと言えるでしょう。
高度プロフェッショナル制度(高プロ)
高度プロフェッショナル制度は、一定以上の年収がある高度な専門知識を有する労働者に対して、労働時間に関する規制を対象外とする制度です。
コンサルタントや証券アナリストなど、一部の職種に限られていることから「ホワイトカラーエグゼンプション」とも呼ばれています。
労働の質や成果によって報酬が決まる点は共通していますが、高プロには労働基準法が適用されません。
よって、裁量労働制との違いは、
- 一定の年収要件を満たす必要がある
- 休日・休憩の規制がない
- 休日・深夜の割増賃がない
です。
勘違いされることも多いですが、裁量労働制は労働基準法の適用範囲内での運用となるため、休日や深夜労働が発生すれば、割増賃金を支払わなくてはなりません。
事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、在宅勤務や直行直帰の営業など、事業場以外で労働する職種に適用されるみなし労働時間制の一つです。
使用者の指揮監督が及ばず、労働時間の算出が困難な場合、所定労働時間働いたとみなします。
みなし労働時間を設定する点は共通していますが、
- 事業場以外で労働する職種に適用される
- 指揮監督が及ばず、労働時間の算出が困難な場合に適用される
といった点が異なります。
ただし、通信機器が発達した現代では、指揮監督が及ばず労働時間の把握が困難なケースは少ないので、認定されるのは稀です。
みなし残業制(固定残業制度)
みなし残業制は、実際の残業時間に関係なく「一定時間分残業した」とみなす制度です。
残業時間ゼロもしくは少なくても規定の残業代を支給し、設定したみなし時間を超過した場合はその分の残業代を支払う必要があります。
裁量労働制との違いは、裁量労働制の働いたとみなす対象が“労働時間”であるのに対し、みなし残業制が“残業時間”を対象としている点です。
裁量労働制導入のメリット
裁量労働制を導入するとどういったメリットを得られるのでしょうか。
ここでは、企業側と従業員側それぞれのメリットについてご紹介いたします。
企業側のメリット
人件費を予測しやすい
休日・深夜の割増賃金は発生しますが、裁量労働制は原則として時間外労働による残業代が発生しません。
人件費は企業運営の中でも大きな割合を占めるコストです。
人件費の予測値が早い段階で算出できれば、運営もしやすくなるでしょう。
労務管理の負担が軽減できる
給与計算では、各従業員の労働時間や給与テーブルに加え、法定内や法定外、休日、深夜といった残業の種類も把握しなくてはなりません。
システム化していない企業の場合、これらの情報を集めて一人ひとりの給与計算処理をするのは非常に手間がかかります。
システム化していても、労務管理担当者にかかる負担はそれなりに大きいでしょう。
裁量労働制を導入すれば、休日・深夜といった一部を除き、原則として時間外労働による残業代は発生しません。
給与計算処理の大幅な工数削減につながるため、負担を軽減できます。
採用活動で他社との差別化が図れる
自由度の高い働き方ができる裁量労働制は、実力のある優秀な人材への訴求力が高いです。
国内で裁量労働制を導入している企業はあまり多くないため、他社との差別化を図れます。
積極的にアピールすれば、優秀人材の確保に役立つでしょう。
従業員側のメリット
労働時間の短縮
業務効率化や処理能力を向上させ、所定労働時間よりも短い時間で成果を上げたり、仕事を終わらせたりすることができれば、労働時間を短縮できます。
裁量労働制は、仕事の進め方や労働時間が労働者の裁量にゆだねられるため、労働時間が短くなっても給与が減ることはありません。
自由度の高い働き方ができる
裁量労働制は仕事のやり方や労働時間の管理を労働者自身が決めるため、自由度が高いです。
仕事を調整できれば、通勤ラッシュを避けた時差出勤や子どもの行事に参加することもできるため、ワークライフバランスも実現しやすくなります。
自分の都合に合わせて働ける点は労働者にとって大きなメリットと言えるでしょう。
裁量労働制導入のデメリット
裁量労働制の導入は、企業と労働者の双方に大きなメリットをもたらしますが、デメリットも存在します。
デメリットも把握した上で導入を検討しましょう。
企業側のデメリット
導入手続きの煩雑さ
裁量労働制の対象業務は限られていますし、導入するには所定の手続きを行う必要があります。
具体的には、
- 制度の対象業務かどうかを確認
- 書類の作成・提出
- 労使委員会の設置・決議
- 所轄労働基準監督署への届出
といった手続きが必要なため、煩雑さが大きなデメリットです。
労働管理が難しくなる
裁量労働制は従業員にゆだねる裁量が大きいため、労働管理が難しくなります。
就業時間が指定できないので、ミーティングなどの設定が難しくなることもあるでしょう。
また、設定したみなし時間を超過するような仕事を振ると、長時間労働の常態化につながりますし、トラブルの原因になるため注意が必要です。
従業員側のデメリット
残業代が出ない
裁量労働制の場合、基本的に休日や深夜以外の時間外労働に関する残業代は出ません。
みなし労働時間以上に働いている労働者にとって、残業代が出ないことは大きなデメリットとなるでしょう。
不満が蓄積すると離職につながるため、業務量と能力のバランスを見て、適切なみなし労働時間を設定することが重要です。
長時間労働の常態化
裁量労働は実働時間に関係なく、一定時間働いたとみなされる制度です。
成果さえ出せば労働時間を短縮できる反面、業務遂行に時間がかかったり、業務が立て込んだりする状態が続くと、長時間労働の常態化が発生することもあります。
長時間労働の常態化により、心身の健康を損ねてしまう労働者もいるため、仕事の振り方には注意が必要です。
裁量労働制の導入フロー
では、裁量労働制を導入するにはどういった手順を踏めば良いのでしょうか。
「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つに分けて、それぞれの導入フローをご紹介いたします。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、
- 対象業務の確認
- 労使協定の締結
- 就業規則の変更
- 労働基準監督署長への届出
- 雇用契約書の更新
の流れで進めていきます。
ステップ1.対象業務の確認
専門業務型裁量労働制の対象業務は法令で定められているため、社内に適用できる業務があるかどうかを確認する必要があります。
対象業務がある場合、業務遂行の手段や方法、時間配分を従業員の裁量にゆだねても問題ないかを確認します。
ステップ2.労使協定の締結
従業員の過半数で組織する労働組合または、従業員を代表する者と十分協議した上で労使協定を締結し、従業員に周知します。
労使協定では、
- 制度の対象業務
- 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分などに関して労働者に具体的な指示をしないこと
- 労働時間としてみなす時間
- 対象従業員の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的な内容
- 対象従業員からの苦情処理のために実施する措置の具体的な内容
- 労使協定の有効期間(3年以内が望ましい)
- 上記の4および5に関して、労働者ごとに講じた措置の記録を6の期間およびその期間満了後3年間保存すること
を定めます。
また、当該制度の対象従業員とそれ以外の従業員とで、時間外労働や休憩時間、休日労働、深夜労働に関する内容が異なる場合、労使協定で規定しておいた方が良いでしょう。
ステップ3.就業規則の変更
労使協定を締結したら、就業規則の変更です。
当該制度の対象従業員には、就業時間のルールが適用されないため、就業規則に専門業務型裁量労働制に関するルールを追加する必要があります。
トラブル防止のためにも、しっかりと整備しておきましょう。
具体的には、
- 労使協定の締結により、専門業務型裁量労働を命じることがあること
- 専門業務型裁量労働制の対象者は、始業・終業時刻の定めに例外があること
- 専門業務型裁量労働制の対象者は、休憩時間の定めに例外があること
- 休日・深夜の労働を行う場合は、事前申請が必要であること
などです。就業規則を変更したら必ず従業員に周知しましょう。
ステップ4.労働基準監督署長への届出
労使協定の締結と就業規則の変更が完了したら、「専門業務型裁量労働制に関する協定届(様式第13)」と就業規則を所轄の労働基準監督署庁へ届け出ます。
窓口もしくは郵送での提出が可能です。
協定届の書き方は、「専門業務型裁量労働制に関する協定届(様式第13)記入例」をご覧ください。
ステップ5.雇用契約書の更新
最後は、当該制度の対象従業員との雇用契約の結び直しです。
「始業・終業時間」や「所定時間を超える労働の有無」に関する事項に裁量労働制を追加し、労使協定で定めた内容を記載します。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、
- 対象業務・事業場・労働者の確認
- 労使委員会の設置
- 労使委員会での決議
- 就業規則の変更
- 労働基準監督署長への届出
- 対象労働者の同意
- 制度実施にともなう手続き
の流れで進めていきます。
ステップ1.対象業務・事業場・労働者の確認
企画業務型裁量労働制を導入できるのは、「事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務」のみです。
事業場や労働者についても対象者が限られているため、これに合致しない場合は制度を適用できません。
企画業務型裁量労働制の業務は、専門業務以上に判断が難しいです。
導入しても「条件を満たしていない」と判断されれば無効になることもあるため、無理に自分たちで判断しようとせず、労働基準監督署や社会保険労務士などに確認しましょう。
ステップ2.労使委員会の設置
企画業務型裁量労働制の適用要件を満たしているか確認したら、「労使委員会」を設置します。
労使委員会は、
- 委員の半数については、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者に任期を定めて指名されていること
- 当該委員会の議事を議事録として作成、保存し、当該事業場の労働者に周知されていること
といった要件を満たす必要があります。
委員会の総数や任期に関する定めはありませんが、労使1名ずつで構成される委員会は認められていません。
ステップ3.労使委員会での決議
企画業務型裁量労働制導入にあたり、
- 対象業務の具体的な範囲
- 対象労働者の具体的な範囲
- 労働時間としてみなす時間
- 対象労働者の健康・福祉を確保する具体的措置と措置を実施する旨
- 対象労働者からの苦情処理に関する具体的措置と措置を実施する旨
- 対象労働者の同意の取得・不同意者の不利益取り扱いの禁止
- 決議の有効期間(3年以内が望ましい)
- 制度実施状況に関する労働者ごとの記録保存(決議の有効期間中および満了後3年間)
について、労使委員の5分の4以上の多数による決議が必要です。
ステップ4.就業規則の変更
当該制度を導入する際は、就業規則も変更する必要があります。
企画業務型裁量労働制は、絶対的必要記載事項である労働時間や賃金に関することです。
従業員の生活に直結するものであるため、労使委員会で決議された内容を就業規則に規定し、従業員にもしっかりと説明・周知してください。
ステップ5.労働基準監督署長への届出
労使委員会で決議した内容を「企画業務型裁量労働制に関する決議届(様式第13号の2)」に記載し、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
就業規則の変更についても労働基準監督署への届け出が必要となるので、忘れずに行いましょう。
決議届の書き方は、厚生労働省「企画業務型裁量労働制に関する決議届(様式第13号の2)」で公開されています。
ステップ6.対象労働者の同意
当該制度を適用するには、労働基準監督署への届け出だけでなく対象労働者からの同意も必要です。
同意を得る際は、労使委員会で決議した「同意を得る手続き」にしたがって適正に行われなければなりません。
なお、同意が得られない労働者に対する不利益な取り扱いは禁止されています。
ステップ7.制度実施にともなう手続き
制度導入後は、「健康・福祉の確保措置」や「苦情処理の措置」など、労使委員会で決議された措置を講じる必要があります。
また、制度実施中は、労使委員会で決議が行われた日から起算して6カ月以内ごとに1回、所定の様式で所轄労働基準監督署へ定期報告しなければなりません。
参考:厚生労働省「企画業務型裁量労働制」
裁量労働制で注意が必要な残業代の支払い
裁量労働制を導入すると、労働者の実働時間に関係なく「あらかじめ定めた時間分働いた」とみなされます。
残業代は一切出ないと思われがちですが、時間外労働や深夜労働、休日労働には残業代が発生します。
みなし労働時間が8時間超の場合
裁量労働制には労働基準法が適用されます。
そのため、法定労働時間である「1日8時間・週40時間」を超えるみなし労働時間を設定した場合、超過分は時間外労働となります。
例えば、みなし労働時間を1日9時間に設定した場合、1時間分は法定時間外労働となるため、残業代を支給しなければなりません。
法定時間外労働は、1時間あたりの賃金に対して25%の加算が必要です。
【計算例】
みなし労働時間9時間、1時間あたりの賃金2,000円の場合
1時間(法定時間外労働)×2,000円(1時間あたりの賃金)×1.25=2,500円
ただし、みなし労働時間を法定労働時間内に設定した場合は、実働時間が長くなっても残業代は発生しません。
深夜残業をさせた場合
労働基準法第37条により、深夜時間帯(夜22時~翌朝5時)に行われた労働には、割増賃金が適用されます。
裁量労働制で働く従業員が深夜時間帯に勤務した場合、深夜労働の時間数に対して25%の割増賃金を支払わなければなりません。
【計算例】
22:00~0:00まで深夜勤務、1時間あたりの賃金2,000円の場合
2時間(深夜労働時間数)×2,000円(1時間あたりの賃金)×1.25=5,000円
休日出勤をさせた場合
労働基準法により、労働者には週1日以上の休日を与えることが規定(法定休日)されています。
そのため、裁量労働制の労働者が法定休日に労働をした場合、法定休日での労働時間数に対して35%の割増賃金を支払う必要があります。
【計算例】
法定休日に9:00~12:00まで勤務、1時間あたりの賃金2,000円の場合
3時間(法定休日における労働時間数)×2,000円(1時間あたりの賃金)×1.35=8,100円
法定休日に深夜労働を行った場合は両方の割増賃金が発生するため、合計で60%の割増賃金を支払う必要があります。
裁量労働制でフレキシブルな働き方を実現
仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量にゆだねる裁量労働制には、始業・終業時間の定めがありません。
労働者の工夫次第では、ラッシュ時間を避けて通勤したり、所定労働時間よりも早く帰ったりすることも可能です。
フレキシブルな働き方ができるため、ワークライフバランスも実現しやすくなるでしょう。
ただし、長時間労働が常態化するケースもあるため、仕事の割り振りには十分注意が必要です。
導入後は従業員の労働状況にも注意を払いつつ、しっかりとルールを守って運用しましょう。
本記事で取り扱う「裁量労働制」については所管する省庁である厚生労働省の情報も併せてご確認ください。
▼厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/index.html