「セルフ・キャリアドック」をご存知ですか。

 

人口減少が深刻化している日本では、労働者一人ひとりの能力を向上させ、生産性を高める必要性が増しています。

 

セルフ・キャリアドック制度は、従業員の自律したキャリア形成を支援し、能力開発の効果もあることから注目されているのです。

 

この記事では、セルフ・キャリアドックについて、注目されている背景、導入することで得られる効果、導入することで得られる助成金についてご紹介していきます。

 

セルフ・キャリアドック(制度)とは?

セルフ・キャリアドック制度とは、従業員のキャリア形成の促進・支援を目的とした仕組みです。

 

キャリアコンサルタントから、従業員にキャリアコンサルティング(従業員の課題解決支援)やキャリア研修などを定期的に受けさせることで、自身の仕事やキャリアを見直す機会を設ける取り組みのことを言います。

 

従業員自身が自分の仕事や将来の目標について考えることで、自律したキャリアを形成しましょうということですね。

 

キャリアコンサルティングの流れ

キャリアコンサルティングは、自分自身と仕事についての理解を深めて強みを引き出し、課題や将来取り組みたいこと、働き方などを整理してキャリア形成できるよう支援を行っています。

 

一般的なキャリアコンサルティングの内容と流れは下記の通りです。

①自分自身について理解させる

②仕事やキャリア・ルートについての理解させる

③意思決定前に体験してもらう

④意思決定(キャリアプランを作成する)

⑤キャリア・プラン基づいて実際に取り組む

 

①自分自身について理解させる

職業経験の棚卸、適性や能力の明確化などを行う

 

②仕事やキャリア・ルートについての理解させる

職務を遂行するのに必要な能力、キャリア・ルートの情報を提供する

 

③意思決定前に体験してもらう

啓発的体験(ジョブローテーションなど)に必要な情報提供などを行う

 

④意思決定(キャリアプランを作成する)

目標設定やキャリア・プラン作成の支援などを行う

 

⑤キャリア・プラン基づいて実際に取り組む

仕事や能力開発の進捗状況把握、必要な情報提供などを行う

 

人事異動・職場復帰といった節目や、決まった月に実施するなど、定期的かつ継続的に行いましょう。

 

なぜセルフ・キャリアドックが注目されるのか

セルフ・キャリアドックが注目されている背景として、「人口減少による採用難」と「改正職業能力開発促進法」の影響が挙げられます。

 

人口減少による採用難

少子高齢化による労働力減少の影響で、求職者よりも求人募集数の方が多い「売り手市場」が続いています。

 

さらに、働き方改革の影響で価値観が多様化し、転職をする人も増えました。

 

厳しい採用事情と人材の流動化によって、企業はより一層人員確保の施策に注力する必要が出てきたのです。

 

セルフ・キャリアドックは従業員一人ひとりが主体的に学ぶ支援をするため、能力開発やモチベーション向上による定着率アップに繋がります。

 

また、「積極的にキャリア支援を行う企業」という採用ブランディングにもなることから、注目されているのです。

 

改正職業能力開発促進法

2016年4月に施行された「改正職業能力開発促進法」の影響も大きいでしょう。

 

改正職業能力開発促進法では、下記のような内容が規定されています。

  1. 労働者は職業生活の設計とそのための能力開発を自発的に行うこと

  2. 組織はキャリアコンサルティングの機会を確保し、その他の援助をすること

キャリアの自律と従業員自身がキャリア形成を行う重要性を説いたものであり、これを実現するための仕組みが「セルフ・キャリアドック」にあたります。

 

労働者一人ひとりの能力を向上させ、生産性上げるために、セルフ・キャリアドックの普及、推進を図っているのです。

 

参考:e-Gov「職業能力開発促進法

 

セルフ・キャリアドックの導入効果

厚生労働省はセルフ・キャリアドックの導入によって、様々な効果が得られると提言しています。

 

ここでは、セルフ・キャリアドック導入で得られる効果をご紹介します。

 

従業員の主体性向上と定着率アップ

キャリアコンサルティングを受けると、自分自身や仕事について理解が深まり、キャリアパスをイメージしやすくなります。

 

これらを理解することで「職務遂行に必要な能力」や「目標とするキャリア」、「キャリアを実現するための具体的な行動」などが明確化されます。

 

そのため、目標を実現しようと主体的に取り組むようになり、従業員の主体性が向上するのです。

 

また、このような明確かつ具体的なキャリア・プランは、従業員のモチベーションアップにも役立つため、定着率アップも期待できるでしょう。

 

育児・介護休業者の復帰率アップ

育児や介護などで休業している従業員は、職場復帰に大きな不安や課題を抱えています。

 

キャリアコンサルティングでは、復帰者に対して仕事と家庭の両立に関する不安解消や課題解決支援、職場復帰プランの作成を行っています。

 

節目となるタイミングにキャリアコンサルティングを受けさせることで、職場復帰をサポートできるため、復帰率アップに繋がるのです。

 

生産性向上

従業員の主体性やモチベーションの向上、定着率がアップすると、結果的に組織力が強化されて生産性向上に繋がります。

 

採用ブランディングとしての効果

先述したように、採用市場は少子高齢化による影響で売り手市場が続いています。

 

少ない求職者の中から優秀な人材を獲得するには、「積極的なキャリア支援で、従業員を大切にしている企業」という印象を与える必要があります。

 

従業員のキャリアを支援するセルフ・キャリアドックは、採用ブランディングとしての効果もあるため、採用競合と比較された際、有利に働く可能性があるのです。

 

助成金で費用負担を軽減できる

セルフ・キャリアドック制度の導入や、キャリアコンサルティングの実施は、国から助成金が出るため費用の負担を軽減することができます。

 

参考:厚生省「人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル

 

セルフ・キャリアドックの導入でもらえる助成金について

セルフ・キャリアドック制度の導入で得られる助成金の種類は、人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)の「キャリア形成支援制度導入コース」です。

 

キャリア形成支援制度導入コース

労働者に「ジョブ・カード」を活用したキャリアコンサルタントによる、定期的なキャリアコンサルティングを実施するものが対象となります。

 

ジョブ・カード

「生涯を通じたキャリアプランニング」や「職業能力証明」としてのツールです。

 

職歴や資格などの様々な情報を記載し、それをもとにキャリアコンサルティング等の支援を受けます。

 

助成対象の労働者

対象となる労働者は正社員であり、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトは対象外です。

 

雇用保険法第4条に規定する被保険者のうち、以下の者を除いた者。

 

・有期契約労働者

(期間の定めのある労働契約を締結する労働者)

 

・短期時間労働者

(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)第2条に規定)

 

・派遣労働者

(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条に規定)

 

引用:厚生労働省「人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル

 

助成額

助成額は下記の通りです。

 

 

引用:厚生労働省「人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル

 

生産性要件

受け取れる助成金を増額させるには、下記の方法で計算した生産性要件を満たす必要があります。

 

○助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、

①その3年度前に比べて6%以上伸びていること または、

②その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること

 

○ 「生産性」は次の計算式によって計算します。

(生産性=付加価値)/雇用保険被保険者数

 

なお、生産性の算定要素である「人件費」について、「従業員給与」のみを算定することとし、役員報酬等は含めないこととしています。

 

また、「生産性要件」の算定の対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないことが必要です。

 

一部引用:厚生労働省「人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル

 

厚生労働省ホームページ上に「生産性要件算定シート」が掲載されていますので、気になる方はご利用ください。

 

適用人数

導入・適用計画届を提出する際は、下記の「企業全体が雇用する被保険者数」に応じた「最低適用人数」以上に導入する必要があります。

 

引用:厚生労働省「人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル

 

セルフ・キャリアドックの導入方法

セルフ・キャリアドック制度の導入で助成金を受け取るには、所定の方法に従う必要があります。

 

セルフ・キャリアドック制度の作成

セルフ・キャリアドック制度は定期的に行う必要があります。

 

継続的な取り組みであることを明確にさせるため、就業規則や労働協約にセルフ・キャリアドック制度の実施について定めてください。

 

キャリアコンサルタントと相談しながら、自社に沿った制度を作成しましょう。

 

セルフ・キャリアドック実施計画書

どのようにキャリアコンサルタンティングを実施するか相談した上で、対象者や設定した節目など導入内容を「セルフ・キャリアドック実施計画書」に記入します。

 

制度導入・適用計画届の提出

セルフ・キャリアドック制度を盛り込んだ制度導入・適用計画届を、主たる事業所管轄の労働局に提出し、労働局長から認定をもらいます。

 

提出期間は、制度導入・適用計画期間の初日の前日から起算して、6ヶ月前~1ヶ月前までです。

 

制度の導入

労働局長の認可した制度導入・適用計画に基づいて、導入する制度を就業規則や労働協約に定めます。

 

制度を定めたら、就業規則や労働協約、セルフ・キャリアドック実施計画書を労働者へ周知してください。

 

制度の適用

従業員に職務経歴や免許・資格、学習歴・訓練歴といった履歴と、それを踏まえて仕事や能力開発に向けた目標などをジョブ・カードに記入してもらいます。

 

従業員が記入したジョブ・カードを用いて、キャリアコンサルティングを実施し、キャリアコンサルタントが助言内容などをジョブ・カードへ記載します。

 

支給申請書の提出

キャリアコンサルティングを実施したら、管轄する労働局へ助成金の支給申請書を提出しましょう。

 

提出期間は、最低適用人数を満たす者の制度の適用日翌日から起算して、6ヶ月間経過した日~2ヶ月以内です。

 

参考:厚生労働省「人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル

 

セルフ・キャリアドックを活用して生産性を向上させよう

セルフ・キャリアドックは、キャリアコンサルティングの資格を持つプロによる課題解決支援を受けられるため、従業員の主体性やモチベーション向上に期待できます。

 

また、キャリアパスが明確になることで従業員の定着率もアップするため、結果的に組織全体の生産性向上に繋がるなど、企業にとって大きな効果を得られます。

 

人材育成をしたいとお考えの企業は、助成金も受けられるセルフ・キャリアドックの導入をご検討されてみてはいかがでしょうか。

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