定年後の雇用を一定期間保証する「継続雇用制度」をご存じでしょうか。

 

年金受給開始年齢が65歳まで引き上げられたことは記憶に新しいですが、60歳で定年を迎える場合、年金受け取りまで無給で過ごさなくてはいけなくなってしまいます。

 

そんな高年齢者の雇用を促進して生活を守る措置として「継続雇用制度」があるのです。

 

高年齢者を雇い続ける制度のため「負担が大きい」と感じる人もいると思いますが、このような措置を講じると助成金が出るため、企業は負担を軽減することができます。

 

今回は「継続雇用制度」について、詳しく解説していきます。

 

継続雇用制度導入時のポイント、高年齢者の雇用で事業主が受けられる助成金についてもご紹介していますので、ぜひご覧ください。

 

継続雇用制度とは?

継続雇用制度とは、年金受給年齢の引き上げと同時に高年齢者の雇用を確保するために作られた制度の一つで、本人の希望があった場合、定年を迎えた高年齢者を定年後も引き続き雇用する制度を言います。

 

定年を65歳未満に設定している企業は、年金受給開始となる65歳までの安定した雇用を確保するために、下記いずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じることが義務付けられています。

 

(高年齢者雇用安定法 第9条)

1)65歳以上の定年年齢引き上げ

2)継続雇用制度の導入

3)定年制の廃止

厚生労働省の平成29年「高年齢者の雇用状況」集計結果によると、高年齢者雇用確保措置の内、約8割の企業が「2)継続雇用制度の導入」を選択しています。

 

再雇用制度と勤務延長制度

継続雇用制度は雇用時の対応の違いにより、「再雇用制度」と「勤務延長制度」の2種類に分けられます。

 

これらにはどのような違いがあるのか見ていきましょう。

 

【再雇用制度と勤務延長制度の違い】

? 再雇用制度 勤務延長制度
定年年齢時の対応 一旦退職、再雇用 そのまま雇用
雇用形態

変わる(嘱託・契約社員・パート・アルバイトなど)

変わらない(正社員)

退職金支払い 退職時に支払い

勤務延長期間終了時に支払い

?

再雇用制度…定年年齢に達した従業員は一旦退職し、その後再び雇用すること

勤務延長制度…定年年齢に達しても、退職させずにそのまま雇用すること

再雇用制度と勤務延長制度の違いは、定年年齢に達した時の対応です。

 

再雇用制度では一旦退職させるため雇用形態が変わるのに対し、勤務延長制度は雇用し続けるため、業務内容や賃金水準などの労働条件は原則として変わりません。

 

雇用形態を変更できる再雇用制度は、給与条件なども変えられるため、企業にとって負担が少ない方法と言えますね。 

 

継続雇用制度の対象者

継続雇用制度は、定年時の対応により再雇用制度と勤務延長制度に分かれることを説明してきました。

 

ここでは、継続雇用制度の対象となる人や経過措置、無期転換ルールについてご紹介します。

 

年金の受給開始年齢が65歳までに引き上げられたことで、高年齢者が働き続けられる環境整備を目的として平成25年4月1日に「高年齢者雇用安定法*」の一部が改正されました。

 

これにより、継続雇用制度の対象者が「労使協定で定めた人(対象者を限定)」ではなく、「定年後も働きたいと希望する人全員」に変更されています。

 

65歳未満の定年制で、対象者を限定する旨が就業規則に書かれたままの場合、違反とみなされてしまう可能性がありますので注意しましょう。

 

*高年齢者雇用安定法…高年齢者等の安定的な雇用を図るための法律

 

継続雇用制度の経過措置

年金受給開始年齢の引き上げに伴い、平成25年4月1日から改正高年齢者雇用安定法が施行されました。

 

この改正法は、年金受給の空白期間を解消する措置であるため、希望者全員を継続雇用制度の対象とすることが義務化されています。

 

ただし、改正前(平成25年3月31日)に労使協定で継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けていた場合、厚生年金(報酬比例部分)を受給可能な年齢に達した人は以前の基準を引き続き利用できる「経過措置」が認められているのです。

 

厚生労働省は、厚生年金(報酬比例部分)の支給開始に沿って段階的な引き上げを行い、令和7年4月1日以降に65歳までの雇用確保を求めています。

 

【老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢】

  1. 平成25年4月1日から平成28年3月31日まで61歳以上の人に対して

  2. 平成28年4月1日から平成31年3月31日まで62歳以上の人に対して

  3. 平成31年4月1日から令和4年3月31日まで63歳以上の人に対して

  4. 令和4年4月1日から令和7年3月31日まで64歳以上の人に対して

 

引用:厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A

 

なお、就業規則に定める解雇・退職事由に該当する場合は継続雇用しないことも可能です。

 

無期転換ルールについて

継続雇用制度の対象者は「期間の定めのない雇用(無期労働契約)」のみです。

 

通常、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトなどの有期労働契約者は対象外ですが、「無期転換ルール」によって継続雇用制度の対象になる可能性があります。

 

そもそも無期転換ルールとは、有期労働契約が更新されて通算5年を超えた時は労働者の申し込みにより、無期労働契約へ転換できるというものです。(労働契約法 第18条)

 

引用:厚生労働者「無期転換ルール

 

この5年のカウントは、平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約が対象となります。

 

ただし、有期雇用特別措置法により、下記の場合は「無期転換申込権が発生しない」とする特例が設けられています。

 

【継続雇用の高齢者の特例】

適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主の下で、定年に達した後、引き続いて雇用される有期雇用労働者(継続雇用の高齢者)

引用:厚生労働省「無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例について

 

※特例の適用に当たり、事業主は本社・本店を管轄する都道府県労働局に認定申請を行う必要があります。

 

継続雇用制度適用時の賃金と導入のポイント

継続雇用制度を導入する場合、賃金や勤務時間などの労働条件を見直す必要が出てくる場合があります。

 

継続雇用制度適用時の賃金と導入ポイントを見ていきましょう。

 

継続雇用制度適用時の賃金について

企業がどちらの継続雇用制度を適用するかによって、賃金の決め方は変わってきます。

 

再雇用制度を適用している場合は雇用形態が変わるため、定年時の賃金よりも引き下げているケースが多いです。

 

平成25年3月の東京都産業労働局「高年齢者の継続雇用に関する実態調査」によると、継続雇用者の賃金水準は定年時と比較して「5~6割未満」が23.3%、「6~7割未満」が22.6%という結果が出ています。

 

雇用形態が変わる再雇用制度では、賃金引き下げの傾向が顕著に表れると言えますね。

 

ただし、無期雇用労働者と有期雇用労働者との不合理な待遇差をなくす「パートタイム・有期雇用労働法」が令和2年4月1日(中小企業は令和3年4月1日)から施行されます。

 

これにより、賃金などのあらゆる待遇について不合理な差を設けることが禁止されます。

 

賃金を引き下げる場合は、短時間勤務などの労働時間短縮や、仕事内容の変更を行う必要があるでしょう。

 

勤務延長制度を適用する場合は、労働条件が変わらないため賃金引き下げは難しいです。

 

参考:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法が施行されます

 

継続雇用制度導入に必要な準備

定年年齢が65歳未満の企業は、定年年齢の引き上げや継続雇用制度導入などの措置を講じなくてはなりません。

 

では、継続雇用制度を導入する場合に必要な準備やポイントについてみていきましょう。

 

定年制度の確認をする

継続雇用制度導入には、定年制度の有無や定年の年齢を把握しておく必要があります。

 

退職については自社の就業規則を確認しましょう。

 

定年規定のない企業や定年年齢が65歳以上の企業は、既に高年齢者雇用確保措置を講じているため、特に変更は必要ありません。

 

就業規則へ記載する

継続雇用制度を導入する場合、就業規則への記載が必要です。

 

定年を65歳未満に設定しており、継続雇用制度を導入する企業は就業規則を変更しましょう。

 

引用:「65歳までの「高年齢者雇用確保措置」

 

記載例を参考に労使で十分に協議した上で、企業の実情に応じたものになるよう決めてください。

 

就業規則の作成や変更は、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見書を添え、所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出る必要があります。

※常時雇用する労働者が10人未満の事業所除く

 

また、労働基準監督署へ届け出る際は下記の書類が必要となります。

  1. 就業規則変更届

  2. 意見書

  3. 就業規則の変更部分

 

従業員への周知徹底する

労働基準法第106条により、就業規則の周知は義務化されています。

 

訴訟などの問題が発生した際、従業員への周知を徹底していないと、企業の主張や判断が「無効」とされる可能性があります。

 

トラブル回避のためにも、就業規則を変更した際は必ず従業員へ周知徹底し、齟齬がないよう努めましょう。

 

継続雇用制度の助成金活用で負担を軽減!

高年齢者の雇用を確保するため、厚生労働省は「65歳超雇用推進助成金」という制度を用意しています。

 

ここでは、「65歳超雇用推進助成金」の3つのコースについてご紹介します。

 

65歳超継続雇用促進コース

下記のいずれかを就業規則に導入した事業主が対象となる助成金です。

1)65歳以上への定年年齢の引き上げ

2)定年性の廃止

3)希望者全員を66歳以上の年齢まで雇用する継続雇用制度の導入

受給額は、対象被保険者数や引き上げる定年年齢によって変わります。

 

「雇用保険に加入している」「制度を規定した際に経費を要している」などの受給要件を満たす必要があるので、対象となるのかきちんと確認しましょう。

 

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

高年齢者が働きやすいように、職務に応じた賃金・人事処遇制度などの雇用管理制度の整備や導入を実施した事業主が対象となる助成金です。

 

高年齢者のための雇用管理制度の整備等のため、次の取組に係る「雇用管理整備計画」を作成・提出し、認定を受けるなどの受給要件を満たす必要があります。

 

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期労働契約者を無期労働契約に転換させた事業主が対象となる助成金です。

 

対象労働者一人につき、中小企業は48万円、大企業は38万円が支給されます。

 

無期雇用転換計画書を作成・提出し、認定を受けるなどの受給要件を満たす必要があります。

 

※ご紹介した65歳超雇用促進助成金の詳細については、厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」のご案内をご確認ください。

 

継続雇用制度を正しく理解しよう

継続雇用制度は企業が高年齢者の生活を守る制度の一つです。

 

高年齢者を継続して雇用する必要があるため企業の負担が大きいと感じている人も多いですが、助成金も用意されていて導入へのハードルも下がっています。

 

助成金を活用して負担を軽減できるよう、ご紹介した受給要件をしっかり確認しましょう。

 

継続雇用制度について理解を深め、自社に適した方法で導入してくださいね。

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