人種や性別、年齢、宗教、言語などのあらゆる差異を認め、企業活動や組織運営に生かそうという試みが「ダイバーシティ(多様性)・マネジメント(以下DM)」です。

 

ここでご紹介する内容が、DMに目を向け、新たな経営に乗り出すきっかけとなれば幸いです。

 

ダイバーシティ・マネジメントの歴史的背景

DMが誕生したのは1960年代のアメリカ。

 

元々様々な人種・民族が混在しているアメリカにおいて、多様性をいかに認めていくかは重要な課題であり、DMが早期に発展する環境が整っていたと言えるでしょう。

 

きっかけは1960年代の公民権運動。

 

黒人差別などを背景とする公民権法の制定やウーマンリブ運動の高まりによって、企業も人種や性別による差別をなくす方向に舵を切っていきました。

 

70年代には、人種差別を理由に企業が訴えられるといった事例も出てくるようになり、訴訟回避のためのリスクマネジメントとしてDMが実践されるようになります。

 

80・90年代に入ると、ビジネスのグローバル展開が大きく進み、海外市場に乗り出す上で多様な文化や生活スタイルを受け入れる必要が生まれます。

 

90年代の後半からは人々の間にある“違い”を積極的に利用し、経営戦略に生かす企業が多数派を占めるようになりました。

 

日本では1985年改正の「男女雇用機会均等法」による女性の活躍推進、バブル期の海外投資増加などをきっかけにDMが注目されるようになります。

 

少子高齢化に伴う労働人口の減少により、多様な人材が活躍できる組織運営は企業の長期的な成長に必要な要素になってくるでしょう。

 

DMを導入するメリット

かつてはリスクマネジメントの一環として実施されたDMも、今では組織だけではなく、個人も大きなメリットを得られる組織運営のノウハウとして取り入れられています。

 

組織にとってのメリット

様々な人種・言語・文化を持つ人材を受け入れることで、様々な顧客のニーズに対応するアイディアが生まれやすくなります。

 

異なる考え方・価値観を擦り合わせることによって従業員同士の切磋琢磨も行われ、企業・組織全体に刺激を与えることも可能です。

 

個人にとってのメリット

宗教、言語、人種による差別を受けることがなく、自分に自信を持って仕事ができます。

 

ほかの様々な文化的背景、価値観を持つ従業員から刺激を受け、今とは違った視点を獲得できるのもDMの下に身を置くメリットと言えるでしょう。

 

企業・個人ともに多様な考え方を受け入れる精神的な基盤を持つことができれば、時代の変化に伴って変化する市場のニーズに対応していくことができるようになります。

 

マネジメントを成功させるポイント

異なる価値観を持つ人と協力して仕事をするのは決して簡単ではありません。

 

多様性を認めることで、逆に組織の一体感が損なわれてしまうことも考えられます。

 

チームのマネジメントは複雑化し、管理職者が負う負担は通常よりも大きくなるでしょう。

 

そうしたリスクを回避し、マネジメントを成功させる施策の一例をご紹介します。

 

共通の価値観を持つ

企業のトップから「ダイバーシティを積極的に受け入れ、活用する」と宣言すると同時に、ビジネスにおける共通の価値観や目標を示しましょう。

 

考え方やアプローチが違っても、目指す方向が同じなら協力して働きやすくなります。

 

相手の立場に立ったコミュニケーションを意識する

コミュニケーションの基本は同じ人種・性別の人に接するときと同様、相手の立場に立って物事を考えることです。

 

「仕事がしにくそう」という考えは捨てて、違いを認め合うところからスタートしましょう。

 

多様なキャリアパスの提示

様々な考え方があれば、希望するキャリアパスも一人ひとり異なります。

 

ライフイベントを意識して働きたい、管理職へのキャリアアップを目指しているといったキャリアの希望を面談などで把握するようにしましょう。

 

DMの成功事例

ここで、DMを実践したことで一定の成果を得られた企業の事例を見てみましょう。

 

日産自動車の事例

世界約170か国に事業を展開している日産自動車では、DMは事業運営の要と言えるものです。

 

同社は2017年までに女性管理職者を全体の10%にすることを目標に掲げ、研修やメンター制度などの活動を推し進めるダイバーシティ専門の部署を設置し対策に乗り出しました。

 

結果として2017年4月に目標を達成。

 

優秀な従業員の確保にも成功しているとのことです。

 

日産自動車の人気機種である「ノート」の開発責任者は女性であり、同社が取り入れた多様な価値観は実際に新商品開発に生かされています。

 

本多機工の事例

長年福岡県を拠点にポンプの製造販売を手がけてきた本多機工は、プラント会社を通して海外への製品輸出を行っていたものの、納入先からの英語の問い合わせに充分な対応ができていなかったといいます。

 

そこで社内のグローバル化を推進し、当時から交流のあった九州工業大学の外国人留学生を採用。

 

最初に採用したチュニジア人の学生は同社の海外事業でめざましい活躍を見せました。

 

その後も外国人留学生の採用を進め、総売上の半数以上を輸出が占めるまでになりました。

 

まとめ

歴史的背景を見ても、DMは多くの課題を抱えながらも、様々な試行錯誤を経て現在の形にまとまったことがわかります。

 

現在、DMの導入を検討している企業も、これから多様な価値観を受け入れるための試行錯誤を重ねていくことでしょう。

 

その道のりは決して平坦ではありませんが、マネジメントが上手く機能すれば、グローバル化も見据えた柔軟な企業風土を築くことができます。

 

ここで取り上げた企業以外にも、DMを実施して成功を収めている日本企業は数多く存在します。

 

この機会にDM実施を検討し、新しい職場環境の形成に乗り出してみてはいかがでしょうか?

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