過労によるうつ病の発症や自殺などが社会問題として取り沙汰され、「ストレス社会」という言葉も出ている今、メンタル=精神に不調を訴える労働者が増え続けています。
今回はそうした労働者の精神をケアする「メンタルヘルス対応」について言及し、従業員がストレスをため込まない職場づくりについて考えていきます。
メンタルヘルスとは
「精神的健康、心の健康、精神衛生」などと言われることもあるメンタルヘルスは、主にストレスなどの精神的疲労を緩和するサポートや、精神障がいの予防と回復を目的とする施策に対して使われる言葉です。
労働者健康状況調査によると、労働者の実に5~6割が「職場で毎日ストレスを感じている」と回答しており、メンタルヘルスの重要性は日に日に高まっていると言えます。
厚生労働省が1万7,200名(有効回答数1万203名)の労働者を対象に行った調査では、メンタルの不調を招く原因として「仕事の質・量」が最も多く挙げられました。
その他にも「職場での対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」「仕事での失敗や責任の発生等」などが挙がっており、メンタル不調の原因が一様ではないことがわかっています。
こうした状況があっても、実際の人事の現場からは「具体的にどういう対策をすればわからない」という声が聞こえてきています。
そこで次項からは、具体的なメンタルヘルス対応をご紹介します。
人事が対応すべきこと(1) 早期発見と対応
メンタルの不調は一般的な傷病と違い、外見からはなかなか判断しづらいものです。
そのため、従業員の言動や行動などを判断材料として、早期段階で不調に気づいてあげることが重要になります。
従業員の変化に最も気づきやすいのは現場の上司や同僚です。
普段の仕事ぶりや勤怠に変化が見られたら、部署の管理監督者(部長や課長など)が率先して、該当する従業員との対話や検診を促すようにしましょう。
現場でのケアが難しい場合は、人事担当者が現場社員からのヒアリングや勤怠データの確認を経て、従業員の変調に目を配りましょう。
厚生労働省が発行している『労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)』は、「いつもと違う部下の様子」として下記のような特徴を挙げています。
・遅刻、早退、欠勤が増える
・休みの連絡がない(無断欠勤がある)
・仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
・不自然な言動が目立つ
・服装が乱れたり衣服が不潔であったりする
など
上記に該当する変調が見られたときは、直接従業員にコンタクトを取る、もしくは監督者に注意を促すのがベストです。
人事が対応すべきこと(2) 職場復帰の支援
実際にメンタルの不調が原因で健康を害し、配置転換や降格による改善も見られないときは、治療のための休職や休職後の職場復帰支援、再発予防策を考えなければなりません。
休職を促す際は素人判断をせず、必ず医師の判断を仰ぐようにしましょう。
突然の休職にも対応できるよう、人事担当の方は社内外の保険スタッフやカウンセラー、産業医と連携し、問題に素早く対処できる体制を構築しておくことをおすすめします。
厚生労働省は「職場復帰支援の手引き」として、五つのステップを公開していますので、参考にしてください。
第一ステップ…病気就業開始、休業中のケア
第二ステップ…主治医による職場復帰可能の判断
第三ステップ…職場復帰可否の判断、職場復帰支援プランの作成
第四ステップ…最終的な職場復帰の決定
第五ステップ…職場復帰後のフォローアップ
休職した従業員は「ちゃんと復帰できるのだろうか」という不安を抱えています。
特に、真面目な従業員ほど復帰を焦り、復職してもすぐに体調を崩してしまうケースも見受けられます。
療養は慌てずじっくりと行い、復帰後しばらくの間は煩雑な仕事や責任の重い業務を課さないといった配慮が求められます。
メンタル不調の予防策
メンタルヘルスで重要なのは、従業員にメンタルの不調が見られてから対策を講じるのではなく、そもそもストレスが発生しない環境をつくることです。
先に述べた通り、仕事環境や組織形態、仕事方法など、ストレスの原因となる要素は人それぞれです。
まずは原因になりそうな職場環境の問題点を見つけ、できることから一つひとつ地道に改善していきましょう。
特に職場の状況を把握している管理監督者は問題点の把握に努め、改善に向けた対策をリードする立場にあります。
メンタルヘルスの基礎知識をしっかり持ち、従業員全体にストレス管理方法を周知したり、ストレスチェックを実施したりといった施策が必要になってくるでしょう。
「うちの会社は××だから」「この仕事は△△だから」といった型にはめる言葉を使わないことや、人事考課の目的を見つめ直し、明確な評価基準を構築するといった普段からの心がけや新たな仕組みづくりも重要です。
働きやすい雰囲気づくりや個々のパフォーマンスが充分に発揮される環境づくりこそ、メンタルヘルス対応の予防策として最も注力すべきポイントなのです。
まとめ
ここまでご紹介してきたメンタルヘルス対応は、大きく分けて三つの段階に分けられます。
一次予防…未然防止および健康増進
二次予防…早期発見と対処
三次予防…治療と職場復帰・再発予防
これらに法的義務はありませんが、従業員の健康悪化や自殺という結果を予見できていたにもかかわらず、会社がそれを放置していた場合は「安全配慮義務」を問われることになりますので注意しましょう。
職場のストレスが原因で従業員が精神を病み、休職や自殺に追い込まれることは避けなければなりません。
労務問題のリスクヘッジという意味でもメンタルヘルス対応を積極的に行い、従業員一人ひとりが健全に働ける環境の実現を願ってやみません。