部下や社員からいきなり退職届を出された時、みなさんはどのような対応をしていますか。
「こんな突然辞めるなんて非常識だ」「ただでさえ人が足りていないのに」「急に言われても困る…」というように色々と思うことはあると思います。
しかし、もう辞めるからといってその気持ちをそのまま退職者にぶつけてしまうのは得策ではありません。
今回は、社員から突然「退職したい」と言われた時の対応方法とポイントについて、解説していきます。
退職してしまう理由や兆候についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
そもそも会社をいきなり辞められるの? 法的な問題は?
突然「退職したい」と言われても、急に会社を辞められるのでしょうか。
法的には、2週間(14日)前に告知をすれば問題ありません。
労働者からの退職に関する法律は、民法627条によって以下の通り定められています。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
引用:e-Gov法令検索 民法
とはいえ、退職者が出る場合、担当業務の引き継ぎや人員補充を行わなくてはなりません。
いくら法律で「14日前までの告知でOK」とされていても、最低でも準備に1ヶ月程度は必要でしょう。
そのため、多くの企業では就業規則に「退職届は30日以上前に提出する」といった旨の項目を設けています。
突然の申し出に慌てないよう、まずはきちんと就業規則に退職届の提出に関する規定を設け、定めた内容を周知徹底しましょう。
契約社員・派遣社員のいきなり退職は原則できない
法的には、正社員やパート・アルバイトは、2週間前までの告知による退職が認められています。
しかし、雇用期間の定めがある契約社員や派遣社員の場合、原則として契約期間中の退職はできません。
ただし、民法628条により、やむを得ない事情があれば契約期間中の退職も可能です。
具体的には、
- ケガや病気、心身の障害による長期療養
- 家族の介護
- 賃金不払い
- 業務内容の法令違反
などが該当するでしょう。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
引用:e-Gov法令検索 民法
退職願と退職届の違い
社員が退職する際に提出書類として「退職願」「退職届」の2種類があります。
いずれも雇用契約を終了させるための正式な書類ですが、性質が異なりますので、違いを把握しておきましょう。
退職願とは、退職を願い出るための書類です。
本人が辞める意思を会社に伝える書類なので、会社側が却下することもあります。
一方、退職届は退職を通告するための書類です。
“退職の通告”なので退職届を出された場合、会社側は届け出を却下することはできません。
退職の流れとしては、直属の上司に退職願を提出した後、退職日を確定させてから改めて退職届を渡すのが一般的です。
ちなみに、辞表は役員などの会社とは雇用関係にない人が辞める際に提出する書類を指します。
社員はなぜ辞める?主な退職理由
社員が退職する理由についてしっかりと把握していますか。
「やりたいことをやるため」「キャリア形成のため」といったポジティブな理由であれば問題ありません。
しかし、ネガティブな理由だった場合、労働環境の見直しを検討する必要があります。
マイナビ株式会社の「転職動向調査2023年版(2022年実績)」によると、
- 給与が低い
- 職場の人間関係が悪い
- 仕事内容に不満
- 会社の将来性、安定性に不安があった
などが、退職理由として多く挙げられています。
全てではないものの、社内環境の見直しや社員同士のコミュニケーションで改善できる項目も多いです。
特に、人間関係や仕事内容については、日頃のコミュニケーションから不満の兆候を見つけられる可能性があります。
社員の退職理由を把握し、「いきなり退職届を出された」ということがないよう、職場環境の改善に努めましょう。
社員が辞めてしまう兆候11選
退職を防ぐには、辞めたいと思っている社員に退職される前に気づく必要があります。
では、辞める社員に現れる兆候にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。
愚痴や不満を言う機会が増えた
辞める人の多くが会社に対して不満を持っています。
「同僚や他の社員によく愚痴を言っている」「上司の悪口を言っているのをよく見かける」といった社員がいたら、辞めたいと思い始めている証拠かもしれません。
しかし、不満は誰しもあるものです。
本人とコミュニケーションを取り、「何を不満に思っているのか」「どう改善していくべきなのか」を話し合いましょう。
課題解決につながれば、引き留められるかもしれません。
世間話などに参加せず、1人で過ごしている
辞める社員は、「もう辞めるから今の会社の人間関係なんてどうでもいいや」と思うことが多いです。
そのため、同僚との会話に消極的になったり、1人で過ごす時間が増えたりする傾向にあります。
積極的に話しかけてコミュニケーションの輪に入れることで、会社へのエンゲージメントが高まり、退職を防げるかもしれません。
求人サイトを見ている
転職する際、多くの人は求人サイトを利用します。
仕事中に閲覧している人はあまりいないでしょうが、求人サイトを利用しているのを見かけたら退職を考えている可能性が高いです。
「何に不満を抱いているのか」「どうしたら会社に残ってくれるのか」などを聞き出せると、解決の糸口が見えてくるかもしれません。
退職の意向が固まる前なら引き留めも可能ですので、早めに話し合いましょう。
自身の業務と関係ない勉強を始めている
明らかに今の業務には必要のないことを勉強し始めていた場合、転職の準備を始めているのかもしれません。
しかし、この場合は会社への不満が必ずしも退職の理由ではない可能性もあります。
「自分のやりたいことがある」といった理由での退職は無理に引き留めず、暖かく見送ってあげた方がいい場合もあります。
コミュニケーションを取りながら、「今の会社でやりたいことが実現できないか」など、しっかり話し合ってみるといいでしょう。
髪色を黒く染めて、スーツのような恰好が増えている
身なりを整え始めた場合、すでに転職活動を行っていることが多いです。
服装まで整えているとなると、終業後に面接を受けている可能性も考えられます。すでに面接まで受けている段階だと、引き留めも難しいでしょう。
遅刻や早退が増えている
遅刻や早退が増えている場合、転職活動をしている可能性があります。
仕事への影響を考えずに転職活動をしているということは、会社に対して強い不満を持っている可能性が高いです。
ここまで不満がたまっていると、引き留めることは難しいかもしれません。
仕事中にこっそり私用の電話をしている
一概に転職活動とは言い切れませんが、その可能性は十分にあります。
また、仕事中にかかってきているということは、企業の最終選考や内定通知の連絡までいっているかもしれません。
ここまでくると引き留めるのは至難の業ですが、なぜ転職をするのかしっかりと話しておくことは必要です。
ミーティングでの発言が減った
転職活動が進んでくると、次の仕事に目が向いて今の仕事のやる気が無くなってしまいます。
そのため、会議などでも発言をしなくなる傾向があります。
特に、ミーティング中に上の空になっている場合は注意が必要です。
机を整理整頓している
机を片付け始めたら、退職の準備に取り掛かっているかもしれません。
普段、机を整理している様子なんて全くなかった人が片付け始めた場合、すぐに手を打つ必要があるでしょう。
しかし、この段階はすでに退職の意向が固まっている場合が多いため、引き留めるのは難しいかもしれません。
見ていて明らかにやる気が無くなっている
転職に気が向いていると、今の業務へのやる気が無くなってしまいます。
決められた仕事だけ終わらせて、後は転職について考えていることが多いです。
また、明らかに気が抜けている場合は、すでに転職先が決まっているかもしれません。
「有給休暇は何にどう使うか」「休暇中は何をしようか」「次の転職先ではどんな仕事をしようか」といったことで、頭がいっぱいになっているのでしょう。
引継ぎマニュアルを作っている
指示されていないのに、引継ぎマニュアルを作り始めたら、退職の準備に取り掛かっている可能性があります。
退職時に一番問題になるのが引き継ぎ業務です。
先にマニュアルを作り、残りの有給休暇をしっかりと満喫しようとしているのかもしれません。
突然の退職を防ぐには日ごろからのコミュニケーションが大事
突然の退職を防ぐためには、部下の日頃の様子に目を配り、変化に気づくことが重要です。
そのためにも、日常的なコミュニケーションが欠かせません。
仕事の状況把握はもちろん、個別に話をする時間を設けたり、日頃から話しやすい雰囲気を作ったりするよう心がけましょう。
とはいえ、上司自身が嫌われていては部下は心を開きません。
部下に嫌われない上司であるために、以下のような態度や行動を心がけましょう。
人前で叱らない
本来、叱る目的は同じ失敗を繰り返さないようにすることです。
しかし、人前で叱ると恥をかかせ、相手の自尊心を傷つけることになります。
周りの目が気になって、叱責の内容が耳に届かないかもしれません。部下を叱る際は、人目に触れない場所を選びましょう。
ミスを認める
自分のミスを認められない人は、部下からの尊敬を集められません。
また、失敗の原因を部下から探そうとする人も、嫌悪されるでしょう。
上司には、自らの非を認めるだけでなく「部下の失敗は上司の責任」という態度が求められます。
人によって態度を変えない
人間なので、どうしても合う、合わないはあるでしょう。
しかし、人によって態度を変えてしまうと「不平等だ」「人によって態度を変える上司だ」という不満を生んでしまいます。
部下に限らず、誰に対しても平等に接することを心がけましょう。
愚痴をこぼさない
上司のこぼす愚痴は、部下のモチベーションダウンに直結します。
特に、部下の悪口は厳禁です。「人の口に戸は立てられない」とはよくいったもので、必ず本人の耳に入ります。
そもそも、部下の悪口を平気で口にする人は部下から信用されるわけがありません。
ネガティブな発言ばかりしていると、「この人には何を相談しても無駄だ」と思われます。
結果、部下から何も話してもらえなくなり、業務にも影響が出る可能性があります。
辞めると言われたときの対応方法とポイント
では、実際に辞めたいと言われたときはどのように対応するのが良いのでしょうか。
対応方法について、順を追って説明していきます。
しっかりと話を聞く
社員から辞めたいと言われたとき、真っ先に引き留めたくなると思います。
しかし、引き留める前に必ず話を聞きましょう。
理由も聞かずに引き留められては、当人から身勝手な印象を持たれてしまいます。
退職の意向をより強固にしてしまう可能性があるため、「まずは話を聞く」ことから始めてください。
引き留める
相手の話を聞いた後、「それでもやはり一緒に働きたい」「残ってほしい」と思う場合は、引き留めましょう。
この際、しっかりと自分の気持ちを伝えることが大切です。
条件面の話などもあるとは思いますが、ここでは一緒に働きたいという気持ちを伝えましょう。
そのうえで、退職理由に対する解決策を提示していくことで、引き留められる可能性が出てきます。
上司と部下である以前に人と人です。
まずは気持ちを伝えあってから、「これからも一緒に働いていくにはどうしたらいいか」を一緒に考えてください。
しかし、どれだけ引き留めても辞めてしまう人は必ず出てきます。
無理に引き留めることはせず、お互いの意見を尊重した上で、納得のできる結論を出しましょう。
退職までのスケジュールを決める
引き留めができず、退職することになった場合は退職までの日取りを決めましょう。
退職日はいつにするのか、有給の取得をどうするのかなどを話し合います。
ちなみに、退職日は通常2~3か月後に設定することが多いようです。
引継ぎが中途半端になってしまわないよう、余裕を持ったスケジュールが設定できるといいでしょう。
引継ぎがうまくいかないと、退職後のトラブルの原因にもなってしまいます。
有給は拒否できない
有給の取得は労働者の権利です。
業務状況などを考慮したうえで、退職日までに残っている有給を消化できるようスケジュールを調整しましょう。
また、人員不足や繁忙期などで有給消化が難しい時は、有給の買い取りも可能です。
原則として、有給の買い取りは違法ですが「退職日までに消化しきれていない」などの場合は、例外的に買取が認められています。
退職日までの約束
退職する際には、下記の2点を守ってもらうようお願いしましょう。
-
なるべく良好な退職をお願いする
-
会社の批判や悪口を言わないことをお願いする
なるべく良好的な退職をお願いする
会社を辞めても、何かの縁でまた関わりができるかもしれません。
また、辞める時にトラブルを起こすのは、お互いにとってメリットがありません。
しっかりと理由を説明した上で、良好的な退職をお願いしましょう。
会社の批判や悪口を言わないことをお願いする
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉の通りです。
辞める際に批判や悪口を言っていると、会社の雰囲気が悪くなってしまいます。
お願いしても聞いてくれないような社員であれば、早めに辞めてもらうのも一つの方法かもしれません。
求人募集を始める
人数が足りているのであれば必要ありませんが、欠員が出ると業務に支障が出ることもあるでしょう。
求人広告は最もポピュラーな採用手法ですが、近年ではSNSやダイレクトリクルーティングなど、多様な手法があります。
メリット・デメリットを把握したうえで、自社にとって最適な手法を検討しましょう。
退職日にするべきこと
送別会はなるべく開くようにしましょう。
退職時に良好的な退職をお願いする以上、会社としても良好な送り出しをする必要があります。
送別会では、今まで一緒に働いてくれたことに関する感謝を伝えるようにしましょう。
また、こういう場は他の社員にも見られています。
良い送り出し方をすることで、「暖かい会社だな」と思ってもらえるため、従業員のエンゲージメントも上げやすいです。
ただし、本人が望んでいないのに開くと逆効果になるため、無理に行う必要はありません。
社内環境の整備
退職理由を聞くべき理由としては、引き留め以外に「同じような理由での退職者を出さないため」でもあります。
相手の言葉を真摯に受け止め、会社として改善できる部分は改善して、気持ちよく働いてもらえるよう環境を整えることが大事です。
退職者が出てしまった場合は、会社がさらに成長できるチャンスと思い、今後の教訓に活かしていきましょう。
アルムナイ制度も有効?
アルムナイとは、卒業生や同級生を表す英単語です。
そこから派生して、元従業員のことをアルムナイと呼ぶようになりました。
アルムナイ制度は、一度辞めた社員を再雇用する制度のことを指します。「出戻り制度」と呼ぶこともあるようです。
優秀な社員とのつながりを持っておくことで、戻ってきてもらう機会を作っています。
アルムナイ制度には、採用コストの軽減や適切なタイミングで必要な人材にアプローチできるといったメリットがあります。
当然、アルムナイ制度を活用するなら良好的な退職が必須となるため、上記で説明したような対応が必要です。
退職時の対応は他の社員にも見られています
会社を運営する以上、退職する社員が出てしまうのは仕方のないことです。
しかし、そこでどのような対応をしたのかは他の社員にも見られています。
また、円満退職ができればいつか戻ってくる可能性も十分に考えられます。
退職を告げられた時は真摯に対応し、社員の新たな門出を祝いましょう。